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産総研、新原理トランジスタを用いた集積回路の動作を実証

~0.2~0.3Vで動作可能なトンネルFET

今回製作したトンネルFETによるリング発振回路の光学顕微鏡写真、模式図と出力特性

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は5日、シリコントンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)を用いたリング発振回路の動作を実現したと発表した。

 IoT時代に向け低消費電力なデバイスが求められる中、微小な電力での動作を実現するには、LSIを構成する個々のトランジスタの駆動電圧の低減が鍵を握るが、従来のLSIで用いられている電界効果トランジスタ(MOSFET)の駆動電圧は徐々に下がってきているものの、近年頭打ちになりつつある。そこで焦点が当たっているのがトンネルFETで、原理的には0.2~0.3Vという低い電圧での動作が期待できる。

 トンネルFETを用いた回路でもMOSFET同様に、N型とP型の極性が異なるトランジスタを用いる相補型回路方式での動作を実現する必要がある。相補型回路の基本単位はインバータで、インバータを数十個集積するとリング発振回路となる。リング発振回路は動作速度を評価できるため、集積回路の開発に必須である。しかし、リング発振回路が正しく発振するには、相補型回路を実現して数十個のトランジスタを集積し、すべてのトランジスタを同時に動作させる必要がある。

 これらは高度なプロセス技術が要求され、トンネルFETの開発においても、インバータ動作は世界でも未だに数グループのみで実現されるに留まっており、またリング発振回路の動作は実現されていなかった。

 今回産総研は、相補型回路方式でリング発振回路を作製。このリング発振回路はN型とP型のトンネルFET(SOIプレーナ型)をそれぞれ23個ずつ、合計46個を集積して、23個のインバータを作製し、それらをリング状に接続した。

 今回試作したインバータでは、高い入力電圧に対しては低い出力電圧が、低い入力電圧に対しては高い出力電圧が得られ、電圧が反転されており、トンネルFETによるインバータが動作することが確認できた。一方、リング発振回路では、時間とともに出力電圧が変化し、発振動作が観測され、トンネルFETによる相補型回路方式でのリング発振回路の動作が初めて実証された。さらに、産総研の持つトンネルFETの駆動電流増大技術を適用することで、動作周波数の約2倍の向上が実証された。

 今回のトンネルFETの動作電圧は期待値よりも高かったため、閾値電圧調整技術の開発などによる低電圧動作を目指すほか、実用化には、さらに100倍程度の動作速度が必要となるため、高速化を狙う。

トンネルFETを用いたインバータの走査型電子顕微鏡写真(左)と入出力特性(右)
トンネルFETで作製したリング発振回路(上)とその出力電圧特性(下)
駆動電流増大技術を適用した場合/しない場合のトンネルFETリング発振回路の動作周波数