笠原一輝のユビキタス情報局
ビジネス寄りに進化したVAIO Pro 13 | mk2開発者インタビュー
~気になるVAIO Pro 11の今後は?
(2015/5/25 09:00)
VAIO株式会社は、2014年7月に新生VAIO立ち上げと同時に「VAIO Pro 13」の新モデルを販売開始したが、その後継製品としてこのたび「VAIO Pro 13 | mk2」(mk2はマークツーと読む)を発表した。
VAIO Pro 13は元々ソニーVAIO時代のもので、それがVAIO株式会社になっても継続販売されていた。13.3型液晶を搭載し、タッチモデルで約1,060gという軽量さを実現したノートPCとして人気を集めた。VAIO Pro 13 | mk2は、デザインのコンセプトこそ前製品を引き継いでいるが、実はゼロから設計された完全新筐体を採用する。
VAIO Pro 13 | mk2では、筐体の素材を2013/2014年型VAIO Pro 13のカーボンからマグネシウムへと変更し、CPUは第5世代Coreプロセッサへと進化させている。さらにVAIO Zと同じ新設計のキーボードを採用して、ポインティングデバイスもクリックパッドから2ボタンのタッチパッドに変更され、VGA端子、Ethernet端子、もう1つのUSB端子が追加されるなど、ビジネス向けPCとしてより魅力的な製品へと仕上がっている。
そうしたVAIO Pro 13 | mk2の開発を担当した、VAIO株式会社商品ユニット1部長の林薫氏、VAIO株式会社マーケティング・セールス&コミュニケーション部商品企画担当の小笠原努氏の2人に話を伺ってきた。
定番のビジネス向けPCとして長く育てていきたいVAIO Proシリーズ
新生VAIOは2014年7月にソニーからスピンアウトする形で設立された。そのVIAOが発足と同時に発売した製品が、VAIO Pro 11、同13と、VAIO Fit 15Eで、いずれもソニー時代に販売されていた筐体が継続され、企業のブランドロゴをソニーからVAIOへと変更して継続販売した。ソニーVAIO時代の最後の年度(2013年度)には、VAIO Pro 11/13以外にも、VAIO Duo、VAIO Fit 13A、VAIO Fit 11などのモバイル向け製品があったので、VAIO Pro 11/13だけが継続されたことをみると、VAIOとしてもこの2つが主力製品になり得ると考えていたのだろう。
筆者は新生VAIOスタート時の記事で、VAIOには3人の製品開発担当部長がいると説明した。笠井貴光氏、宮入専氏、林薫氏の3人で、それぞれ新製品の設計を担当するため、今後のお楽しみは3回あると言ったのを、覚えておられるだろうか? その後を見ると、笠井氏がVAIO Zを、宮入氏がVAIO Z Canvasを担当したことは本連載の記事でも紹介してきたと思うが、VAIO Pro 13 | mk2を担当したのが3人目の林氏になる。
VAIO Pro 13 | mk2について林氏は「新しい会社が掲げてきたビジネスPC市場を重視するという戦略の下で、VAIO Pro 11/13を継続して販売してきた。しかし、日本に限ってPCビジネスを進めるという中で、ワールドワイドをターゲットにしてきたVAIO Pro 13が日本のビジネスPC市場には適合しない部分があった。そこで販売サイドやお客様の声をお聞きして、現行のVAIO Proに足りない部分は何なのかを徹底的に考えた」と説明する。
ソニー時代のVAIOのモバイル製品では、いかにして新しいことを提案するかを重視してきた。しかし、ビジネスPC市場はそうではない。新生VAIOでは、本質+αというポリシーを掲げているが、何かを作り出す人のツールとしてクラムシェル型PCは外せない道具の姿だ。そこでこれからはVAIO Proをリフレッシュしていく形で、時間をかけてより信頼性のある製品にしていきたい、というのが新VAIO Proの方向性だ。
ノートPCには、いくつかの種類がある。1つはAppleのMacBookシリーズのような製品が典型だが、コンシューマやハイエンドユーザー向けに新しいデザイン、新しい使い方を提案していく商品だ。これに対して、ビジネス向けの定番ノートPCというのはそうではなく、継続的に使ってもらうため、デザインはなるべく定番のものを採用するし、堅牢性や信頼性を強調する製品が多くなる。代表例で言えば、パナソニックのLet's noteシリーズがそうだし、レノボのThinkPadシリーズもそうだろう。
VAIOで言えば前者はVAIO Zや先日発表されたVAIO Z Canvasがそうだろう。これに対して、VAIO Pro 13 | mk2は、今後はLet's noteやThinkPadのように、ビジネス向けPCとして定番の商品を目指し、長く育てていきたいということだ。
