笠原一輝のユビキタス情報局

第4世代Coreプロセッサで始まるPC業界の大逆襲

ASUSTeK Computerが発表したTransformer Book Trio

 Intelは、6月4日(台湾時間)に開幕したCOMPUTEX TAIPEIの会場において、同社の最新製品となる第4世代Coreプロセッサを正式に発表した。これまでHaswellの開発コードネームで知られてきた同製品は、Intel 上席副社長兼PCクライアント事業本部 本部長のカーク・スコーゲン氏が言う「Intelの歴史上最も消費電力が削減された製品」の通り、これまでのPC用プロセッサと比較して桁が1つ違う待機時消費電力を実現している。

 第4世代Coreプロセッサを搭載したシステムは、前世代と比較してバッテリ駆動時間が50%伸びる。このことは、同じバッテリ駆動時間を実現するのであればシステムを軽量化でき、同じ容量のバッテリを搭載すれば、バッテリ駆動時間が1.5倍になることを意味する。

 Intelではこの特徴を活かすことで、これまでのPC用プロセッサではカバーできなかった軽量薄型のタブレットや、キーボードドックを組み合わせたような脱着型のハイブリッドPCなどにもCoreプロセッサの浸透を図っていく方針で、そうした製品の一部はここCOMPUTEXでも姿を現しつつある。

HaswellはSoCとの消費電力の差が小さくなる

 今回Intelが発表した第4世代Coreプロセッサは、プロセッサの観点で言えば、完全に新しいデザインというわけではない。CPUアーキテクチャに関しては、前世代となる第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)の改良版であり、改良されているポイントは多くない。新しい命令セットとしてAVX2が追加され、内部の効率が改善されているのが目立つぐらいで、同じクロック同士で比較した場合には、AVX2を使ったソフトウェアでもない限りは大きなパフォーマンスアップは望めない。

 一方GPUに関しては大きな進化が加えられている。GT3というGPUコアを搭載している製品では内部エンジンが40基と、Ivy Bridgeの16基から比較して大きく増えることになるので、大幅なパフォーマンスアップを期待できる。GT3に比べると半分のエンジンになるGT2でもエンジン数は20と増えているので、GT2でも3D性能が向上する。Intelでは、第4世代Coreプロセッサのグラフィックス性能の向上を、前世代に比べて2倍以上と説明しているが、GT3(Intel Iris GraphicsおよびIntel HD Graphics 5000)を搭載している製品では十分にそれを期待できるだろう。

 だが、今回ユーザーが第4世代Coreプロセッサから受ける恩恵は、そこではないと筆者は考えている。今回の最大の恩恵は、マイクロアーキテクチャや回路設計とプロセスルールの最適化で実現した、待機時電力が20分の1になるという点だろう。一般的にSoCを含むプロセッサの消費電力というのは、いくつかの指標がある。OSが通常の動作時にある時の電力(英語でActive Power、通常時電力など呼ばれる)と、OSが待機状態にある時の電力(英語でIdle Power、待機時電力などと呼ばれる)の2つがある。さらに、通常電力のピーク的な数字で、OEMメーカーがシステムをデザインするときの一種の限界値として利用されるTDP(Thermal Desgin Power)も、本連載読者にはよく知られた数字だろう。

 プロセッサの消費電力の優劣を決めるのは通常時電力だと考えそうだが、実はそうではない。一般的な用途では、駆動時間のうち90%以上が待機状態にあるからだ。というのも、CPUというのは、何も演算が行なわれている時に少しでも余裕があれば、省電力モードへと移行し、待機状態に移行しようとするからだ。従って、仮にバッテリ駆動時間を伸ばしたいと思うのであれば、通常時電力を減らすよりも、待機時電力を減らすことが得策である。

 これまでのx86プロセッサが抱えていた問題は、実はここにあった。図1は従来のx86プロセッサとARM SoCの消費電力のレンジを示したものだ。なお、一応お断りしておくが、これは概念的な図であり、厳密な数字を示したものではない。ARMのSoCも、製品によってはこのレンジに入らないモノもある。あくまで概念を示したものだとご理解頂きたい。

代表的なプロセッサの消費電力のレンジ(筆者作成)

