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NIMSと京大、光で有機トランジスタ機能を描画することに成功

~光と電圧で操作する論理演算デバイスの作製技術に

分子構造・素子構造・光照射系の模式図。分子はジアリールエテン中心骨格の両側にビフェニル基が取り付けられており、開環体では絶縁体、閉環体では半導体の性質を示す。まず開環体(絶縁体)の薄膜をSiO2/Si基板上に作製し、その両側にソース・ドレイン電極を取り付けた。Si基板がゲート電極、SiO2膜がゲート絶縁層として働く。ここに紫外光(波長325nm)を掃引して、閉環体(半導体)に異性化したところだけ、トランジスタチャネルとして電流が流れる。再度、可視光(波長633nm)を照射するとチャネルは消去できる

 国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)と京都大学は、光異性化分子の薄膜に光を照射することで、トランジスタ回路などさまざまなデバイスを描画することに世界で初めて成功したと発表した。

 同成果を発見したのは、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の鶴岡徹主幹研究員、早川竜馬主任研究員、若山裕グループリーダーと、京都大学工学研究科の松田建児教授、東口顕士助教らからなる共同研究グループ。

 光異性化反応は、可視光や紫外光を照射すると分子の構造や電子状態が変化する反応で、変化後も照射する光の波長によって元に戻すことができるため、以前からメモリやセンサーに応用できることが指摘されてきた。

 近年では、有機トランジスタの中に光異性化分子を添加し、光に応答するトランジスタ素子の開発が行なわれているが、微量の光異性化分子を混合するだけであったため、光で誘起できる電流値の変化は2倍程度だったという。一方、有機トランジスタ自身の製造技術として、フレキシブル基板に印刷で素子を作製する技術開発が進められているが、従来技術では有機分子が簡単に壊れてしまうため、微細化や回路設計に課題を抱えていた。

 研究グループはこれまで、光異性化反応と半導体特性の両方の性質を持つ新しい材料の発見、光で半導体と絶縁体の性質を交互に引き出せるという新しい現象を見出したことにより、光異性化分子を直接トランジスタのチャネル層として使うことで、1,000倍を超える電流値の制御に成功しており、今回の共同研究では、それらの成果を発展させ、絶縁体状態の光異性化分子の薄膜に極細の光を照射し、一部を半導体にすることでトランジスタ回路を描画することを試みたという。

 研究グループは独自に組み立てた光照射技術と電気特性評価技術を駆使し、ワイヤ状の1次元トランジスタチャネルを並列接合する技術、バルブで開閉するように、局所的な光照射で電流の流れをオン/オフする光バルブ機能、Y字構造をしたトランジスタチャネルなど、これまでにない動作原理やデバイス構造を実現。さらに、光を照射して絶縁体と半導体の性質を交互に変えることで、何度でも書き込みと消去を繰り返すことができる要素技術または機能をもとに、光強度を変えることで、電流を段階的に制御できる加算回路の作製にも成功したという。

 今回の成果は、有機トランジスタの新しい作製手法であるだけでなく、これまで有機エレクトロニクスが苦手としてきた微細化や、複雑な回路設計への応用が可能であり、将来的には論理演算デバイスの光描画も期待できるとしている。

 研究成果は、アメリカ化学会が発行する『Nano Letters』誌オンライン版にて11月15日に公開される予定。