■笠原一輝のユビキタス情報局■
Intelは、2011年のCPUとしてSandy Bridge(開発コードネーム)を、2011年初頭のInternational CESにおいて発表。OEMメーカーからは対応製品が即登場する予定だ。自作PC市場向けのボックスCPUや対応マザーボードなども同時期に登場すると見られており、現在マザーボードベンダー各社は出荷に向けて最後の準備に忙しいところだ。
そのマザーボードベンダーにとって、新製品は新しいビジネスチャンスはずだが、若干の悩みもあるようだ。それはSandy Bridge用のチップセットである開発コードネームCouger Point(クーガーポイント)ことIntel 6 Series Chipsetは、前世代となるIntel 5 Series Chipsetと比べて、新しくSATA 6Gbpsに対応したぐらいで、ほとんど強化ポイントがないことだ。このため、多くのマザーボードベンダーは、独自に追加のSATAチップやUSB 3.0コントローラなどを搭載することで、従来製品との差別化を目指す動きが顕著だ。
一方、マニア向けのプラットフォームとなるLGA1366(Socket B)に関しては、来年(2011年)いっぱいは、従来製品であるWestmereコアのCore i7 ExtremeとIntel X58 Expressが続行される予定だったが、ここに来てIntelが新しいプラットフォームをこのセグメントに投入することを検討しているという情報も入ってきた。
●従来製品との差別化が難しいSandy Bridge用Couger Point搭載マザーボードSandy BridgeとIntel 6 Series Chipset向けにどのようなSKUが用意されているかは、以前に記事で触れた通りなので、そちらを参照して欲しい。
今回IntelがSandy Bridgeと同時にリリースする予定のCouger Pointは、簡単に言えば前世代となるIbex Peak(Intel 5 Series Chipset)の“改良版”だ。以下の表を見て欲しい、筆者が独自にまとめたCouger PointとIbex Peakの機能を比較したものだ。
【表1】Couger PointとIbex Peakの機能比較(Couger Pointは筆者予想)、いずれも機能はチップセットとしての最大数。SKUによってはこれより低い場合もある開発コードネーム | Ibex Peak | Couger Point |
シリーズ名 | Intel 5 Series Chipset | Intel 6 Series Chipset |
CPUソケット | LGA1156 | LGA1155 |
CPU側PCI Express | 16レーン | 16レーン |
CS側PCI Express | 最大8レーン | 最大8レーン |
SATA(ポート数) | 3Gbps(6) | 6Gbps(6、6Gはうち2) |
RAID | 対応 | 対応 |
USBポート | 最大14ポート | 最大14ポート |
AMTバージョン | AMT 6.0 | AMT 7.0 |
見てわかるとおり、機能差はほとんどない。唯一の大きな違いと言えば、Couger Pointが通称“SATA3”と呼ばれる6GbpsのSATAポートを、6ポートのうち2ポート対応させていることだ。企業向けのvPro Technologyで利用されるAMTの機能もバージョンが上がっているが、これは従来機能をソフトウェア的に改良したものであり、ハードウェア的にはあまり変わっていない。
これは確証はないが、おそらくCouger Pointは、チップそのものはIbex Peakとほぼ何も変わっていないのだろう、つまり同デザインなのではないかと筆者は考えている。というのも、SATA6の機能も、もともとIbex Peakにコントローラが入っていたのだが、機能が使われていなかったと考えればつじつまが合うからだ。その真偽はともかくとして、いずれにせよCouger Pointに目新しい機能がないのは本当だ。
唯一大きな差となるのがCPUソケットで、Intel 5 Series ChipsetはLGA1156で利用できるのはClarkdaleとLynnfieldになるが、Intel 6 Series ChipsetがLGA1155となり利用できるのはSandy Bridgeとなる。つまりセールスポイントは1つだけだ。
このため、各マザーボードベンダーは、オンボードに追加チップを搭載するなどして従来製品との差別化を図ることを計画している。例えばそれがUSB 3.0であるし、さらにSATA6のポートを増やすためのSATAコントローラだったりだ。
ただし、追加チップ=コスト増であるので、この手が使えるのはハイエンド向けのマザーボードだけで、ローエンド向け製品に関しては純粋にSandy BridgeとSATA3だけが強化点ということになる。このため、マザーボードメーカーの多くは単体型GPUと共に利用されるP67を搭載した製品をハイエンド製品に設定し、ミッドレンジ以下はH67などCPU内蔵GPUを利用する製品に設定するなどラインナップを工夫しているようだ。
●マニア向けプラットフォームにはSandy Bridge世代の製品が存在していない
Intelには別の課題もある。それが、マニア向け(エンスージアスト)となるLGA1366のプラットフォーム向けのSandy Bridgeが、ロードマップに存在していないことだ。
OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはLGA1366向けの新製品として、来年の第1四半期にCore i7 Extreme-990Xを投入する予定だという。990Xは開発コードネーム“Gulftown”(ガルフタウン)コアを利用した製品で、昨年発売された980Xの高クロック版となる。980Xがベースクロック3.33GHz、ターボモード時3.6GHzだったのに対して、990Xはベースクロック3.46GHz、ターボモード時3.73GHzとなる。これ以外のスペックは980Xと同等で、プロセッサコアは6コアでHyper-Threading対応、3チャネルのDDR3メモリコントローラを内蔵などのスペックは同等となっている。対応チップセットは、従来通りでX58になり、BIOSのバージョンアップで従来のX58マザーボードで利用することが可能だ。
