富士通は、同社ノートPCの生産拠点である島根富士通を報道関係者に公開。今後は、同社独自の「富士通生産方式(FJPS)」への取り組みにおいて、島根富士通がリーダー的な役割を担うとの姿勢を明らかにした。また、同社のPC事業における現在の状況などについて触れた。
●国内生産のメリットとは富士通 ユビキタスビジネス戦略本部兼パーソナルビジネス本部本部長の齋藤邦彰執行役員 |
富士通 ユビキタスビジネス戦略本部兼パーソナルビジネス本部本部長の齋藤邦彰執行役員は、「富士通はICTベンダーとしては世界第3位であり、世界一のPCプロダクトをグローバルに発信していく。さらに、年間1,000万台の生産規模を早期に達成することを目指し、ボリュームメリットによる競合力を強化していく」と語った。
また、「匠と疾風のモノづくりが、富士通のPC事業の特徴」とし、「いつでも、どこでもという時空間の広がり、だれでも、どんなことでも、という多様性の広がりが、ユビキタスフロントのデバイスに求められている。そこでは、どんなことがPCでできるかという『コト』が重要であり、富士通はその点にフォーカスしたモノづくりを進めている。また、コトを実現する上では、ネットワーク、ミドルウェア、バックエンドという端末以外の要素も重要になる。フルスタック戦略の中で、磨き抜かれたハードウェアとインフラによって強力なフロントエンドを提供できる」などとした。
さらに、「富士通は、開発拠点を川崎に持つほか、島根、福島、兵庫に製造拠点を持ち、仙台、新潟、北九州、京浜にサポート拠点を配置している。国内一貫体制とすることで、高質な製品をいち早くユーザーのもとに届けることができる。また、東日本大震災の発生時には、福島で生産していたデスクトップPCを、島根富士通での代替生産を行ない、国内の製造拠点間で臨機応変な対応が可能になっている。現在も四半期に一度のペースで、お互いに生産を行なえるように準備をしている」とした。
齋藤執行役員は、国内体制を敷いているメリットの具体的な事例として、いくつかの製品をあげて説明した。
UltrabookのLIFEBOOK UHシリーズでは、富士通化成が持つチクソモールディングによる成形技術や5層塗装のほか、独自の超圧縮クロスグリッド構造の採用など、日本に拠点を置く富士通グループの力を集結することで、HDD搭載のPCとして世界最薄を実現。「これを中国で生産することはできない」とした。
また、世界最薄となるWindows 8搭載防水タブレットのARROWS Tabの場合には、「薄さ、軽さ、高品質に加えて、携帯電話で培った富士通独自の防水技術を活かしたことにより実現した」と説明。島根富士通の宇佐美隆一社長は、「ARROWS Tabは、島根富士通の中に設置したクリーンルームで生産している。防水加工のシールや、材料に工夫がある。島根富士通の技術を活用することで、現場では思いのほか、生産がうまく行ったという声があがっている」などと、日本でのモノづくりの成果を強調した。
また、コンバーチブル型PCのSTYLISTIC QH77/Jでは、世界初となるCoreプロセッサを搭載したタブレットを活用できるハイブリット型PCを生産。「これも日本に研究開発拠点を持っていることで達成したものである」とコメント。女性向けとして新たに製品化したFloral Kissは、「一般的なPCとは異なるコンセプトで、新市場を開拓することを目指した。こうした製品を即座に投入できるのも日本での開発、生産体制が貢献している。日本先行で市場投入することができる」などとした。
さらに、富士通では、日本生命向けに約10万台、第一生命向けに約6万台の端末を受注。高いセキュリティ機能などのカスタマイズにも応えられる体制を構築。「第一生命では、5万台の端末を1日で全国展開した。こうした業界初の取り組みも、国内生産によるもの」(島根富士通の宇佐美隆一社長)と強調した。
富士通では、2011年9月から、島根富士通で生産したノートPCを「出雲モデル」としているが、「我々が想像していた以上に、富士通がMADE IN JAPANのモノづくりをしていることを知らないことが分かった」と前置きし、「デスクトップPCの伊達モデルを含めて、MADE IN JAPANへの品質に対する期待が高まっていることを感じている」と語った。
