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東大、屋内でも利用できる完全ワイヤレスの「腕章型やわらか体温計」
(2015/2/23 12:53)
東京大学の桜井貴康教授、染谷隆夫教授らの研究グループは23日、太陽電池によって電力を自立させることで完全ワイヤレスとした「腕章型フレキシブル体温計」(腕章型やわらか体温計)の開発に成功したことを発表した。科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業における成果で、22日(米国時間)より米サンフランシスコで開催される半導体関連の国際会議「ISSCC 2015」で発表される。
脈拍や体温などの生態情報を常時監視するアプリケーションには、装着感のない機械的な柔らかさ、(衛生面から)使い捨てにできること、ケーブルレス/ワイヤレス、電池交換が不要といった要求が出ている。同研究グループでは2013年度にワイヤレスで電力や信号送信が行なえる柔軟な形状のワイヤレスセンサーを開発したが、送電距離に課題を抱えていた。
他方、インクジェットなどの印刷プロセスで高分子フィルムの上に容易に製造できるようになった有機トランジスタを用いた有機集積回路は、大容積、低コスト、軽量性、柔軟性を同時に実現でき、かつ生体との適合も期待できることから、これを用いた生体向けセンサーデバイスの開発が多数進められている。
こうした状況の中、同研究グループは、有機集積回路、温度センサー、柔軟な太陽電池とピエゾフィルムスピーカーを組み合わせた腕章型フレキシブル体温計を開発した。人の上腕部に取り付けて体温を常時監視し、設定した体温を超えるとアラームが鳴る機能を持つ。
発熱の検知には、柔軟な高分子フィルム上に形成できる抵抗変化型温度センサーを新たに開発。(発熱したと判断して)アラームを鳴らす体温を36.5~38.5℃の間で自由に設定できる。
アラームを鳴らす部分は、有機トランジスタを用いた回路とピエゾフィルムによるスピーカーで構成。回路、スピーカーともに柔軟な素材でできており、3~6kHzの周波数に設定されたアラーム音を発することができる。
また、周囲の明るさによって変動する太陽電池からの出力電圧を調節する回路も有機トランジスタのみで構成。この回路の有無で、利用できる部屋の明るさの範囲は7.3倍になるという。前述の柔軟な有機集積回路とスピーカーからの発音、有機トランジスタのみによる太陽電池からの出力を調節する回路の実現は世界で初めてのこととしている。
今後は、水分や圧力など体温以外のセンサー、数値などの情報を音に載せて送信する、といった応用が期待される。一方、太陽電池によるシステムは暗い環境では利用できないという課題を抱えるため、柔軟な充電池やキャパシタの開発も進められている。