日本のビジネスユーザーが必要としているVGA端子、Ethernet端子を追加
林氏は「かつてのソニー時代のVAIOは、尖った製品とお買い求め安い価格帯の製品との格差が大きかった。そこで、VAIO Zのラインほど高い価格帯ではなく、VAIOの魅力を提供できるラインとしてVAIO Pro 13 | mk2を位置付けていきたい」と、定番のビジネス向けPC、そしてメインストリームの価格帯、さりながらVAIOとしての魅力のある製品、この3つの要素を兼ね備えたPCとしてVAIO Pro 13 | mk2の設計を行なったと説明する。
VAIO Pro 13(2014年) | VAIO Pro 13 mk2 | |
---|---|---|
重量 | 約0.94~1.08kg | 約1.03~1.16kg |
タッチモデル厚さ | 12.8~17.2mm | 14.3~18.9mm |
非タッチ厚さ | 11.3~15.8mm | 13.2~17.9mm |
CPU | Core i7-4510U/5-4210U/i3-4030U | Core i7-5500U/i5-5200U/i3-5005U |
メモリ | 4GB/8GB | 4GB/8GB |
液晶パネル | 13.3型FHD | 13.3型FHD |
ストレージ(PCIe) | 512/256/128GB | 512/256/128GB |
ストレージ(SATA) | - | 512/256/128GB |
無線 | Intel Wireless AC-7260(11ac、2x2) | Intel Wireless AC-7265(11ac、2x2) |
LAN | - | 1000BASE-T |
USB | USB 3.0+USB 3.0(充電機能) | USB 3.0×2+USB 3.0(充電機能) |
HDMI | HDM I1.4a | HDMI 1.4a |
VGA | - | 内蔵 |
ヘッドフォン | あり | あり |
カードスロット | SDカード×1 | SDカード×1 |
TPM | TPM1.2 | オプション(TPM1.2) |
キーボード | 日本語配列 | 日本語配列 |
タッチパッド | クリックパッド | 2ボタン |
バッテリ容量(筆者独自調査) | 36Wh | 31Wh |
公称駆動時間(JEITA 2.0) | 8~10.5時間 | 8.1~10.4時間 |
本体色 | 黒 | 黒/シルバー |
林氏らVAIO Pro 13 | mk2の開発陣は、定番のビジネスPCとするために、顧客への聞き取り調査などを通じて、必要な要素は何かを検討していった。そうした中で顧客から最も多かった意見が、VGA端子とEthernet端子が欲しいという意見だったそうだ。「前のVAIO Pro 13は日本だけでなくグローバル市場での商品性を意識した製品だった。VGAとEthernetは日本市場に限って言えばニーズは非常に大きいのは分かっていたが、日本以外の市場だと、なぜこんなレガシーなポートが付いているのだ、と言われてしまう。しかし、新生VAIOでは日本市場にフォーカスした製品を作ることになり、セキュリティへの観点から有線を使いたいニーズのためにEthernet端子を、さらにプロジェクターに直接接続したいというニーズのためにVGA端子は追加することにした」(林氏)と、その背景を説明する。
ビジネスユーザーに配慮しているのは、そうした使い勝手だけではない。詳しくは後ほど説明するが、VAIO Pro 13 | mk2では、底面の素材を変えているのだが、それに併せて設計も変えている。従来製品では、デザインを優先してネジが見えないようにしていたが、VAIO Pro 13 | mk2ではネジは見えるようにされている。これは、メンテナンス性を上げるためだという。「従来のモデルでは分解時に、見えないネジを外さないといけなかったり、見えないツメを外さないといけなかったりと、分解するのは専門のエンジニアでも難しかった。オンサイトで修理という時にサービス会社のエンジニアがより作業しやすいようにネジを外せば簡単に裏蓋を外せるようにした」(小笠原氏)。
これは、専門のメンテナンス要員が作業をし易いようにという配慮だが、エンドユーザー的な視点で言えば、保証がなくなることを覚悟の上で良ければ、SSDだけが壊れた時に、自前で換えを用意して交換できる。ハイエンド/ビジネスユーザーからすれば、基板が壊れたら修理に出すのは仕方が無いが、ストレージぐらいなら自分で交換したい、そういう人は少なくないと考えられるので、シンプルに歓迎していいだろう。
筐体素材はカーボンからマグネシウムとGFRPへと変更
