【Moblinセミナー】基調講演レポート
Jim Zemlin氏「MoblinにはMSも認める強さがある」

The Linux FoundationのJim Zemlin氏

9月11日 開催



 The Linux Foundationは11日、技術動向や取り組みを開発者向けに説明する「Moblinセミナー」を開催した。

 Moblinは、Atomプロセッサをベースにしたプラットフォーム用の、ソフトウェア開発環境を推進するオープンソース・プロジェクト。本稿では2つの基調講演の様子をまとめてレポートする。

●MoblinにはMSも認める強さがある

 基調講演の1つめは、The Linux Foundationのエグゼクティブ・ディレクターであるJim Zemlin氏が「デバイスの統合とMoblin」と題して話した。

 同氏はまずLinuxの歩みを振り返り、「8年前はMicrosoftによりオープンソースは使う者、活用する者にも脅威だと言われたが、2009年にはそのMicrosoft自身がGPLv2のラインセンスでコードをリリースし、Linuxがソフト開発の将来であることを確認している。現在では多くの人が毎日のようにLinuxベースの製品やサービスを複数回利用しているが、それを意識してはいない」とした。

 何故これほどLinuxが普及したのかという問題について、経済状態の悪化、デバイスの統合(コンバージェンス)、無料であることの3つを回答とした。

 デバイスの統合の例として、ノートPCや携帯電話、iPhone、ネットブックなどを取り上げ、3GやWi-Fiなどの接続機能やVoIPのサポートにより、携帯電話がPCに、PCが携帯電話のように変化してきたとした。その背景には、ハードウェアにフォーカスしていた製品の特徴が、ソフトウェアとハードウェアを一体で提供するものへと切り替わってきたことがあるとした。

 続いて、現在は携帯電話やスマートフォン、MID、ネットブック、車載デバイス、ブラウザなどさまざまな製品にデスクトップが存在しているとし、「新しいデスクトップが何になるかは誰も正解を知らない。すべてが新しいデスクトップになるかもしれないが、1つ確かなのは、そのすべてがLinuxベースになることだ」と主張した。

現代では多くの人が毎日のようにLinuxを活用しているがそれと意識してはいないハードウェアへのフォーカスからソフトとハードが一体で提供するように変化したすべてがLinuxベースになる

 その理由について同氏は、典型的なPCの経済モデルが、OSとミドルウェアによるソフトウェアプラットフォームを提供する会社がデバイスメーカーにそれをライセンスし、デバイスメーカーはその価格を上乗せして消費者に販売している。この時、アプリケーションとコンテンツの供給者は“フリーライド”の状態にある。

 新しい経済モデルではiPhoneのそれと同様に、ソフトウェアプラットフォームの提供者はApp Store的に、ユーザーにアプリケーション/コンテンツを販売し、そのロイヤリティを供給者に支払う形になる。このとき、Linuxの経済モデルでは、ソフトウェアプラットフォームが無料であり、独自のApp Storeや高効率なソフトウェア収入により、デバイスメーカーには大きなチャンスになるという。そして、1流(Tier 1)のメーカーがマーケットプレイスを作り、2流(Tier 2)のメーカーはそこへデバイスを供給することになると予測した。

典型的なPCの経済モデル新しいモデルではデバイスメーカーが独自にマーケットを作ることまでできる

 Linuxは上記のトレンドにより成長したが、そこには3つの課題があり、それに対応するのがMoblinであるという。

 1つめの課題は、Linuxはプロレベルのサポートが必要だが十分なサービスが用意されていないこと。現在はMIDやネットブック、車載デバイス、組み込み向けなどで、それぞれ特定のOSやシステムを使っているが、Atomベースのプラットフォームが普及するとその上で動作するMoblinで、各種コードの再利用が容易になるという。

 同氏は、「Intelが提供しているBSP(Board Support Package)を用いることで、GUIや3DアニメによるUIを作成可能になっており、デバイスメーカーがカスタムすることでユニークな製品を提供できる。ハードウェアの上のレイヤーにいかに付加価値を加えるかという競争が生じており、その基盤になるのがMoblinである」と位置付けた。

