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富士通、ディープラーニング専用AIプロセッサ「DLU」を開発
2016年11月29日 13:56
富士通は、ディープラーニング専用AIプロセッサ「DLU」の開発を進め、2018年度から出荷する計画を明らかにした。
スーパーコンピュータ「京」で培われたプロセッサ開発技術と、CMOS技術を活用した独自のプロセッサで、目標は他社比で約10倍の電力あたり性能の達成。2012年度以降には第2世代へと発展させ、ホストCPUとの一体化、DLU間の直接網による大規模ニューラルネットワークの実現へと進化。第3世代以降では、量子コンピューティング技術も取り入れていくことになるという。
富士通 執行役員 サービスプラットフォーム部門アドバンストシステム開発本部長の野田敬人氏は、「DLUは、ディープラーニング用の独自アーキテクチャによるもので、スパコンのノウハウを活用することで、徹底した省電力設計となっているのが特徴。スパコンのインターコネクト技術を活用することで、大規模並列を実現し、大規模ニューラルネットワーク処理が可能になる。まずは富士通の中で使用するが、外販も検討していくことになる」などと述べた。また、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊特任准教授のコメントを紹介し、「富士通が開発するディープラーニング専用プロセッサDLUが、日本の産業競争力を高め、世界に貢献していくことを期待している」とした。
さらに、富士通は、同社のAI技術「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」を搭載した新たなサービスとして、30種類のAI機能をAPIとして提供する「FUJITSU AI Solution Zinraiプラットフォームサービス」や、NVIDIAの最新GPUである「NVIDIA Tesla P100」を活用し、世界最速クラスの処理性能を実現したディープラーニング基盤サービス「FUJITSU AI Solution Zinraiディープラーニング」など、5つのサービスを提供すると発表した。
「富士通が提供するディープラーニングのサービスは、最新のGPUであるNVIDIA Tesla P100を採用。これを1ノードあたり8GPUを搭載。これを富士通の並列化技術やチューニング技術を活用し、Distributed Caffeと呼ぶ高速フレームワークとして構成。世界最速クラスの学習処理能力を提供できる。また、富士通が30年間培った液浸冷却技術を適用することで、ファンレス環境で、高密度化が促進でき、最高性能での安定稼働が可能になり、約40%の省電力化が図れる」(野田執行役員)などとした。
今後は、富士通研究所が開発したAI要素技術のAPI化をさらに促進し、通信端末やロボット、自動車などへのAI活用を強化。それらの機器に対して、学習済みモデル配信機能を提供する。
また、AI活用システムを社内に構築したユーザーに対して、ハードウェア、ソフトウェア、サービスをパッケージ化したオンプレミス製品を、2017年度上期にも提供する計画を明らかにした。
富士通 執行役員 デジタルサービス部門AIサービス事業部担当の菊田志向氏は、「APIを活用することで、都市監視のほか、自動運転や交通情報活用によるモビリティ支援、ものづくりにおけるベテランの知恵の継承、ヘルスケアにおける診断支援や創薬支援、コールセンターの自動応答などが実現できる。また、AIはIoTと親和性が高い技術であり、センシングされたビッグデータを集積するとともに、それをもとにした学習により、知識データベースを構築。これを学習済モデルとして配信を行ない、業務ごとに最適化したAI活用を可能にする」と述べ、「富士通は、AIを、セキュリティ、IoT、クラウドと並ぶ柱に育てる。2020年度末までに、AI関連ビジネスで累計売上高で3,200億円を目指す」とした。
今回発表された新たに提供を開始するサービスは5つだ。
FUJITSU AI Solution Zinraiプラットフォームサービスは、同社が取り組んだ300件を超える実証実験を通じて抽出した、実用性が高く、ニーズが高いAI機能をAPIとして提供する。
「知覚・認識」、「知識化」、「判断・支援」の3分野に分類した21種類の基本APIと、利用シーンごとに組み合わせることで、AI活用をより容易にする機能やナレッジで構成した9種類の目的別APIを用意。利用者は、その中から必要なAPIを選んで利用することで、AIを活用したシステムを迅速に実現できる。
学習モデル構築機能により、あらたかじめ用意された学習モデルを活用するだけでなく、ユーザー自身で業務に必要となる新たな学習モデルを容易に生成できるという。
まずは第1弾として、2017年4月から、画像認識や音声テキスト化、知識情報検索、知識情報構造化、手書き文字認識、音声合成、予測の7種類の基本APIと、需要予測と専門分野別意味検索の2種類の目的別APIを提供。2017年度中には30種類まで拡大する。
FUJITSU AI Solution Zinraiディープラーニングは、富士通研究所が開発したスーパーコンピュータの並列処理技術と、高速にディープラーニング処理を実現できるソフトウェア技術、米NVIDIAの最新GPUである「NVIDIA Tesla P100」を実装することで、世界最高クラスの学習処理能力を実現するもので、顧客ごとに最適なAPIと組み合わせることで、高速で高品質なAI活用システムを実現できるという。
また、FUJITSU AI Solution Zinrai活用コンサルティングサービスは、富士通のAIコンサルタントが、AI活用における企画、導入、運用までをトータルに支援し、経営課題や最適なAI活用シナリオを導き出すもので、2016年12月から提供を開始するという。さらに、AIを活用したシステムの短期間での設計、構築を支援するFUJITSU AI Solution Zinrai導入サービス、AI導入後の学習モデルのメンテナンスを行なうFUJITSU AI Solution Zinrai運用サービスも提供する。
なお、価格はいずれも個別見積になっている。
富士通では、1980年代からAIに取り組んできたが、これらの技術を、2015年11月にHuman Centric AI Zinraiとして体系化。既に、AIの業務シテスムの導入に向けた検討と実証実験では300件を超える実績があるという。
これらのうち、チャットボッドなどによる自然対話や、画像や音声による高度な判断を行なう新たなユーザーエクスペリエンスとしての活用が34%、エキスパートシステムなどのナレッジ活用で25%、異常監視や故障予知などのアノマリー監視が19%を占めているという。
Zinraiの語源は、すばやく激しいことを意味する「疾風迅雷」であり、人の判断や行動をスピーディにサポートすることで、企業や社会の変革をダイナミックに実現させるという想いを込めたという。
富士通 執行役員常務 グローバルマーケティング部門長の阪井洋之氏は、「富士通では社内でも積極的にAIを活用し、最もAIを活用する企業を目指している。業務プロセスの全てにおいてAIを活用することで、富士通全体の自動化、高度化を図っている。富士通の出遅れ感はあるが、他社のAIは汎用的なものが多いが、富士通は業種、業務ノウハウをAPIとしてサービス化。企業に寄り添ったAPIを提供できる。一気に追いついていきたい。30年に渡るAI研究と、スパコンで培った世界最速クラスのディープラーニング技術を持つ点が特徴。AIの専門技術者とデジタルフロントSEにより、AI活用をトータルに支援できる点も富士通の特徴である。2016年度には700人のAI専門体制を、2018年度までに1,500人体制に拡大する」とした。