ソニーは、電子ペーパーを採用した電子書籍端末「Reader」を12月10日より発売する。これに伴い、東京・品川にあるソニー本社で記者発表会を開催した。
端末の価格はオープンプライスで、店頭予想価格は5型の「Pocket Edition」が20,000円前後、6型の「Touch Edition」が25,000円前後の見込み。端末についての詳細は関連記事を参照していただきたい。このレポートでは、記者発表会の様子をレポートする。
【動画】タッチパネルによるページめくりの様子 |
【動画】検索の様子 |
【動画】ライト付きブックカバーでライトをつけたところ |
●電子書籍がもたらす市場の変化
野口不二夫氏 |
発表会の冒頭では、米国Sony Electronics シニア・バイス・プレジデントの野口不二夫氏が挨拶。「過去、我々におけるコンテンツ事業は、音楽、ビデオ、ゲームという3つのエンターテイメント分野がメインだった。しかし今年(2010年)からは、新たに本という分野進出していく」と話し、新製品がソニーのコンテンツ事業において、重要な位置づけであることを強調した。
また、過去のソニーの電子書籍端末の歴史を振り返り「1990年代の“データディスクマン DD-1”から始まり、2004年にはLIBRIe(リブリエ)を発売した。今回のReaderもこれらの製品を踏襲した上での展開であり、世界的な電子書籍の展開の波に乗って急激に成長するだろう」と述べた。
Readerのビジネス展開国は、カナダやアメリカ、オーストラリア、欧州各国などに続いて、日本は14カ国目。「イギリスでの販売は、売り切れが続出し、たいへん好評をいただいている。日本でもユーザーに実際にお店に行ってもらって、手にとってもらってその素晴らしさを体験していただきたい」と語った。
ソニーの4大コンテンツ事業 | ソニーの電子書籍端末の歴史 |
日本は14カ国目の進出 | イギリスでは売り切れが続出 |
続いて、電子書籍ビジネスに関して、よくある3つの質問を挙げ、それに答えた。1つ目は、「電子書籍の登場により紙の書籍がなくなるのではないか」という心配に対してだが、アメリカ市場の現状と今後の予測のグラフを紹介し、「電子書籍市場が紙の書籍市場を食うことなく、紙の書籍市場に電子書籍市場が加わる形となる。より市場が拡大するだけである」と述べた。
2つ目、Readerのような専用端末は、iPadのような汎用端末と比較して市場が小さいのではないかという疑問に対して、「確かに販売台数においてはiPadのような汎用端末には及ばないだろう。しかし電子書籍コンテンツの利用率は専用端末のほうが高くなるだろう」とし、Readerも一定の市民権を得ることができるとした。
3つ目の、出版や印刷、著者、販売などをひっくるめたエコシステムの変革についてだが、「過去にあったデジタルカメラを例に挙げると、記録媒体はフィルムからメモリカードへ、DPEからプリンタへ、さらにユーザー撮影機会が飛躍的に増えた。これらは大きな変革だ。しかしながら撮影するノウハウや撮影シーン、レンズなどの光学技術は継承された。その一方で、ネットで共有することや、デジタルフォトフレームの登場など、新しい市場の創造も可能になった。電子書籍に関しても同じことが起きるだろう。この変革と創造、継承の段階で、どう新しいビジネスチャンスとして捉えられるかどうかが、今後重要になるだろう」と述べた。
Readerを手に持つ野口氏 | 紙の書籍市場を食いつぶすことなく、それに加わる形となる電子書籍市場 |
汎用端末と比較して売上台数では勝てないが、利用率は高くなるという | 電子書籍端末の登場によるエコシステムの変革 |
ソニーとしての電子書籍の考え方も3つ挙げた。1つ目はコンテンツを次世代に残すことで、「グーテンベルク(活版印刷技術の創始者)以来の大きな進化」とする。2つ目は歴史ある地域文化性を尊重しながら、「グローバルに発信できるビジネスチャンスを提供すること」。そして3つ目はオープンなフォーマットやDRM、プラットフォームの提供だとした。
Readerの発売に伴い、株式会社ブックリスタを立ち上げ、新しいサービス「Reader Store」を展開。具体的な“仕掛け”は後述するが、野口氏は、「制作者の思いと、読み手の期待応えるよう、コンテンツを展開していきたい」とした。
ソニーの電子書籍の考え方 | ブックリスタの使命 |
●“読書好き”のための読書専用機
栗田伸樹氏 |
続いて、ソニーマーケティング株式会社 代表取締役社長 栗田伸樹氏が、国内におけるReaderの戦略を説明した。
ソニーは、国内における市場展開戦略として、TV、デジタルカメラ、そして新規ビジネスという3本の柱を立てているが、Readerはこのうちの新規ビジネス分野であり、重要な位置づけであるとした。
Readerが対象とするユーザー層は、1カ月に3~10冊以上読む“読書好き”であるという。栗田氏は、「リサーチでは、約21%のユーザーが、書籍市場の63%を占めている。日本の人口にすると約2,000万人だと考えている。この2,000万人のための読書専用機として、Readerを開発した」とした。
