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今後プロとしてゲーム制作に関わりたい人向けのUnreal Engine 4マシン

~プログラマーであれプランナーであれ、UE4の経験は大きなメリットに

Unreal Engine 4

 特定用途において、コストパフォーマンスに優れたPCとはどのようなものか、そしてそれを取り巻く周辺機器の必要性を、専門家やライター、およびじっさいにPCを製造するパソコン工房、PC Watchがともに検討。現実にPCを製品化していくとともに、周辺機器およびその活用を幅広く紹介するこのコーナー。

 今回は、ゲーム製作統合開発環境として定番のEPIC GAMES製「Unreal Engine 4」(UE4)に向けた最適なマシンを探る。本企画ではEPIC GAMES JAPANサポート・エンジニアの岡田和也氏にご協力いただいた。

ビッグタイトルはもちろん、インディーズゲームや映像作品にも使われているUnreal Engine 4

若杉: 今回の企画にあたって、事前に岡田さんとミーティングをさせていただきました。その結果、すでにUE4で開発を行なっているゲーム開発者の方は、PCスペックの知識もかなりあるだろうことから、今後プロのゲームクリエイターを目指したい開発者のタマゴの方に向け、コストパフォーマンスを高めるにはどういうスペックにするのがいいのかを議論するのが良いのではという話になりました。

 その前提で進めたいと思いますが、まずは岡田さんに自己紹介と、簡単な仕事内容のご説明をお願いします。

岡田: EPIC GAMES JAPANの岡田和也と申します。職種はサポートエンジニアで、UE4のカスタマイズをして新機能を作るというよりも、UE4を使っていただいているゲーム会社や映像系のライセンシーの方へのサポートをおもに行なっています。

 また最近は、ライセンシーの方のところに直接お伺いして、その場で質問に答えたり、じっさいのプロジェクトに触ってみて、ここをこう変えたらいいんじゃないですか、といったご提案をしたりしています。

EPIC GAMES JAPANサポート・エンジニアの岡田和也氏

 このほかには、一般ユーザー向けの勉強会を開くこともあります。4月と10月にUNREAL FESTという大型の勉強会を毎年やっているのですが、そちらでもいろんなライセンシーの方をお呼びしてお話しいただいたりとか、われわれも新しい機能やノウハウのご紹介もしています。

若杉: Unreal Engine 4について、何ができるソフトウェアなのかといったところを簡単にご説明いただけますか。

岡田: UE4はゲームエンジンで、さまざまなゲームを作るためのツールや、プログラミングなど全般的なものがぎゅっと詰まった統合開発環境です。国内のゲームではドラクエや鉄拳、キングダムハーツ3だったり、さまざまなものに採用されていて、このあたりはご存知の人も多いかと思います。

UE4採用タイトル

 ただ、Unreal Engineというと、AAAタイトルと呼ばれる超大型作品で使われているイメージが強いですが、最近は学生さんが卒業制作で使ったり、中小規模の企業さんでもお使いいただいて、製品を出されているところもあります。いわゆるインディーズタイトルの開発にも使っていただくこともあります。

 あとは、ゲームだけではなく、映像や建築分野といったエンタープライズ、ノンゲームでも使われはじめています。海外で有名なところとしては、スター・ウォーズの「ローグワン」の最終カットで使われています。あるいは、現実に近いフォトリアルな表現が得意ですので、自動車産業や建築分野でも使われたりしています。

 国内ではアニメでも使われはじめていますね。株式会社サンジゲンさんでUE4を使った検証が進んでいます。DCC(Digital Content Creation)ツールで作った絵をUE4に乗せてみて、アニメ調の絵をゲームエンジンで再現しています

 今まではプリレンダーソフトで、1フレームレンダリングするのに何時間、という世界だったのですが、ゲームエンジンを使うことで、1秒間に数十枚という今までは考えられない速度で出力できるので、より効率よく作業を進められるのではないか、という検証が盛んに行なわれています。

