瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Noctua「NH-U12S」

~“100% RAM Compatibility”を謳うナロータイプサイドフロー

 今回は、先日発売がスタートしたNoctuaの2013年新作CPUクーラー2モデルから、120mmファン搭載モデル「NH-U12S」を紹介する。購入金額は8,280円だった。

メモリとの高い互換性を実現した薄型ヒートシンク

 「NH-U12S」は、150mmファン搭載のサイドフローCPUクーラー「NH-U14S」とともに発売開始となった、Noctuaブランドの最新CPUクーラーである。オーソドックスなサイドフローレイアウトを採用するヒートシンクに、同ブランドのオリジナル120mm角ファン「NF-F12 PWM」が1基標準搭載されている。

 厚さ45mmという薄型の放熱ユニットが特徴のヒートシンクは、5本の6mm径ヒートパイプとベースユニット、55枚のアルミニウム製フィンで構成されている。ヒートパイプの接続箇所のろう付けをはじめ、細部にまで妥協のない作り込みと、放熱フィンに施された光沢感控え目のメッキ処理により、「NH-U12S」はNoctuaブランド特有の上品な高級感を持つヒートシンクに仕上がっている。

 「NH-U12S」の標準ファンとして同梱されている「NF-F12 PWM」は、以前紹介したNoctuaのトップフロー型CPUクーラー「NH-L12」に付属していたものと同じファンだ。PWM制御に対応し、回転数を500~1,000rpmの範囲で調整できるこのファンは、フレームの4隅に防振用のゴムを備えるほか、排気側に風の指向性を高める整流板を備えている。なお、「NH-U12S」は追加ファン搭載用のファンクリップが同梱されているため、市販のケースファンを追加することで、デュアルファンでの運用も可能だ。

 「NH-U12S」は、放熱ユニットの厚みを抑えることで、大型のCPUクーラーで発生しがちなヒートシンク付メモリとの干渉問題が起こらないように設計されており、Noctuaは「100% RAM Compatibility」であると謳っている。実際、本連載でテストに利用しているIntel Z77 Expressチップセット搭載マザーボード「ASUS MAXIMUS V GENE」に搭載した際も、メモリスロットと「NH-U12S」の間には十分なクリアランスが確保されていた。

 また、120mmファン用に設計された「NH-U12S」は横幅も125mmと比較的コンパクトなため、拡張スロットとCPUソケットの位置が近い「ASUS MAXIMUS V GENE」との組み合わせでも、拡張スロットとの干渉問題も発生しなかった。全高も158mmとサイドフロー型CPUクーラーとしては平均的な高さなので、周辺パーツやケースとの干渉問題が起こりにくいヒートシンクと言える。

 周辺パーツとの互換性という点においては優秀な「NH-U12S」だが、互換性という点ではリテンションキットの仕様変更が気になるところだ。「NH-U12S」は未発表のCPUソケット「LGA1150」への対応が追加された一方で、「LGA775」と「LGA1366」が非対応となった。両ソケットとも既に後継プラットフォームが登場して久しいソケットであるため、このサポート切り捨ては仕方のない面もあるが、問題はLGA115xソケットでの互換性だ。

LGA 115xソケット用のバックプレート
MAXIMUS V GENE取り付け時。バックプレートがコンデンサに若干乗り上げてしまっている

 「NH-U12S」には、LGA 115xソケット向けに、ネジを一体化したバックプレートを用意しているのだが、このバックプレートがマザーボード裏面の実装部品と干渉しやすい仕様となっている。筆者の検証機材では「ASUS MAXIMUS V GENE」のほか、同じチップセットを備える「MSI Z77 MPower」で、マザーボード裏面の実装部品との干渉により取り付けが行なえないという問題が発生した。

 今回の検証では、「NH-L12」のリテンションからバックプレートを流用して「ASUS MAXIMUS V GENE」に取り付けを行なったが、従来のリテンションキットに比べ、明らかに互換性が低下している点に注意が必要だ。なお、記事執筆時点では、NoctuaのWebサイトに「NH-U12S」の互換性リストは掲載されていない。

冷却性能テスト結果

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定した際の温度をそれぞれ取得した。

 検証結果を確認していくと、3.4GHz設定時のCPU温度は、ファンが約1,480rpmで回転するフル回転時に56℃、約780rpm動作の50%制御時は64℃、約300rpmという極低速動作の20%制御時は91℃を記録した。CPU付属ファンより21~29℃低い値を記録したフル回転時と50%制御時に対し、20%制御時の91℃という温度の高さが際立つが、回転数300rpmの120mmファン1基構成では仕方のない結果と言えるだろう。

 CPUの発熱が増すオーバークロック時の温度は、4.4GHz設定時に69~79℃、4.6GHz設定時は79℃~90℃を記録した。なお、3.4GHz設定の時点で91℃を記録していた20%制御時は、4.4GHz、4.6GHzとも94℃を超えたため、テストを中止している。20%制御時のデータはともかく、120mmファンとしては低速から中速程度の回転数で動作するファンでの結果としては、なかなか優秀なパフォーマンスであると言えそうだ。

 なお、動作音については20%制御時はもちろん、約780rpm動作の50%制御時もファンの動作音はほとんど気にならなかった。フル回転時の動作音については、それなりの風切り音が発生するため静音と呼べるレベルではないが、50%制御時の結果を見る限り、極端なオーバークロックをしなければファンの回転数を絞っても十分なパフォーマンスは得られるだろう。

ヒートシンクの完成度は流石だが、リテンションには難あり

 メモリや拡張スロットとの干渉を回避できるようヒートシンクサイズを小さくしているにも関わらず、冷却性能テストでは、オーソドックスな形状のサイドフロー型CPUクーラーとしてはかなりハイレベルな結果を記録した。

 ヒートパイプの本数など、スペック的には決して最高峰とは言えない「NH-U12S」のヒートシンクだが、細部までしっかり作り込んでいるからこそのパフォーマンスなのだろう。ヒートシンクそのものの出来に関しては、ケチの付けどころが見当たらない流石の出来栄えである。

 他方、前述のとおり「NH-U12S」と、同時に発売された「NH-U14S」から採用された新型リテンションキットに関しては、従来のNoctua製品に同梱されていたリテンションキットより互換性が低下している点は残念だ。「NH-U12S」でも、従来の製品と同じように詳細な互換性リストが公開されることに期待したい。

Noctua「NH-U12S」製品スペック
メーカーNoctua
フロータイプサイドフロー型
ヒートパイプ6mm径×5本
放熱フィン55枚
サイズ(ヒートシンクのみ)125mm×45mm×158mm(幅×奥行き×高さ)
重量580g (ヒートシンクのみ)
付属ファン120mm角25mm厚ファン「NF-F12 PWM」 ×1
電源:4ピン(PWM制御対応)
回転数:300~1,500rpm(1,200rpm、静音化アダプタ使用時)
最大風量:93.4立方m/h(74.3立方m/h、静音化アダプタ使用時)
ノイズ:22.4dB(18.6dB、静音化アダプタ使用時)
サイズ:120×120×25mm
対応ソケットIntel:LGA1150/1155/1156/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2

(瀬文茶)