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おっさんホイホイだが若い人にこそを使ってもらいたい手のひら8bitマシン「PasocomMini」
~25年ぶりのハードウェア新製品に馳せるハル研究所の思い
2017年5月25日 20:50
5月11日に発表されたとおり(記事:ハル研究所、MZ-80Cエミュレータ付きの手のひらPC「PasocomMini」参照)、往年のシャープ製一体型PC「MZ-80C」を模した手のひらサイズのPC「PasocomMini」を、BEEP秋葉原の店頭およびECショップにて6月1日より予約開始し、10月中旬に発売する。税別価格は19,800円だ。
予約開始に先立つ5月25日、東京・秋葉原でこのPasocomMiniに関する製品発表会が開かれ、関係者ら5名が、PasocomMini開発に至った経緯などについて語った。
タイトルを見ておっさんホイホイされた読者であれば、ハル研究所を改めて説明するまでもないだろう。しかし馴染みがあまりない読者のために念のため解説しておくと、同社は横スクロールアクション「星のカービィ」シリーズの開発で有名な企業である。
ゲームタイトルを挙げれば「あぁ」とか「ほう」などと思われるだろうが、実は任天堂の元代表取締役社長の岩田聡氏や、東京工業大学でスパコン「TSUBAME」の開発設計に携わる松岡聡教授もハル研究所出身。そんなわけで、ハル研究所は、実はPC業界と深い関係を持っている企業である。
同社はソフトウェア開発がメインの企業であるが、同社代表取締役社長兼COOの三津原敏氏によると、PasocomMiniは25年ぶりのPC関連ハードウェアだという(同社はかつてNECのPC-8801用の周辺機器や、ジョイボールといったコントローラを開発した経緯がある)。開発した動機は単純で、「個人的に欲しかったから」だという。
「これは僕と同じ年代の人で、きっと同じ思いをしている人たちは多いだろう。どっかの会社が作ってくれると期待していたが、個人の作品として出てくることはあっても、製品として販売されるような製品はなかなか出てこなかった。これはきっと個人がそのものへの思い入れが強すぎて、満足できるような製品に仕上がらなかったためだろう。そこで、今回は徹底的に満足できるものを作ろうと思った」と語る。
このプロジェクトは1年半をかけて完成させた。メインとするターゲット層は、もちろんMZ-80Cを使ったことのあるその世代の人たちだ。しかし三津原氏は、「昔の世代のパソコンに触ったことがない若者にこそPasocomMiniを使ってもらいたい」と力説する。
「PasocomMiniはWordやExcelが走らない。しかしコンピュータが動作する仕組みを正しく理解できる。昔、パソコンと言えばユーザーを突き放すインターフェイスであり、その動作の仕組みを理解した上でプログラミングを楽しむものだった。しかし最近のコンピュータは、その“おいしい部分”をなるべく隠蔽して、道具として利用されることに注力されるようになってしまった。
最近の若者は、(ただ単にプログラミングを学んだとしても)そもそもコンピュータがどうやって動作しているのか理解できていない。しかしコンピュータの動作の仕組みを正しく理解できている“年寄りは”、速くデバッグできたりする。若者にも、コンピュータの髄までを吸い尽くしてもらい、格が違うスタープログラマーとして育って欲しい--そんな思いでハル研究所はMZ-80CをPasocomMiniとして復活させることにした」と語る。
製品のディレクターを努めた郡司照幸氏も同じ思いを語る。「昔のゲーム機は内部が全部触れるので楽しかった(ハードウェアを直接プログラミングできるの意)。しかし今は構造が複雑化していて、厚いAPI層の上からしか触れない。ハードウェアに直接触れられるハードを作ろうと社長と話したが、まさかこんなおっさんホイホイの製品を作ることになるとは思わなかった。
私が中学生の頃は、ちょうどパソコンショップにさまざまなパソコンが並び始めた頃で、メーカーは我こそはと思い競って設計したマシンが多かった。だからパソコンは“ホビーパソコン”で嗜好品だった。しかし今、パソコンは道具でしかない。我々は昔のそのホビーパソコンを現代に蘇らせたい。そういう思いで開発した」と説明する。
同氏は昔多くのプログラミング雑誌を購入していたが、すべて実家に保管していたところ、久しぶりに戻ってみたらすべて捨てられていたという。しかし奇跡的にBASICマガジンだけは残っていて、それを現在会社に保管して参照したりしているそうだ。