 ポリゴン・ピクチュアズの事例では、「Project LayereD」というプロジェクトが進んでおりまして、これはバンダイナムコエンターテインメントさんとポリゴン・ピクチュアズさんが組んでやってるアニメのプロジェクトです。今度のUNREAL FEST 2017でもご登壇いただいて、どのようにしてUE4を既存のワークフローに組み込んだか、というお話をしていただく予定です。

 これのおもしろいところは、モブと呼ばれる周囲の群衆キャラクターをUE4のAI機能を用いて自動的に配置したり、モブの挙動もUE4が持つAIに従って自由に動かしたりという試みをされています。

 今までのプリレンダでは、現場の人が1キャラずつ手で置いていかなければいけなかったところが、AIに任せることでより効率的に進められるということもしているようです。

 こちらは、UE4を使ったクルマのPV作成プロジェクトです。マーカーをつけた車をじっさいに走らせて、その結果をトラッキングしてUE4上で展開し、まだ開発されていないクルマを表示しています。

若杉: これも全部リアルタイム描画なんですよね。

岡田: そうです。クルマの場合はリアルタイムに色や形状を変えたい、といったご要望にもすぐに応えられるようにしています。今は見る方も自分で内容を変えたりできるコンテンツのほうが印象に残りやすいと思いますので、そういったところにゲームエンジンを活用いただいているのかなと思っています。

無償で利用開始できるUE4

若杉: 広く採用が進むのは、UE4を使うメリットがあるからだと思うのですが、そのなかでも差別化できる特徴をいくつか教えていただきたいです

岡田: まずは無償で利用開始できる点があります。一般ユーザーなら、ゲームを販売して、その売上が四半期で3,000ドル(約33万円)を超えて初めて、超えた分から5%をライセンス料としていただく形になっています。

 ノンゲームの場合はライセンス料をいただいていませんので、たとえば映像系でお使いなら、完全に無償でお使いいただけます。その場合はEPIC GAMESからのサポートをご提供していませんので、サポートが必要な場合は有償となります。ですので学生さんなら、ほぼ完全に無料で使えるような感じですね。ダウンロードもアカウントを作るだけでできますので、やる気さえあれば、いつでも利用開始できます。

若杉: ゲームを作るにあたっては、キャラクターデータやSE、音楽など、いろんな素材が必要になりますが、そういったアセットは別の専用ソフトで作って、取り込んで使う形になるんですよね。

岡田: そうですね。でもとくに学生さんの場合は、それらを全部自分で作るのはたいへんです。初心者の場合はどう触ったらいいのかわからないと思いますので、弊社ではさまざまなサンプルプロジェクトや動画を「Epic Games Launcher」で無償で公開しています。

 こういった素材をとっかかりにしていただき、またこういったものを見て、UE4を使ってどうやってコンテンツを作ればいいのかとか、最先端のプロはどのような作りにしているんだろう、というのがここから学習していただけます。加えて、これらのアセットはすべてご自身のプロジェクトでも自由にお使いいただけるようにしています。

 ほかのユーザーが販売しているアセットもありますので、そちらを購入いただければ、さらにいろいろとゲームに工夫を取り入れることもできます。以前は高価なアセットばかりだったのですが、最近は手頃なお値段のアセットも増えてきました。定期的にセールもやっています。

チュートリアル動画のほか、高品位なアセットのサンプルも無償で公開されている

若杉: アカウントがある人であれば、購入だけでなく販売もできるのですか?

岡田: できます。アセットの審査はありますが、それにとおれば販売できます。キャラクターのアセットは海外らしい見た目のものがまだまだ多いので、ぜひ日本らしいキャラクターをたくさん登録してほしいですね。

コーディングができない人でもプログラミングができる「ノード」機能

岡田: そのほかのUE4の強みとしては、アーティストやプランナーの方に向けた「ノード」と呼ばれる、箱と箱をつなぐかたちでプログラミングできる仕組みを作っています。

