米Microsoftは4月27日、組み込み向けのWindowsである「Windows Embedded Standard 7」の開発が完了、生産が開始(RTM:Release to Manufactureing)されたことをサンノゼで開催されたESC(Embedded System Conference)の基調講演の中で明らかにし、これに関する日本語版のプレスリリースも5月6日に発表された。これに合わせて改めて同OSに関する記者説明会が本日開催された(写真1)。
ちなみにWindows Embedded Standard 7という製品だが、これはQuebecというコード名で知られていたもの。昨年秋の時点では製品名はWindows Embedded Standard 2011という名称になるはずだった。この名称変更であるが、松岡氏によれば当初は年号を使う形で予定していたが、Windows 7の売れ行きが好調であり、これに合わせる形で名称変更することを本国の方で決定、今年2月15日にアナウンスしたという。ただ異なるのは名称だけで、内容は同じである。
さてそのWindows Embedded Standard 7であるが、同社としてはエンタープライズ向けとコンシューマ向けに広く展開していく事を想定している(写真2)。エンタープライズ向けとしてのウリは、Windows 7としてPC向けに提供されている機能が全てWindows Embedded Standard 7で包括されていることである。Active Directoryが利用できるので、例えばこれを使ってよりセキュアなシンクライアントを作ることも可能だし、Windows環境で利用できる多彩なネットワーク環境をそのまま利用することもできる。あるいはBitLocker/AppLockerなどの機能もそのまま利用できるため、同種のものを開発者が独自に実装する必要はない(写真3)。加えて言えば、こうした特長はWindows Embedded Enterprise 7やWindows Embedded Server 2008 R2でも提供されるため、プラットフォームの柔軟な選択が可能になる(写真4)。
こうした組み込み向けとして重要なのは、既存のITインフラに対していかに簡単に移行可能か、であるとする。この点で、既にWindowsプラットフォームはITインフラとして広く使われており、Windows Embedded製品は移行が行ないやすいと評価されていると説明。この代表例がPOSレジスターで、日本のマーケットの場合、9割以上がWindowsベースの製品になっている、としている。
こうしたMicrosoftが次に狙うのがデジタルサイネージの分野だとしている。従来だと、サイネージは単に決まりきった表示を行なうだけであり、そこにあまりインテリジェンス性はなかった。一方POSはトランザクションを管理するものの、それがサイネージに結びつくわけではなかった(写真5)。そこでもう一歩進んだデジタルサイネージを、現在Intelと共同で開発しているとしている(写真6)。
これはIntelとMicrosoftが今年1月にNRF(National Retail Federation:全米小売業協会)のExpoで展示したものであるが、これとは別に日本においても、3月9日から12日までインテル及びパイオニアソリューションズと共同でデモを行なっており(写真7)、また来週12日より東京ビックサイトで開催されるESECにおいてはIntelブースにおいて共同でこうしたデジタルサイネージのデモを行なう事を明らかにしている。もちろん従来のKIOSKなどにも力を入れていくとしている。
これに対し、やや苦戦しているのがコンシューマ向けのマーケット(写真8)。松岡氏によれば、日本でもっとも成功しているのがカーナビ向けで、Windows CEをベースとしたものが多く利用されているという。またそれなりに入っているものとしてはSTB(Set Top Box)があり、これもまたWindows CEをベースとしたものが大半だが、一部のベンダーがCEではなくWindows Embedded Standardをベースとしたものについて検討を始めているという。
携帯電話にはWindows Mobileも多く利用されてはいるが、これは中国/台湾/韓国といった国が主体で、日本はまだそれほどではないとか。このコンシューママーケットであるが、現在Microsoftが1つ考慮しているのがデジタルTVのマーケットである(写真9)。XPをベースとしたWindows Embedded Standard 2009まではMedia Centerの機能が入っていないため、これに相当する機能を別途用意する必要があったが、今回はIE 8やWindows Media Player 12などとともにMedia Centerがそのまま同梱されている。これを使えば、簡単にデジタルTVを構成できるというのが、現在マイクロソフトの思い描いている、コンシューマ向けの新たな参入可能なマーケットということのようだ。
ただコンシューマ向けの場合、ではどのあたりまでがWindows CE(というか、次からはWindows Embedded Compact)、どのあたりからがWindows Embedded Standardと切り分けられるかという話が当然出てくる。これに関しては「OSのフットプリントという観点で言えば、構成にもよるが、(Windows Embedded Standard 7は)数百MBのメモリまで落とせる。ただ一般的には1GB程度のメモリ量を想定しておくのが妥当だろう」(松岡氏)との話だった。さすがにこれだけのサイズのメモリとなると、ほとんどのコンシューマ向け機器ではかなりきつい数字になる訳で、逆に言えば大半の機器はまだ当分Windows CEやその後継のWindows Embedded Compactで、ということになりそうだ。
最後に今後のロードマップも簡単に示された。Windows Embedded Standard 7は既にRTMに入っているため、6月には主要なOEMベンダーが入手できる状況になるだろうとしている。これに続き、今年第4四半期にはWindows Embedded Compact 7とWindows Embedded Automotive 7が、2011年前半にはWindows Embedded Deveice Managementが登場することがそれぞれ予定されている。Windows Embedded Automotive 7は「Motegi」のコード名で開発されていた製品で、かつてはWindows AutotiveやMicrosoft Autoなどの名前で提供されていたが、ここでやっと統一ブランドになることになる。また今年第3四半期には開発者向けにWinows Embedded Developer Updateも開始される予定だ。
(2010年 5月 7日)
[Reported by 大原 雄介]