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野村総研、2030年には49%の職業がコンピュータで代替される可能性と研究報告

〜自動化されにくい職業の特徴は創造性と社会的知性

オックスフォード大学 准教授 マイケル A. オズボーン氏(左)と野村総研 2030年研究室 上級研究員 寺田知太氏(右)

 株式会社野村総合研究所は 2016年1月12日、研究報告講演会と記者説明会を行なった。野村総研は昨年(2015年)12月2日付で「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」と題するニュースリリースを出した。国内601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボット等で代替される確率を試算したところ「10〜20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能」との推計結果が得られたというもの。記者会見ではその背景が解説された。

労働力不足はイノベーションのチャンス、人の役割は2極化

野村総合研究所未来創発センター 2030年研究室 上級研究員 寺田知太氏

 まず、野村総合研究所未来創発センター 2030年研究室 上級研究員の寺田知太氏は今回の研究の趣旨について解説を行なった。「労働力不足はイノベーションのチャンスとなりえる」という。人口減少、労働力不足は不可避だが、同時に、新技術や新労働リソースを投入することの経済合理性が生まれるからだ。ロボットや人工知能の労働現場への投入によって新しい働き方が生まれるという。またさまざまなサービスレベルが変わってくることを日本として見据えていかなければならないと指摘した。

 今回の研究結果について、49%の仕事がなくなってしまうわけではなく、あくまで将来の技術的可能性であると強調した。2030年のシナリオのポイントは、日本人が技術変化を受け入れることができるかどうかだという。例えば個人情報をフル活用できるか、人による接客、診断をどこまでも求めるのか、それとも機械でもいいと思うのか、といったことだ。もう1つは官民のビジネスモデル変化が重要だという。物流においては近場での生産のような変化が起こるのか、小売では接客や雰囲気売り重視に移るのか、そしてヘルスケアは公的サービス水準をどこまで維持するのかが課題だと述べた。

 今回の研究からの示唆としては、代替されにくい職業はソーシャルコミュニケーション、非定型業務であること、事務職やホワイトカラー業務、そして賃金が高い業務はコンピュータによる代替が可能だとされている。また代替されにくい仕事は意思決定者のような職務と、人でしかできない仕事にと二極化するだろうした。さらに、プロセス移行ができるかどうかが日本の将来を左右すると述べ、テクノロジーを前提としたビジネスモデル、プロセス設計が重要だと語った。

労働力不足はイノベーションのチャンス
官民のビジネスモデル変化とテクノロジー受容が2030年を左右する
技術によって人の役割は2極化する

新職業の鍵は「クリエイティビティ」と「ソーシャル・インテリジェンス」

オックスフォード大学 准教授 マイケル A. オズボーン氏

 機械学習を専門にしているオックスフォード大学 准教授のマイケル A. オズボーン氏は、まず最初に、裁判官が執行猶予を付けるかどうかという判断に関する研究を示した。裁判官は仕事を始めたばかりの朝方は執行猶予を付けやすいが、だんだん寛容ではなくなっていく。ところがコーヒーを飲むを一気にまた寛容になり、また徐々に悪くなり、食事をとったり休憩したりするたびに寛容に戻るという統計調査結果が出ているのだという。この研究は、人間は裁判のような判断において完璧ではないことを示唆している。判事が執行猶予を付けるかどうかはこのようなことに左右されるべきではないが、統計調査を見ると実際にはそうではない。だからアルゴリズムを入れた方が公正さが保たれるという。

 そして、計算に必要なコストはどんどん下がっている。コストが下がると同時にビッグデータと言われるデータの爆発的増加も起こっている。しかもそれに伴って、今までは機械が代替不可能だと言われていた分野でも機械が取って変わりつつある。魅力的な分野は機械翻訳だという。翻訳は文化的背景や微妙なニュアンスのため代替は難しいと言われていた。ところがGoogleはビッグデータセットや国連(6カ国語が公式言語となっている)の公式文書のような既に存在する正確な翻訳情報を活用すれば、良質な機械翻訳が可能になることに気づいた。