 内部的にやっていることは今までのプログラミングと一緒なのですが、コーディング能力がなくてもある程度まで作れるようになっています。

ノード同士をつなげていくことでコーディングができる

若杉: フローチャートを書いていくだけのような感じでプログラミングができるんですね。

岡田: そうです。もちろん、C++で組むことも可能ですので、エンジニアと非エンジニアの両方のニーズに応えることが可能です。

若杉: プログラミングができなくても、ノードを使ってある程度のことはできるようになるということは、逆に言うと、プログラミングをしないプランナーやディレクターもUE4を使えたほうがチームのなかでコミュニケーションが取りやすくなるとか、開発が効率化されるといった効果も期待できるわけですね。

岡田: 大規模なプロジェクトでは、プログラマーの手が回らないといったケースはとても多いので、ちょっとした検証にエンジニアを使うのはもったいない、コストはかけれられないといったところで、最近の流れでは、アーティストやプランナーがノードでコードを作って、試すといったことが行なわれているそうです。

 じっさい、有名なところでは、「キングダムハーツ3」のアーティストやプランナーがいろいろと試されているという話は聞きます。

 ですので、一昔前までアーティストはモデルを作っていればいい、プランナーは遊びの企画書を書いていればいいといったところがあったのですが、今はお互いの範囲を少しずつ重ねていくようなかたちがベストだと話されています。大規模なプロジェクトでは、そうしないと手が回らないということです。

 UE4ではほかの分野の領域に簡単にさわれるので、勉強のきっかけにもとてもいいかなと思います。アーティストの方でも簡単にプログラミングできますし、プログラマーの方でも、絵作りの部分を学べます。そこが強いですね。

カットシーンを作成できる「シーケンサー」機能

動画編集ソフトのように使える「シーケンサー」

岡田: それから、映像系の分野で使うメリットとしては、「シーケンサー」と呼ばれるカットシーンのエディタをご用意しています。Epic Games Launcherで無償公開している「シーケンサー」プロジェクトは、じっさいにカットシーンのサンプルプロジェクトになっています。

 エディタ上でリアルタイムに動いている絵はかなりきれいなので、一昔前なら本当にリアルタイムなの?、と驚かれることも多いです。カットシーンで、ちょっと映像の流れを変えたいなと思ったとき、今までのプリレンダーですと、半日待ってようやくできたものを編集して、といったかたちだったのですが、UE4を使うと、ドラッグ&ドロップだけで簡単かつリアルタイムにシーンを編集できます。カット割りだけでなく、音もドラッグ&ドロップで簡単に追加できます。

 ゲームでも使えるツールですので、ゲーム用のプログラミングをシーケンサーから呼び出すこともできます。たとえばプログラマーはプログラムをパーツとして組んで、デザイナーは中身を気にせずに、パーツをシーケンサー上で組み合わせて、イベントシーンを作るといったことも可能です。

 そして作ったものをそのまま動画ファイルとして出力したり、あるいはフレームの絵を1枚ずつ保存もできます。もちろん、さまざまな映像系ミドルウェアと組み合わせることもできるのですが、やはり外部ツールと連携させればさせるほど、いろんな変換処理がはさまってコストがかさんでしまうので、なるべくUE4上で完結しておくと、効率よく作業が進められるかと思います。UE4の強みは、それらをUE4だけでできるところです。

若杉: 無償3Dのアニメーションツールとして日本では、「MMD(MikuMikuDance)」も人気があります(「俺の嫁」が液晶から飛び出した!~MikuMikuDanceの誕生から3D Vision対応まで参照)。それらに対して、UE4を使うメリットや優位性については、どうお考えですか?

岡田: MMDの強みはキャラクターのアニメーションをエディタ上で作れるところだと思うのですが、UE4でも最近、エディタ上でモーションをつけられるようになりました。さすがにモーションをつける専用のソフトと比べると簡易的なものなのですが、関節をエディタ上で動かすことで簡単にアニメーションを作れます

 プロの方でしたら、既存のアニメーションをこの機能で補正したりといったことにも使えると思います。UE4の場合はじっさいのシーン上で編集できる点も特徴です。たとえばMayaで作っている場合、Maya上の見た目でしか調整できないので、じっさいにゲーム上のシーンに乗せてみると、なんかイメージが違うな、とか、物理効果がちゃんと適用されてないな、といったことが起こります。なので現在、Maya上の変更をUE4上でリアルタイムに反映する機能を開発中です。

