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産総研、野球帽のツバに“曲げられるラジオ”を内蔵

~露光技術と印刷エレクトロニクスを融合させたFHE技術

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は6月2日、リソグラフィ(露光)技術を用いずに電子回路を形成可能にする「フレキシブルハイブリッドエレクトロニクス(FHE)」を利用して作ったラジオを試作公開し、野球帽のツバ部分に回路を曲げた状態で組み込んでも、動作可能であることを示してみせた。

 近年は、印刷技術を応用して低コストで低資源に電子機器を製造する「プリンテッドエレクトロニクス」の技術開発が盛んに行なわれており、高価なリソグラフィ装置が必要ないことから注目を集めている。ただし、数10μmを下回るような微細加工では依然としてリソグラフィ装置が必要とされる。

 一方で、FHEは、微細加工が得意な既存のシリコン技術と、プリンテッドエレクトロニクスを融合させたもので、IoT社会のニーズに応える技術として期待されている。しかし、配線にコストの高い銀が使われている上、エレクトロケミカルマイグレーション(電流や電場の影響で配線金属が基板上を移動すること)による短絡が起きやすいといった問題を抱えている。

 産総研では、従来のデバイスと同様に配線材料に銅を用いること目指しており、これまでにも酸素ポンプと大気圧プラズマ技術を融合させて、フィルム基板上に銅配線を形成する「低温プラズマ焼結法(CPS法)」開発し、これを世界唯一の技術としている。

 CPS法では瞬間的な高温を利用せず、熱平衡状態下で酸化銅が銅と酸素に分離するような極低酸素状態にして純銅を作り出すことができ、大気圧プラズマの作用によって180℃以下の一定温度で銅粒子の焼結を可能とする。そのため、インクに還元剤や酸化防止剤を添加する必要がない。

 今回CPS法によって作成したフレキシブル配線板に、表面実装用部品を曲げて実装できるラジオを製作し、野球帽のツバに組み込んでフレキシブル内蔵型野球帽を試作した。ラジオ本体は45mm角内になるように小型化してあり、厚さを1.8mm以下に抑えられている。なお、アンテナはツバの芯材を包む布地に縫い込んである。

 野球帽はツバを曲げてもラジオの受信に支障がなく、軽量のため装着に違和感がなく、帽子を被ったまま電源のオン/オフ、音量調整、選曲を可能としている。

 今後はCPS法を高速化し、銅インクの印刷と焼成だけによるフレキシブル配線板の製造プロセスを、従来のリソグラフィ技術と同等にし、3年後の量産化を目指す。