笠原一輝のユビキタス情報局

3つのキーワードに隠された次世代Windowsの目標

 前々回の記事では、Microsoftのサティア・ナデラCEOが、現在3ラインナップがあるクライアント向けWindowsを1つに統合することを明らかにしたというニュースを紹介した。今回の記事では、そのフォローアップとして、Microsoftのクライアント向けWindows戦略についてさらに考えていきたい。

 次世代Windowsの方向性は何なのか、実はMicrosoftはそのヒントを小出しにしている。それらを繋げていくと、ある結論に辿り着く。そのヒントとは、Microsoftがここ半年の間にカンファレンスなどで打ち出してきた3つのキーワード、「市場シェア14%」、「クラウドファースト」、「モバイルファースト」だ。この3つこそ次世代Windowsが目指すべき方向性を暗示している。

MicrosoftのCOMPUTEX TAIPEI 2014の講演でWindows Phone 8.1を搭載したデバイスを紹介するMicrosoft Windows グループプロダクトマネージャ ニック・ヘッダーマン氏。2015年にはもうWindows PhoneとWindowsの区別の意味がなくなることになる

Microsoftのシェアが14%という言葉に秘められた真意

 1つ目のキーワードだが、別記事で紹介されているように、米国ワシントンD.C.で7月に開催したMicrosoft Worldwide Partner Conference 2014において、COOであるケビン・ターナー氏は「PC市場では9割のシェアをもっているが、全デバイスで見ればMicrosoftのシェアは14%に留まる」と発言した。

 この意味を理解するには、実際に全クライアントデバイスでのOSのシェアがどうなっているのかを理解しておく必要がある。PCというカテゴリではMicrosoftの市場シェアは90%を超えている(残りは主にAppleのMac OSが占めることになる)。しかし、それは合計で年産3億台というPC市場でのシェアであり、今やクライアントデバイスはPCだけで語れない。下は調査会社のGartnerが公開している、PC、スマートフォン、タブレットというクライアントデバイスをOS別にカウントした予測数だ(リリース)。

【表】ワールドワイドOS別デバイス出荷数(単位:千台、出典:Gartner)
2013年台数 2014年台数 2015年台数
Android 898,944 1,168,282 1,370,893
Windows 326,060 333,419 373,694
iOS/Mac OS 236,200 271,115 301,349
その他 873,195 660,112 545,817
合計 2,334,400 2,432,927 2,591,753

 このガートナーの数字を元にグラフにしたものが、下の図になる。

【図1】Gathnerの発表を元にグラフにしたOS別のデバイスシェア

 グラフにして見れば一目瞭然で、スマートフォン、タブレット、PCを合計してクライアントデバイス市場として見れば、Microsoftのマーケットシェアは約14%に過ぎないことが分かる。このマーケットでの王者はGoogleで、2013年の時点で38%、今年2014年の予想では48%、2015年の予想では52%に達しそうだ。Gartnerの予想では、今後数年はPC市場が3億台前後で横ばいになると考えられているので、2013年〜2015年に伸びる2億台はいずれもスマートフォンとタブレットということになる。

 ターナーCOOが言っているシェア14%というのはまさにここだ。つまり、Microsoftの目は今やその14%というマーケットシェアを伸ばしていくこと、つまり現在のところアナリストが伸びないと予想しているMicrosoftのマーケットシェアを伸ばしていきたい、そこに向けられていると言えるだろう。

ThresholdのモバイルSKU、デスクトップSKUの違いの中身

 そして2つ目と、3つ目のキーワードとなる「クラウドファースト」、「モバイルファースト」だが、最近Microsoftは記者会見でこのキーワードを繰り返している。単純に考えれば、クラウドファースト、モバイルファーストとは、クラウドサービスを充実させ、スマートフォンやタブレットなどを重視していくという意味に採れるだろう。しかし、そこに隠されたメッセージは単純ではない。

 それを理解するには、ナデラ氏が明らかにした、3つが1つになるという次世代Windowsがどういうものかを理解しておく必要がある。これに関しては前々回の記事である程度説明した通りで、次世代WindowsのThreshold(スレッジショルド、開発コードネーム)では、OSのカーネルは1つだが、SKU(モデルのようなモノ、現在のWindows 8.1なら無印8.1とPro版がある)が2つあり、モバイル向けSKU、デスクトップ向けSKUがそれだ(実際にはなんらかのブランド名がつくことになるだろうが……)。

 現時点でMicrosoftは技術的詳細に関しては明らかにしていないが、推測してみれば、おそらく以下のようになっていると考えるられる。

【図2】ThresholdのSKUの違い(筆者予想)

 すでに前々回の記事で説明した通り、デスクトップSKUとモバイルSKUの最大の違いは、Windowsデスクトップをサポートするかしないかにある。モバイルSKUではWindowsデスクトップを利用できない、つまりUIとしてはModern UIのみ、利用できるアプリケーションはWindowsストアアプリだけとなる。これに対してデスクトップSKUでは引き続きWindowsデスクトップが利用できる。どちらも同じOSカーネルだが、モバイルSKUの方は、Windowsデスクトップの機能がごっそりなくなったバージョンだと推定できる。

