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L3キャッシュレスのクアッドコア「Athlon II X4」



 AMDは6月にL3キャッシュレスでデュアルコアの「Athlon II X2」シリーズを発表。この度発表された「Athlon II X4」シリーズは、このAthlon IIシリーズ初のクアッドコア版となる製品である。低価格クアッドコアCPUとして注目の本製品をチェックしていきたい。

●Socket AM3では3種類目となる「Propus」コアを採用

 すでに先週末から「Athlon II X4 620」が販売されているが、これは、今回登場するAthlon II X4シリーズの製品では下位モデルとなる(写真1)。今週中にも、上位モデルとなる「Athlon II X4 630」が投入される予定だ(写真2)。主な仕様は表1にまとめている。

【写真1】AMDの「Athlon II X4 630」。Athlon II X4の最上位モデルとなる 【写真2】こちらは下位モデルの「Athlon II X4 620」

【表1】Athlon II X4 630/620の仕様

Athlon II X4 630 Athlon II X4 620 Phenom II X4 810 Phenom II X3 720 Black Edition
OPN ADX630WFK42GI ADX620WFK42GI HDX810WFK4FGI HDZ720WFK3DGI
動作クロック 2.8GHz 2.6GHz 2.6GHz 2.8GHz
L1データキャッシュ 64KB×4 64KB×4 64KB×3
L2キャッシュ 512KB×4 512KB×4 512KB×3
L3キャッシュ なし 4MB 6MB
HT Linkクロック 2.0GHz 2.0GHz
対応メモリ DDR3-1333/DDR2-1066 DDR3-1333/DDR2-1066
動作電圧 0.925〜1.425V 0.875〜1.425V 0.850〜1.425V
周辺温度(最大) 71℃ 71℃ 73℃
TDP(最大) 95W 95W 95W

 登場する2製品の違いは動作クロックのみで、上位モデルのAthlon II X4 630が2.8GHz、下位モデルのAthlon II X4 620が2.6GHzとなる(画面1、2)。先行するAthlon II X2シリーズ同様、Athlon II X4シリーズも物理的にL3キャッシュを省いており、Propusのコードネームで呼ばれる新コアを採用している(写真3)。比較用に、そのほかのダイショットも写真4〜5に示している。

【画面1】Athlon II X4 630におけるCPU-Zの結果 【画面2】Athlon II X4 620におけるCPU-Zの結果
【写真3】Athlon II X4シリーズで使われるPropusのダイ写真 【写真4】Phenom IIシリーズで使われるDebebコアのダイ写真 【写真5】Athlon II X2シリーズで使われるRegorコアのダイ写真

 このPropusコアの登場で、Socket AM3対応製品には3種類のコアが使われることになる。その違いをまとめたのが表2である。Propusコアは他のコアと同じく45nm SOIで製造され、トランジスタ数は3億、ダイサイズは169平方mm。同じクアッドコアである「Deneb」コアと比較して、L3キャッシュを省略することでダイサイズを縮小したものとなる。

【表2】Socket AM3製品で使われるコアの種類

Deneb Propus Regor
プロセスルール 45nm SOI
トランジスタ数 7億5,800万個 3億個 2億3400万個
ダイサイズ 258平方mm 169平方mm 117.5平方mm
L2キャッシュ 512KB×4 512KB×4 1MB×2
L3キャッシュ 6MB なし なし
対応メモリ DDR3-1333
DDR2-1066
DDR3-1333
DDR2-1066
DDR3-1066
DDR2-800
採用製品 Phenom II X4
Phenom II X3
Phenom II X2
Athlon II X4 Athlon II X2

 注意したいのはL2キャッシュのサイズだ。同じコンセプトで設計されたデュアルコアのRegorは、L3キャッシュを省略する代わりに各コアのL2キャッシュを倍増させたが、Propusは各コア512KBのまま。つまり、DenebコアからそっくりL3キャッシュを省いた構造になっていることになる。

 一方で、メモリコントローラ周りもDenebコアと同じ仕様になっており、これもメモリの動作クロックに制限が設けられたRegorコアと異なる点だ。

●低価格マルチコア製品を比較

 それではベンチマークの結果を紹介していきたい。環境は表3に示したとおりで、Phenom II X3 720 Black Edition(以下BE)、Core 2 Quad Q8200を比較対象とした。前者はトリプルコア製品となるが、低価格にマルチコアCPUを提供するというコンセプトはAthlon II X4に類似したもので、しかもAthlon II X4 630とは同じ価格帯で発売されることから選択したものだ。後者はIntelのクアッドコア製品としては最廉価モデルとなることからテストに加えている。なお、念のため申し添えておくと、このCore 2 Quad Q8200は末尾に「s」が付かない通常版モデルである。

 また、今回はチップセット内蔵グラフィックを使用してテストを行なった。これは低価格クアッドコアの環境丸ごとの比較という意味を込めたものである。使用したマザーボードは写真6〜7のとおり。

