笠原一輝のユビキタス情報局

本格的なクラウドコンピューティング時代を見据えてIoTソリューションに取り組む台湾企業

 台湾の輸出振興を目指す半官半民組織のTAITRAは、日本のテックメディア向けの取材ツアーを行なっており、TAITRAが制定している優れた工業製品を作った企業などに与えられる「TAIWAN EXCELLENCE」を受賞した企業などを紹介している。その中の1つであるASUSの「ZenFone 3」に関しては別記事で紹介した通りだが、ここでは中小のメーカーやベンチャー企業などの取り組みについて紹介していきたい。

 現在デジタル業界は、従来のクライアントコンピューティングの時代から、クラウドコンピューティングへと急速な転換が起きている。

 従来はクライアント側に強力なマイクロプロセッサを搭載しなければ、ユニークなアプリケーション(日本語で言えば応用例)を提供できなかったのに対して、現代では、クラウド側の強力なプロセッサでデータの処理を行なう形でアプリケーションが実行できるようになってきた。このため、ローカルに強力なマイクロプロセッサを搭載していない機器でも、さまざまな便利な使い方をユーザーに提供することが可能になりつつある。

 業界ではそうした機器を「IoT(Internet of Things)」と呼ぶ。

 IoTは単なるバズワードとされることも多いが、モノ作りの現場では、静かにIoTの概念を利用した新しい製品が登場しつつある。今回はそうした製品を作っている企業を紹介していきたい。

高密度実装基板が得意なChipSiPはそれを生かしたAR/VRデバイスを開発

 ChipSiP Technology(チップシップテクノロジー)の“SiP”は、System in Packageの略称で、同社はPCB(基板)にできるだけ小さく半導体などを実装して、小型なPCB(いわゆる高密度実装基板)を作成することで、モバイルや小型筐体のデジタル機器を作ることを実現するメーカーとして活動してきた。現在はそうした小型のPCBを作る技術を基に、SiME(シーミー、See Meの意味があるという)というブランド名を利用したAR/VR製品に取り組んでおり、AR/VRのソリューションを提供する企業を目指して、さまざまな製品を開発を行なっている。

ChipSiP Technology 社長 ジョージ・タイ氏

 同社社長 ジョージ・タイ氏は、「VR/ARの潜在的な市場は2020年の段階で1,500億ドル(日本円で約15兆円)の市場規模があると考えられている。そのうちARは1,200億ドル、VRは300億ドルとなる。特にARは、ビジネス市場で非常に潜在的な市場があると考えられており、ある調査によれば、2025年には6,740億ドルの市場になると予想されている」と述べ、VR/ARと一括りにされる市場の中でも、特にARにフォーカスした製品作りを行なっていると説明した。

ARとVRではARの方が圧倒的に市場規模が大きいと予想されている

 同氏によれば、同社では特に産業向けの製品にフォーカスしており、遠隔医療、遠隔操作、遠隔モニタリングなどのアプリケーションを考えて製品を開発しているという。同社の強みは、元々の本業だった高密度実装基板の技術があることで、ARデバイスにもそれを利用して小型のPCBを製造し、ヘッドマウントデバイスの中にディスプレイ、SoC、メモリ、ストレージ、ネットワークなどの全ての機能を備えることが可能になっているという。

 例えば、複数の半導体を実装する時に、ダイスタッキングを利用したり、PoP(Package on Package)などの実装技術を利用することで、高密度実装基板を製造しているということだった。このほか、現時点で同社が採用しているディスプレイはLCoSで、ほかの方式に比べると低消費電力がメリットだということだ。

同社の強みは高密度実装基板

 また、現状の製品では、AndroidがOSとして採用されており、Google Playストアに対応したフル機能のAndroidを実装することも可能だという。このため、ユーザーは製品を買ってくれば、Google Playストアで配信されているAndroidのアプリを、同社のHMDデバイスでそのまま利用できる。なお、OSに関してはニュートラルに考えており、顧客のニーズがあれば、将来的にはWindows Holographicベースの製品を提供していくことも可能だということだった。

 また、より作り込みたい顧客に対してはSDKを配布しており、それに従ってアプリケーションを作ることで、ハードウェアの能力をより活かせるアプリケーションを作成できる。ビジネスユーザーなどでバーティカルな用途に使いたいユーザーのニーズに応えることができるそうだ。

同社の高密度基板実装の例、複数のパッケージがスタッキングされている
ヘッドセットにARディスプレイを組み込んだ製品の例
メガネにARディスプレイを組み込んだ製品の例
ヘルメットにARディスプレイを組み込んだ例

 タイ氏によれば、同社は自社ブランドであるSiMEブランドの製品だけでなく、ODMビジネスによるOEMメーカーに対する製品供給も行なっているという。実際、今回の取材ではその例として、日本のテレパシー・ジャパンが「Telepathy Walker」としてクラウドファンディングの形で販売を開始したHMDを紹介した(僚誌ケータイWatchの記事を参照)。

