OpenGLなどの業界スタンダードAPIの策定/開発を手がけるKhronos Groupは13日、創立10周年を記念したカンファレンスを都内で開催した。
カンファレンスでは、グループ代表のニール・トレベット(Neil Trevett、Vice President Mobile Content, NVIDIA)氏が、同グループのこれまでの活動や今後の予定などについて説明した。
同グループは、デスクトップPC向け3DグラフィックスAPIである「OpenGL」をはじめ、モバイル機器向けの3DグラフィックAPIである「OpenGL ES」や、ベクターベースの2D API「OpenVG」、汎用演算APIの「OpenCL」を開発/策定したほか、システムインテグレータ向けにはローレベルのビデオ/オーディオアクセラレーションAPIである「OpenMAX IL」や、高級レベルのAPIとしてWebページで3Dグラフィックスを実現する「WebGL」などの開発や策定を行なっている。
ニール氏は、「Khronosが発足してから10年間、メインストリームの市場はデスクトップコンピューティングからモバイルコンピューティングへ遷移しつつあるが、リッチなユーザー体験とグラフィックスは、2つのプラットフォーム共通で必要とされている。それぞれのプラットフォームに最適化したソフトウェアを開発者が容易に開発できるようにするには、共通したAPIが必要であり、我々がそれを策定している」と説明した。
Khronosのビジョン | 近代的なグラフィックスやオーディオなどのリッチメディアへの需要 | APIはハードウェアとソフトウェアの架け橋である |
また、「特にモバイル分野では、限られたシリコンのリソースをフルに活用する必要があるが、我々のAPIを利用することで、シリコンの開発者とソフトウェアの開発者両方において、そのリソースを最大限に活かすことができる」とアピールした。
Khronosが策定したAPIの特徴としては、オープンスタンダードであること、ロイヤリティフリーで利用できることが挙げられるが、その一方で、性能や機能で競合している企業同士がAPIの策定や開発においては協力関係にある。「現在、同グループの参加企業は110社ほど存在するが、各々の企業に投票権が存在する。我々のグループに参加しているプレイヤーが、市場において自由に競争できるのも特徴の1つである」と語った。
KhronosのAPIはオープンスタンダードでロイヤリティフリーである | Khronos Groupに参加しているメンバー | Khronos Groupが策定したAPIやフレームワーク |
直近の活動内容としては、2009年11月にWebページにおいてOpenGL 2.4相当の3Dレンダリングを可能にするAPI「WebGL 1.0」を策定したほか、2010年3月にはテッセレーションをサポートした3DグラフィックスAPI「OpenGL 4.0」、2010年6月には汎用演算のフレームワーク「OpenCL 1.1」、そして2010年7月には「OpenGL ES 2.0」との互換性を持たせた3DグラフィックスAPI「OpenGL 4.1」をリリースした。
OpenGLに関しては、ハードウェアの世代の進化にあわせて進化してきた。OpenGL 1.xや2.xではテクスチャやピクセルシェーダなど最終出力に関する機能、OpenGL 3.xと同4.xではジオメトリシェーダやテッセレーションなどジオメトリ生成に関する機能強化を中心に策定した。
直近の活動 | OpenGLの進化 | Unigine Heaven Benchmarkより。テッセレーションでポリゴン数が大幅に向上する |
一方、汎用演算向けのフレームワークであるOpenCLは、近年、特徴が共通化しつつあるCPUとGPUの両方において実行可能であることをアピール。「CPUはマルチコア化で並列度を上げ、GPUに近付いている一方で、GPUは汎用処理向けのアーキテクチャを実装するなど、CPUに近付いている。これらを我々はヘテロジニアス(異種混合)コンピューティングと呼んでいるが、CPUとGPUいずれにおいても同一のフレームワークでプログラミングできるのがOpenCLの特徴である」と述べた。
また、OpenCLはNVIDIA、AMD、そして最近ではIntelがベータバージョンのドライバでサポートを行なったこと、世界各地の大学でOpenCLを標準のカリキュラムとして取り入れるよう推進していることを紹介した。
ヘテロジニアスコンピューティングに好適なOpenCL | OpenCLの進行状況 |
AMD、NVIDIA、IntelがOpenCLをサポート | 世界各地の大学でOpenCLを標準のカリキュラムとして取り入れることを推進している |
このほか、モバイル機器や組み込み機器向けにおいて、Khronosが策定したAPIやフレームワークを利用することで、アプリケーションにポータビリティ(移植のしやすさ)をもたらせること、さらにHTML5のJavaScript上で実現するWebGLによって、プラグインなしで3DレンダリングをWebブラウザの上で実現できることなどを紹介した。
KhronosのAPIを採用することでアプリケーションにポータビリティをもたらせる | 幅広いプラットフォームで共通のAPIをサポート | さまざまなAPIのハブとなるEGL |
EGLによってデスクトップとモバイルのエコシステムが生まれる | ブラウザ上で3Dレンダリングを実現するWebGL | 多くのブラウザでサポートされる予定 |
最後に、今後10年間で予定されている活動として、レイトレーシングに関するワーキンググループの発足や、アプリケーションのポータビリティを向上させるためのAPI/ワークフレームの移植、ベクターグラフィックスをOpenGL/OpenGL ESへ取り入れることなどを検討していると語った。
(2010年 12月 13日)
[Reported by 劉 尭]