マイクロソフト、Windows Embedded記者発表会を開催

発表を行なった松岡正人氏(マイクロソフト株式会社 OEM統括本部 OEMエンベデッド本部 シニアマーケティングマネージャ)

10月2日 開催



 米Microsoftは9月22日にボストンで開催されたESC Boston 2009において、Windows CE R3や、組み込み向けのWindows 7のラインナップについて発表を行なった。また、これに先立つ9月2日にはWindows 7ベースのWindows Embeddedの新製品のCTP(Community Technology Preview)を公開するといった発表を行なっている。

 こうした情報をまとめた形で、改めてWindows Embedded関連製品に関する記者発表会がマイクロソフトにて10月2日に開催されたので、その模様を簡単にお届けしたい。

●エンタープライズ:Windows 7とWindows Server 2008 R2をEmbedded向けに提供

 エンタープライズ、と書くと企業向けサーバーとか企業向けデスクトップを連想しがちだが、Embedded向けのエンタープライズは例えばPOSやKIOSK端末といった、さまざまな「ビジネス向け機器」を対象としたマーケットとなる。要するに、エンドユーザーが直接所有しない機器向け、という扱いだ。

ここでは判りやすい例を示したが、今ではスタンドアロンで動く機器の方がむしろ珍しいかもしれない。ただここに出ているロボットなどは、TCP/IPを理解するほうがまだ少ないので、例として適切かは、やや疑問
ちなみにServerに関しては後述

 こうした機器においても、よりデバイス間の接続性を高めるニーズが出てきているのは周知の事。例えばPOS端末1つとっても、支払い時にさまざまなクレジットカードや電子マネーでの支払いを可能にしたり、ポイントカードへのポイント追加を行なったり、また店舗側も売り上げ情報をリアルタイムとまではいかないものの、かなりの頻度で集計することで分析や発注に役立てるという仕組みが広く普及している。こうした事を考えると、ネットワークに接続する事は必須条件になりつつあると考えてよい。

 こうしたマーケットに向けて、従来Quebecのコード名で知られていたWindowsEmbeddedを、「Windows Embedded Standard 2011」という名称で正式に公表すると共に、9月2日から(冒頭に書いたとおり)CTPとしてリリースしている。ちなみにこのWindows Embedded Standard 2011、2008年4月の段階ではWindows Vistaベースだったにもかかわらず、2008年11月にはWindows 7ベースに置き換える決定がなされており、最終的にはWindows 7ベースのまま出荷されることで決まったようだ。

 このWindows Embedded Standard 2011はWindows 7をベースに必要とするコンポーネントだけを選んでシステムを構築できるモジュラデザインを採用したものになるが、それとは別にWindows 7およびWindows Server 2008 R2をそれぞれEmbedded向けにも投入することが明らかにされた。それが「Windows Embedded Enterprise」と「Windows Embedded Server 2008 R2」ということになる。

 これらはWindows 7/Server 2008 R2にEmbedded向けのライセンスを提供した形になり、利用範囲は若干変わってくる代わりに価格は通常のものより安価になる。これらを利用することで、「Embedded向けにも最新のテクノロジを同じタイミングで利用できるようになる」(松岡氏)点でメリットがあるとしている。

 特にWindows 7で新しく搭載されるLocation & Sensor APIは、通常のコンシューマ向けというよりはむしろEmbedded向けの方がメリットが大きいと見られており、これを積極的に使ってもらうためにはWindows Embedded Standard 2011の登場を待っていたら遅くなるので、Windows 7そのものをWindows Embedded Enterpriseとして低価格ライセンスで投入することで利用を促進したい、というあたりのようだ。ちなみにWindows Embedded EnterpriseはWindows 7と同日に投入されるとのことだった。

●コンシューマ:Windows Embedded CE 6.0 R3を発表

 一方のコンシューマ向け。こちらは「エンドユーザーが所有する機器向け」という扱いである。従来こうしたマーケットではPCをHubとし、そこにさまざまなEmbedded機器がぶら下がる扱いだったが、2007年位からWindows Liveに全てが接続されるという方針に変わってきているのはご存知の通り。そんなわけで、より接続性を重視されることになっている。

 そうしたマーケットに向けた、最後のWindows Embedded CEが「Windows Embedded CE 6.0 R3」ということになる。こちらは従来のWindows Embedded CE 6.0 R2から操作性や接続性を大幅に強化した製品となることが期待されているほか、Silverlight for Windows Embeddedを搭載するなど、新たなアプリケーション構築の枠組みも提供される。