 MMDとの対比という点では、UE4はプロがじっさいに使っているツールだというのが強みだと思います。たとえばゲーム会社ではUE4が使われているので、ゲーム会社に入りたい方が事前に触っておいてもその経験は無駄にはならないと思います。確かにMMDは一時期、アニメのモーション付けに使われていたこともあったのですが、現在、現場で使うことはほぼないでしょう。

 趣味ならばどちらでも問題ないと思いますが、ゲーム会社やアニメ制作会社に入りたい、という学生さんには、UE4を使っていただきたいなと思います。

若杉: MMDだけではゲームは作れないですから、本格的にゲームを作りたいと考えるならば、UE4を選ぶべきだというわけですね。

UE4はオープンソースで公開

岡田: もう1つの大きなメリットは、オープンソースであることです。

 UE4のコードは、アカウントさえ作れば、一般の方でも中身を全部見られるようになっています。これは一昔前なら考えられなかったようなことです。

 無料ユーザーでも、じっさいにどのようなコードで動いているかを見ることができます。新しい機能がどこにどう入ったかも全部見られますので、不具合報告や改善のご提案なども、サイトを通じてわれわれにプッシュしていただくことも可能です。

 じっさい、先日リリースされたバージョン4.17では、300ある追加機能や修正、改善のうち、90くらいは一般のユーザーさんから寄せられた内容を反映したものとなっています。

 たとえば開発の終盤でゲームエンジンが原因の不具合が出た場合に、ゲームエンジンがブラックボックス化されていると、不具合が出た時点でゲームエンジンの開発会社に修正依頼を出して、解決を待たないといけないのですが、UE4の場合はすべて公開しているので、やろうと思えば自分たちで解決できるといったところはメリットです。

 不具合がないのがベストなのですが、不幸にも不具合が出た場合も、ユーザーの方がなんとかできる可能性があります。

 また、ドキュメントも充実しており、EPIC GAMESだけでなく、UE4を使っている世界中のユーザープロジェクトのノウハウがエンジンに蓄積されているのはかなり大きな強みかと思います。世界中からバグチェックされているようなものですね。

ゲーム製作で求められるスペック。GPU周り

若杉: UE4はプロがじっさいに使っているソフトウェアであるし、これからプロを目指す方にも使うハードルが低く、無償で使えるアセットが用意されているというところで、入門のツールとしても好適であることがわかりました。専門学校の学生さんなど、これからゲームを作っていきたい方たちはUE4をさわっておくべきでしょう。

 ということで、今回はそこに焦点を当てたPCを考えてみます。

まず、ふつう3Dレンダリングは「重い」ですよね。ですが、印象として、先程シーケンサーのデモを拝見したかぎり、レンダリングの品質も高く、フォトリアルであるわりに、軽い動作をしていた気がするのですが、今回岡田さんが持ち込まれたノートのGPUは何ですか?

岡田: ノート向けのGeForce GTX 1060です。

若杉: UE4はフレームレートも出せましたよね。じっさいの数値としてはどのくらい出ていますか?

岡田: 今は100fpsを超えるくらい出ていますね。かなり軽いですね。

若杉: EPIC GAMES制作のデモは無償で公開されていて、アセットが使える。初めにこれを触ってみることは良いことだと思うので、この「シーケンサー」プロジェクトがストレスなく動くスペックを持つことは、UE4入門者向けのPCとしての指標になるかと思います。

 とりあえず1060があればこれくらいは動くということで、もう1つ下のクラスでも動かせそうですね。

 一方で、ゲームの開発をするとき、開発用のPCは基本的にそのゲームの最低スペックや推奨スペックと同じか、もしくはそれよりも高いスペックを目指すべきなのかをお聞きしたいです。

岡田: 最終的に出したいスペックよりも高いスペックのほうが良いです。これは「ゲーム開発あるある」なんですが、初めにどんどん夢のある仕様で盛って作り込んで、最後になんとか現実的なスペックに急いで落としていく流れがどうしてもできてしまいます。

