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「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」創刊
~講談社、手塚プロダクション、NTTドコモ、富士ソフト、VAIO5社による共同プロジェクトが発足
2017年2月22日 14:00
株式会社講談社、株式会社手塚プロダクション、株式会社NTTドコモ、富士ソフト株式会社、VAIO株式会社は22日、合同で「アトム」プロジェクトを発足すると発表し、記者会見を行なった。合わせて、コミュニケーション・ロボットをパートワークで作る「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」創刊も発表された。
「手塚治虫生誕90周年記念」、「講談社創業110周年企画」と位置付けられる「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」は、4月4日創刊で、全70巻を予定。約1年5カ月かけて刊行され、読者がコミュニケーション・ロボット「アトム」を組み立てる。全巻合計の税別本体価格は184,474円。
「アトム」の身長は44cmで、重量は1,400g。自由度は18(頭部2、腕3×2、脚5×2)。外装はABS。CPUボードは専用のメインボード(VAIO製)とRaspberry Pi 3(Model B)。92万画素のHDカメラ、マイク、スピーカー、両眼LED(7色)のほか、胸に2.4型のタッチパネル付き液晶ディスプレイを持つ。インターフェイスはIEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.1をともにRaspberry Pi 3に搭載。
そのほか、USB-A端子、電源コネクタが背面にある。電源はACアダプタ(7.8V/6A)のほか、リチウムイオン充電池(3.6V/5,800mAh)を内蔵しており、富士ソフトが販売している「PALRO」がベースとなっている。
OSとAIは富士ソフトが設計開発。NTTドコモの「しゃべってコンシェル」の基盤技術を活かした自然対話プラットフォームとも接続し、クラウド上で会話力が成長する。製造や組み立て代行はVAIOが担当する。講談社は全体の企画プロデュース、販売と担当する。外観監修は手塚プロダクション。VAIOによる組み立て代行サービスを利用した場合の組み立て済みセットの価格は、212,900円。
パートワーク コミュニケーション・ロボット「アトム」
コミュニケーション・ロボット「アトム」は、二足歩行や音声による対話のほか、ラジオ体操を歌ったりすることができる。胸に搭載した2.4型液晶ディスプレイを使った絵本の読み聞かせや、アニメ「鉄腕アトム」の傑作選を楽しむこともできる。子供向けコンテンツは「朝日小学生新聞」とも連携予定で、大人向けのコンテンツも継続的に提供する。
富士ソフトはアトムとユーザーを繋ぐサポートサイト「アトムガーデン」のシステム構築も行なう。全てのデバイスを新規に開発し、成形部品、アクチュエータ、メインボード、表示デバイス、回路基板など全てがアトム専用となっているという。
創刊号の価格は特別価格で830円。通常号は1,843円。高価格号は2,306~9,250円(いずれも税別)を予定。創刊号には63年版、80年版、03年版のTVアニメ各第1話、ポリゴン・ピクチュアズ制作のオリジナルアニメーション、コンセプトムービーや機能紹介動画を収録したスペシャルDVDのほか、アトム設計透視図、特製ビスケースが付属する。ロボット「アトム」の声は2003年からアニメ「鉄腕アトム」の声を担当している声優の津村まことさんが担当している。
第2号では組み立て用のプラスドライバーと作業用手袋、第3号には「鉄腕アトム」の設計図ポスターが付録となる。4月25日には特製バインダーが出る。直送定期購読者には創刊号から第20号の特典として「アトムボイスクロック」、21号から40号の特典として「充電用アトム専用チェア」がプレゼントされる。
マガジンは組み立てガイドのほか、最先端ロボットを紹介する「アトムの友だち」、鉄腕アトムファンのインタビュー「My First アトム」、手塚治虫の未発表原画なども掲載される予定。組み立てガイドはWeb上の動画でも紹介される。