 主題であるAMD環境は、ASUSTeKのM4A785D-M PROで、AMD 785G+SB710を搭載するDDR2対応マザーである。本稿のようなCPU比較テストでは宝の持ち腐れとなってしまうが、DDR2-1200へのオーバークロック機能や、ボタン1つでのオーバークロックするTurboKey、内蔵GPUのオーバークロック機能など、1万円前後の低価格な製品ながらTweak機能が充実した製品である。

【表3】テスト環境
CPU Athlon II X4 630
Phenom II X3 720
Core 2 Quad Q8200
チップセット AMD 785G+SB710 Intel G45+ICH10R
マザーボード ASUSTeK M4A785D-M PRO ASUSTeK P5Q-EM
メモリ DDR2-800(1GB×2,5-5-5-18)
グラフィック機能
(ドライバ)
Radeon HD 4200
(CATALYST 9.9)
Intel GMA X4500HD
(Ver.15.13.5.1861)
HDD Seagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS)
OS Windows Vista Ultimate Service Pack 2

【写真6】AMD 785Gを搭載する、ASUSTeKの「M4A785D-M PRO 【写真7】Intel G45を搭載する、ASUSTeKの「P5Q-EM

 まずは、Sandra 2009 SP4のProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PassMark Performance Test 7のCPU Test(グラフ2)、PCMark05のCPU Test(グラフ3〜4)から見ていきたい。

 Phenom II X3 720 BEとの比較では、クアッドコアとトリプルコアという違いもあり、マルチスレッド化されたCPUテストにおいてはAthlon II X4 630が良好な結果を示す傾向にある。シングルタスクテストのPCMark05において同等程度の結果が出ているのは、プログラムサイズや扱うデータを小さく抑えるCPUテストでは、キャッシュ容量の差が影響せず、同クロック、同アーキテクチャのCPUであるため、こうした結果につながっている。

 Core 2 Quad Q8200とは得手不得手がある結果になった。SandraのMultimedia INTテストはSSE2を使うか、SSE4.1を使うかという違いがあるが、SSE4.1を使うCore 2 Quad Q8200が伸び悩んでいるのが面白いところだ。ほかのテストでは、全体的に整数演算はCore 2 Quad Q8200が強く、浮動小数点演算に関してはAthlon II X4 630が強いという傾向が出ている。

【グラフ1】Sandra 2009 SP4 (Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PassMark Performance Test 7(CPU Test)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test−シングルタスク)
【グラフ4】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test−マルチタスク)

 Sandra 2009のCache & Memory Benchmark(グラフ5)とPCMark05のMemory Latency Test(グラフ6)によるメモリの結果は、とくに目立った部分はない結果となっている。

 Core 2 Quad Q8200との比較では、これまでにテストしてきたPhenom II/Athlon IIとCore 2の結果に似た傾向が出ている。すなわち、L1キャッシュ域ではCore 2が高速だが、L2キャッシュはPhenom II/Athlon IIのほうが高速。そして、メモリメモリのアクセス速度もPhenom II/Athlon IIが良好といった結果だ。

 Phenom II X3 720 BEとの比較では、コア数の差でAthlon II X4の優位性が出る結果となった。これはSandraのテスト方法にも起因する部分が大きいが、とくにL1/L2部分はAthlon II X4のアクセス速度がコア1個分有利になっている格好だ。

 ただ、レイテンシに関しては4KBテストのL1キャッシュ、192KBテストのL2キャッシュがそれぞれ同じ、8MBテストはL3キャッシュを持つPhenom II 720 BEが良好な結果を示すが、メインメモリが対象となる16MBテストではやはり同じ結果になっており、メモリコントローラの素行はまったく同等と見て良さそうである。

【グラフ5】Sandra 2009 SP4(Cache & Memory Benchmark)
【グラフ6】PCMark05 Build 1.2.0(Memory Latancy Test)

 ここからは実際のアプリケーション利用を想定したベンチマークである。テストは、PCMark Vantage(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、POV-Ray(グラフ9)、ProShow Gold(グラフ10)、TMPGEnc 4.0 XPressによる動画エンコード(グラフ11)だ。

 まずPhenom II X3 720 BEとの比較だが、多くのシーンでAthlon II X4 630が良好なスコアをマークしている。L3キャッシュを持たないとはいえ同クロックで動作するクアッドコア製品であることから、マルチスレッド性能の高さが好結果に結びついたものといえる。とくに動画エンコード周りの強さはクアッドコア製品らしいところだ。

 逆にPhenom II X3 720 BEに対してアドバンテージを発揮できていない箇所を見ると、PCMark Vantageのデータ処理系テストであるProductivityやCommunicationsはL3キャッシュを持たないことがマルチスレッド性能を差し引いても大きく影響した結果だろう。CineBenchとPOV-RayのシングルスレッドテストあたりはL3キャッシュを持たない以外は同クロック、同アーキテクチャであるため、Phenom II X3 720 BEよりも若干遅いというスコアは妥当なところだ。