Windows 8搭載PCの売れ行きについては、「Windows 8の発売以降、PC全体の販売台数は予想を上振れする形になったが、Windows 8の販売台数よりも、Windows 7の方が売れているようだ。ただ、量販店への来店や質問はかなり増えている。また、企業においても、Windows XPを採用しているユーザーが、Windows 8に関心を示している。紙で提供しているツールをタブレットなどで提供するといった点で関心が高まっている」などとした。
ユビキタスフロントの広がり | ものづくりを支えるインフラ |
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島根富士通の宇佐美隆一社長 |
島根富士通の取り組みについては、島根富士通の宇佐美隆一社長が説明を行なった。
島根富士通は、1989年12月に設立。1990年10月から操業した富士通のノートPCの生産拠点で、年間200万台の生産規模を誇る。
「2011年に国内で生産されたノートPCのうち、富士通が84%を占める」というように、国内最大規模のノートPC生産量となっている。
「開発から製造、サポートまでを、国内で一貫した体制で行なうことにより、高品質な製品を提供している」とする。
富士通生産方式では、開発から生産までのリードタイムを短縮する「コンカレントプロセス」、日本で開発および生産する「全社一体の体制」、常に革新に取り組む「限りない課題の顕在化」という3点に取り組み、「先端ICT技術を道具として、ものづくりの全領域で質を高めていく」とした。
島根富士通では、2012年度の重点施策として、「プロセスのコンカレント化」、「平準化プロセスの確立」、「人と協調した自働化、ロボット化の推進」、「自律改善に向けた取り組み」を掲げる。
「プロセスのコンカレント化」では、試作をしないモノづくりのほか、設計データをモノづくりの現場にすばやく反映させる体制づくり、スレートPCを活用した作業指導の実現などにより、品質向上、コスト削減、期間短縮などを実現するという。
また、「平準化プロセスの確立」では、受注を含めた製販一体での平準化を推進することで、今後は全体生産量の平準化だけではなく、機種別生産量の平準化を進めることで、在庫リスクの削減や製造品質の改善などにつなげることができるという。
「人と協調した自働化、ロボット化の推進」では、基板製造ラインにおいて、最終検査工程で人間の手のように自由に動きまわる「げんこつロボット」を導入。さらに12月を目標にアームロボットを導入することによって、省人化を図りながら、さらに品質を高めていくことになるという。
また、「自律改善に向けた取り組み」では、階層別KAIZEN教育のほか、小集団活動などにより、人の意識向上によって高い品質とコストダウンを実現するという。
富士通生産方式 | 2012年度の重点施策 | 平準化プロセスの確立 |
自働化、ロボット化の推進 | 自律改善に向けた取り組み |
MADE IN JAPANの特徴 | カスタマイズモデルへの対応 |
富士通によると、中国では1つの生産ラインで120人が関わり、1人がネジ1本を締めるというような体制となっているのに対して、島根富士通では、1ラインで組立に10人、検査および梱包などで6人の合計16人で生産している。
「島根富士通もかつては1ライン50人体制で生産していたが、多能工化や知恵を使った工夫により、1ラインを16人にまで減らした。中国の生産ラインは、焼き畑農業的ともいえ、離職率が高い中で生産しているのに対して、島根富士通では、高い定着率によってノウハウが蓄積されることで、こうしたことが実現できた」(宇佐美社長)としたほか、「中国では賃金の高騰などの課題もあり、むしろ日本で生産する優位性が高まっている」(齋藤執行役員)などとした。
富士通の齋藤執行役員は、「日本は、高い問題発見、課題解決力という現場力が、モノづくりにおける強みであり、モノづくり産業はマザー機能を担うことが期待されている。高度、高質な製品を生み出す技術力を活かし、世界の手本となる生産工場を目指す」とした。
(2012年 11月 14日)
[Reported by 大河原 克行]