 開発機としてギリギリなスペックで作ると、現実的なスペックに落とし込む段階で、本当はやりたいのに試せない、といった状況が生まれてしまうので、余裕のあるスペックで開発するのが理想です。

 また、アーティストさんの場合は、UE4を立ち上げながらPhotoshopやMayaを立ち上げるケースもありますので、そういった用途にある程度耐えられるように、想定しておくべきでしょう。

CPU

若杉: ゲームを動かすなかでCPUの負荷が高まる場面というのは、どういった処理なのでしょうか。

岡田: CPUに関しては、物理演算が多くなると、負荷が上がります。たとえば物理演算ベースで大量のキャラクターをふっ飛ばすようなケースなんかは、かなり重くなります。

若杉: キャラクターAIの処理は重いものなのでしょうか?

岡田: どこまで賢くするかによりますね。フレームごとに複雑なAIを働かせると、どんどん重くなりますし、それが100体、1,000体いたなら、負荷は倍々ゲームで増えていきます。

 なので「考えるのは1秒に1回」といったかたちで工夫をすれば、軽くはできると思います。ただ、そういった試行錯誤をするにしても、ある程度のスペックがなければすぐにいっぱいいっぱいになってしまって、待ち時間で作業が止まってしまうので、それはもったいないかなと思いますね。

パソコン工房: CPUについては物理コアと論理コアの数が気になりますが、いまだと一般コンシューマ向けにも8コア/16スレッドのRyzenなどが出てきました。このあたりの効果はどうでしょう?

岡田: 難しいですね……。ゲームが使うコア/スレッドを均等にすれば多コアを有効活用できますが、そのためにはエンジンをカスタマイズする必要があります。L2キャッシュが大きいほうが有利なケースもあるかもしれませんが、一概には言えないですね。

若杉: このあと、今日の話をベースに、ユニットコムさんの方で最適なスペックに落とすために検証をするのですが、そのために重めのアセットを紹介いただけますか。

岡田: 重いシーンですと、UE4の「2大重いシーン」がありますね。オープンフィールドで物がいっぱい置いてある「少年とカイト」は、対象となるスペックが6コア@3.3GHzなので、かなり重いですね。最低でも4コア@2.8GHz必要ですし。

若杉: このデモは、ゲームとしては大きな規模と考えていいのですか?

岡田: ゲームでもまだまだこの規模を動かすのはかなりチャレンジングではあります。リアルタイムで動いてるとはいえ、超ハイスペックなPCでリアルタイムといったところなので、たとえばこのレベルと同じのゲームを作ったとしても、ではどのくらいの一般ユーザーがこれを遊べるんだという話になってしまいます。

若杉: ハイエンドな検証をするなら、これを試すと重いところがわかってくるということですね。

岡田: 確かに、良い指針ではあるかと思います。

 もう1つ「インフィルトレーター」はカイトの2年ほど前に公開したデモです。これはさっきよりは軽いですが、これらの2つで検証されるのがいいのかなとは思います。

これも、アカウントがあれば無料で落とせます。UE4で開いてプロジェクトを再生すれば動かせるので、検証はしやすいかなと思います。

メモリとストレージ

若杉: メモリはどういうところで使うのでしょうか。

岡田: こちらも物理演算で多く使われますね。それから、キャラクターのテクスチャを読み込んだりします。最近の映像作品ですと、キャラクターに4K解像度のテクスチャを使ったりもします。それだけで5MBや10MBくらいは持っていかれてしまいますので、それが積み重なると、メモリもパンパンになってきます。あとは、光源のビルドや焼き込み作業をするときも、メモリがないと厳しいケースはあります。

 ほかにも、UE4を起動しながら、Photoshopで高解像度の画像編集などすると、かなりメモリが使われます。

 そういう点を考慮すると、8GBではやや不安ですね。16GBあれば大体は問題なく、もう少しヘビーな使い方をするなら32GBかなと。一般ユーザーでしたら16GBでいいかなとは思います。

若杉: ぼくも少しUE4をさわったのですが、シーケンサーを使ったところでメモリ占有量は1GBくらいで、そんなには使ってないかなと思いました。

岡田: それはシーケンサーで扱っているのが小規模なステージだということも影響してくるのかなと思います。この規模で終わるようなコンテンツはなかなかないので、ゲーム内のシーンが広がると、2GB、3GBと増えていきます。

パソコン工房: UE4は、メモリにいったんデータを全部置くのですか?

