山田純氏 |
クアルコムジャパン株式会社は3月1日、都内で記者会見を開き、米国時間の2月14日に発表された新CPUアーキテクチャ“Krait(クレイト)”に関する説明を行なった。発表会では、同社代表取締役会長兼社長の山田純氏が出席し、製品登場の背景や製品の特徴、今後の展望などについて説明した。
●CDMAからLTEまで幅広くサポート
同氏はまず、PCとスマートフォンの出荷台数推移のグラフを示し、「2011年にスマートフォンの出荷台数がPCを超える。これは我々にとって待ちに待った年である」と期待を寄せ、その市場拡大に応えるためにさまざまな製品を提供していくという意思を示した。
同社の無線通信技術は、当初CDMAから開始したが、現在ではEV-DOやHSPA、さらにはLTEなどもサポートしている。特にLTEに関して山田氏は、「当初はCDMAをメインビジネスとしているクアルコムにとってLTEで不利になるのではないかという見方もあったが、蓋を開けてみたら、我々がLTEを最初にサポートする半導体をローンチできた。LTEに関しても今後業界のリーダーシップを発揮していきたい」と述べた。
スマートフォンとPCの出荷台数推移 | 同社の通信技術のロードマップ |
2月14日に同社は、4つのMDM(モバイルデータモデム)製品を発表。1つ目は「MDM8215」で、DC-HSPA+対応、下り最大42Mbpsの通信速度を実現したもの。MDM8220の後継として消費電力の低減と性能向上を図った。サンプル出荷は2011年末としている。
2つ目は「MDM8225」で、これはHSPA+ Release 9に準拠。MIMOとデュアルキャリアHSDPAをサポートすることで、下り最大84Mbps、上りもデュアルキャリアHSUPAにより23Mbpsを実現。こちらも2011年末のサンプル出荷を予定している。
この2製品に関しては、LTEをサポートしないが、「新しい周波数の割り当てを得ることができず、LTEサービスを開始できない事業者もある。我々はデュアルキャリアやMIMOの対応によって、既存の周波数帯を所持するキャリアでも高速化を図ることができる。LTEのみが通信速度向上のブレイクスルーではないことを示せるだろう」とした。
その一方で、LTE対応MDMのラインナップとして、LTE(FDD/TDD)/DC-HSPA+、DV-DO Rev B、TD-SCMAをサポートする「MDM9615」、さらにLTE Category 4に対応し、下り最大150Mbps、上り最大50Mbpsをサポートできる「MDM9625」、「MDM9225」を2011年末にサンプル出荷を開始する。ほとんどの第3世代通信規格と第4世代通信規格をサポートし、さまざまなタブレットやスマートフォンデバイスに採用されるだろうとした。
世界で初めてのLTE製品 | 既存技術で高速化を図るMDM8215とMDM8225 | LTEをサポートしたMDM9615とMDM9625/9225 |
●低消費電力と高性能を両立させた次世代のSnapdragon
続いて、スマートフォンやタブレットの基幹を支えるSoCとして、「Snapdragon」を説明した。
Snapdragonは、ARMのCPUをベースとし、GPUやさまざまな電力制御/センサー、通信機能(オプション)を統合したSoCのことを示すが、約2年前から搭載製品が市場に出てきており、Androidに関連する端末に絞って言えば、約7割のシェアを獲得しているという。
システムという考え | Snapdragonの定義 | 既存のSnapdragon搭載製品 |
現行の6製品 |
現行製品は、シングルコアとして「MSM8255」、「MSM8655」、ここから3G通信機能を省いた「APQ8055」、そしてデュアルコアとして「MSM8260」、「MSM8660」、同様に3G通信機能を省いた「APQ8060」を挙げた。動作クロックは前者が最大1.4GHz、後者が最大1.5GHzとなっている。
山田氏は、「Snapdragon登場当初、ギガヘルツCPUを疑問視するユーザーが多かったが、今では当然のように使われており、競合他社もこぞって対抗のギガヘルツCPUをリリースしている。我々はモバイルのギガヘルツCPUのリーダーシップをとることができた」とアピールした。
MSM8660/8260のデモ機 | CPUの各コアの使用率(画面右上のグラフ)と消費電力(左上) | バックグラウンドで高負荷のアプリケーションを走らせても、フロントの3Dゲームはスムーズに動いている |
重い処理のときだけ2コアともに高クロック動作となる | 内蔵のAdreno GPUを利用したゲームデモ | 1080pの3Dムービーの再生デモ。写真はTVに出力したところ |
【動画】Adrenoを採用したゲームの動き |
また、デュアルコア製品の特徴として、非同期マルチコアによる効率的な動作を挙げ、「ほかのメーカーのデュアルコア製品では、1コアが高負荷に置かれ、高クロックで動作している場合、もう1つのコアも同期して高クロックで動作するため、消費電力が上がってしまうという問題がある。我々は2つのコアのクロックを非同期とすることで、消費電力を抑えることができる」と説明した。
そして2月14日に発表された新アーキテクチャ「Krait」を説明。Kraitでは、各コア最大2.5GHzのクロックで動作するほか、既存のコアと比較して、1.5倍高速でありながら、平均消費電力を約3分の1に抑えたという。また、最大でクアッドコアグラフィックスコアのAdrenoを採用し、高度な3Dグラフィックスを実現できるという。さらにWi-FiやGPS、Bluetoothなどを統合。製造プロセスは28nmとなる。
製品としては、まずデュアルコアの「MSM8960」から製品化し、を2011年第2四半期にサンプル出荷。3GとLTEをモデムを統合した初のデュアルコアソリューションとしている。一方シングルコアの「MSM8930」は遅れて、2012年初頭のサンプル出荷を目指す。
クアッドコアで、3Gなしのアプリケーションプロセッサとして、「APQ8064」を2012年初頭にサンプル出荷。各コア最大2.5GHzを達成するほか、初期のSnapdragonと比較して12倍以上のパフォーマンスと、75%低い消費電力を実現するという。また、クアッドコアのAdrenoを搭載することで、コンソール機レベルのゲームやUIを実現でき、ターゲットとしては次世代コンピューティング機器やエンターテイメント機器向けとしている。その一方で、外部の3G/LTE MDMとのシームレスな接続を実現するとした。
Kraitのアーキテクチャ | MSM8960とMSM8930 | クアッドコアのAPQ8064 |
最後に、SnapdragonがサポートするOSについては、主力とするAndroidだけでなくbrew mpからWindows Phone、BlackBerry、Chrome OS、webOS、さらに先日ARMのサポートが発表されたWindowsを挙げた。「スマートフォンの世界において、クラウドサービスが充実しているAndroidと、端末として洗練されているiPhoneだけが生き残ったというわけではない。我々はさまざまなOSプラットフォームをサポートすることで、すべてのOSプラットフォームの成長に貢献していきたい」と述べた。
さまざまなOSのサポート | Windows Phone 7搭載端末にもSnapdragonが採用されている | 次期WindowsのARMサポート |
HPの次期OS「webOS」では現時点で100%採用してる | Androidのマーケットシェア |
(2011年 3月 1日)
[Reported by 劉 尭]