裁判官によるジャッジがランチやコーヒーブレイクによって左右されるという研究
対数メモリで見た計算コスト。どんどん安くなっている

 小売業でも自動化できることはたくさんある。アマゾンでは何百万という消費パターンがセールスに役立てられている。またウェイターやウェイトレスも機械にとって代わられつつある。タブレットでオーダーしたり、購入履歴に基づいて商品を推薦したりするのは当たり前になりつつある。また、男性がチョコレートサンデーを注文するのは気恥ずかしいがタブレットなら気軽で簡単ということで、3割も売り上げが上がったレストランチェーンもあるという。

 ビッグデータ解析は既に弁護士などの文書チェック、契約文書の準備にも用いられている。かなり複雑な法律的相談にもシステムが用いられるようになっている。

小売だけでなく法律分野などでも自動化が進んでいる

 オズボーン氏は、日本の職業で機械にとって代わられる可能性が高い職業を示した。会計監査係員、税務職員、行政書士、弁理士などは機械にとって代わられる可能性が高い。一方、雑誌記者、中学校教員、弁護士、歯科医師などは代替リスクが低い。翻訳や司書は中間だ。

 自動化される確率を横軸、実際の仕事の数を縦軸にして全体的な結果を見ると、仕事が自動化されるリスクの低いものが4割、とって代わられる可能性が高い仕事が49%となっている。このような二極化した結果は米国、イギリスでの分析とよく似ている。先進国はいずれも同じ状況にあるということだ。イギリスの過去15年間でなくなった仕事、生まれた仕事をプロットすると、同じような二極化の傾向が見られた。

職業別の自動化可能性確率
結果が2極化している

 オズボーン氏は、自動化しやすい仕事としにくい仕事の違いは、「クリエイティビティ(創造性)」と「ソーシャルインテリジェンス(社会的知性)」の2つの要素を含んでいるかどうかだという。米国で過去10年間で新たに生まれた職業を見ると、それらの要素が含まれていたと述べた。例えばiOSやAndroidのソフトウェア開発者、UXデザイナー、ソーシャルメディア・インターン、ビッグデータ・アーキテクト、ズンバ・インストラクター、ビーチボディ・コーチなどだ。

これからはソーシャル・インテリジェンスとクリエイティビティがより重要に
新たな職業も生まれる

 今後の社会的対応については、オズボーン氏は「再教育が鍵となる」と述べた。今後は機械とうまく連携しながら社会的知性を活用しながら仕事をすることが求められるという。また、新職業が生まれたことによる新たな富をどう分配していくかが重要だと述べた。野村総研の寺田氏は、日本では機械による代替可能性が高い職業に就いてる人が多いのではないかという可能性は出ているが、数字を読みすぎてはいけないと述べた。

 ソーシャル・インテリジェンスやクリエイティビティ自体がコンピュータ化される可能性についても触れて、クリエイティブな職種も将来は自動化される可能性があると指摘した。例えばちょっとした会話をするチャットボットなら実現できるが、人を説得したり交渉したりすることは今の時点では難しい。ソーシャル・インテリジェンスについても情報を構造化できるものならば機械化できるが、人の頭の中にしか情報がないようなものの場合は難しいと述べた。

 なお今回の研究については、労働政策研究・研修機構が「職務構造に関する研究」で報告している601の職業を対象している。この研究報告ではアンケート調査により職業を構成する各種次元(職業興味、価値観、仕事環境、スキル、知識など30因子)の定量データを分析している。この職能特性定量データをインプットとして用いている。そして各職能について多様な専門家によるワークショップによってコンピュータ化できるかできないかを判断して60の職種に対してラベルをつけた結果を教師データとして用いて、分類器を使って、各職業のコンピュータ化確率を算出したという。