「PasocomMiniで昔の雑誌のプログラムを打ち込んで懐かしむのもいいし、コンピュータの仕組みを学ぶ教材としても、リビングでプログラミングを学ぶ教材としても、逆アセンブルやメモリダンプをしてそれをニヤニヤ眺めるのも、昔のゲームを懐かしむのも、Raspberry PiのGPIOをいじくり倒すのも、SmileBASICで楽しむのもいい。遊び終わったら、ショーケースに入れても楽しめる。PasocomMiniは、そんなパソコンだ」。郡司氏は熱く語った。
SmileBASICを搭載したワケ
PasocomMiniには、プログラミング環境として最初からSmileBASICを搭載している。このSmileBASICは、「ニンテンドーDS」や「WiiU」といったハードウェア上で動くプログラミング環境だ。
すべてニンテンドー繋がりと言ってしまえばそれまでだが、実は三津原氏は元々スマイルブームでプチコン3号の開発に携わっていた人物だ。スマイルブームで開発を担当した細田祥一氏は「もともと三津原さんは弊社との間でプチコン3号を開発するという話だったのだが、みるみるうちに偉くなって気づいたら社長になっていて、仕方なく開発は私が引き継いだ」と裏話をこぼす。
「三津原氏が社長になったあと、山梨に遊びに行き、酒の席で“ともに(プログラミングできる)小さいコンピュータを作りたい”という話をしていたが、これがのちになって正式な依頼が来た。きっちりお金の計算までしていて、真剣に向き合っている気持ちが伝わり、開発協力に至った」という。
PasocomMiniでは、SmileBASICとともにMZ-80Cのエミュレーションまで行なっている。MZ-80Cのエミュレーションの話自身は昔からあったのだが、昔のハードウェアを再現するのであればBASICプログラミング環境は必須だろうと考え、SmileBASICの搭載を決めたのだという。しかし、SmileBASICが扱う命令体型もメモリ空間も全く異なる。そこで「SmileBASICをベースとしつつ、エミュレータにちょっかいを出せるように実装した」という。
「昔のMZ-80Cを完全に“暴走させる”ことは非常に簡単であったが、今はレジスタの値を読んだり、ブレイクポイントを設けたりできるため、より簡単にプログラミングできる。また、ブートローダを書く、Raspberry PiのGPIOを使うといった新しい遊び方もできる。SmileBASICとしての機能を確保しつつ、昔のマシンとしても、今のマシンとしても使えることを目指した」と説明した。
筐体を担当する青島文化教材社と独占販売を行なうBEEP
筐体のデザイン設計や製造に携わった株式会社 青島文化教材社の堀田雅史氏は「昔のパソコンは、メーカーそれぞれの思いがあり、シンプルではあるが優れたデザインであった。友達と異なるパソコンを持っていても、自分のパソコンが一番だと誇れるものであった。いろんなパソコンを見ると、すべてが可愛いヤツに思えるようになった。だから昔のパソコンを集めることが趣味になった」と胸の内をあける。
「昔のパソコンは、BASICも機械語も、プログラムをすべて自分で作る。自分で考えたOSのようなものを作る。モジュールをダウンロードしてそれを組み合わせてつくるのではなく、プログラム全体を見渡せるような形で作っていた。この楽しさを若い人たちにも味わってもらいたい」と語った。
製品の独占販売を行なう、秋葉原のレトロPC・ゲーム専門店BEEPで店長を務める駒林貴行氏は「私は決してMZ-80C世代の人間ではないのだが、かつて星のカービィ2をプレイしていたゲーマーの1人である。その私と対等に販売に関する話をいただけるのは大変光栄です」と前置きし、「当時のパソコンで当時のゲームを遊んでこそ意味がある」だと考え、MZ-80Cで動作するゲームのライセンスについて、個人および法人を含めて話を進めている段階だとした。
すでに発表されているとおり、本体発売と同時に数種類のゲームをバンドルする予定であるが、SDカードという新しい形で提供したいと考えているようだ。「ゲームを開発する教材としても納得してもらえるラインナップとしたい」としており、MZ-80Cの開発者インタビューを含め、製品を盛り上げたいとした。
なお、製品の予約ページについては製作中であり、支払い方法などについても後日公開するとし、店頭およびWeb両方で予約を受け付けるとした。