 図の中で赤い丸がTDP、黒の実線が通常時電力、黒の破線が待機時電力となる。この図で例として出しているx86プロセッサは第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)で、UプロセッサのTDPが17W、チップセットが3Wなので、あわせて20Wととなる。CPUは段階的に省電力モードとなり、最終的には数百mWレベルまで電力を下げることができるようになる。

 これに対してARMプロセッサや、ARMプロセッサに対抗した作られた32nmのAtomプロセッサのSoC(例えばMedfieldやClover Trailなど)は、TDP自体が2〜3W程度だが、待機時には数mW、製品によっては1mW以下の数百μWのレンジまで消費電力を下げられる。この待機時電力の数百mWと数mWの違いは、図1で言えば@の部分の差として現れ、結果的にバッテリ駆動時間の差となるのだ。

 Intelは第4世代Coreプロセッサで導入した新しい省電力技術により、この待機時電力を20分の1にした。IntelがIDF北京で公開したデータによれば、第4世代Coreプロセッサの最小時の消費電力は数十mWだという。ARMのSoCやAtom SoCの数mWに比べると、まだ桁は1つ大きいが、それでも差をぐっと縮めたと言っていいだろう。しかも、第4世代Coreプロセッサは、必要に応じてより大電力を利用して動かすことができる。一般的に省電力を重視した設計をすると、今度は上の方が厳しくなってくる。だが、第4世代Coreプロセッサでは上の方も15W(ないしは28W)までスケールアップすることができるようになっている。

 つまり、性能が必要な時には大電力で高い処理能力を発揮することでき、バッテリを節約する必要がある時は、ARMやAtomにかなり近いレベルの待機電力に移行できる、これこそが第4世代Coreプロセッサの最大の特徴であり、メリットなのだ。

秘密は新しいC10ステートとプロセスルール

 それでは、このような待機時消費電力はどのようにして実現したのだろうか? 大きくいうと、2つの要素があると考えられる。1つはマイクロアーキテクチャや回路設計といったハードウェアレベルでの改良であり、もう1つがプロセスルールレベルでの改良だ。

 ハードウェア面での改良では、新しいCステートが追加されたことが挙げられる。Cステートというのは、CPUの省電力の状態を示す用語で、CPUが通常状態先ほどの電力について言うなら通常電力にある時をC0と定義する。以下、CPUが待機状態になるに従い、C1、C2、C3……と状態を移行させ、数字の部分が大きくなればなるほどCPUのクロックが停止したり、キャッシュが停止状態になったり、CPUの必要のない部分の電源がオフになったりしていく。第3世代CoreプロセッサまではC6(従来はDeeper Sleepと呼ばれていた、C5がDeep Sleepだったのでそれよりも省電力という意味でこう呼ばれていた)までのCステートが定義されていたが、第4世代CoreプロセッサではC7という新しいCステートが定義され、すべてのクロックが停止され、CPUのほとんどの部分に対する電圧供給が停止されることになった。

 さらに、UプロセッサやYプロセッサといったSoC版の第4世代Coreプロセッサでは、それに加えてC8、C9、C10などが定義されている。このC8〜C10ではCPU内部だけでなく、パッケージ内に封入されているチップセットに関しても省電力の定義が追加され、さらなる電力のカットが実現される。Intelによれば、C10はC7に比べて電力が6分の1になるというから、効果は非常に大きい。

 また、Intelは第4世代Coreプロセッサの製造を、第3世代Coreプロセッサの製造にも利用した22nmプロセスルールを用いて行なうが、実際には若干の改良が加えられており、リーク電力が2分の1〜3分の1に減っているという。これも待機時電力の削減に貢献しているとIntelでは説明している。

プレミアム向けの製品はWindows 8 Connected Standbyに対応する

 先述の通り、同じ容量のバッテリを実装した場合には、従来と比較して、バッテリ駆動時間が延びるのが大きなメリットとなる。

 以下はIntelが公開した具体的なデータで、同じ50Whのバッテリを搭載した第3世代Coreプロセッサのシステムと第4世代Coreプロセッサのシステムを比較したものだ。

Intelが公開した第3世代Coreプロセッサと第4世代Coreプロセッサのバッテリ駆動時間の違い。どちらも同じ50Whのバッテリを利用して計測された結果

 HDビデオの再生時に第3世代Coreでは6時間しか駆動できなかったのが、第4世代Coreにすることで9.1時間に伸びている。つまり、50%程度ほどバッテリ駆動時間が延びている計算になる。

