瀬文茶のヒートシンクグラフィック

オウルテック「極-KIWAMI- 無双」

~ヒートシンクの設計を一新した無双シリーズ最新モデル

 今回は、オウルテックのサイドフローCPUクーラー「極-KIWAMI- 無双」(型番:OWL-CCSH08)を紹介する。購入金額は7,214円だった。

TDP 180W対応の黒いサイドフローCPUクーラー

 オウルテックの「極-KIWAMI- 無双」は、オウルテックが2009年に発売した「無双(MUSOU)」から続く同社のサイドフローCPUクーラーブランド「無双」シリーズの5代目となる製品。前モデルから約3年半の期間を経て登場した極-KIWAMI- 無双は、初代からマイナーチェンジを重ねてきた無双シリーズのヒートシンク設計を一新。冷却性能の目安となる対応TDPも150Wから180W(デュアルファン時は210W対応)に向上した。

 ヒートシンク本体は、サイドフロー型のCPUクーラーとしてはオーソドックスなシングルタワータイプのレイアウトを採用。ヒートパイプがCPUに直に接するヒートパイプダイレクトタッチ方式のベースユニットと、4本の6mm径ヒートパイプ、39枚のアルミニウム製放熱フィンを備える放熱ユニットによって構成されている。

 特徴的な仕様としては、エアフローを調整して冷却効率を高める特許技術「VGF(ヴォルテックスジェネレーターフロー)」に基づき、放熱フィンに施されたルーバー加工。熱伝導性の高い「TCC(Thermal Conductive Coating)」と呼ばれる黒色のコーティングで、ヒートシンク全面を覆っている点が挙げられる。

 極-KIWAMI- 無双には標準で25mm厚の120mm角ファンが1基同梱されている。PWM制御に対応するこのファンは、本体に設けられた切り替えスイッチにより、調整可能な回転数域を「800~2,200rpm」、「800~1,800rpm」、「800~1,500rpm」の3段階から選択することができる。

 ファンのヒートシンクへの取り付けには、専用の金属製ファンクリップを用いる。付属ファンは一般的な120mm角25mm厚ファンであり、市販の120mm角25mm厚のケースファンへの交換が可能。ファンクリップは2セット同梱されているため、市販のファンを購入して追加することで、デュアルファンでの運用も行なえる。

リテンションキット
標準搭載の冷却ファン。120mm角25mm厚で、PWM制御に対応
ファンには回転数域を切り替えるスイッチを搭載。最大回転数を3段階で調節できる
ファン固定用の金属製クリップと、追加ファン用の防振ゴム
ファンの固定状況。25mm厚の120mm角ファンであれば、市販のケースファンの搭載も可能
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE利用時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE利用時)

 CPUソケット周辺パーツとの干渉具合については、メモリスロットにはヒートシンクもファンも被らなかったが、拡張スロットにはファンクリップが被ってしまった。拡張スロットに被っているのはファンクリップの取っ手部分のみなので、クリップを曲げたり、絶縁テープでクリップを巻くなどの対策を講じれば、干渉問題を回避することは出来そうだ。

 リテンションキットは、マザーボード上に組み立てた土台にヒートシンクを固定するブリッジ式リテンションを採用。比較的シンプルな構造であるため取り付け方法が理解しやすく、ヒートシンクをしっかりマザーボードにマウントできる。なかなか良くできたリテンションキットであると言える。

 さて、極-KIWAMI- 無双には、少々不思議な箇所が存在する。それは、ヒートシンクの最上部にオウルテックロゴとともに配置された「ENERMAX」ロゴだ。

極-KIWAMI- 無双の最上部には、オウルテックロゴと共に、ENERMAXのロゴが配置されている

 ヒートシンクに詳しい読者諸氏はお気づきかもしれないが、極-KIWAMI- 無双が放熱フィンに採用した特許技術の「VGF」や、ヒートシンク表面を覆う「TCC」は、ENERMAX製のCPUクーラー「ETS-T40」シリーズで採用されていた技術だ。ENERMAXロゴについてオウルテックは特に説明していないが、なんらかの協力関係があったことは間違いないだろう。