VAIOによる組み立て代行サービスは限定1,000台を予定。第1期受付は2017年2月22日から7月11日17時まで。価格は212,900円(税別)で、送料は無料。シリーズ全巻が揃う2018年9月以降の発送となる。
組み立て済みのアトムのほか、充電用アトム専用チェア、操作マニュアルをまとめたバインダー、パートワークマガジンそのものは送付されないが、全70巻のマガジンを再編集した「アトムと暮らす本」が送付される。またボイスクロック、スタートアップDVD、アトム透視設計図、鉄腕アトム設計図なども順次6月以降発送される。申し込みは講談社オンラインストア(コールセンター 0120-221-322)。
エンターテイメントデバイスとしての可能性をアトムで
会見ではまず手塚治虫生誕90周年記念オープニング映像として手塚治虫氏の肉声から作られたアトムへの思いを語る映像が流された後、主催者代表として株式会社講談社代表取締役社長の野間省伸氏、株式会社手塚プロダクション取締役でヴィジュアリストの手塚眞氏が続けて挨拶した。
野間氏は雑誌「少年」で1952年から連載されたアトムは「世界でも例を見ないキャラクター」と紹介。アトムは日本初の海外進出を果たしたキャラクターでもある。
野間氏は「この作品で描いた未来の中で、高速道路は10年後、月面着陸は15年後に実現した。電子頭脳は65年後の今、人工知能というかたちで実現しようとしている。今回、アトムは企画から三年を経て立ち上げることになった。ロボットという新しいエンターテイメントデバイスの可能性を開き、一家に1台ロボットを普及させていきたい」と語り、各社の役割を紹介した。コミュニケーションロボット「アトム」は家族の一員になるロボットだという。
手塚眞氏は「素晴らしい企業によって、現在の最先端の技術を集めることができた」と語った。そして「今回、ロボットとしてアトムが再デビューする。手塚治虫は大体50年後の未来を思い描いて漫画を描いた。いよいよ本当のロボットの時代がやってくる。十万馬力もないし空も飛ばないが、たくさんの可能性を秘めている。たいへん楽しみにしている。手塚治虫本人の思いを継いで世界に向けた『平和の大使』となることを祈っている」とあいさつした。
その後、ポリゴン・ピクチュアズによる「アトムプロジェクト」特別映像が上映されたあと、各企業が呼び込まれ、ロボット「アトム」本体が紹介された。
株式会社NTTドコモ 代表取締役社長の吉澤和弘氏は、同社の自然対話プラットフォームを「アトムに技術を適用できることをたいへん嬉しく思う」と語った。ドコモではスマートフォン向けに「しゃべってコンシェル」を提供している。その技術を活かしたのが自然対話プラットフォームだ。
吉澤氏は「アトムではコミュニケーションが重要な機能。本体を通じてクラウド上のAI技術に対して、会話データを記録して、会話すればするほど親密度が増していく。日本初の進化する本格的コミュニケーションロボットをドコモのクラウド技術でしっかり支えて貢献したい」と述べ、「アトムが生活に貢献する身近な存在となれるよう、さらに対話プラットフォームを磨き上げたい」とまとめた。
富士ソフト株式会社 代表取締役社長 執行役員の坂下智保氏は、同社の技術戦略としてAI、IoT、ロボット、モバイル、クラウドなどを掲げていると紹介。中でもロボットとAIを中核としており、今回のプロジェクトに出会った思いとして、幼少の頃の記憶を語り「ロボットアニメが好きで、アトムを見て未来を想像していた」と述べた。
富士ソフトは七年前からコミュニケーションロボットの「PALRO」を販売しており、介護施設などで700体ほどが活用されている。坂下氏は「コミュニケーションAI がフロントエンドに搭載されていることで濃密なコミュニケーションが実現できている。そのノウハウを惜しみなくアトムに搭載した。研究開発と実践で培った英知を結集してアトムに貢献していく」と語った。
VAIO株式会社 代表取締役の大田義実氏は「当社の技術を評価して参加させていただいたことを光栄に思う」と挨拶し、「鉄腕アトムのアニメが最初に放映された時に、アトムを見たくてTVを買ってもらった。それがTVを見た最初だった。今回のプロジェクトに参加できることに運命を感じている」と思いを語った。
VAIOは二年半前にソニーから分離後、PC技術を活用した受託製造ビジネスを長野・安曇野工場で展開している。ソニー時代にエンターテイメントロボット「AIBO」を作っていたのもこの工場だ。今は富士ソフトのロボットも作っている。
