JEITA(電子情報技術産業協会)は2日、情報端末機器(ディスプレイ、ハード・ディスク装置(HDD)、プリンタ、イメージスキャナ、ハンディターミナル、流通POS端末など)に関する講演会「JEITA 情報端末フェスティバル2010」を都内で開催した。
「JEITA 情報端末フェスティバル2010」のプログラムは午前が基調講演と特別講演、午後が情報端末機器の市場動向や技術動向などに関する講演となっている。本レポートでは午後の講演から「ディスプレイ市場動向」と題するセッションの概要をご報告する。
「ディスプレイ市場動向」は前半と後半の2部構成であり、前半は「2009年の世界・日本市場及び2012年までの市場見通し」と題して液晶ディスプレイ市場を予測したもの、後半は「台湾ディスプレイ産業の動向」と題して台湾の液晶ディスプレイ産業を解説したものとなっていた。いずれも内容は、JEITAのディスプレイ専門委員会がまとめた調査結果に基づいている。
●デスクトップPC用液晶ディスプレイ市場は台数が増加、金額は横ばいで推移前半の講演ではまず、デスクトップPC用液晶ディスプレイの出荷台数実績と2012年までの予測が示された。2009年のPC用液晶ディスプレイの出荷台数は世界全体で1億6,322万台と、前年に比べて2.3%減少したと推定している。2010年以降の出荷台数はゆるやかに回復し、2012年まで伸び続ける。2012年の出荷台数は1億8,932万台と予測していた。2009年に比べると16%ほど伸びることになる。
サイズ別では、20~22型と23型以上の大型ワイドディスプレイが市場をけん引する。特に23型以上は2012年に3,767万台と、2009年の1,433万台から約2.6倍に急増する。20~22型のディスプレイは2009年の4,775万台から、2012年には7,511万台に増え、サイズ別では主流を占めるようになる。
日本のデスクトップPC用液晶ディスプレイ出荷台数は2009年に490万台と推定した。前年に比べると10.2%減少している。日本市場の回復は弱く、2012年までほぼ横ばいで推移する。
PC用液晶ディスプレイの出荷台数予測(2012年まで、世界市場) | PC用液晶ディスプレイのサイズ別構成比の予測(2012年まで、世界市場) |
PC用液晶ディスプレイの出荷台数予測(2012年まで、日本市場) | PC用液晶ディスプレイのサイズ別構成比の予測(2012年まで、日本市場) |
続いて縦横比率(アスペクト比率)の違いによる構成比ある。世界市場では2009年にワイドディスプレイの比率が一気に増加し、8割近くをワイド品が占めた。今後もワイドディスプレイの比率は上昇し、2012年には全体の92.9%を占めるようになると予測している。
日本市場でのワイド品の比率はそれほど高くない。2009年で56.9%と推定した。業務用でノーマル品がまだ使われるとする。それでもワイド品の比率は徐々に上昇し、2010年には80.4%に達すると推定している。
PC用液晶ディスプレイの縦横比(アスペクト比)別構成比の予測(2012年まで、世界市場) | PC用液晶ディスプレイの縦横比(アスペクト比)別構成比の予測(2012年まで、日本市場) |
液晶ディスプレイについては出荷台数だけでなく、出荷金額も予測した。世界の液晶ディスプレイ出荷金額は2009年に2兆7,133億円と推定している。前年比では23.7%減と大幅なマイナス成長である。2008年秋から始まった急速な景気後退によって液晶パネルの余剰が膨れ上がり、価格が下落したことが響いた。出荷台数が前年比2.3%減なので、平均単価は22%ほど下がったことになる。その後も販売価格の減少が続くことから、金額ベースでの市場は今後、ほとんど拡大しない。2012年でも2兆7,000億円前後にとどまると予測する。
日本の出荷金額も2009年に大きく落ち込んだ。前年比30.6%減の905億円と推定している。しかも、金額ベースの市場は今後も少しずつ縮小していく。2012年の予測値は727億円。2008年の推定値1305億円の55%にしかならない。
PC用液晶ディスプレイの出荷金額予測(2012年まで、世界市場) | PC用液晶ディスプレイの出荷金額予測(2012年まで、日本市場) |
●順調に伸びるノートPC用液晶ディスプレイ
一方、ノートPC用液晶ディスプレイの出荷台数は、好調なノートPCの出荷増に引っ張られる形で順調に伸びている。2009年の世界出荷台数は1億6,798万台で前年に比べて18.3%拡大した。ノートPC用液晶ディスプレイの出荷台数は今後も2桁成長が続く。2012年には2008年の1.9倍、2億6,805万台に達すると予測する。
ノートPC用液晶ディスプレイとデスクトップPC用液晶ディスプレイを合計した出荷台数は、2009年が3億3,968万台、2012年が4億5,737万台となる。2012年の出荷台数は2009年に比べ、35%ほど伸びることになる。
サイズ別では、12型未満~15型以上までのすべてのカテゴリーで出荷台数が伸びていく。このため、サイズ別の構成比率には大きな変動がみられない。