 なお、極-KIWAMI- 無双は、ETS-T40 シリーズと似た形状のヒートシンクに見えるが、ETS-T40に比べ放熱ユニットの厚みを抑えているほか、フィンピッチを広く取る設計を採用するなど、全くの別物となっている。

左奥はENERMAX製CPUクーラー「ETS-T40-BK」。形状は若干異なるが、「VGF」に基づくルーバーフィンの採用や、ヒートシンクを黒色の「TCC」で覆っている点など、極-KIWAMI- 無双との共通点が多い。
左がENERMAX ETS-T40-BK。並べてみると、極-KIWAMI- 無双の方がフィンピッチを広く取っていることが分かる。

冷却性能テスト

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、極-KIWAMI- 無双の搭載ファンを「800~2,200rpm」モードにした上で、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定。それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

 3.4GHz動作時、極-KIWAMI- 無双が記録したCPU温度は52~55℃。これはCPU付属の純正クーラーより30~33℃も低い結果であり、十分に優秀な結果と言える数字だ。

 一方、オーバークロック動作時は、4.4GHz動作時に67~76℃、4.6GHz動作時に79~87℃という結果を記録した。今回のテストでのファン回転数下限は約840rpmであり、120mmファン1基でこの回転数まで落としても、4.6GHz動作時の負荷テストを完走できた点は評価できる。ただ、フル回転時は約2,200rpmで動作している割に、約840rpm動作時との差が少ない点は気になるところ。フィンピッチを広めに取っているヒートシンクの設計が、高速回転ファンより低速回転ファンとの相性が良いということなのだろう。

 動作音については、最低回転数の約840rpm動作時は十分静かであると言えるのだが、50%制御時の約1,350rpm動作時になると風切り音がはっきりと聞こえるようになり、フル回転時の約2,200rpm動作は大変大きな騒音が生じる。ファンを絞り切った状態でも、4.6GHz動作時のフルロード負荷を完走できる程度の冷却性能はあるので、ファンの切り替えスイッチで最大回転数を落とし、できるだけ低い回転数で運用すると良いだろう。

ハイクオリティなマットブラックコーティングが魅力の一品

 極-KIWAMI- 無双は、本連載の負荷テストをクリアできる程度の冷却性能を持ち、リテンションやファンクリップの使い勝手も良い、大きな欠点のないCPUクーラーだ。ヒートシンクを覆う美しいマットブラックコーティングも魅力的である。

 同じ表面処理を施しているENERMAXの「ETS-T40-BK」と比較した場合、対応TDPでは劣るものの、メモリスロットとのクリアランスに余裕があり、低速回転ファンとの組み合わせで性能を確保できる設計を採用した極-KIWAMI- 無双の方が、より扱いやすい製品であると言える。

 極-KIWAMI- 無双の弱点は価格だ。大きな欠点もなく、見た目の良さも備えた製品ではあるが、筆者が購入した7,214円という価格を考えると、これらの魅力は霞んでしまう。もっとも、現在は価格が下がってきており、5,000円台後半から6,000円台前半で購入できるようになりつつある。この調子で価格がこなれてくれば、ミドルレンジ製品の1つとして、選択肢に加えられるようになりそうだ。

オウルテック「極-KIWAMI- 無双」製品スペック
メーカーオウルテック
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ6mm径×4本
放熱フィン39枚
サイズ137.5×85×160mm (幅×奥行き×高さ)
重量625g
付属ファン120mm角25mm厚ファン
電源:4ピン(PWM制御対応/回転数3段切り替えスイッチ搭載)
回転数(1):800~2,200rpm(ノイズ:8~35dBA)
回転数(2):800~1,800rpm(ノイズ:8~30dBA)
回転数(3):800~1,500rpm(ノイズ:8~25dBA)
サイズ:120×120×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/1150/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2/AM2+/AM3/AM3+/FM1/FM2/FM2+

(瀬文茶)