イベントレポート

モバイルワークステーション向けGPU「Quadro M5500」が登場

~Iray VRなどプロ向けユースのVR施策を発表

NVIDIAから発表されたQuadro M5500

 NVIDIAは、GTC 2016にてプロフェッショナルユーザー向けGPU「Quadro」のVRソリューションに関する説明を行なった。また、同時に「Quadro M5500」という新しいモバイルワークステーション向けGPUを発表している。

自動車の試作車、建築中の建物の出来映え確認など、さまざまなニーズがあるプロ向けVR

 今回のGTCでNVIDIAはプロユースのVR活用について大きくアピールしている。4月5日(現地時間)に行なわれた同社CEO ジェンスン・フアン氏の基調講演では、「Iray VR」が発表されて注目を集めた。Irayとは、NVIDIAがQuadroユーザー向けに提供しているレンダリングソリューションで、3ds MAXなどの一般的に活用されている3Dモデリングソフトウェアなどから使えるプラグインとして動作し、Quadroを利用したリアルタイムレンダリングで描画結果を確認できるというもの。

Iray VRを説明するスライド、写真品質のリアルタイムレンダリングをVRヘッドマウンドディスプレイで再生できる(出典:Pro Viz Business、NVIDIA Corp.)

 Iray VRはそれをVRの世界に拡大するもので、写真品質でレンダリングした3DモデルをリアルタイムにVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を利用して確認できるようになる。実際フアン氏の基調講演では、同社が現在カリフォルニア州サンタクララに建設している新オフィスの3Dレンダリングデータを、VR HMDを利用して確認できる様子がデモされた。

フアン氏の基調講演でのIray VRのデモ

 このほかにも、さまざまなユーセージモデルが考えられる。例えば、現在自動車メーカーは自動車の設計を完全にデジタルで行なっている。試作車の作成も、以前であればスケールモデルと呼ばれる数分の1かあるいは実車サイズのモックアップを作って、デザインなどの出来映えを確認していたのだが、現在はQuadroなどを利用し、コンピュータの中で生成される写真品質のリアルタイムレンダリングを活用するのが一般的だ。その結果は現在は普通の2Dの液晶ディスプレイなどで確認しているが、それをVRに置きかえれば、よりユーザーの目線に近い感覚で検証できるようになる。実際、今回の記者説明会では、Ford Motor Company(フォード)がVRを利用して、写真品質のリアルタイムレンダリングで試作車の確認をしている様子などが紹介された。

Ford Motor Companyの利用事例、VR HMDを利用して試作車の出来映えを確認している(出典:Pro Viz Business、NVIDIA Corp.)

 このように、VRは一般的なエンターテイメント向け(ゲームや映画の鑑賞)だけでなく、さまざまなニーズがあると考えられているのだ。

Pro VR Ready ProgramによりPCに詳しくないプロユーザーでも簡単にVRが使えるようになる

 そうしたニーズがあるプロ向けVRだが、一方で課題もある。NVIDIAプロフェッショナル・ソリューション・ビジネス プロダクトマーケティング シニアディレクターのサンディープ・グプテ氏は「プロフェッショナル向けVRのユーセージとしては、写真品質レンダリングを利用したプロトタイプ開発、医療用途なら医者の手術のトレーニングなど幅広いニーズが考えられる。しかし、現在のところVRを利用できる環境は非常に限られており、PCに詳しくないプロフェッショナルユーザーがその環境を整えるのは難しい」と述べ、現時点ではVRを利用する環境を構築するのは簡単ではなく、それを比較的簡単に整えられる環境が重要だとした。

NVIDIAプロフェッショナル・ソリューション・ビジネス プロダクトマーケティング シニアディレクターのサンディープ・グプテ氏
プロフェッショナル向けVRの利用用途

 というのも、現在のGPUにとって、VR再生は非常に重たいアプリケーションだからだ。現状利用できるGPUはハイエンドに限られている。例えば、GPUがレンダリングしてからVR HMDで再生されるまでの遅延時間(レイテンシ)が20秒以下でないと、表示品質が大きく低下する。一般的なフルHD(1,920x1,080ドット)に30フレーム/secで出力しようとすると、GPUは60MP/secの性能を満たす必要がある。しかし、VR HMDを使う場合には1,680x1,512ドットが2枚でそれぞれ90フレーム/secを実現しないといけないので、450MP/secを満たす必要がある。7倍以上の性能が必要になるのだ。

VRを利用するにはGPUへの負荷は非常に大きい

 このため、NVIDIAでは「Pro VR Ready Program」と呼ばれる仕組みを用意しており、対応するワークステーションPC本体、対応するGPUのリストを公開しているという。GPUに関してはコンシューマ向けの場合でもGeForce GTX 980やGeForce TITAN Xなどのハイエンド製品が必要になるのと同じように、プロ向けでもハイエンド製品が必要になる。グプテ氏によればQuadro M6000 24GBのSLI構成ないしはシングル構成、Quadro M6000、Quadro M5000が必要だという。

Pro VR Ready Programでは対応GPUやPC本体などが公開される

 ワークステーションPCの本体は、Lenovo、HPやDellといったPCメーカーから販売されているもので、NVIDIAが認証したものがリストで公開されているという。それらのPro VR Ready Programの詳細は、NVIDIAのWebサイト(英文)で確認することができる。

VRに対応したQuadro M5500をモバイルワークステーション向けに投入

 また、モバイルワークステーション向けのGPUで、VRに公式対応したものがなかったこととから、新しいモバイル向けのQuadroを投入するという。グプテ氏によれば「Quadro M5500は、最後に“M”というアルファベットが付いていることからも分かるように、本来はデスクトップ向けのSKUをモバイル向けに投入した製品になる」と述べ、Quadro M5500という新製品をモバイルワークステーション向けに投入することを明らかにした。

新しいGPUとしてQuadro M5500が投入される

 Quadro M5500のスペックは以下のようになっている。

【表】Quadro M5500のスペック
世代Maxwell
CUDAコア数2,048
メモリ8GB GDDR5
単精度浮動小数点演算性能4.67TFLOPS
メモリバス幅256bit
メモリ帯域211GB/sec
TDP150W
バスPCI Express 3.0

 グプテ氏の話の通り、パッケージはデスクトップ向けのままで、それを「MXM」というNVIDIAのモバイルGPU向けのドーターカードに載せて提供される形となる。TDPも150Wとモバイル向けとしては異例の高さとなるので、特別な熱設計(例えばデスクトップPC並みの巨大ファンなど)が必要になる。

Quadro M5500はMXMの形でOEMメーカーに提供される

 グプテ氏によれば、MSIが17.3型の液晶を採用したモバイルワークステーションとなるWT72をリリースする予定で、前述のPro VR Ready Programの認証も取得して出荷される予定だという。持ち運びができるProユースのVR環境を実現したいユーザーにとっては、福音と言えるだろう。

MSIが発表したVR対応モバイルワークステーションWT72。GTCの展示会場ではHTCのViveとのセットでVRのデモが行なわれていた。液晶は17.3型4KないしはフルHD、CPUはXeon E3-1505MないしはCore i7 6920HQ/6700HQ、メモリは最大64GB、GPUはNVIDIA Quadro M5500(8GB GDDR5)、PCI Express 3.0対応SSDのRAID 0構成(128GB×2)ないしは1TB HDD。米国での価格は5,499ドルから
WT72によるViveを使用したVRデモの様子

(笠原 一輝)