これと共に開発コストの低減も重要な課題であり、それに対する解がSilverlight for Windows Embeddedとなるなぜ最後か、というとこれに続く製品は名称がWindows Embedded Compactになるからである。ちなみに操作性で「マルチタッチのサポートは?」と聞くと、「技術的には可能だがアプリケーション側で工夫が必要」という

 このSilverlight for Windows Embeddedの大きな違いは3Dのサポートがない(PCと違って3D性能やCPU性能が低いので、3Dは省いたとの事)ほか、ベースとなるのがSilverlight 2.0であること、またこれはブラウザを使わない単体アプリケーションとして生成されることなどが挙げられる。

 3Dはともかくバージョンの不一致については、長期的には問題になりえるのだろうが、「まずは出来るところから提供していきたい」(松岡氏)ということで、例えばカーナビのような、専用画面で提供されるアプリケーションを迅速に構築するツールとして提供することを想定しているようだ。

 また、気になるWindows Mobile向けのSilverlightとの関わりについては、「事業部が違うので私からはお答えできない」ということだった。Windows Mobileについては、ブラウザベースでのSilverlight動作環境が必要になってくるから、Silverlight for Windows Embeddedをそのまま持ってくるわけにはいかないのだろう。更に対応プラットフォームだが、R3ではSH-4がサポートから外れたことが明らかにされた。

●今後のロードマップその他
ちょっと見えにくいが、Windows Autoの次期製品のコード名は"Motegi"。ちなみに命名理由に深い意味は無いらしい。Chelanは、実際にはWindows Embedded Compact 2010か2011になるらしい

 最後に、今後のロードマップも簡単に示された。既にWindows Embedded CE 6.0 R3がリリースされ、2010年Q2にはWindows Embedded Standard 2011と、Windows Embedded CEの後継となるWindows Embedded Compact(コード名:"Chelan")がリリースされるほか、Windows Embedded Developer Updateが開始される。

 MicrosoftがEmbedded向けにMSDNのSubscriptionを用意した事は以前レポートしたが、現時点ではまだBSP(Board Support Package:特定の開発ボード向けのOS/Driverのパッケージ)やProduct Updateを自動的に行なうWindows Embedded Developer Updateは準備中とされており、これが始まるのは来年からということになるようだ。

 またちょっと本論から外れるが、Microsoftは日本では自動車のInfortainment向けに「Windows Automitive」と呼ばれるパッケージを提供しているが、北米や欧州向けには「Microsoft Auto」を提供している。要するに地域別に要求が異なるので、別々のOS(というか、パッケージ)を提供しているわけだが、これを「Windows Auto」というブランドに統一することを予定しており、この統合されたバージョンが2010年Q3を予定しているとの事だった。同じ2010年Q3にはWindows Embedded Managementの提供も予定されているようだが、こちらの詳細は今回発表がなかった。

 ところで気がついたことを幾つか。まずWindows Embedded Serverであるが、今回発表されたWindows Embedded Server 2008 R2のシステム要件は、当然Windows Server 2008 R2に準ずることになる。これはいくらなんでも、ESC SV 2009のデモで使われたVortex86SXで動かすのは難しくないかと思ったら、やはり無理との事。こうした用途には引き続き従来のWindows Embedded Serverも販売を続けているので、こちらを使って欲しいという話だった。

 またLocation & Sensor APIについても、まだ普及はこれからといったところのようだ。実際にはデバイス毎にXMLで特性などを記述できるので、それを使えばさまざまな特性を「技術上は」吸収できるようだが、例えばセンサー1つとっても、その解像度や出力特性などは一意でないし、しかも直接繋ぐ(デジタルI/Fを持つ)のか、A/Dコンバータを介す(アナログI/Fのみ)なのか。介す場合、今度はA/Dコンバータの特性も関係してくるだろうし、デジタルI/FについてもそれがUSBなのか、何か他のものなのか、も関係してくるだろう。

 一応技術的にはこうした差異を吸収できる仕組みを用意しているとは言うものの、実際にデバイスが出てきて、試行錯誤を繰り返す中で「この種のデバイスの標準的な手順はこれ」という最大公約数的な解が見えてくるものと思われる。

 おそらくMicrosoftもそれが分かっているからこそ、Windows Embedded Enterprise Editionとして早めにWindows 7を投入して、センサーベンダー各社に製品の早期投入を促したいのだと思われる。このあたりの動向は、今後注意しておいたほうがよさそうだ。

(2009年 10月 5日)

[Reported by 大原 雄介]