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産総研、カーボンナノチューブを用いた実用的なタッチパネル用材を開発
(2015/2/9 17:17)
独立行政法人産業技術総合研究所(産総研) 電子光技術研究部門 分子集積デバイスグループ 周英 研究員、島田悟主任研究員、阿澄玲子 研究グループ長と、ナノチューブ応用研究センター 流動気相成長CNTチーム 斎藤毅 研究チーム長らは、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた透明導電膜の導電性を長期的に安定させられる新技術を開発したことを発表した。
産総研では、これまでに精密な直径制御などが可能なCNTの合成法であるeDIPS法を開発。その合成法で生成した単層CNTを、セルロース系の高分子を含む溶剤に分散させたインクを用いてプラスチック基板上に塗布膜を生成し、パルス光焼成などの後処理によって高い導電性を示す透明導電膜を作成することに成功していた。今回の発表は、このCNTを用いた透明導電膜の実用化に当たって障害となっていた、導電性の長期安定性を飛躍的に向上させるものとなる。
CNTは柔軟でありながら極めて高い導電性を示す材料であるが、CNT薄膜の導電率は単独のCNTに比べて大幅に劣る。これを補うために、硝酸などの酸化剤を少量加える“ドーピング”と呼ばれる方法を用いるが、硝酸には揮発性があるため、薄膜から徐々に遊離してシート抵抗値が高くなる課題があった。
今回発表された研究では、硝酸によるドーピングの代わりに、ヨウ化銅などの金属ハロゲン化物の薄膜を、CNT膜の上または下に真空蒸着法で作成。これに数百msecのパルス幅の光を照射して薄膜の温度を急速に上昇/降下させることで金属ハロゲン化物を薄膜内で移動させて作成された透明導電膜は、透過率85%に対してシート抵抗60Ω/□という、CNT透明導電膜としては世界最高レベルの透明性と導電性を示したという。
この高導電性については、パルス照射前後の原子間力顕微鏡像から、パルス光照射によって金属ハロゲン化物のナノ粒子が成長すると同時に、CNTの網の中に移動。主に2本以上のCNTが交差する場所に位置することから、ナノ粒子がCNT同士の接触を強めるインターコネクト構造を形成していることから、高い導電性を保持している可能性があるとしている。
また、金属ハロゲン化物などのナノ粒子は大気中でも揮発しないため、この導電膜を室温、大気中で保管した際の導電性の経時変化を測定すると、作成直後のシート抵抗の値を長時間保持することも分かった。こういった特性により、タッチパネルやセンサー、太陽電池の電極などへ応用できる。
今後、ナノ粒子材料の種類や光処理条件の最適化でCNT透明導電膜の導電性や透明性をさらに向上させるほか、全工程を溶液の塗布や印刷などのウェットプロセスで作成することを目指す。