 Telepathy Walkerは、今年1月のCESで発表されたメガネ型のデバイスで、960×540ドットのディスプレイが目の前に来て見える形になっている。OSはAndroid 4.4、Wi-Fi/Bluetoothの機能を備えており、CESの発表時点の予価は699ドルになっていた。ChipSiP Technologyは、この製品のODMメーカーとして開発、製造に関わっているということだった。

テレパシー・ジャパンがTelepathy Walkerとして販売している製品のプロトタイプと見られる製品

 また、将来に向けた開発としてMicrosoftのHoloLensのようなAR HMDの開発を行なっており、近い将来に製品化したいとタイ氏は説明した。

AR HMDのプロトタイプ
タイ氏のプレゼン資料

PC用キーボードメーカーDarfonの子会社は、IoT対応の電気アシスト自転車に取り組む

 PC用キーボードのOEM/ODM生産で世界的に名前が知られているDarfonの子会社、Darfon Innocationは、DarfonがPCビジネスだけに依存している現状を変えるために始めた社内ベンチャーだ。現在は、「BESV(ベスビー)」というブランド名のIoT対応電気アシスト自転車を販売している。

Darfon InnocationのBESV(ベスビー)

 Darfon Innocation プロジェクトマネージャのイーノ・ウー氏によれば「自転車の機能そのものというのは既に成熟している。しかし、それではないプラスアルファを付加するという意味で、IoTそのものとなる自転車を開発した」と述べ、自転車そのものをIoTにするという発想でBESVを開発したと説明した。

 ウー氏によれば、BESVはいわゆる電動アシストの自転車で、本体内蔵の交換式リチウムイオンバッテリでモーターを駆動し、ユーザーがペダルを漕ぐ力に駆動力をアシストすることで、より楽に運転できるようになっている。さらに、自転車の中にトルクセンサー、スピードセンサーの2つが入っており、BluetoothでAndroidスマートフォンと接続して、スマートフォンから自転車のセンサーにアクセスし、その情報をクラウドサーバーに蓄積/分析したり、SNSでシェアしたりと、さまざまな使い方が可能になる。

Darfon Innocation プロジェクトマネージャのイーノ・ウー氏
Darfon Innocationの電気アシスト自転車
リチウムイオン電池を利用してモーターでアシストする

 ウー氏は「クラウドと連携できるようにすることで、自転車上のセンサー、スマートフォンのGPS、さらにはユーザーがスマートウォッチを着けていれば、心拍数などを全てクラウド上に集約して処理することができる」とのことで、製品としての肝は、自転車そのものというよりは、スマートフォン上のソフトウェアや、クラウドサーバー上で動いているアプリケーションそのものだ。

 BESVのアプリケーションには、ロケーションベースサービスの機能も用意されており、サイクリングの途中で、どこかお店に入りたくなった時には、アプリからすぐにそれを探して目的地までナビしてくれたり、その逆でサイクリングしたコースをGPSで記録しておき、後でどのくらいの距離を走ったのか、あるいはどのぐらいの坂を登ったのか、などを視覚的に確認したりできる。

スマートフォンに表示されているのがBESVのアプリケーション
アプリケーションの一例
自転車側にもセンサーの情報などを表示する簡易ディスプレイがある

 今回ウー氏が紹介したBESVの電動アシスト自転車は、日本円で約40万円程度で、既にソフトウェアの日本語版もあるという。単なる自転車ではなく、電動アシストとなると各国の法令に合わせないといけないので、すぐに輸出できるというモノではないが、今後日本市場なども視野入れていきたいということだった。

ウー氏のプレゼン資料

長短焦点のプロジェクタや、モバイル向けのプロジェクタの新しい使い方を提案するOptoma

 Optoma(オプトマ)は、グローバルで第3位のプロジェクタメーカーで、DLP方式のプロジェクタに強いメーカーとして知られている。日本では株式会社オーエスが総代理店となって販売を行なっており、ヨドバシカメラなどの小売り店で販売が行なわれている。

DLPプロジェクタで知られるOptoma

 同社社長のアン・ウー氏は、Optoma社の概要と製品の戦略戦略の概要を説明した。ウー氏は「Optomaは台湾の企業だが、元々はヨーロッパ向けのビジネスを中心に展開し、その後、台湾や日本などアジア地域などに進出した経緯を持つプロジェクタメーカー。2008年からモバイル用のプロジェクタに取り組むなど、携帯用製品にも早くから取り組んできた。2014年に米カリフォルニアのオーディオメーカーであるNuForceを買収し、現在は子会社として傘下に収めている。近年は超短焦点のプロジェクタにも力を入れており、今年から来年にかけては4Kのプロジェクタ製品に取り組んでいる」と述べ、モバイル向けや4Kなどに今後は力を入れていきたいと説明した。

Optoma 社長 アン・ウー氏
ウー氏のプレゼン資料

 Optoma アジアパシフィック PM部門 上席部長のアンディ・ワン氏は、同社の強みであるDLP方式のプロジェクタなどについて説明し、モバイル型プロジェクタを利用したマルチタッチタッチソリューションやマルチプロジェクション、同社が開発中の4Kプロジェクタのデモを公開した。