従来の製品よりもビジネス向けに振ったVAIO Pro 13 | mk2だが、それでもVAIO Proらしさとも言える、先進的外観は維持している。ただ、従来製品に比べて若干だが、厚さは増している。その最大の理由は筐体の素材が変わったためだ。
林氏によれば、VAIO Pro 13の筐体素材は、A面(液晶側天板)、B面(液晶面)、C面(キーボード)、D面(底面)でそれぞれ以下のように変わっているという。
VAIO Pro 13(2014年) | VAIO Pro 13 mk2 | ||
---|---|---|---|
A面 | カーボン | マグネシウム | |
B面 | アルミ(ノンタッチ)/ガラス(タッチ) | ABS樹脂(ノンタッチ)/ガラス(タッチ) | |
C面 | アルミ(パームレスト)+GFRP | アルミ(パームレスト)+GFRP | |
D面 | カーボン | GFRP |
最大の違いはA面とD面が旧VAIO Proではカーボンを利用していたのだが、VAIO Pro 13 | mk2ではA面が削り出しの製法で作られたマグネシウム、D面がGFRP(グラスファイバー強化プラスチック)に変更されている。変更した理由の1つには、カーボンは加工が難しく、特に曲げることが難しいという弱点があり、薄くすることを何よりも優先するなら優れた選択肢なのだが、若干薄さを犠牲にしても、トータルで強度が上がる方を優先したのだと林氏は説明した。カーボンは平面で作った場合には高い強度を持っているが、今回のVAIO Pro 13 | mk2では平べったく薄いことよりは、素材全体で包んで薄く軽くするため、弁当箱形状にできるマグネシウムやGFRPを使い、システムボードなどを包むことで強度を出している。
また、素材や金型製作のコストは、カーボンに比べてマグネシウムやGFRPの方が安価なのも事実で、その結果として、VAIO Pro 13 | mk2の価格帯は従来製品に比べて若干下がっている(もちろん構成によるので一概には言えないが)。価格はある程度バランスに優れていなければ企業顧客には受け入れてもらえない。そういう意味でも妥当な判断だと言っていいだろう。林氏は「我々が今回のVAIO Pro 13 | mk2で注意したのは、バランス。価格でも、スペックでも、バランスの良いPCを作りたかった」と述べる。
マザーボード、熱設計、バッテリなど多くの内部コンポーネントも新設計に
このように筐体に関しては共通のデザインイメージを採用しつつも、ほぼ100%新設計なのと同じように、内部設計に関してもほぼ新設計になっている。
マザーボードは旧型が8層ビルドアップであったのに対して、VAIO Pro 13 | mk2では10層の貫通基板を採用している。旧型に採用されていたのは第4世代Coreプロセッサで、VAIO Pro 13 | mk2に採用されているのは第5世代Coreプロセッサとプラットフォームは違うのだが、2つのプロセッサはピン互換であり、同じ基板を使い回せる。しかし、今回の製品では、VGA端子やEthernetの追加、さらに2つだったUSB端子を3つに増やしたことで端子の数が増えたことを考慮し、基板に割り当てることができる面積を増やし、ビルドアップ基板ではなく、貫通基板に変更された。CPUファンは、VAIO Zで採用されている不均等ピッチのファンを採用しており、ファンが高速回転した時にキーンという不快な音が出ないように配慮されている。
バッテリの容量は筆者が実機で確認したところ、旧型は36Wh、VAIO Pro 13 | mk2では31Whになっていた。しかし、JEITA 2.0測定法ではほぼ同じバッテリ駆動時間が実現されている。これは、CPUが進化したことでその分で消費電力が減っているためだ。ただ、従来モデルで用意されていた底面に取り付ける拡張バッテリは、今回の製品では利用できない。林氏によれば「確かに熱烈に欲しいと言ってくださるお客様はいらっしゃったのだが、実際のアタッチレートを見ると低かった」という。
また、旧型VAIO Pro 13ではシステム側にあったWi-Fiのアンテナは、液晶ディスプレイ側に移動した。「Wi-Fiに関してはお客様からのフィードバックでもっと感度を良くして欲しいという意見を頂いた。そこで、悪い条件でもちゃんと送受信できるようにLCD側に移動した」(林氏)とのことで、前モデルと比較して同じ条件で計測すると転送レートなどで大きな改善が見られたということだった。
堅牢性をアピールするVAIO Pro 13 | mk2
