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NVIDIA、レイトレーシングソフト「Iray」の単体提供を開始
~QuadroとIrayを組み合わせたビジュアルコンピューティング戦略
(2015/12/10 06:00)
NVIDIAは9日、3Dモデルを実物と遜色ない品質でリアルタイムでレンダリングを行なうデザイナーおよび開発者向けソフト「Iray」に関する説明会を開催した。
説明会にはNVIDIA本社からバイス・プレジデント プロフェッショナルソリューションを務めるボブ・ペティー氏が登壇。NVIDIAが目指すビジュアルコンピューティングの世界を含めて説明が行なわれた。
ペティー氏は冒頭で、もちろんGPUそのものも大切だがと前置きした上で「ビデオカードだけに捕らわれず、ビジュアライゼーションのプラットフォームを提供することが重要である」という現在のNVIDIAの方針を述べた。NVIDIAはビジュアルコンピューティングを通して、ユーザー/顧客のワークフローの最適化を手助けし、エンドユーザーや開発者のためのツールを提供し、生産性向上に貢献したいとする。
その試みの1つが、今回の説明会のキモとなった「Iray」で、これまでIrayはデザイン用ソフトに組み込まれた形でのみ提供されていたものの、NVIDIAは方針を転換し、オンラインストアでの単体販売を開始した。これはプラグインという形で提供され、Autodeskの3ds Maxといった各社のモデリングソフトなどに順次対応していく。Irayプラグインのサブスクリプション料金は年間295ドルで、90日間無料で試用可能。また、NVIDIAは今年(2015年)の12月1日よりIrayのオープンベータ版の提供も行なっている。
IrayはNVIDIAのワークステーション向けGPUであるQuadroシリーズをサポートしており、物理ベースレンダリングと光線シミュレーションを行ない、電動ドリルといった小さなオブジェクトから高層ビルの内部/外部までリアルに描写する。その用途は視覚効果、製造デザイン、建築など多岐にわたっている。
今回は主に製造デザインと建築に関連したものが説明に使われ、説明会場のQuadroマシンで電動ドリルのオブジェクトをIrayでリアルタイムレンダリング。ほとんど実物と区別が付かないレベルの電動ドリルが画面上に描画され、さまざま角度に動かしたり、即座にパーツの色を変えたりと、通常は簡素で本来の色が付いていないシェーディング状態でデザインをするオブジェクトを、実物に近い形で操作できることを披露して見せた。
ペティー氏はデザインプロセスにリアリズムを反映できることは非常に重要であり、デザイナーの想像力を高めるとともに、ワークフローの効率化という大きな効果をもたらすと話した。製品の色使いや材質をモックアップを作る前に確認でき、室内や外でのライティングによる製品の見え方も即座に把握できる。これによって製品の開発速度や販売時期などを早められるといった利点を指摘し、どちらかと言えば見栄えの良いものができるということよりも、無駄を省けることが大きいと述べた。
このほかにもIrayを活用した例として、ロンドンに建設された20フェンチャーチ・ストリートという高層ビルの例を挙げ、Irayを使うことでデザイン面だけでなく、環境面においても物理的にシミュレーションできることを紹介。このビルはそのほぼ全面が窪んだ形状の湾曲ガラスで作られており、窓ガラスが虫眼鏡のように集光してしまうときがあり、そのホットスポットとなる路面のアスファルを溶かしてしまうといった事態が発生している。ペティー氏はIrayを活用すれば、外側からどのように光が差し込むのか、月日によって日差しがどのように変わるかなど、外部の影響をシミュレーションできることを説明し、通常は完成後でなければ分からないようなトラブルに対応できると述べた。
こうしたリアルタイムの物理ベースレンダリングを活用した建設方法は、NVIDIAが現在シリコンバレーに建設中の新社屋にも活かされており、20フェンチャーチ・ストリートで起きたホットスポット問題が起きそうな場合はIray上で窓ガラスの材質を変更して太陽光が集光しないように再シミュレーションを試みるなど、さまざまな外環境への影響を予測して設計が行なわれているという。
こういった検証には同社のMDL(Material Definition Language)というプログラム言語が用いられ、建材の物理的特性を正確に反映するといった環境の影響を受けた上での現実的なシミュレーションを可能にする。MDLによってマテリアルなどの再定義が不要になり、デザインと設計の時間をこれまで以上に短縮できるようになる。MDLは他社のレンダラーでも利用でき、汎用性も高い。
Irayは特定のコンピュータに縛られることなく利用でき、ワークステーション側でレンダリングを行ない表示データのみノートPCやタブレットに転送することや、複数の異なるPCを結集させて性能を高めるといった分散コンピューティングもできる。デザイナーはオブジェクトの配置やライティングさえ決めれば、後はIrayがこなしてくれるので、技術的な知識がなくとも使用可能。従来のものではここまでやることはできなかったという。
ペティー氏は物理ベースレンダリングは、映画とゲームの世界でモンスターの肌の質感表現などに使われてきた技術だが、これからは製造業のプロダクトでも物理ベースレンダリングが適用できるようになるとし、従来は多大なPCのリソースが要求されたが、KeplerやMaxwellへと進化したQuadroのGPUパワーによって、今では複数のアプリを使用しつつも物理ベースレンダリングが動かせるようになった述べ、さまざまビジネスでのIrayの活用の広がりを示した。
【12月10日訂正】NVIDIA新社屋に関するIray活用のエピソード部分に間違いがあったため、一部修正いたしました。お詫びして訂正させていただきます。