 同社のモバイル型プロジェクタ「ML750ST」を利用したデモでは、37型のPCT(Projected Capacitive Touch)という機器を利用して、20点のマルチタッチを実現したデモを行なった。また、同じくML750STのデモでは、iPadとWi-Fi経由で接続し、iPad上に表示されている複数の模様を、複数の物体にプロジェクションするというマルチプロジェクションのデモも行なわれた。実用化されれば、タブレットを利用して簡単にユーザー宅でもマルチプロジェクションが実現する可能性がある。

Optoma アジアパシフィック PM部門 上席部長 アンディ・ワン氏
Optomaの超短焦点プロジェクタ
ML750STと37型のPCT(Projected Capacitive Touch)のデモ、20点マルチタッチ
ML750STを利用したマルチプロジェクションのデモ
超短焦点プロジェクタの最新製品
NuForceのオーディオ製品、日本でも販売されている製品もある
超短焦点プロジェクタのデモ

 また、ワン氏は同社が開発中の4Kプロジェクタを公開した。今年後半に製品化が計画されており、「今後4Kプロジェクタに精力的に取り組んでいきたい」と述べ、今後4Kプロジェクタを続々製品化していきたいとした。

開発中の4Kプロジェクタ
鳥の毛並みまで再現できていた
ワン氏のプレゼン資料

台湾版DMM.makeとなるGarage+から成長した、スマートデバイス用顕微鏡メーカーのAIDMICS

 台湾のスマートデバイス用顕微鏡メーカーのAIDMICS BIOTECHNOLOGY(エイミクスバイオテクノロジー、以下AIDMICS)は、台湾のベンチャー支援プログラム「Garage+」で生まれ、現在はベンチャーとして成長した企業となる。

 Garage+ 課長 ジェーソン・ルー氏によれば、Garage+は台湾の有名企業の支援により設立された組織で、日本で言えば秋葉原にあるDMM.makeのような、スタートアップや個人などがモノ作りをすることを支援する場を提供するサービスを行なっている。日本でもクラウドファンディングとして知られるMakuakeと協力し、台湾のスタートアップ企業が日本市場の参入を目指すことを支援したりもしている。AIDMICSはこのGarage+を卒業し、現在は自前のオフィスを構えて製品展開を行なっている。

台北市内のオフィスビルにあるGarage+
Garage+ 課長 ジェーソン・ルー氏
TSMCなど台湾の名だたる企業が支援している

 AIDMICS 共同創始者兼製品責任者のチャン・ミン・リン氏は、「顕微鏡というのは高い商品で、かつ医療用となると大きな資本、時間法律への対応などが必要になる。そこで我々は畜産用、教育用に絞って製品の開発を行なっている」とした。

AIDMICS BIOTECHNOLOGY 共同創始者兼製品責任者 チャン・ミン・リン氏
AIDMICSの歴史、これまでに畜産用製品と教育用製品をリリースしている

 畜産用の製品は「iSperm」と呼ばれる製品で、iPadのカメラに装着する顕微鏡と、iPadがセットになったキット。価格はiPad(iPad Mini)を含んで2,290ドルで、畜産業を行なっている畜産農家などに対して販売しているという。

 具体的な用途としては、豚の精液をこの顕微鏡でチェックし、繁殖に必要な活動量があるかなどをチェックするのだという。顕微鏡なので、もちろん実際に精子の動きをチェックすることもできるし、デジタルデバイスらしく、それらをCPUによりその数を数えさせて、精子の数や活動活発度などを数値化して、クラウドサーバーにデータをアップロードすることが可能だという。これにより、畜産農家は繁殖の調整などを行なったりできるので、これまでよりも生産性が上がったのだという。

iSpermはiPadを利用する
キットに採取した豚の精液を取り込む
キットを取り付けた顕微鏡をiPadにドッキングする
顕微鏡で動きを確認したり、数値化してそれをクラウドに保存したりできる
iSpermのボックス

 もう1つの製品はコンシューマ向けの製品となる「μHandy Classic」と呼ばれる製品で、199ドルで販売されている。そしてその廉価版として、μHandy Classicでは金属だった本体を、プラスチックにすることでコストダウンを図り、教育用と位置付けた「μHandy Educational」を今年に入って発表した。

 μHandy Educationalは99ドルと非常に安価で、学校などで簡単に導入できることを意識したという。仕組みは単純で、スライドガラスの代わりとなるシールに目的の物体をこすりつけて、それを本体のレンズ部分に装着するだけ。後は、iPad側にあらかじめ取り付けておくアタッチメントと磁石で合体すると、専用のアプリケーションから顕微鏡として利用できる。

μHandy Classic
μHandy Educationalでは付属のシールに対象物をこすりつける
シートにつけ、本体に装着する
iPad側のアタッチメントに磁石でドッキングするだけ顕微鏡になる
iPad側のアタッチメント
ビューアソフト

 リン氏によれば、「ぜひ日本でも販売したい」とのことで、代理店も募集中。是非どこか興味がある代理店の方、チャレンジしてみてはいかがだろうか。なお、現状ではiOSのアプリケーションのみで、Androidなどには未対応とのことだ。

リン氏のプレゼン資料