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PC自作ユーザーの視点で作り上げられたアビーのオーディオPC「ADIVA」

~発表会レポート

ADIVA K1

 アビー株式会社は、ハイレゾ音源に対応した本格オーディオPC「ADIVA K1」、「ADIVA K10」を発売した。

 本記事では同日に東京・八重洲にある「Gibson Brands Showroom TOKYO」で行なわれた製品発表会の様子をお伝えする。製品の仕様などの詳細については別記事を参照されたい。

きっかけはアビー・坂口社長の個人的な趣味

坂口信貴氏

 発表会では、アビー株式会社 代表取締役社長の坂口信貴氏が自ら製品紹介を行なった。

 そもそもアビーは元々PCケースの製造/販売を主要事業として展開している会社だ。なぜその会社がオーディオPCの市場に進出するのだろうか。

 坂口氏は、「ハイレゾ対応のオーディオPCを作ろうと思ったきっかけは友人の紹介だった。元々MP3などカジュアルで音楽を楽しんでいたのだが、友人にハイレゾオーディオの音源を薦められ、実際にハイレゾ対応のポータブルプレーヤーを購入し試聴したところ、アーティストの息遣いまで分かるディテールや、立体感のある音像で、同じ曲でも全く違う体験をすることができた。ところがポータブルプレーヤーに音楽を持って行くところまではPCで行なう必要があり、そのPCがハイレゾ対応ではなかった」と振り返る。

 「例えばハイレゾの音楽をPCでダウンロード購入する前に試聴しようとしても、PCがハイレゾ対応でないと、試聴段階でハイレゾ音楽の素晴らしさ体験できない。また、せっかくハイレゾ音源をダウンロードしたのに、ハードウェアの制限によりハイレゾで再生できていなくても、4Kと違って見て分かる違いがなく、気付かずにその恩恵を預かることができないままでいることもある。しかしユーザーが一からハイレゾ対応PCを作ろうとしても、いろいろ機材を揃えなければならず、どこから着手すればいいのか分からない。この問題を解決しようと、1年前からプロジェクトを始めた」と語る。

 製品の開発には、元オーディオメーカーのエンジニアが携わり、オーディオ製品らしくノイズ低減にこだわった。例えばストレージにはSSDを採用し、マザーボードはファンレスのモデル、電源もACアダプタを採用するなど、ノイズの元となる振動源を完全に廃した。

 「ADIVAはシステムとして完成しており、購入してすぐハイレゾのコンテンツを楽しめる。これからハイレゾに入る初めての方はもちろんのこと、ハイレゾに慣れ親しんだハイエンドユーザーも満足できる音だろう」と坂口氏は胸を張る。

弊誌の読者にとっては釈迦に説法だが、ハイレゾは16bit/44kHz(CD)音質以上の音源のことを指す
ハイレゾ音源の種類の比較
ハイレゾ音源を楽しむにはユーザーがさまざまな機器を選ぶ必要があった
ADIVAだけでハイレゾ鑑賞環境が構築できる

日本オーディオ協会の後押しで新ジャンルを開拓

製品に貼られるハイレゾ認定のロゴ

 ADIVAシリーズの前面パネルには、「ハイレゾ」のロゴが貼られているのだが、これは日本オーディオ協会の厳正なハイレゾ定義に準拠したもののみに与えられる。坂口氏は「ADIVAは申請からオーディオ協会の中でかなり物議を醸し出した。というのも、これまでオーディオ協会にPCというジャンルは存在しておらず、PCメーカーとしても初参入だったからだ」とする。

 申請してからロゴが降りるまでかなり時間を要したというが、「結果的にオーディオ協会の会長の後押しもあり、無事取得することができた」と振り返る。これによってアビーはPCメーカーで日本オーディオ協会初のメンバー、ADIVAはPCとして初のハイレゾ認定製品となった。「オーディオの業界はハイレゾがなければ明日もないと思っている。ADIVAによって新しいジャンルを切り開いた」と説明する。