 2つめの課題には標準化を挙げた。これについてはMoblinがLSB(Linux Standard Base)に基づいたプロジェクトであり、加えて2つのテストキットを配布すること、ユニファイドエコシステムと呼ぶ環境を構築し、解決を目指す。

 オープンソースの守護者や法的理解が3つめの課題となり得るが、多くのコミュニティーや企業によりバックアップされており、何より最初に話した通りMicrosoftが参加するほど強固なものになっているとした。

 最後に同氏は、Moblinはオープンソースとして作られ、標準化に基づき、コミュニティーや大企業にサポートされているため、前述したような課題を解決できるとまとめた。

Moblinがデバイス間でのコードの再利用を可能にする統合されたエコシステム
Moblinのエコシステムオープンソース系の団体からサポートされている

●MoblinとIAの可能性

インテル 池井満氏

 2つめの基調講演は、インテル株式会社 ソフトウェア&サービス統括部長の池井満氏が担当し、「MoblinのCore技術構成と次世代プラットフォームについて」と題して話した。

 同氏はまずMoblinを動作させるプラットフォーム基礎となるAtomを取り上げ、IAに基づいた互換性とHTによるパフォーマンスの高さを強調した。現在、45nmのMenlowが展開されているが、今年の夏前に消費電力を50分の1にしたMoorestownを発表、2011年には32nmで製造する「Medfiled(メドフィールド)」を投入するロードマップを示し、今後もIntelがLPIAに注力していくことを説明した。

 そうしたAtomベースのプラットフォームを一層普及させるため、それに最適化されたMoblinのプロジェクトが開始されたという。それまでのモバイルデバイス用Linuxは、UIが上級ユーザー向けだったこと、タッチスクリーン非対応や横長の解像度に対応できなかったこと、メモリ容量やストレージが小さかったこと、Linuxでは電力消費が最適化されていないという問題があった。

AtomはIAによる高い互換性を備えるAtomのロードマップ。今後もLPIAに注力Moorestownの仕組み

 2007後半に始まったMoblinのプロジェクトは2008年前半に搭載製品が発売され、同年後半にはOpenedHandを買収してClutterベースの3D UIを追加、2009年前半にはプロジェクトのホストがThe Linux Foundationへと移管された。同氏は「スタンダードに合わせるという、元々こうした形であるべきで、正常な形になった」とコメント。

 そうした経緯の後、Moblin v2.0ベータでは、10秒程度の高速ブートや、メモリ使用量とバッテリ持続性の最適化。Atomプロセッサベースのプラットフォームに最適化されたソリューションとしてデモンストレーションできたという。

 そのMoblinのアーキテクチャをソフトウェア構成から見ると、カーネルはLinuxで、その上の層がAppサービス、さらに上がUIサービス層となる。この2層を合わせてMoblinコアと称する。Appサービス層は各種オープンソースソフトウェアなどと組み合わせられており、UIサービス層にはClutterベース3D UIライブラリを備え、QT/GTK+のEmbed表示に対応する。さらに上の層はデバイスやプラットフォーム固有のUIなどが実装される。

 同氏は「Moblinは完結したソリューションではなく、それを作るためのプラットフォーム。IAで動作するバイナリの互換を追求し、完結したエクスペリエンスではなく、デバイスメーカーがClutterによりUIを作れるようにしている。仮想マシンやブラウザをプラットフォームにするよりも、他に移植できるように低いレイヤーで互換性を実現する。そうれでなければPCの技術をすぐに導入できない」と語った。

 最後に同氏は、Intelが第3世代のLPIA製品としてMedfieldを開発していることを説明し、Moblinの可能性を強調した。

Moblin開発の経緯Moblinのアーキテクチャ
Intelはソフトウェア開発ツール・スーツを提供していく第3世代のLPIA製品「Medfield」

(2009年 9月 11日)

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