日本IBM、研究開発のテーマや成果を紹介
~今後はストリームデータ処理が重要に

日本IBM 執行役員 研究開発担当 久世和資氏

2月24日 実施



 日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は24日、現在同社が取り組んでいる研究開発のテーマや、その成果を紹介するプレス向けのセミナーを開催した。セミナーでは、同社 執行役員 研究開発担当の久世和資氏が説明にあたった。

 同氏はまず、IBMの世界にある研究開発拠点を紹介。日本の大和研究所をはじめ、オースティン、北京、ハーズレイ、ハイファなどの世界各地に研究所が点在し、のべ25万人の研究開発者がいるという。

 研究開発内容はおおまかに、基礎研究、ハードウェア開発、ソフトウェア開発の3つに分けられるが、中でも大和研究所はこの3分野をすべて研究している。また、研究所間の人材交流も盛んで、日本のメンバーが中国やアメリカに渡って、1年~2年間の間、外国のチームとともに研究開発に携わる機会も多くあるという。

 久世氏は、「我々は、世界のどこで研究開発しているということには重点においていない。その地域の研究開発に必要な人材とスキルを、世界各地から早く集結させて開発をするのが使命であり、その地域の企業や大学、国の研究機関に特化した開発部門を作っている」とした。

 現在研究開発をしている例として、アイルランドのダブリンで現在のスーパーコンピュータの100倍以上の性能を持つ超高速コンピューティング、アメリカのバージニア州でMars/農務省と天候不順に強いカカオの遺伝子配列に関する研究、シンガポール政府での交通の渋滞予測システムの開発、などを挙げた。

世界に存在する開発拠点世界各国での展開企業や大学、国家機関との協業

 この中で、シンガポールでの交通渋滞の予測システムの開発について具体的に説明し、「シンガポールにおける交通渋滞の予測システムは、過去の時間帯別の渋滞履歴に基づき、約140万台の車の経路をシミュレーションし、15分後、または30分後の渋滞を予測しようとしている」と説明した。

 研究のテーマや対象としては、基礎研究には、3次元にスタックするプロセッサ、光インターコネクト、データの分析や最適化などがある。製品開発においては、意思決断を支援する統合された製品開発プロセス、Cell Broadband Engineのような高性能プロセッサ、情報/システム管理のミドルウェアなどがある。また、知的財産については、企業へのライセンシング、またはオープンスタンダードの提案などを挙げた。

 日本の研究開発チームの主な成果として、ブログコンテンツへのテキストデータと、ユーザーの行動パターンを複合的に分析する「テキスト・ネットワーク分析」、コールセンターにおける、不適切な表現を前後の文脈から考慮して、自動的に検出できる音声テキストの分析技術、ストレージのクラウド化による障害復帰時間の短縮などを挙げた。

研究開発の特徴やテーマ日本の研究開発チームの成果

●2010年の日本でのテーマ

 次に、日本の開発チームの2010年のテーマとして、産官学連携による「Smarter Planet」の実現のために、「ストリーム・コンピューティング」と、「ハイブリッドシステム」の研究を挙げた。

 同氏は、「今後スマートな都市や交通システム、電力システム、ヘルスケア、製品開発を実現するためには、リアルタイムな分析と未来予測をする必要がある」とする。このリアルタイム性を実現するためには、入ってくる膨大なデータを、どこかに保存し続けるのではなく、瞬時に処理して出力する「ストリーム・コンピューティング」が必要だとした。

Smarter Planetの実現のためのストリーム・コンピューティングストリーム・コンピューティングのリアルタイム性の要素

 一例として、米国でハリケーンが発生したときに、投資会社が、投資先の企業における損失をリアルタイムに分析し、投資の判断をしなければならないとする。このとき、ニューヨーク証券取引所からその企業のVWAP(出来高加重平均)を計算したり、企業が開示している財務情報を取得したり、さまざまなニュースサイトから情報を取得したり、米国大洋大気庁からのデータを取得したりし、綜合的なデータから意思決断をしなければならない。これを実現するためには、膨大なデータを瞬時に処理するストリーム・コンピューティングが必須であるとした。

 投資以外にも、例えば水質のリアルタイム管理、輸送におけるルートやデータ管理、電波天文学における受信データの解析、マイクロチップ製造ラインのコントロールなどに、ストリーム・コンピューティングが威力を発揮するとした。

ストリーム・コンピューティングの応用ストリーム・コンピューティング応用の一例ストリーム・コンピューティングの応用分野

 ただし、久世氏は、ストリーム・コンピューティングの実現には、ハードウェアよりも、ソフトウェアの開発によるイノベーションのほうが重要だと指摘し、この分野においてはソフトウェアにフォーカスしていくとした。

 一方、ハイブリッドシステムは、汎用システム、ネットワーク・スピード・サブシステム、計算特化サブシステム、その他アプライアンスの統合体を指す。従来、汎用システムは、およそ2年で性能が2倍になっているが、「Smarter Planet」の実現には、性能の飛躍的な向上が必要とされるため、IBMでは2年で性能が4倍になるデータ/計算処理システムを開発している。

 久世氏は、「2年で2倍と、2年で4倍とでは、それほど性能差がないように思うかもしれないが、10年後で比較すると、前者は32倍にしかならないのに対し、後者は1,024倍も性能向上したことになる」と説明する。そのためには、汎用プロセッサだけでなく、ネットワークや計算処理に特化した製品を同時に開発しなければならないとし、現在、XMLやセキュリティを高速に解析/分析する製品の開発をしているとした。

 この2年で4倍の性能が実現されれば、現在、約7万台のサーバーが必要になるデータセンターが、10年後にはラック2.4台分に収まるとし、スマートなエネルギー効率の貢献に繋がるとした。

ハイブリッドシステムに求められる性能ハイブリッドシステムの概要処理の高速化により、現在では不可能な処理を可能にする

(2010年 2月 24日)

[Reported by 劉 尭]