日本市場でも、ノートPC用液晶ディスプレイの出荷台数はゆるやかに拡大していく。2009年の出荷台数は前年比0.8%増の938万8,000台と推定した。2012年には1,113万台に伸びると予測する。サイズ別では、12型が今後は減少していくものの、12型未満や13型、14型、15型以上のパネルはいずれも出荷台数が拡大する。
ノートPC用液晶ディスプレイの出荷台数予測(2012年まで、世界市場) | ノートPC用液晶ディスプレイのサイズ別構成比の予測(2012年まで、世界市場) |
ノートPC用液晶ディスプレイの出荷台数予測(2012年まで、日本市場) | ノートPC用液晶ディスプレイのサイズ別構成比の予測(2012年まで、日本市場) |
●台湾の液晶ディスプレイ生産は世界の半分以上を占める
PC用液晶ディスプレイやテレビ用液晶ディスプレイの一大生産拠点である台湾は、世界の液晶ディスプレイ産業に与える影響が少なくない。そこで後半の講演では、台湾の液晶ディスプレイ産業の最新状況が解説された。
台湾におけるPC用液晶ディスプレイの四半期別出荷台数(2008年第1四半期~2010年第2四半期)。2010年第2四半期の台数は予測 |
台湾におけるPC用液晶ディスプレイの四半期別出荷金額と平均単価(2008年第1四半期~2010年第2四半期)。2010年第2四半期の台数は予測 |
初めに、台湾におけるPC用液晶ディスプレイの四半期別出荷台数が、2008年第1四半期~2010年第2四半期にわたって示された。2008年秋のリーマンショックにより2008年第3四半期から2009年第1四半期にかけて出荷台数は急激に減少した。しかし回復も急激で、2009年第3四半期には早くも、2008年第2四半期を超える出荷台数を達成している。この結果、通年の出荷台数は2008年が1億1,111万台だったのに対し、2009年はこれをわずかに上回る1億1,120万台となった。2010年第1四半期~第2四半期の合計出荷台数は4,976万台で、前年同期に比べると17%増えている。
続いて台湾におけるPC用液晶ディスプレイの四半期別出荷金額と平均単価が2008年第1四半期~2010年第2四半期にわたって示された。ここでも出荷台数と同様に、リーマンショックによって2008年第3四半期から2009年第1四半期にかけて出荷金額が急激に減少している。しかも平均単価が低下したことで、金額は台数よりも大きく減少した。このため2009年の出荷金額は152億ドルで、2008年の165億ドルから8%ほど縮小している。
それからPC用液晶ディスプレイの単価別出荷数量の四半期推移と、サイズ別出荷数量比率の四半期推移が示された。単価別のデータは150ドル未満、150~200ドル、201~250ドル、251~300ドル、301ドル以上に分類されている。2008年第1四半期から第3四半期にかけて急速に150ドル未満の価格帯が増加しており、低価格パネルの割合が増えていることが分かる。サイズ別では、20型以上のワイド品の割合が徐々に増えてきた。
縦横比率のノーマルとワイドでは、全体に占めるノーマル品の割合が下がり、ワイド品の割合が上昇した。またワイド品では16対9ワイド品の比率が増大し、16対10ワイド品の比率が低下している。
液晶ディスプレイのメーカー別出荷数量ランキングでは、世界全体のトップ2に台湾企業が付けている。トップはTPV Technologyでシェアは28.4%、2位はInnoluxでシェアは23.8%となっており、台湾企業2社で世界市場の半分のシェアを有する。
液晶ディスプレイのメーカー別出荷数量ランキング(世界市場) | 液晶ディスプレイのメーカー別出荷数量ランキングと液晶テレビのメーカー別出荷数量ランキング(世界市場、2009年) |
台湾液晶ディスプレイ産業における最近のトピックス |
後半の講演の最後には、まとめとして最近の注目すべきトピックを挙げていた。まず、台湾でもCRTディスプレイの生産から完全に撤退したこと。ディスプレイ生産はすべてフラット・パネル・ディスプレイとなった。次に、ワイドディスプレイは16対9へのシフトが進んでいること。16対10に比べて同じサイズのマザーガラス基板から取れるパネルの枚数が多くなることから、製造コストが下がる16対9の比率が上昇しているという。それから消費電力低減の動きが強まっていること。具体的にはバックライトをLEDに換える、CCFL(冷陰極管)を4本から2本に減らす、といった動きが進んでいる。そして将来の大市場としてデジタル・サイネージが挙げられていた。大型の公共ディスプレイに液晶パネルを使ってもらう。「次の市場はこれしかない」というのが台湾液晶ディスプレイ業界の見方だとする。
液晶ディスプレイ市場の講演から明確に分かるのは、日本市場だけでは、液晶ディスプレイ・メーカーの生き残りが難しいということだ。新興国を含めた世界市場を相手にして初めて、販売台数が伸びる。それでも2012年までの金額ベースの市場は、あまり伸びない。液晶ディスプレイメーカーは今後もしばらくは、厳しい環境での事業展開を強いられることになりそうだ。
(2010年 6月 4日)
[Reported by 福田 昭]