マイクロソフト、Windows Embedded Compact 7のCTPを公開

【写真1】説明を行なったOEM統括本部 OEMエンベデッド本部 シニアマーケティングマネージャーの松岡正人氏

6月4日 開催



 現在台湾で開催されているCOMPUTEX TAIPEI 2010における基調講演で、MicrosoftはWindows Embedded Compact 7のCTP(Community Technology Preview)を公開することを発表したが、この内容についてマイクロソフト株式会社で改めて記者説明会が開催されたので、この内容をご紹介したい(写真1)。

 Windows Embedded Compactは、これまでWindows CEと呼ばれていた、組み込み機器向け専用のOSの最新版である(写真2)。現在の最新のものがWindows CE 6.0 R3だったから、順序としてはWindows CE 7.0あたりに相当する製品であるが、MicrosoftはこのところEmbedded向け製品を全てWindows Embeddedブランドに置き換えており(例外は携帯電話向けのWindows Mobile)、今回のWindows Embedded Compact 7はRe-brandingの最終フェーズとなる。これがリリースされれば、やっと大きなマイルストーンを通過したことになる。

 さてそのWindows Embedded Compact 7、主要なテーマはコンシューマ向け製品に多く採用して貰えるような仕組みを多く取り入れることである(写真3)。まずメディア関係に関しては、メディアライブラリの用意やDRM/DLNAなどの対応(写真4)を充実させたほか、PCなどとの連携のために、新たにWindows Device Stageというサービスを追加した(写真5)。今回はMTP(Media Transfer Protocol)にも対応したほか、さまざまな機能も強化され、ずっと使いやすくなっているという。

【写真2】ただOSの内部構造に大幅に手を入れた、というわけではないからその意味ではWindows CE 6.0 R4としてもいいのかもしれないが。内部機能としての大きな違いは、SMPへの対応が挙げられる【写真3】従来はユーザーインターフェイスを構築するのに多大な時間とリソースを必要としており、これを少しでも軽減することで、TAT短縮や差別化の確保を可能にする、という話。詳しくは後述
【写真4】従来はDLNAやDRMへの対応はOS側で行なっておらず、必要ならアプリケーション側でこれに対応する必要があったが、こうしたものをOS側で提供するようになった、という話。ちなみにHDメディアに関しては、現状はあくまでHDサイズのデータの取り扱いをサポートしたというレベルで、PCのように複数のコーデックをサポートしているわけではなく、またCPU性能がずっと低いから実際にはエンコード/デコードハードウェアとの併用になることが多く、実際の再生にはこうしたハードウェアなりコーデックを別途用意する必要があるとのこと。まぁ言われてみれば当然である【写真5】これによりActiveSyncとはおさらばか……とも思うのだが、松岡氏によれば対象となるPCは当然Windows 7を考えているとのこと。となると、Windows VistaとかWindows XPではWindows Device Stageが動くかどうかちょっと不明である。ひょっとするとWindows XPユーザーなど、まだActiveSyncと縁が切れないかもしれない

 また搭載されるブラウザは、もちろんPC向けフルブラウザに比べればまだ制約は多いが、SilverLight for Windows EmbeddedやFlash 10.1などの対応により、大幅に機能が向上したとしている(写真6)。また標準でマルチタッチに対応するようになっている。

 さらに、ビジネスユーザー向けに、Office DocumentのアクセスやPDFの参照などが可能になるほか、RDPやExchange/Airsyncなどへの対応も図られたとしている(写真7)。勿論例えば標準で(Outlook Expressに相当するような)メーラが搭載されているわけではない(これは顧客が作りこむなり買ってきて組み込むなりする必要がある)が、メールサーバーと接続するためのAPIは提供されるので、以前よりも容易に構築できるようになる。

 ハードウェアの面では、Windows Embedded CompactでサポートされるのはARMとx86の2アーキテクチャとなった。SHはというと、Automotive向けに高いシェアを持つため、SHのサポートはAutomotive向けに集約する(つまりWindows Embedded AutomotiveでのみSHがサポートされる)形になるという。またARMについてはARMv7、つまりCortex-A5/8/9に対応しており、しかもMP構成(Cortex-A8 MP/A9 MP)にも対応するというのが最大のポイントだろう(写真8)。さらに、NEON(ARMのSIMD拡張命令)やVFP(ベクタ浮動小数点演算命令)も、やはり顧客からの強いニーズでサポートがなされたという。

【写真6】AJAX/JavaScriptなどに関してはWindows CE 6.0 R3搭載のブラウザでも可能であったが、そこから更に向上させているとの事【写真7】Windows CE 5.xでは、Office Documentを扱うコンパニオンアプリケーションが標準提供されていたが、Windows CE 6.xでは顧客が製品の差別化図る為に、あえて提供しなかったとか。ところがこれでは不便なので提供して欲しいという声が高まったため、復活したという話だった【写真8】ちなみにプロセッサの最大数はというと、確認はしていないが4コアあたりまでは対応するとの事。ただIntelのCore i7みたいに4コア+HyperThreadingとかで見かけ上8コアになる場合にどうかはちょっと不明だ

 変わったところではCellCoreというものがある。これは携帯電話を使ってのネットワーク接続をサポートするものである。Windows CE 6.0 R3にもCellCoreはあったが、対応する携帯電話の規格はGSMのみだった。ところがWindows Embedded Compact 7では3Gにも対応するとのこと。もっとも、CellCoreはあくまで通信のコアの部分のみなので、技術上はこのCellCoreを使ってがWindows Embedded Compact 7ベースの携帯電話を作ることも可能だが、その場合は作りこまなければならないモジュールが大量にあるとか。そのぐらいなら、Windows Mobileを使う方が現実的だろうというのが松岡氏の説明であった。

 ところでこうしたWindows Embedded Compact 7の強化の主要な点は、もっぱらユーザー向け携帯機器の、それもユーザーインターフェイス(UI)とか利用できる機能に特化している傾向は否めない。これに関して松岡氏が説明するには、現状Microsoftは、特に日本においては民生機器向けにWindows CEが成功していたとは言いにくいと率直に認めたうえで、ではどうやってこのマーケットに入ってゆくかを考えたときに、まずはUI周りが差別化のポイントになると説明した。

 例えばiPadに競合するような製品を顧客が作っている場合、とりあえず最低でもiPadと同じ事ができて、その上で更に付加価値をつけないと差別化は難しいわけだが、その「最低でも同じ事ができる」ところを顧客が独自に作りこむのは時間もコストも掛かるわけで、そうした部分はOS側で提供して欲しい、という声が多くの顧客から求められたという。この結果として、マルチタッチのサポートや(OS上では、これはジェスチャーAPIとしてカバーされるので、アプリケーションはマルチタッチを直接意識する必要はない)、3G携帯電話/Wi-Fi/Bluetoothなどのコネクティビティ、Flash 10をサポートしたブラウザといった、見た目に派手な機能が随分充実することになったという。

 ちなみにこの時期にCTPをリリースした理由としては、「今回は非常に多くの新機能を追加したので、早く開発者の方に触って、評価していただき、そのフィードバックを頂きたい」との事。Windows Embedded Compact 7自身の正式出荷は今年第4四半期を予定しており(ちなみにWindows Embedded Automotiveも同時期にリリースしたいとの事)、それまでの約半年という長い期間を評価期間に当てたそうだ。

 すでにWindows Embedded Compact 7は同社のサイトから入手可能である(ただし入手には、Microsoft Connectへの登録が必要となる)。

(2010年 6月 4日)

[Reported by 大原 雄介]