そして、今回のVAIO Pro 13 | mk2で、VAIOが力を入れてアピールしているのが堅牢性だ。「これまでのVAIOと言えば華奢というイメージがあったと思う。それを払拭したいと考えて、設計段階から堅牢性を意識した設計にしている」(林氏)との言葉の通り、液晶天板の素材にマグネシウムを採用したことを含めて、堅牢性を何よりも重視して設計したのだという。従来製品でも堅牢性は重視していなかったというわけではないが、一般的なQAテストに基づく堅牢性の確保に主眼が置かれていた。それに対して、VAIO Pro 13 | mk2では、具体的なターゲットを決めて、堅牢性をアピールできる数字を実現できるレベルを目指した。
林氏は具体的にその数字というのが何かは明らかにしなかったが、Let's noteをある程度は意識していると考えられるだろう。実際、VAIOでは高さ5cmから4角の落下試験を5,000回、90cmの高さからの落下を6面で、満員電車での加圧を意識した150kgfの加圧試験と1時間の振動試験、ペンを挟んで液晶を閉じる試験などを行なっており、その模様は動画でも公開している。
また、ビジネス向けのPCとして重視される部分としては、キーボードとポインティングデバイスがある。CPUや液晶などの華やかな部分に比べて忘れられてしまうことも少なくないが、ユーザーがもっともPCと接触する部分だ。このキーボードとポインティングデバイスが大きく改善されているのがVAIO Pro 13 | mk2の隠れた特徴だと言ってよい。
キーボードはVAIO Zに採用されているのと同じものがそのまま採用されている。上位機種になるVAIO Zのキーボードは従来に比べてタッチ音が軽減されており、同じ強さで叩いても従来製品よりも静かに打鍵できる。また、本体の底面にネジ穴を設けて、キーボードに直接ネジを打ち込む構造になっているために、言ってみればネジが柱のような存在になっていて、従来モデルでは若干感じられたキーボード入力時が本体がたわむ感じがなくなっている。
パッドに関しても、ビジネスユーザーにアンケートを採ると、ボタンレスのクリックパッドよりも、クリックボタンがある方がいいという意見が多かったことを反映して2ボタンのものに変更されている。さらに、従来製品ではパッドの中央が、パームレストの中央に置かれていたのだが、VAIO Pro 13 | mk2ではホームポジション(キーボードのGとHの間)に合わせられている。これもビジネスユーザーからのフィードバックを元にそのようにしたのだという。特にOfficeのようなビジネスアプリケーションを利用するときには、クリックボタンがある方が使いやすいというユーザーは多いと思われるので、こちらも歓迎して良い変更だと言えるだろう。
VAIO Pro 11は継続販売、11型の新製品は最適な形を検討中
最後にVAIO Pro 11の今後について触れておきたい。VAIO Pro 11について林氏は「VAIO Pro 11は多くのお客様に支持頂いた製品だったが、日本のビジネスPC市場を考えていくと13型の市場の方が大きい。新生VAIOではリソースも限られており、やれることからやっていかないといけないため、まずは13型にフォーカスした」と説明した。今後11型の製品でどういう答えを出せるのか検討しており、徐々にラインナップを増やしていく。VAIO Pro 11に関しては「基本的には継続販売。ただしソニーストアで販売しているカスタマイズモデルの一部構成には既に入荷終了になっているものもあり、構成や、販売される販路によっては早期に販売終了となるものもある」(小笠原氏)とのことなので、VAIO Pro 11が欲しいユーザーは早めに手配した方がいいかもしれない。
以上のように、VAIO Pro 13 | mk2は、従来の製品に比べてビジネスPCとしての側面を強くした製品だ。尖った製品が好きだというユーザーであれば、VAIO ZやVAIO Z Canvasが用意されており、そちらを選択することになるが、予算の都合などでそこまでのコストはかけられないが、デザインに優れた使い勝手の良いクラムシェル型ノートPCが欲しいというコンシューマユーザーもターゲットになるだろう。
林氏の言う、VAIO Pro 13は定番のビジネスPCを目指すという目標は、一朝一夕に実現できるものではない。Let's noteや、ThinkPadも、長年かけて築いてきた信頼感(ブランド力と言い換えてもいいかもしれない)があるからこそ、ビジネスユーザーに選ばれている。VAIO Proも今後そうしたビジネスPCの定番になっていきたいのだとすれば、大事な事は継続性だし、信頼感を顧客に持ってもらうことだろう。その意味で、その第1弾となるVAIO Pro 13 | mk2は、VAIO Proのデザインエッセンスを継承しながら、従来のVAIO Proの弱点だった部分を克服しており、ビジネスPCとして魅力的な製品に仕上がっていると思う。道具としてのPCを必要としているユーザーなら検討に値する製品だと言えるのではないだろうか。