今回、これらの実績によって、アトムの心臓部であるメインボードならびに頭部に搭載されているヘッドボードの実装と製造を担当した。また組み立て代行サービスも実施する。
会話や癒しを提供
株式会社講談社 アトムプロジェクト プロジェクトリーダー 奈良原敦子氏はアトムを作るための詳細や中身を紹介。まず多くの人がコミュニケーションロボットに求める機能として会話や癒しを挙げているとし、それがアトムを実現しようとした原点だと述べた。
続けてアトム各主要パーツを紹介して、「ロボットは総合芸術だなと実感している。だが要素要素を分割しているので、組み立てるのはそれほど難しくない」と語った。
手塚治虫氏自身がアトムの性格をリファインしたいと語っていたとのエピソードを引用し、若い女性たちの感性も取り入れたという。アトムと話したいことについてアンケートも募集し、クラウドAIの基礎データとして活かしていく。
機能紹介は奈良原氏のほか、歩行や認識、フロントエンド対応の富士ソフト株式会社プロダクト・サービス事業本部 PALRO事業部 商品開発・CS室の杉本直輝氏と、対話機能を担当している株式会社NTTドコモ サービスイノベーション部 第一サービス開発の角野公亮氏が行なった。
杉本氏は頭部カメラを使った顔認証機能を紹介し、「顔認証はあくまでコミュニケーションをとるための要素の1つでしかない。富士ソフトのコミュニケーション用のフロントエンドAIは、顔だけではなく口の動きなども認識して、相手がどのていど興味を持っているかといったことも認識する。各種技術を融合することで濃密なコミュニケーションが実現できる」と述べた。
アトムはPALROをベースにしているが、「ほぼ全て新しい」という。「名前や顔だけではなく趣味嗜好も覚えるので、今後、進化するコミュニケーションAIによって、友達、家族になってもらいたい」と語った。
本体の工夫として難しかったのはアトムのキャラクターとロボットとの両立を挙げた。アトムでお馴染みの片腕をあげるポーズはケーブル断線の恐れがあり難しかったが、内部のケーブルまわりを工夫することで腕が180度上がるように工夫することで実現したという。
また、アトムは立ち姿がAラインになっているが、ロボットとしては足がまっすぐ降りていた方が作りやすい。だが制御技術を活用してAラインでアトムを実現することができたと述べた。「部品はほぼ全てオリジナルのカスタム品。組み立てる時の工夫も感じてもらえれば」と述べた。
NTTドコモ サービスイノベーション部 第一サービス開発 角野公亮氏は「自然対話プラットフォームとは、人間と話すためのシステムを作れるプラットフォームだ」と紹介。
開発者は、この対話プラットフォームを利用することでさまざまな会話システムを作ることができる。アトムにおいては、クラウドAIが家族ひとりひとりが喋ったことや共通の話題を記憶することで、各家庭に合わせて成長し、日々変化のある会話を楽しむことができるという。
言葉の意味を教えたり、地域のイベント、スーパー特売情報など生活に密着した情報も提供する。また、なぞなぞや心理テストなどのほか、コンテンツをレコメンドする機能もあるとのことだ。日本中のアトムとも連携するクラウドならではのサービスも計画しているという。
講談社の奈良原氏は、「私たちは出版社なので、ロボットは次世代のエンターテイメントデバイスになればいいなと考えている」と述べて、胸のタッチパネルを使った絵本を見せたり、ラジオ体操をできることを示した。実演でも人の年齢あてや、ラップを披露した。
最後にそれぞれがコメントを述べた。杉本氏は「今後、AIとロボティクスの進化によってロボットは人のパートナーになっていく。濃密なコミュニケーションの第一人者だと当社は思っている。喜びや感動を味わってもらいたい。家族同様に受け入れていただけたら」と語った。
NTTドコモの角野氏は、「現在でも部分的には人工知能は人間の能力は超えている。いずれは総合的にも人間の能力を超える。SFでは人間の立場がおいやられてしまったり人類に氾濫を起こすものが語られているが、アトムのように人類の良きパートナーとなるものがあふれるといいと思っているし、いちエンジニアとしてもそうなりたい」と語った。
奈良原氏は「ロボットと人間が共存する時代が来たら、鉄腕アトムのようになりたいという設定にしている。次世代のデバイスとして進化を体験していきたい」と会見を締めくくった。