岡田: エディタ操作の場合はそうですね。じっさいのパッケージにしてExeファイルを実行する場合はアセットが使われたタイミングで初めてメモリに載るのですが、エディタの場合はいろんな作業内容をとりあえずどんどんメモリに展開します。そのため、長く作業すればするほど、前のシーンで使っていたものがメモリ上に残り、積み重なっていきます。

 ただこれは、エディタで操作するさい、アセットを毎回HDDやSSDから読み込むと、待ち時間がかなり増えるので、あえてそういう仕様にしてあるのだと思います。

パソコン工房: あふれ出した時点でストレージにスワップしていくということですか。

岡田: そうですね。

岡田: その関連で言うと、ストレージはSSDのほうがお勧めですね。いろいろなアセットを読み込むときに、I/Oがネックになることが多いので。HDDと比べてSSDはI/Oがかなり改善されますし、プログラマーの場合はビルドも速くなるので、できればUE4はSSDに置いていただいたほうがいいと思います。

パソコン工房: UE4をインストールすると、30GBくらい使いますよね。そこからさらにアセットの容量が加算されていく。

岡田: エンジンを立ち上げていろいろ作業すると、中間ファイルも増えていきますので、ストレージ容量はかなり必要ですね。アセットの導入を考えると容量は256GBだと厳しいと思います。

パソコン工房: 先程、メインメモリは大事だという話があったのですが、ビデオメモリについてはいかがでしょうか?

岡田: 必須環境として指定はありませんが、私達が普段会社で使っているビデオカードはGeForce GTX 980で、ビデオメモリは4GB搭載しています。そのほかは、CPUがXeon E5-2643 v3(6コア/3.4GHz)、メモリ64GB、SSD 256GB、HDD 2TBとなっています。

パソコン工房: ビデオメモリは4GB程度あれば、事足りるということでしょうか?

岡田: そうですね、よほど重いものでなければGTX 980で十分かと。現在ならGTX 1060や1070があるので、そちらになるかなと思うのですが。980もわれわれが検証・開発で使うレベルなので、一般ユーザーでしたら、もう少し落としてもいいのではないかと思います。というのも、われわれの場合はVRの検証もしていますので、少し高めのスペックになっています。

パソコン工房: グラフィックメモリはゲームを開発する状況では、それほど大きな要素にはならないということですね。

岡田: そうですね、リッチなグラフィックのものを作らなかったり、VRをやらない場合は、それほど必要にはならないはずです。

パソコン工房: ただ、4GBは、4Kになるとさすがに厳しい容量ではありますよね。ぎりぎり足りないかもしれないです。

岡田: そうですね、PS4やXbox Oneプラットフォーム向けのプロの開発環境ですと、事前計算したものをテクスチャに焼き込んで使いまわしたりとかはしていますね。そうしないと、メモリとかさまざまなものが足りなくなってきます。そういったテクニックも、エンジン側である程度カバーしています。最新バージョンでは、ボタンを押すだけで、シェーダーをテクスチャに落とし込んでしまうといった機能も入っています。

パソコン工房: E5-2643は、デュアルソケットですか、シングルソケットですか?

岡田: 基本的にシングルで、アーティスト寄りの検証システムはデュアル構成です。

ディスプレイ環境

若杉: ディスプレイの必要解像度はどの程度でしょう。

岡田: 外出時はノートPCなのでフルHDで使っていますが、フルHDではちょっと狭いなということはあります。会社では4Kディスプレイを使っています。

 UE4の場合は別ウィンドウを開いて作業するケースが多いので、個人的にはデスクトップPCにしてディスプレイは2枚以上ほしいところですね。ノートPCでも外部ディスプレイをつなげばいいのですが、ちょっと使いにくいかなとも思います。

パソコン工房: 3Dモデラーさんに話を聞くと、横長のシネスコサイズを好きで使っていると聞きます。左右にメニューを開いていくので使いやすいとか。そういう話はありますか?

