Intelが開発者向けに開催しているIntel Developer Forumは、現地時間9月22日の午前に行なわれた同社の社長兼CEO、ポール・オッテリーニ氏による基調講演で幕を開けた。引き続き、同日の午後には、具体的な製品関連の基調講演が行なわれたが、そのトップを飾ったのが、新しく設立されたIAG(Intel Architecture Group)の事業本部長に就任した、ショーン・マローニ上級副社長だ。
もともとこの枠は、同社の組織再編の前に企業向けのクライアント部門を担当していたパット・ゲルジンガー前上級副社長(現在はEMCの社長兼COO)が担当する予定だったもので、内容も再編前の組織の担当に近くエンタープライズ向けの内容が主となった。
●4004の時代からさまざまな機能を統合を続けてきたMPU、統合は正しい道マローニ氏は、同社が進める“統合”の重要性から基調講演の話を始めた。まず、現代コンピュータの祖先ともいうべきENIACやIBM360などを利用している写真を示しながら、こうした時代に比べて多数のものがマイクロプロセッサ1つに集約されてきた歴史を振り返った。
そして、Intelの最初のマイクロプロセッサと言って良い4004を例にとり、「4004の命令セットはわずか70だった。しかし、現代のマイクロプロセッサはすでに700を超えている。さらに286世代ではメモリ管理の機能がMPUに統合され、486では浮動小数点演算ユニットが統合された。特にこの10年ではインターネットの登場により、それに必要な機能が多数追加されてきた」と、過去にマイクロプロセッサがさまざまな機能を統合してきた歴史を振り返った。そして「統合こそが正しい道であり、業界はそちらに向かうだろう」と述べ、今後も機能統合の歴史は続いていくだろうという見解を明らかにした。
ENIACやIBM360の時代のコンピュータ。確かにあらゆるものが外にあって統合されていなかった | 4004の時代は命令セットはわず70だったが、現代では700を超えている |
●Nehalem-EXとプラットフォームを共通化したTukwilaを2010年の第1四半期に出荷
そうした全体的なビジョンの話に続き、マローニ氏は具体論として、データセンターの市場について語り出した。「データセンターの市場は、まさにいま再構築の段階にある」と、現在のデータセンター市場は変わりつつあるということを指摘し、「現在データセンターの市場で問題になっているテーマは、スモールビジネスからHPCまでほぼ共通している。それが処理能力、電力効率、そして仮想化の3つだ。すべてのセグメントの市場でこの3つのテーマが重要になっている」とし、Intelが今後それらを解決していく製品を投入していくと強調した。
マローニ氏がそうした課題を解決する製品としてまず挙げたのが、ItaniumとNehalem-EXの2製品だ。今後Intelは現在Itanium 9100として出荷されている製品の後継として、開発コードネームTukwila(タクウィラ)として出荷する。さらに、現在のXeon 7400シリーズの後継として、開発コードネームNehalem-EX(ネハーレム・イーエックス)として出荷する予定だ。このTukwilaとNehalem-EXの特徴は、命令セットこそIA-64とIntel 64と異なるものの、周辺機能(Quick Path InterconnectやDDR3メモリコントローラ、I/Oハブ)などの機能が共通しているのだ。つまり、チップセットやメモリなどが共通で利用できる仕組みになっているのだ。
マローニ氏は「Itaniumアーキテクチャはすでに重要な目標を達成した。すでに数カ月前にSPARC系のシステムの売り上げを上回ったのだ」と述べ、Itaniumのビジネスが好調であることを強調し、さらにその路線を強化するためにTukwilaを2010年の第1四半期に出荷開始すると述べた。
データセンター市場は、現在再構築が進んでいる | TukwilaとNehalem-EXの特徴。命令セットアーキテクチャは異なるが、プラットフォームを共有できる |
●Nehalem-EXで4P、8Pそしてそれ以上のサーバー市場を攻める
マローニ氏の話は、Nehalem-EXに移っていった。Nehalem-EXは、一言で表現するなら大規模システム向けNehalemであり、4Pや8P(CPUソケットが4個や8個という意味)、さらにはそれ以上のシステムに向けたサーバー向けのCPUとなる。「Nehalem-EXは我々にとって非常に重要な製品となる。これにより8Pやそれ以上の構成が可能になる」と述べ、AMDにOpteronで市場を奪われた大規模なIAサーバーの市場を奪還するという強い意志を見せた。「我々はすでに8Pの市場で15のOEMを獲得し、さらに8つのOEMとの話が現在進行している。それはブレードからHPCまでさまざまな市場にスケーラブルな話だし、ソフトウェア業界からも多大な支持をいただいている」と話し、Nehalem-EXの成功に自信を見せた。
その具体的な例として、マローニ氏はいくつかの製品を実際に公開した。IBMが公開したのは4ソケットのBlade Center-EXという、IBM自身の次世代チップセットX5を採用した製品で、4Pで1U構成となっている。また、このほかにもSuper MicroのHPC向けサーバーなどが紹介された。
そして、Nehalem-EXのもう1つの特徴であるRAS(Reliability, Availability, Serviceability:信頼性、可用性、保守性)機能の搭載について言及し、CPU、メモリ、I/OなどのエラーをOSと協調しながら解決していく様子をデモし、何か問題が起きてもOSが落ちることなく動き続けることができる様子をデモした。
●32nmプロセス製造の2P用Westmere-EPを2010年前半にリリース
現在IntelはXeon 5500シリーズとして、開発コードネームNehalem-EPで呼ばれてきた1P/2P用のMPUを出荷しているが、その後継として32nmプロセスルールで製造されるWestmere-EP(ウェストメア・イーピー)を来年前半に投入する計画となっている。Westmere-EPはプロセッサあたりのコア数がNehalemの4から6に増やされるほか、マローニ氏によれば消費電力やセキュリティなどの強化が行なわれるという。