GulftownはSandy Bridgeと同じ32nmプロセスルールで製造されるとはいえ、世代的には前の製品に属している。Sandy Bridgeの最高峰の製品となるCore i7-2600Kのベースクロック3.4GHzなどに比べて高めに設定されており、かつ6コアという特徴はあるが、それでもプロセッサの世代としては1つ前の製品に属することになる。
問題は、これに対してAMDが何をぶつけてくるのかだ。現在AMDはGulftownに対抗できる製品を持っていない。以前であれば、Phenom FXやAthlon 64 FXなどの対抗製品を持っていたAMDだが、現在のAMDのハイエンドはPhenom II X6 1090T Black Editionで、性能面ではGulftownベースのCore i7 Extreme-980Xに比べるとベンチマークの結果でも上回っていない(関連記事参照)。もちろん、前者が3万円を切るような安価な価格設定がされており、後者が999ドル(日本円で8万円程度)の価格設定を考えれば、価格性能比ではAMDが上回っているという言い方ができるのだが、こうしたハイエンドのマニア向け製品ではスポーツカーと一緒で絶対的な性能がすべてであるので、Intelがリードしていることは明らかだ。しかも、990Xの投入でそのリードはさらに広がることになる。
だが、来年は状況が大きく変わる。それはAMDがマニア市場向けに新しいプラットフォームを投入するからだ。それが開発コードネーム“Scorpius”(スコーピウス)で呼ぶプラットフォームで、AMDの次世代のサーバー/ワークステーション向けアーキテクチャになる“Bulldozer”(ブルドーザー)ベースのプロセッサであるZambezi(ザンベジ)プロセッサとして採用されることになる。
このScorpiusプラットフォームには8コア向けの製品が計画されており、これがマニア向けの製品と位置づけられることは、すでにAMD自身が明らかにしている通りだ。特に8コア向け製品が、Gulftownを上回る性能を発揮することは十分あり得ることと言える。
●Socket B2か、Socket Rか、それともまだ見ぬプラットフォームかもしそれが現実となった場合、Intelとしてもやはりこのマニア向け市場で何かをしなければならなくなる。とはいえ、今からマニア向けのSandy Bridgeプラットフォーム向けの製品を作るというのは時間的な制約から難しいだろう。となると、既存の計画されている製品からハイエンドデスクトップPCとして使えるものを転用するのが話としては早いだろう。
考えられるのはサーバー/ワークステーション向けとして計画されているSandy Bridgeを、マニア向け製品として転用してしまうことだ。そもそも、現在のLGA1366そのものが、もともとワークステーション向け製品として計画されていたものをマニア向けとして転用したものなのだから、割とわかりやすいストーリーだろう。
だが、これにも一長一短がある。IntelはSandy Bridge世代のサーバー/ワークステーション向けのプラットフォームとして、LGA1356(Socket B2)とLGA2011(Socket R)を利用する2つを用意している(詳しくは関連記事を参照)。前者にはSandy Bridge-EN、後者にはSandy Bridge-EP/EXと呼ばれ、大規模サーバー向けとして用意されている。
LGA1356はその名前(Socket B2)からもわかるように、LGA1366(Socket B)の後継製品としては良いように見える。しかし、問題はPCI Expressのレーン数で、LGA1356はGen2のPCI Expressを24レーンまでしかサポートできないのだ。このため、SLIやCrossFire向けに最低でも32レーンが必要なマニア向けのプラットフォーム向けとは言い難い。
もう1つの候補はLGA2011(Socket R)だが、最大で40レーンに対応しているので、PCI Expressの方は問題がないが、こちらは元々コストをあまり重視されない大規模サーバー向けであり、メモリも4チャネルになるなど、マザーボードやメモリのコストなどがクライアントPC用としては高くなりすぎてしまう。
どちらのプラットフォームともにクライアントPC用としてあまり適していないため、どちらもマニア市場に展開するという計画を持っていなかったと考えることができる。しかし、仮にScorpiusが考えてたよりも強力な製品だった場合、Intelは反撃する武器を持たないことになり、OEMメーカーなどとの話し合いなどでもそのことを指摘するメーカーは多かったようだ。
こうしたこともあり、Intelは現在真剣に“プランB”を検討しているようだと、あるOEMベンダーの関係者は指摘する。「現在Intelの中で真剣に新しいマニア向けプラットフォームが検討されておりベンダーとの話し合いがもたれている、それは来年の半ば以降をターゲットにしているようだ」とその関係者は証言する。残念ながらその関係者はそのプラットフォームのコードネームが何であるか、あるいはどのようなプラットフォームになるのかは情報は持っていなかったのだが、そうした計画をIntelが検討しているのは前述のような状況を考えればそれもさもありなんというところだろう。
問題はそれがSocket B2ベースなのか、Socket Rベースなのか、それとも我々の知らない何か新しいものなのかだ。筆者はおそらくSocket Rではないかと思っているのだが、続報を待ちたい。
●IvyBridgeはSandy Bridgeとピン互換最後にSandy Bridgeを心待ちにしているユーザーに、良いニュースをお届けしておきたい。Intelに近い情報筋によれば、Sandy Bridgeの後継として2011年の終わりから2012年の始めにかけての投入がされる次々世代プロセッサ“IvyBridge”(アイビーブリッジ、開発コードネーム)だが、Sandy Bridgeとピン互換、つまりLGA1155(Socket H2)で利用できる予定であるということだ。
これは、Couger Pointの後継として計画されている後継チップセットがIvyBridgeから1、2四半期遅れることもあり、さらにピン互換の製品となるようだ。なお、Couger Pointの次世代チップセットを搭載したマザーボードがSocket H2ベースになるのかは現時点ではわかっていないが、これから購入するマザーボードがBIOSアップグレードなどで、IvyBridge世代まで利用できる可能性が高いのは、これからSandy Bridgeやマザーボードの購入を検討しているユーザーには嬉しいニュースではないだろうか。
(2010年 10月 27日)