 これがどういうことを意味するかは、下のOSのフットプリント(つまりOSのシステムファイルサイズと言い換えてもいいだろう)を考えて見れば一目瞭然だ。

【図3】Thresholdのフットプリント(筆者予想の模式図)

 現在のWindows 8.1/RTは、WindowsデスクトップとModern UIの2つのUIをサポートしているため、その分でOSのフットプリントは大きくなっている。例えば、Windowsの設定はデスクトップの「コントロールパネル」と、Modern UIの「PC設定」のどちらからでもできるようになっている。同じ機能なのに、UIが2つあることで、2つのバイナリが用意されているわけだ。同じようなことはほかにもたくさんがある。

 ストレージに余裕があるPCでは問題ないが、スマートフォンやタブレットにとって、Windowsデスクトップはストレージを圧迫する要因になると考えられる。ThresholdのモバイルSKUでは、Windowsデスクトップを省くことでフットプリントは小さくなるだろう。それにより、モバイルSKUは、スマートフォンやタブレットといったストレージが十分ではないデバイスでも搭載可能になると予想される。

Microsoftのクラウドファースト、モバイルファーストを体現するのがThresholdだ

 前々回の記事の中で筆者はThresholdのモバイルSKUはすべてのディスプレイサイズをサポートし、デスクトップSKUは7型以上をサポートするというOEMメーカー筋の情報をお伝えした。これは具体的にどういうことなのだろうか? それを理解していただくには、以下の図を参照してもらうのがいいだろう。

【図4】Thresholdがカバーするデバイスのディスプレイサイズ

 これを見ても明らかなように、モバイルSKUの方はより多くのディスプレイサイズの製品をサポートし、デスクトップSKUの方は限定された製品が対象になる。

 こうしたThresholdを使って、Microsoftのシェアを14%から増やしていくなら、読者ならどういう戦略の絵を書くだろうか、それが「クラウドファースト」、「モバイルファースト」の本当の意味を理解する鍵になる。アナリストが予想しているのはAndroidがほかのOSの市場を奪って成長するというのだから、Microsoftの取る道はAndroidに対抗する道であろう、ということだ。

 では、Androidに対抗するためにMicrosoftが力を入れるのは、モバイルSKUかデスクトップSKUか。これももはや言うまでもないだろうが、モバイルSKUだ。モバイルSKUはAndroidと同じく、クラウドサービスと連携して利用することを前提としたModern UIのみが利用できる。こちらに力を入れていく以上、クラウドサービスをさらに充実させていく必要がある、これこそがMicrosoftのいうクラウドファースト、モバイルファーストの本当の意味だ。

 そう考えれば、間違いなくMicrosoftはThresholdではモバイルSKUをメインストリームに据えて来るだろう。かつ、Androidに対抗する以上、当然のことながらそこは「0円Windows」の延長線上となり、おそらくモバイルSKUに関してはライセンス料が0ドルとなると筆者は考えている。

 しかしだからと言って、MicrosoftがデスクトップSKUの方を大事にしないというわけではないだろう。おそらくMicrosoftはデスクトップSKUをプレミアムに位置付ける、つまり現在のPro SKUのような位置付けを与えるだろう。企業向けや、コンシューマ向けPCでもプレミアムセグメントの製品、さらにはビジネスパーソナル向けの2-in-1などに向けたSKUという扱いになるのではないだろうか。

2015年にはスマートフォン、タブレット、PCの区別ができなくなるかもしれない

 筆者が最近のMicrosoftに感じていることは、CEOが前任者のスティーブ・バルマー氏からナデラ氏に代わって以降、速いスピード感で戦略を変えているという点だ。2013年までのMicrosoftが打ち出して来た戦略は正直言って、AppleやGoogleの“後追い感”が強く、しかも中途半端で停滞しているという印象が強かった。

 しかし、CEOが変わって以降、Microsoftは論理的でかつ、GoogleやAppleの先を行く戦略を打ち出しつつある。Universal Windows Appsで打ち出された、スマートフォン、タブレット、PCの壁を取り払う新しいアプリケーションのプログラミングモデルはAppleやGoogleの先を行っているし、1つのOSカーネルで、PCも、スマートフォンも、タブレットもサポートできるという戦略も両社の先を行っている。

 こうした新戦略はある意味、従来のWindowsの戦略が間違っていたと認めるようなモノだが、それもこれもCEOが変わったからこそできたことだろう。筆者はナデラ氏をCEOに選んだのがバルマー氏、そして創業者のビル・ゲイツ氏だったと聞いた時には、前任者と偉大なる創業者の引いた路線を転換できないのではないかと疑問符をつけていた。しかし、今はそう思っていない。ナデラ氏、そして今のMicrosoftがやろうとしていることは、明確にバルマー路線の否定だからだ。

 そうしたMicrosoftの新戦略のすべてが姿を現す2015年、その時に登場するWindowsデバイスは、スマートフォン、タブレット、PCと、我々が便宜的に呼んでいる区別はもはやほとんど意味が無くて、クラウドの前はどれも単なるクライアントデバイス、そんな時代に突入することになる。

(笠原 一輝)