これらの“読書好き”の人々をさらに調査すると、電子書籍のメリットとして、「本の場所をとらなくてよい」、「1つの機器にたくさんの本を入れて持ち運べる」といった認識があるとしており、約5割のユーザーが電子書籍端末の購入を考えているという。これらのユーザーのニーズを踏まえて、Readerを開発した。
容量という観点では、「約1,400冊の本を、文庫本のサイズに収めることができる」とアピールする。「1カ月に3冊読むというペースであれば、約38年分の本をポケットのサイズに収められる計算だ」とした。
2種類のReader | 書籍市場の大半が“読書好き”による購買 | “読書好き”のためのReader |
“読書好き”の5割は電子書籍に興味があるという | “読書好き”が考える電子書籍のメリット |
約1,400冊の本を収録可能 | 実際に1,400冊の本を並べるとこの量になるという |
電子ペーパーの採用によるバッテリのスタミナもアピールし、「300ページの本であれば30冊相当、典型的な読書パターンでは約2週間の駆動が可能で、バッテリを気にする必要はない」とした。
また、電子書籍においてユーザーが重視しているのは閲覧性であり、電子書籍を利用したくないユーザーの大半は「液晶では目が疲れる」、「紙で読む習慣がついている」といった理由であるという。その点に対しもReaderは、紙の表示に近い電子ペーパーを採用したこと、そして電子ペーパー表面に膜を必要としない光学式のタッチセンサーの採用により、これらのイメージを払拭できるとした。
また、アルミ素材を採用した質感、背面ラバー風塗装による手になじむ素材、そして直線的で洗練されたデザイン、さらには、ブックカバーやライト付きのブックカバーのアクセサリの充実など、Readerを持つ喜びと楽しみを増やしたとした。
電子書籍に抵抗のあるユーザーが答えた不安や不満など | 電子ペーパーの採用により紙に近い表示が可能 | 光学式タッチパネルの搭載により、表示品質の低下を防げるという |
Readerを持つ喜び | アクセサリの充実 |
●新しい本との出会いを提供するReader Store
12月10日の発売に合わせて、電子書籍を提供するブックストア「Reader Store」サービスも展開する。利用方法としては、PCからReader Storeにアクセスし、読みたい電子書籍を購入、そしてReaderにUSB経由で転送する仕組みとなっている。取り扱いのタイトルは当初2万冊以上用意するとしているが、書籍の価格は未定。
このReader Storeの開発コンセプトとして「本との新たな出会いの提供」が挙げられる。読書ユーザーのアンケードで、書籍を購入する際の参考元として「好きな著者の作品だった」、「タイトルに興味があった」といった、「既に知っている本」を購入していることがわかったという。そこでReader Storeでは2種類の新しい仕組みを利用して、本との新たな出会いを提供する。
Reader Storeも12月10日よりサービス開始 | 電子書籍の購入方法 | Reader Storeの特徴 |
サービス当初より約2万冊を用意 | プリインストールされる10コンテンツ |
1つ目は「本棚」。ユーザーは100種類以上の中から、好きなアイテムをReader Storeの「本棚」に飾ることで、それに関連する書籍を提示する。アイテムの組み合わせによっても提示する本が異なるという。そして2つ目が、ユーザーのテーマに沿って本を推奨する機能で、ほかのブックストアにはない機能だとした。
このPCで検索することで新しい本と出会えること、そしてポケットに本棚を集約したようなReaderで読むことが、ソニーが提供する電子書籍サービスの特徴であるとした。
本を購入するユーザーの大半は「知っている本」しか購入していない | 好みのアイテムを並べることで、関連する書籍を推奨する“本棚” | テーマに基づいて本を推奨する機能 |
マーケティング戦略としては、約300の特約店店頭で実際に手にとって触れる場を用意するほか、銀座のショールームとソニーストア大阪、ソニーストア名古屋で、11月26日より先行展示を実施し、認知度を高めるとした。
Reader StoreとReaderの連携 | ユーザーが手にとって体感できる機会を創出 |
質疑応答で、国内におけるシェアと販売台数目標について、栗田氏は、「初年度で年間30万台を目指したい。また、2012年には約100万台の市場があると予測されているが、我々は50%のシェアを維持していきたい」とした。
PCまたはReaderが壊れた場合のコンテンツのバックアップについては、「我々はコンテンツの購入記録をユーザーのIDと紐づけており、万が一PCまたはReaderが壊れても再ダウンロードできるようになっている」と答えた。
内蔵フォントについては「現在では1種類だけ内蔵している。我々はさまざまな調査をして、もっとも読みやすいフォントを採用した。しかし今後はユーザーの声次第で、フォントを増やすことも考えている」と説明した。
また、3G回線を利用してコンテンツをダウンロードできるモデルについて、野口氏は、「海外では展開しているところもあるが、国内については投入時期を優先したため見送った。今後市場の動向を見ながら検討していきたい」と述べた。
(2010年 11月 25日)
[Reported by 劉 尭]