 Core 2 Quad Q8200に対しては一定の傾向をつかみ取ることは難しく、得手不得手がある結果。4,000〜5,000円程度の価格差を跳ね返すシーンがあることは意味ある結果といえるだろう。

【グラフ7】PCMark Vantage Build 1.0.0.0
【グラフ8】CineBench R10
【グラフ9】POV-Ray v3.7 beta 34
【グラフ10】Photodex ProShow Gold 4.0
【グラフ11】動画エンコード(SD動画)

 3Dベンチマークは、チップセット内蔵グラフィックの差も色濃く出るので、プラットフォーム比較という意味合いが強いものである。テストは、3DMark06(グラフ12、13)、BIOHAZARD 5 ベンチマーク(グラフ14)、ストリートファイターIV ベンチマーク(グラフ15)、FINAL FANTASY XI for Windows - Vana'diel Bench 3(グラフ16)である。BIOHAZARD5ベンチ、ストリートファイターIVベンチの設定はもっともクオリティが低いものを選んでいるが、後者の背景のみはHigh設定で表示するようにしている。FFベンチはHigh設定のテスト結果である。

 BIOHAZARD5ベンチはAMD環境で何らかのボトルネックが発生していると見られる意外な結果となった。それ以外はさすがにRadeon HD 4200を擁するだけあって、Intel G45環境を圧倒している。とくに一部タイトルにおいて、プレイ可能なフレームレートが出ているあたりはポイントになるだろう。ただ、Phenom II X3 BEに対しては目立って低いスコアとなっており、L3キャッシュを持たないことが大きく響いた結果になっている。

【グラフ12】3DMark06 Build 1.1.0(CPU Test)
【グラフ13】3DMark06 Build 1.0.1(SM2.0 Test,HDR/SM3.0 Test)
【グラフ14】BIOHAZARD 5 ベンチマーク
【グラフ15】ストリートファイターIV ベンチマーク
【グラフ16】FINAL FANTASY XI for Windows - Vana'diel Bench 3

 最後に消費電力のテスト結果である(グラフ17)。アイドル時とグラフィックへの負荷が大きい3DMark06実行時は、各環境とも横並びに近い結果となった。ただ、CPUへの負荷が大きくなるCineBenchや動画エンコードを見ると、Core 2 Quad Q8200の消費電力の低さが魅力的に映る。

 また、Phenom II X3 720 BEに対しても、パフォーマンス面とは逆にクアッドコアであるために消費電力がより高い。L3キャッシュがないとはいえ、コアが多いことが響いた結果だ。

【グラフ17】消費電力

●クアッドコアの価格破壊につながるか

 以上のとおり結果を見てきたが、似た価格帯のPhenom II X3 720 BEに対して、クアッドコアであることのメリットを感じさせる結果となった。ただゲーム周りではL3キャッシュを持つPhenom IIにアドバンテージがあるほか、消費電力が増えてしまっている。こうした性格を理解したうえで選択するべきだろう。

 一方、Core 2 Quad Q8200とは、アプリケーションによって善し悪しが分かれる結果となった。しかし、Athlon II X4にはコストパフォーマンスという大きなポイントがある。

 AMDの提示する参考価格は、Athlon II X4 620が10,980円、Athlon II X4 630が12,980円となっている。Core 2 Quad Q8200は1万円台後半の価格になっており、4,000〜5,000円程度の差がある。マザーボードはどちらも似たような価格の製品で揃えることが可能なので、Athlon II X4環境のほうが安価に揃えられることになる。

 それでいて、グラフィック性能は高く、一般的なアプリケーションでも勝ることがあるのだから、Athlon II X4の登場はクアッドコア製品として高いコストパフォーマンスを持った存在といえる。

 そもそもクアッドコア製品で1万円台前半という価格設定は、CPU全体の価格帯を動かす転換点になる可能性すら感じさせるインパクトあるものだ。これまでのクアッドコア製品は、安くても15,000円以上というのが一般的な相場だった。これが1万円台前半まで降りてきたことで、デュアルコアはさらにその下の価格帯(つまり完全なバリューセグメント)へと押しやられることになる。Intelが本製品に対抗して価格設定を見直すようなことがあれば、この動きは一気に加速するだろう。

 とくに日本の自作市場において、本製品は一定の成功を収めると予想している。Socket AM3であることからDDR3と組み合わせて一から導入しても、現在のDDR3の価格ならDDR2と比較してもそれほど大きなコスト負担にはならない。また、これまでSocket AM2のAthlon X2を使ってきたユーザーにとっても、(マザーボードのサポートは要確認だが)安価にクアッドコアを導入できる魅力的なアップグレードパスとなる。この価格ならセカンド/サードマシンもクアッドコア化しようと考えるユーザもいるかも知れない。このように、さまざまなユーザが恩恵を受けられる、オールマイティな製品というのが筆者の率直な感想だ。

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