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世界初の視線追跡型VR用HMD「FOVE」がKickstarterでの先行予約を開始

~仮想現実世界で人と人を繋げることを目指す

世界初の視線追跡型VR用HMD「FOVE」

 FOVEは5月19日、仮想現実(VR)用HMD「FOVE」のKickstarterを利用した資金調達を開始した。

 FOVEは2014年5月に創業したばかりのスタートアップ企業であり、コンシューマ向け製品としては世界で初となる視線追跡型VR用HMD「FOVE」を開発、2014年9月に開催されたスタートアップコンテスト「TechCrunch Disrupt SF Battlefield」で、準決勝に進出するなど高い注目を集めている。FOVEは、装着した人間の視線を追跡する機能を備えていることが特徴であり、仮想現実の世界と直感的なインタラクションを実現できることが魅力だ。

FOVEを装着中の女性

仮想現実内のキャラクターとコミュニケーションがとれる

 FOVEのKickstarterでの資金調達開始に合わせて、東京・秋葉原でキックオフイベントが開催されたので、その様子をレポートする。

 まず、最初にFOVE CEOの小島由香氏が、FOVEについてのプレゼンテーションを行なった。小島氏は、ソニー・コンピュータエンタテインメントやグリーでゲームを開発してきた経歴の人物であり、ゲームでも仮想現実(VR)が活用されるようになってきたが、その仮想現実の世界のキャラクターと現実に近いコミュニケーションをしたいと考え、FOVEを設立したという。

 小島氏は、仮想現実は3段階に進化していくとし、その1段階目が、ヘッドトラッキングによる360度ビューによって実現された「プレゼンス」(存在感)だという。Oculus Riftなどが実現している世界が、まさにこの1段階目の仮想現実だ。

 次に来るのが、ハンドトラッキングなどのモーションセンシング機能であり、「コントロール」の段階となる。その最終段階が、視線追跡技術によって実現される「感情表現」であるとした。HMDが視線追跡技術を備えることで、仮想現実内のキャラクターの顔に視線を合わせたら、そのキャラクターが反応するといったアプリや視線を敵に合わせる敵へのエイミングが可能なFPSゲームなどが実現できる。

 また小島氏は、Oculus Riftなどの現状のVR用HMDの欠点として、十分なフレームレートを実現するには、ハイエンドなゲーミングPCが必要なことを挙げた。しかし、視線追跡技術を備えたFOVEでは、注視している部分のみを高精度にレンダリングし、それ以外の部分ではレンダリングの精度を下げることで、負荷を大きく軽減するフォビエイテッドレンダリングの実現が可能であり、負荷は通常と比べて6分の1まで削減されるため、低価格なPCでも快適な仮想現実の体験が可能なこともメリットだとした。

 小島氏はゲーム畑の出身であり、FOVEもまずはエンタテイメント分野での活用を考えているとのことだが、手足が不自由なALS患者が自分の意志を伝えたり、目の治療用、ドライビングシミュレータなどへの応用も可能なことを紹介した。

 FOVEのHMDとしてのスペックは、ディスプレイサイズが5.8型、解像度がWQHD(2,560×1,440ドット)、視野が100度以上、フレームレート90fps(予定)であり、Oculus Rift DK2の1,920×1,080ドット、75fpsを上回っている。本体重量は400gを予定しており、こちらもOculus Rift DK2の440gよりも軽い。

 ヘッドトラッキング用センサーとして、低遅延の6/9自由度慣性測定ユニットを備えているほか、FOVEならではの視線追跡用センサーとして、小型赤外線視線追跡システムを搭載している。視線追跡の分解能は0.2度未満となる予定だが、今回のイベントで使われていた試作機では0.5度未満であった。視線追跡の速度は、片目につき120fpsであり、ディスプレイのフレームレートよりも高速である。

FOVEについてのプレゼンテーションを行なったFOVE社CEO小島由香氏
このイベントは、「FOVE」がKickstarterでの資金調達開始に合わせて開催された
小島氏によると、仮想現実は3段階に進化していくという。1段階目が、ヘッドトラッキングによる360度ビューによって実現された「プレゼンス」である
仮想現実の2段階目が、ハンドトラッキングによる「コントロール」である
そして、仮想現実の進化の最終段階が、FOVEが搭載している視線追跡技術によって実現される「感情表現」である
FOVEの視線追跡を利用したアプリケーション例。女の子の顔に視線を合わせると、女の子がその視線に気づいて反応を返す
こちらはFPSゲームでの活用例。視線を合わせるだけで敵のエイミングが可能だ
視線によってバーチャルキーボードで入力を行なうこともできる
ユーザーが注視している部分(赤い円内)のみを高精度にレンダリングし、それ以外の部分のレンダリングの精度を下げることで、負荷を下げるフォビエイテッドレンダリングの例
手足が不自由なALS患者がFOVEを利用して、手前右にあるコミュニケーションロボットを操作しているところ
kickstarterの資金調達を本日(5月19日)から開始すると発表した

