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東大、トンネル効果を利用した極低電力トランジスタを開発

~バッテリ不要のLSIも視野

左図は試作した素子の概念図、右は左図の赤線部分の断面透過顕微鏡写真

 東京大学大学院工学系研究科の高木信一教授らは15日、JST戦略的創造研究推進事業の1つとして、極低電圧での動作が可能な新しい構造のトンネル電界効果トランジスタを開発したと発表した。

 現行のMOSトランジスタは、論理演算における信号のオン/オフ状態の電流を、わずかな電圧変化で切り替えることが原理的にできず、電源電圧を本質的に下げられない。そこで、電子がエネルギー障壁を量子力学的にトンネリングする際のトンネル電流を利用し、これをゲート電極で制御するトンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)に注目が集まっている。

 トンネルFETでオン電流とオフ電流の差を大きく取るには、エネルギー障壁幅を薄くすることと、トンネル電流を大きくできる材料上の工夫が必要となる。そこで、高城教授らは、MOSトランジスタチャネルに、引っ張り応力を加えた歪みシリコン(Si)とゲルマニウム(Ge)のヘテロ界面を用い、チャネル材料を歪みSi、ソース領域を高濃度Geとした。

 この結果、プレーナ構造で、現在の集積回路プロセスに馴染みやすい材料を用いながら、きわめて薄いエネルギー障壁幅を形成することに成功した。また、良好な電界効果トランジスタ特性の下、わずかな電圧変化で急激に電流を切り替えること、大きなオン電流とオフ電流の比を得ることを同時に実現した。

 この素子を用いることで、トランジスタの電源電圧を現行の0.9Vから0.3V以下にまで低下しても動作する集積回路の実現に道が開けた。また、将来的には、センサーネットワークなどに向けた無給電動作集積回路への応用にも期待がかかる。

 この研究成果は、12月14日(米国時間に)発行される国際会議IEDMの「Technical Digest」に掲載される。

横軸はS係数の最小値、縦軸はオン電流とオフ電流の比。S値は小さいほど、またオン電流とオフ電流の比は、大きいほど優れた特性となる。○は他の研究グループの報告結果、★は今回の研究成果

(若杉 紀彦)