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東芝とWD、3次元フラッシュ「BiCS」専用製造棟を公開
~2年で1兆4千億円の追加投資明言
2016年7月19日 06:00
株式会社東芝とWestern Digital(WD)は7月15日、東芝四日市工場の新・第2製造棟の竣工式を開催した。新・第2製造棟は、東芝とWD(旧SanDisk)が共同開発した3次元フラッシュメモリ「BiCS」専用の製造棟。東芝は半導体事業を経営再建の中核事業の1つと位置付けており、東芝の代表取締役社長である綱川智氏は、「日本の半導体は敗北しているという声もあるが、四日市工場は世界最先端の半導体工場。これまでの投資に加え、さらに2018年までに8,600億円を投資する。WD側の投資額50億ドルとあわせ、合計1兆4,000億円となる」と投資を拡大することを明言した。
WDのスティーブ・ミリガンCEOは、「東芝は半導体事業に高いコミットメントを行ない、技術力が高い。正しいパートナーを選んだと確信している」と不正会計問題で揺れた東芝をパートナーとして選択したことは間違えではなかったと強調。HDD市場では世界のトップ企業であるWDだが、HDD市場が縮小傾向にある中、フラッシュメモリ事業拡大に向け、東芝とともにさらなる市場拡大を目指すことをアピールした。
今回、東芝四日市工場にオープンした新・第2製造棟は、鉄骨2層5階建てで、建屋面積は27,600平方m。2014年9月に着工し、2016年7月に竣工した。建屋の一部は2015年10月に竣工し、既に今年(2016年)3月から3次元フラッシュメモリの量産を行なっている。
フル生産については、新・第2製造棟と、新たに竣工する新棟の建設、さらに市場状況から考慮し、2017年度と見通している。
東芝は事業の集中と選択を行なう中で、半導体事業をエネルギー、社会インフラと共に注力事業と位置付ける。半導体事業の中でも、NANDフラッシュは、「1987年に世界で初めて当社が開発を行なって以来、時代の先端を走ってきた重要事業。今回、新・第2製造棟の竣工によって、BiCSへの切り替えを加速する」(綱川氏)と半導体事業の鍵を握る存在となる。
東芝の3次元フラッシュメモリBiCSは、Bit Cost Scalableの略称で、ダイあたり256Gbitの最大容量チップの実現、信頼性向上、高速化、低消費電力を同時に実現、48層を一括加工可能な加工技術の確立、新構造のメモリセルなどの技術的特徴を持っている。現在、第2世代の量産をスタートし、2016年度上半期中に第3世代の生産を始める計画となっている。
「当社のフラッシュメモリ事業は、2003年に300mmウェハ製造ラインを導入して以来、営業利益はリーマンショックがあった2008年度を除いて、10%から30%の範囲で推移している。今回、BiCSフラッシュ開発で、ストレージ需要拡大に対応する」(東芝 代表取締役副社長 ストレージ&デバイスソリューション社 社長 成毛康雄氏)。
3次元フラッシュについては、Samsungなど既に量産を開始している企業があるが、BiCSの量産が本格化するのはこれからとなる。
「技術的には、先行する製品と比べ決して負けていないという自信がある。しかし、BiCSの量産が開始されるのはこれから。ライバルは32層の経験があるが、当社は量産を行ないながら、不良品が出れば原因をきちんと究明し、状況を見極めて量産化を進めていく。当社には3D量産の経験はないが、2D量産の経験がある。ここで培った生産技術を活かしていく。量産に時間はかかるが、必ず先行する競合企業に追いつける自信がある」(成毛氏)。
東芝四日市工場では、量産にあたってビッグデータを活用し、クリーンルームの高度自動化によって製造装置、検査装置から1日あたり16億件のデータを蓄積し、そのデータを分析、制御。さらに技術者による分析と検討によって生産性向上を進めている。
3次元メモリ生産にあたっては、複雑さが増すことから人間では処理できないビッグデータ解析にAIで対応する。今年から機械学習、ディープラーニング技術を活用したツールを導入。検査画像解析では、1日あたり数十万の画像を解析する際、従来のビッグデータ活用では、「専用装置を使ってやってきていたが、機械4割、人間の判断6割という割合で、人手による部分が多かった。ここにディープラーニングを使うことで、人手の割合を大幅に減らすことができる。人手をかけずに判断が行なえるようになることがAIの強み」(成毛氏)だと説明する。
また、こうしたAI技術は、データセンターで使われるサーバーでのフラッシュメモリ活用に繋がるとして、AI活用の進展をBiCS需要拡大の鍵だと位置付けている。
「BiCS需要拡大の鍵は、データセンター用サーバーでのフラッシュ活用増加と、スマートフォンなどモバイル機器において高性能、低消費電力のメモリ需要になるのではないか」(成毛氏)。
こうした需要を見越して、四日市工場では2016年度からBiCSを製造し、需要増加を見越して現在は土地の造成中で2017年度に着工を予定している新棟を建設する計画だ。
また、BiCS自身も現在の48層の第2世代に続き、今年度上半期中にサンプル出荷を行なう64層の第3世代、さらに第4世代、将来的にReRAM(Resistive Random Access Memory)へと、長期的な高集積度化、コスト競争力強化を実現していく。今後、100層を超える超積層化技術、縦方向縮小技術、周辺回路とメモリアレイの効率配置などによるチップ縮小技術など3D技術の進化を進める。製造においても、ナノインプリント技術による微細化とコスト削減、高生産性生産技術、高効率生産などのイノベーションを図る。
パートナーであるWDは、東芝とBiCSを共同開発してきたSanDiskを買収。「SanDiskはSSDおよびNANDフラッシュメモリにおけるグローバルなリーダー企業であり、東芝と業務提携を継続することで、NAND分野における垂直統合が可能になると判断した」とWDのミリガンCEOは言及した。
「買収以降、統合はうまくいっている。お客様からも歓迎され、2社が一緒になったことでの期待も高いと感じている」(ミリガンCEO)。
SanDisk時代から現在に至るまで、日本に投じた投資額は累計110億ドル(1.1兆円)で、「海外企業の投資額としては米国政府に次ぐ2番目の規模となる。追加で50億ドル投資を計画している。日本に製造拠点を置くことのメリットは、オペレーションが既にできあがり、メガファブと言える設備を有している。これを活用できるのは大きなメリット」と投資を行なった意味があると強調した。