池澤あやかさんのトークセッションや視線入力でのピアノ演奏も

 次に、ギークな女優として有名な池澤あやかさんがゲストとして登場し、最初にFOVEを体験。敵に視線を合わせることで、ビームが出て敵を破壊できるシューティングゲームをプレイした。体験後、池澤さんと小島氏、FOVE社CTOのロックラン・ウィルソン氏の3人でトークセッションが行なわれた。

 その中で、池澤さんは、これまでにさまざまなHMDを利用した経験があるが、それらのHMDと比べても、FOVEによるVR映像は見やすく、気持ち悪くなるようなことはなかったと語った。また、視線の認識精度も高く、視線を合わせるだけで敵を破壊できるのはとても面白かったという。

 また、FOVEを活用した筑波大学附属桐が丘特別支援学校とFOVEの共同プロジェクト「Eye Play the Piano」で、ピアノを演奏した沼尻光太さんも登場し、同プロジェクトについての感想などを語った。Eye Play the Pianoは、FOVEの視線追跡機能を利用して、手や腕を使わずに演奏できる「ユニバーサルピアノ」を開発するためのプロジェクトである。FOVEに表示される音名パネルに視線を合わせて、瞬きをすることで、そのパネルにアサインされた音に対応するMIDIデータがデジタルピアノに送られ、ピアノから音が出るという仕組みだ。

 今回のイベントでは、残念ながら機材トラブルによって、沼尻さんが実際にピアノを演奏することはできなかったものの、筑波大学附属桐が丘特別支援学校での演奏会の様子が上映された。沼尻さんは、手に力が入らないため、通常のピアノを演奏することはできないが、「FOVEによって自分で音楽を演奏するという新たな体験ができたことを感謝している」とコメントした。

ギークな女優として有名な池澤あやかさんがゲストとして登場
FOVEを体験中の池澤さん
【動画】池澤さんがFOVEの体験中に、左右の目で見ている映像。最初に視線のキャリブレーションを行ない、次にゲームがスタートする。敵に視線を合わせるだけでビームが出て、敵を破壊できる
池澤さんのFOVE体験後、小島氏とFOVE社CTOのロックラン・ウィルソン氏、池澤さんの3人によるトークセッションが行なわれた
FOVEを使って視線入力でのピアノ演奏を行なった沼尻光太さんが登場
沼尻さんはこのような形で、ピアノ演奏を行なう(今回のイベントでは機材のトラブルで実際の演奏は行なえなかった)
左から、小島氏、沼尻さん、池澤さん。開発中のFOVEはブラックとホワイトの2色がある

Kickstaterでの資金調達完了後、一般サイトでの販売も予定

 Kickstarterでの資金調達は、5月19日午後10時に開始されたが、349ドル(送料別)という限定特価で、FOVE本体と開発用キットを手に入れられるFOVE EARLIEST BIRD(200名限定)は、数時間で定員に達した。目標額は25万ドルだが、すでに16万ドル以上の資金を集めており、非常に順調な滑り出しだと言えるだろう。

 Kickstarterでの出資者には、2016年春から製品が送付される予定で、Kickstarterでの資金調達が完了したら、クラウドファンディングではない、一般サイトでの予約販売も計画しているとのことだ。

 FOVEプラットフォームは、UnityやUnrealエンジン、Cryエンジンを使って開発されたコンテンツと互換性があり、開発者にとって既存のVRコンテンツをFOVE環境に移植するのは比較的簡単だという。また、FOVEはVRコンテンツのポータルサイト「Wear VR」とのパートナーシップを結んでおり、今後は、Wear VRからFOVE対応コンテンツを入手できるようになると思われる。

 イベントの最後にFOVE体験会が行なわれたので、筆者も体験してみた。装着感は他のHMDとあまり変わらなかったが、画像の精細感はなかなかであり、ヘッドトラッキングの追従性も良好であった。また、最初に視線のキャリブレーションを行なうが、キャリブレーションが適切に完了すれば、視線追跡の精度はかなり高く、池澤さんが体験したのと同じゲームをプレイしてみたのだが、視線を合わせるだけで敵を攻撃できるのは、自分がX-MENのサイクロップスにでもなった感じがして、とても面白かった。脳トレのようなアプリや動体視力の訓練にも、視線追跡は活用できそうだ。

 小島氏は、質疑応答でFOVEの目標について「アイトラッキング(視線追跡)がVRの世界ではスタンダードになると考えている。FOVEによって、アイトラッキングの普及が5年早くなったと言われるようになりたい。次世代製品では、顔認証機能なども搭載したいと考えており、映画のアバターやソードアート・オンラインのような仮想現実の世界で、人と人がより自然に繋がるような世界を実現できる。FOVEはそうしたVRの文化を作っていきたい」と語っており、今後も同社の展開に注目していきたい。

FOVEの試作機。Kickstarterでの出資者には2016年春から製品が送付されるが、そちらはより進化したものになる
FOVEの試作機のレンズ側の様子
FOVEの試作機は、USB 3.0×2とHDMIケーブルでPCに接続される
FOVEの体験デモに使われていたノートPC。いわゆるゲーミングノートPCのようだ
プレゼン終了後に、FOVE体験会が行なわれたので、筆者も体験してみた

(石井 英男)