米Microsoft CEOスティーブ・バルマー氏来日記者会見
~同社の強みを活かしたクラウド戦略

スティーブ・バルマー氏

11月5日 発売



 米Microsoftの最高経営責任者(CEO)であるスティーブ・バルマー氏が来日し、5日に記者会見を開催。この中でバルマー氏は、これから同社が注力していく分野と、それによってもたらされる新しいビジネス/ライフスタイルについて語った。

 バルマー氏の話のテーマは「革新」。同氏は、長期的経済成長のために必要なものは、生産性の向上と革新であるとし、MicrosoftはIT業界で率先してその実現のために行動していくと語る。発売間もないWindows 7も同社が提供する革新の1つであり、このOSによって、より速く、より簡単に、より多くの作業ができるようになったとした。

 だが、革新をもたらすには、変化も受け入れなければならない。今IT業界はクラウドという新しい波に向かって進みつつある。MicrosoftでもWindows Azure、SQL Azureといったクラウド向け製品を近々提供開始する。しかし、クラウド化によって、収益構造、ビジネスのやり方、そしてホスティングパートナーとの連携など多くの点で見直しを迫られるのは、Microsoftとて例外ではない。だがバルマー氏は、この変化は新たな機会をもたらす要因であり、好機であると捉える。また、ITビジネスにおいて、変化は避けることができないものであり、変化の必要ないビジネスを求めるなら、IT業界にいる必要はないと述べた。

 クラウド化において、他社に先行を許しているとされる同社だが、その点についてバルマー氏は明確に否定した。検索エンジンの分野では、Googleが世界的リーダーである点についてはバルマー氏も異論を挟まないが、Webメールやインスタントメッセージングの分野では、GoogleでもYahoo!でもなくMicrosoftが1位であり、企業利用でも、何万というユーザーがクラウド版ExchangeやSharePoint Onlineを導入していることを示した。加えて、同社はクラウドとクライアント双方のプラットフォームで同じソフトウェア/サービスを提供できる唯一のベンダーである強みがある点も強調した。

 クラウドについて、バルマー氏が繰り返し語ったのが、クラウドはそれ単体ではなく、それを有効に活用するクライアント/デバイスと組み合わせることによって、初めて新たな体験を提供できるという点だ。

Three Screens and a Cloud

 現在、Microsoftは「Three Screens and a Cloud (3つの画面とクラウド)」というモットーを掲げている。これは、小さな画面の携帯電話、中くらいの画面のPC、そして大画面のTVという3種類のデバイスが、よりインテリジェントになり、クラウドと通信することによって、いつでもどこでもデバイスを問わずシームレスにネット上のサービスを享受できるようになるというもの。

 例えば、携帯電話は画面が小さく、操作性が悪いが、現在Microsoftも強力に研究開発を進めている、タッチや、音声認識、ジェスチャー認識といったナチュラルユーザーインターフェイス(NUI)によって、そういった障壁が取り払われつつある。

 さらに先になると、バルマー氏が、TVでタイガーウッズの試合を見ていて「おい、ビル! 今のショットはすごかったな!」と叫ぶと、Windowsを内蔵したそのTVがその「ビル」が「ビル・ゲイツ」であることを認識し、即座にゲイツ氏とオンラインで結ばれる。そして、「あのゴルフボールはどこのなんていう商品だろう」と画面上のゴルフボールを指さすと、音声認識とジェスチャー認識により、ゴルフボールについての検索が自動的に行なわれ、正しい商品名を教えてくれる。こういったことがこれから5~10年の間に実現するのだという。

日本法人代表執行役社長の樋口泰行氏

 質疑応答では、競合他社について質問が及んだ。まず、OSについては、Googleはまだ製品化にこぎ着けていないため言及を避けた。Mac OSについては、「ユーザーはOSではなくPCを買っている」という観点から、PCのフォームファクタ、周辺機器、ドライバ、アプリケーションのどれをとっても、選択肢で勝っていると回答。また、使い勝手、性能、バッテリ駆動時間でも優位な状況にあり、それが出荷台数で9割のWindows PCであるという事実につながっていると答えた。

 ブラウザについては、確かにシェアは縮小しているものの、競合の台頭が刺激となって、Internet Explorer (IE) 8という、もっともセキュアで、使い勝手も良く、開発者向け機能も豊富な製品をリリースするに至った。今後、IE 9、IE 10、IE 11と続いていくわけだが、シェアは上昇に転じるだろうと強気の姿勢を見せた。

 就任から1年半が経過し、会見にも同席したマイクロソフト日本法人代表執行役社長の樋口泰行氏の評価について質問されると、良くやっており業績には満足していると答えた。

(2009年 11月 5日)

[Reported by 若杉 紀彦]