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東北大ら、光照射を用い原子核スピンの観測に成功

 東北大学大学院理学部研究科と国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS)は3日、核磁気共鳴(NMR)と蛍光分光顕微鏡を用いた新技術で、半導体を構成する原子核のスピンの偏極状態などを高い分解能で撮像することに成功した。

 核磁気共鳴(NMR)は、磁場中に置かれた原子核の核スピンと電磁波が相互作用を起こすという現象。相互作用をおこした電磁波を観測することで、身近な例では核磁気共鳴画像法(MRI)の動作原理の1つとなる。一方で、従来のNMR分光法は感度が低く、半導体ナノ構造のような微細な対象を観測するためには不十分となっていた。

 そこで、研究チームは走査型偏光選択蛍光分光顕微鏡とNMRを組み合わせ、1μm程度の空間分解能を持つ「光検出磁気イメージング法」を開発した。従来のNMR分光法ではラジオ波と呼ばれる周波数帯の電磁波を照射、核スピンと相互作用を起し発生する電磁波をアンテナで受信することで観測を行っていたが、それに加えて光を照射する。

 この手法は、磁場中の測定対象(半導体ナノ構造)に光を照射すると、核スピンと光が相互作用を起し蛍光を放出することに着目したものだ。さらに、核スピンの状態によって放出される蛍光の強度がわずかに異なることを利用し、より詳細な半導体ナノ構造の観測を始め、核スピンの向き(偏極度)や、縦緩和時間、スピン拡散距離などを高い空間分解能で観測することを可能とする。

 研究チームはこの手法による成果として、半導体中の分数量子ホール液体と呼ばれる特殊な状態の電子の中でも、完全強磁性相と非磁性相にある分数量子ホール液体が間で相転移を起こす状態にあるものが特に強く核スピンと相互作用を起こすという現象の解明を挙げている。

 完全強磁性相と非磁性相にある分数量子ホール液体が磁区構造という縞状の空間パターンを形成し、その境目で相転移を生じている電子が特に核スピンと強く相互作用するということが、この手法によって明らかになった。

 電子のもつスピンと電荷を両方を利用するスピントロニクスは、特にコンピュータの領域では従来の電荷で状態を記録するメモリなどとは異なり、量子コンピュータに用いられる量子デバイスの開発などに関係しているため、関心が高まっている分野だ。量子デバイスに限らずとも、巨大磁気抵抗効果を応用した磁気ヘッドや、スピン注入メモリなどが既に存在している。