 もう1つ注目したのは、スタンバイ時のバッテリ駆動時間が大幅に伸びていることだ。「Intel Smart Connect Technology(ISCT)」と呼ばれる、ある一定間隔でスタンバイから復帰してメールなどを受信してスタンバイに戻る技術をオンにした状態で比較すると、第3世代ではバッテリで4.5日しか待機状態にできなかったのに対して、第4世代では10〜13日間、待機状態にさせておくことが可能だ。

 さらに、第4世代CoreプロセッサのSoC版ではWindows 8のConnected Standbyにも対応する。Atomプロセッサに実装されていたS0ix(S0を拡張してConnected Standbyを実現するIntel独自のモード)の機能が実装されており、ディスプレイの電源を切っただけで、OSは動いた状態で待機するスタンバイをPCでも実現することができる。

 ただし、第4世代CoreプロセッサのSoC版を搭載したすべてのPCがConnected Standbyに対応するわけではない。Connected Standbyに対応するには、電源回路などをConnected Standbyに対応するような高効率のモノにしなければならないし、メインメモリにはアイドル時のセルフリフレッシュ時に消費する電力を抑えるDRAMとなるLPDDR3を採用する必要もある。これらはいずれもコストアップの要因になるので、当初Connected Standbyに対応するPCはハイエンドの一部製品に留まる見通しだ。

 逆に、PCメーカーとしては、Connected Standbyに対応することが他社との差別化になるので、プレミアムブランドの製品などは対応してくることが予想され、ユーザーとしても特にタブレットやハイブリッドPCなどでは、Connected Standbyに対応しているかどうかはチェックポイントとなるだろう。

 なお、これまでConnected Standbyに対応しているWindows 8は32bit版のみだが、第4世代Coreプロセッサの出荷に併せてMicrosoftは64bitのWindows 8でもConnected Standbyのサポートを開始する。このため、OEMメーカーはBlue(Windows 8.1)を待つ必要は無く、現状の64bit版Windows 8でも(何らかの追加モジュールのインストールは必要になると考えられるが)Connected Standbyに対応することが可能になる。

バッテリ容量を小さくすることで、デザインの自由度を得る

 待機時電力が20分の1になるもう1つのメリットは、第3世代Coreプロセッサを搭載していたシステムと同じバッテリ駆動時間を実現したいのであれば、バッテリの容量を減らせるということだ。例えば、先ほどのIntelのベンチマーク結果から計算すると、仮に第4世代Coreプロセッサで6時間のバッテリ駆動時間を実現すればいいと考えれば、バッテリは33Whの容量があればいいと計算で求めることができる。第3世代Coreプロセッサでは50Whと比較すると、バッテリの質量を33%削減できる計算になる。

 すると、OEMメーカーはUltrabookやタブレットを設計する際に、従来よりもバッテリのサイズを小さくすることができるので、PCをより薄く、より軽くすることができる。現在のノートPCやタブレットではバッテリの質量が全体に占めている割合が非常に大きく、それが33%縮小できると考えれば効果は決して小さくない。これまでPCアーキテクチャでは実現できなかった薄型タブレット、あるいは10型以下の液晶を搭載したようなUMPCなどが、再びPCアーキテクチャで実現可能になる。つまり、OEMメーカーはデザイン上の自由度を手にするわけだ。

 これこそが、OEMメーカーにとっての第4世代Coreプロセッサのメリットであり、実際OEMメーカーは多数の第4世代CoreプロセッサベースのタブレットやUltrabookのデザインを行なっている。そうした製品の一部は、ここCOMPUTEXでほかのレポートで触れている通りだし、今後も徐々に市場に投入されることになるだろう。

 Intelの、そしてPC業界の逆襲は、このCOMPUTEXで今始まったばかりだ。

COMPUTEXの開幕前日に行なわれたASUSTeKの記者会見で、詳細は明らかにされなかったが展示された第4世代Coreプロセッサ搭載のZenbook Infinity。非常に薄型を実現しているのも、メリットを活かしているためだと見られている

(笠原 一輝)