マローニ氏は「Westmere-EPではIntel TXTやAESアクセラレーションなどの機能が追加される。特に現在ではクライアントのセキュリティは重要であり、それを実現するためにサーバーへの負荷が高まっている。Westmere-EPに搭載されているAESアクセラレーションの機能を利用すれば、それらの処理も軽々行なうことができる」としたほか、Westmere-EPが10Gbのネットワークにも最適化されていることを強調し、Westmere-EPでサーバー環境はさらに改善されるとアピールした。
さらにマローニ氏は、サーバー環境で電力効率の問題が大きな課題になっていることについて触れ、そうした問題を解決する製品の1つとして、新しいXeonのSKU(製品種別)を投入することを明らかにした。Xeon 3400シリーズとして投入されるのは、TDP(熱設計消費電力)が45W、30Wとなる2つのクアッドコア製品で、45Wは製品は出荷が開始され、30Wの製品は2010年の第1四半期に出荷開始される予定だという。SGIからはそれを1Uラックサーバーに納めた製品が発表され、キャビン全体で228個のCPUを搭載することが可能になるという。また、Intelからは5Uのタックに、30WのXeon 3400シリーズを16モジュール搭載したリファレンスデザインもあわせて公開されている。
続いてマローニ氏はIntelのエンタープライズ向けプロセッサとして新たにラインナップとして加わるJasper Forest(ジャスパーフォレスト)について説明した。Jasper Forestは2010年の第1四半期に投入が予定されている製品で、主にストレージ製品やネットワーク製品などへの組み込みをターゲットにしている。
「Jasper Forestではユニークなアプローチがとられている。メインストリームのCPUに、PCIコントローラ、I/Oの仮想化、RAID 6のコントローラなどを統合している」と説明し、プロセッサそのものにPCI Express 2.0のコントローラを内蔵し、2Pの場合にはQPIを利用してプロセッサ同士を接続し、RAID 5/6の機能が統合されていることなどの詳細を明らかにした。
●Westmere世代ではvProを拡張しより管理性を向上させる
サーバー関連の話をひと通り終えたマローニ氏は、話題を変えてクライアントに関する話を始めた。マローニ氏は同社の新しいブランド戦略について「今月(9月)我々はCore i7とi5の新しい製品を投入した。そして、まもなくMicrosoftから非常に優れたOSであるWindows 7がリリースされることもあり、非常によいタイミングだったと考えている」と、やはりWindows 7のリリースと歩調をあわせてIntel製品のアピールもしたいという考え方を示した。
「企業向けのクライアントで問題になるのは管理性だろう。我々はすでに数年前からvProに取り組んできた。32nmプロセスルールで製造されるWestmere世代ではさらにこの機能を拡張していく」と述べ、Westmere世代ではさらにvProの機能を拡張し、システム管理者などの管理性を向上させると説明した。続いて、AT&Tのアブラヒム・ケシャバルツ氏を紹介し、AT&Tが提供する予定のリモートメンテナンスサービスについて説明した。AT&Tが提供するのはTech Support 360と呼ばれるスモールビジネス向けのリモートメンテナンスサービスで、そのインフラとしてvProが利用されるのだという。
vPro関連の最後として、マローニ氏は組み込み機器向けのvProについて言及し、カジノに置かれるような遊具にもvProを導入すればリモートで管理できることなどをアピールした。例えば、日本のパチンコ機器などは、すでにデジタル化されており、そうした機器の中身がIAやARMだったりすることは少なくない。そこで、そうした機器にもvProを導入すれば、そうした機器の管理コストを下げることができるということだ。パチンコ店でも、“Intel入ってる”だらけになることも遠い日ではないかもしれない。
●Larrabeeの実働デモ初めて公開、プログラマーに自由度を与えるとアピール
最後にマローニ氏は、同社の最新製品について語り出した。「えっとなんだっけあのLのスペルから始まるやつ……(笑)」と、担当が変わったばかりの自分の状況をジョークにしつつ、Intelが2010年に投入を予定している新しいグラフィックス/パラレルコンピューティング向けプロセッサのLarrabee(ララビー)についての説明を始めた。
「現在我々はリリースに向けてシリコンの準備をしている。SDKはすでにリリースしており、まずは開発者にできるだけ早く実際のシリコンを出荷していきたい」とIntelがLarrabeeに本気で取り組んでいることをアピールした。なお、Intelは決してLarrabeeのことをGPUとは言わないが、一般的な用語で表現するならやはりGPUというのがもっともしっくりくるだろう。
続いてマローニ氏に紹介された登壇したIntelのビル・マーク氏がLarrabeeの詳細を説明した。マーク氏によればLarrabeeはフルプログラマブルなパイプラインを備えているだけでなく、DirectXやOpenGLといった標準規格に加えて、ボクセルレンダリングやレイトレーシングなどの処理に利用できるという。そしてマーク氏は、実際のLarrabeeがライブで動作する様子を公開し、その高い演算能力により光源や陰などがスムーズに表現される様子を実際に映し出して見せた。マーク氏は「これらのプログラムはC++を利用して書かれおり、従来のGPUに比べて高い自由度をプログラマに提供することができる」と利点を挙げ、来場者にLarrabeeのプログラムを作成してもらえるようにアピールした。
Larrabeeはフルプログラマブルが特徴の1つ。最初の製品は単体のGPUとしてリリースされる予定 | Larrabeeのデモ、CPUには来年に投入される予定のGulftown(Bloomfieldの32nmプロセス版)上で動作している。最初のデモにしてはずいぶんと地味なデモだったような気がしなくもない |
(2009年 9月 24日)
[Reported by 笠原 一輝]