ケースを徹底的に工夫

 なお、ADIVAはオーディオPCなのだが、PC自作ユーザーの視点でのパーツ選別が特徴だ。例えばマザーボードはMini-ITX(会場に展示されていたK10にはASUSの「J1900I-C」)の汎用品であり、メモリもSO-DIMM(展示機はADATA製)、SSDも特に選別品や特注品を使っていたりはしていない。電源もリニア電源ではなくスイッチング電源だ。昨今“microSDカードで音質が変わる”と言われるオーディオ業界とは一線を引いており、言わばPC自作ユーザー的な視点で構成された製品だ。

 坂口氏は「もちろん、パーツの選別によりノイズが低減するというデータは採れたのだが、それはコストに見合わないものと考えており、採用を見送った。本機は当初から初心者をも取り込むことをターゲットとしており、高い価格帯を考えていない。そしてパーツから出るノイズについては、ケースを工夫することでかなり抑えることができた」とし、ハイレゾのロゴが取得できたのは、アビーならではの工夫があったとアピールする。

 例えば、シャシーの接合部には制振スポンジラバーシートを装着することで振動を軽減。カバーには旭化成の非磁性体シート「パルシャットMU」を貼り付け、電磁ノイズを除去。取り外し可能なドライブベイの部分のネジも、制振スポンジラバーワッシャを採用。底面にはアルミ削り出しのインシュレータを搭載し、筐体の振動を抑える。また、電源部とマザーボードを分けて2チャンバー構成とするノイズリダクション・セパレータを採用している。

 シャシーにアルミを採用したのも工夫の1つで、鉄と比較して約3倍の熱伝導率により、ファンレス機構を実現した。

 ソフトウェア面での工夫はフリーの音楽再生ソフト「foobar2000」のカスタマイズ。アビーのエンジニアが手を加え、使いやすくするとともに、独自機能「aLink」により、スマートフォンやタブレットのWebブラウザから音量調節や楽曲の選択、再生モード、早送り/巻き戻し/一時停止、そしてPCの電源をオフにできる。「例えば寝ている時にADIVAで音楽を聞いていて、眠くなったら手元のスマートフォンで電源を落とすといったことが可能になり、わざわざPCの近くに行かなくて済むようになる」とメリットを語る。

パルシャットMUの採用
アルミ削り出しインシュレータ
ノイズリダクション・セパレータ
カスタマイズを施したfoobar2000
aLinkによりスマートフォンから操作可能

最上位モデル「P10」も6月に

 今回K1とK10のみの発表であったが、坂口氏は最上位モデルとなる「P10」が6月にリリースされることを予告した。会場には試作が置かれ、写真撮影は不可であったが、K1/K10の質感はそのままに、より一回り大きい筐体サイズであった。

 なお、ADIVAのネーミングの由来は、「アビー(Abee)のAと、DIVA(一般的に歌姫という意味)をくっつけた造語」だとしている。

ADIVA K10の実機
前面パネルはヘアライン仕上げで厚みもあり、高級感がある
ADIVA K10の背面インターフェイス
オンキヨー製DAC「DAC-1000(S)」も付属し、これと接続する
ADIVA K10の分解モデル
ADIVA K10の内部
電源部
マザーボード上部にはスペースに余裕がある
ケースはかなり肉厚だ
旭化成のパルシャットMUを採用している
K10にはエッジフリーのPCI Express x1スロットがあるが、背面スロットがないため実質利用できない
J1900I-Cを利用しているようだ
メモリはADATA製であることが分かる
ADIVA K10のスピーカー付きモデルはオンキヨーのGX-500HD(B)を採用する
ADIVA K1の実機
付属するロジクール製のキーボードとマウス。キーボードにはタッチパッドも搭載しており、ソファに座ったまま操作可能だ
ADIVA K1の背面
ADIVA K1のデバイスマネージャー。SSDはTranscend製の512GBだが、これは展示機だけだろう(実際の製品は256GB)
ADIVA K1はSE-90PCIが採用されているため、VIAのコントロールパネルとなっている
ADIVA P10という上位モデルも予告された

(劉 尭)