岡田: モデリングではないのですが、ノードを使うときに横長がいいという状況があるかもしれません。通常のコーディングだと縦に延びていきますが、UE4のノードは縱橫どちらにも伸ばせます。ただ、UIとして縦に長くなるウィンドウが多いので、横幅はあまり気にしなくてもいいのでは、という気がします。

若杉: 画面解像度は、最低でもフルHDは欲しいというところですね。予算に余裕があれば、フルHDを2枚とか、4Kにするというのもありでしょう。

岡田: 映像用に4K設定もありますので、それを試してみたいという方は、4Kで使ってみてもいいかもしれませんね。

若杉: UE4自体をマルチウィンドウで使う局面というのはあるのですか?

岡田: サンプルを見ながら作業したい、といった場合は、エディタを2つ立ち上げて作業するケースはあります。それにUE4は別のプロジェクトのアセットをさらに別のプロジェクトのアセットとして流用できますので、そのさいにどちらも立ち上げることはあります。また、作業しながら、じっさいのシーンではどう見えるのかを確認するときは、複数のウィンドウを立ち上げますね。

若杉: ソフトによっては、1枚のディスプレイでやりくりするよりは、複数のディスプレイを並べたほうが使いやすいというケースもありますよね。片方で編集作業をしつつ、もう片方でプレビューをするという使い方とか。

岡田: 私としても、普段使いではディスプレイは2枚あったほうが良いかなとは思います。ドキュメントを開きながら作業することも多いので、個人的にはできれば3枚はほしいですね(笑)。

若杉: 2枚をUE4で使いながら、もう1枚でドキュメントを参照する使い方ですね。

岡田: 申し上げるのを失念していたのですが、UE4の強みはもう1つあって、ドキュメントの日本語化にも力を入れています。これはとくに学生さんにはうれしいポイントなのではないかと思っています。ほぼすべてのドキュメントを日本語化しているので、活用しやすい環境になっているかと思います。

学生向けコンテストなども協賛

若杉: 大学生くらいの、若い人向けのPCという観点では、クリエイターになりたい人向けに「ぷちコン」というイベントもありますね。

岡田: UE4専門で事業を展開されている株式会社ヒストリアさんが主催されているイベントですね。応募数は50~60点とかなり増えてきまして、内容もかなり作り込んだものもあれば、とりあえず作ってみました、というものもあります。取っ掛かりとしては今後に繋がるものなのではないかと考えています。

 今はちょうど第8回目の応募受け付け期間中です。われわれとしてもすごくありがたい試みです。ここで優勝された方がその後いろんな企業に入っていっているようです。じつは私も第2回のときにここで優勝したことをきっかけに、EPIC GAMES JAPANに入社した経緯があります(笑)。

 ぷちコンは毎回テーマが設定されていて、それに即したものを作ろうというものです。アイデア一発勝負で優勝もできます。一例として、前回、学生さんが制作した「危険スマホ」という作品は、ここで取り上げられたことをきっかけに、海外のイベントで展示されたりもしました。

若杉: 大学生が何か作りたい、となったときには、モデリングやプログラミング、音楽といったそれぞれの役割をチームで分担して作ると思うんですよね。そのとき、複数のマシンでそれぞれがUE4を使って制作を進めると思うのですが、そういったチーム作業はサポートしているのでしょうか。

岡田: できます。サーバー上にマスターデータを置いて、それを必要に応じて取ってきて、更新したものをまたサーバーに適用するといったことが可能です。サーバーに置いて管理する部分には別のツールが使われますが、UE4をそのツールと連携させることで、UE4上で使用中のファイルに触ると、「そのアセットは使用中なので触らないでください」といった表示を出すことができます。

 具体的には、「Perforce」や「SVN」、「Git」といった有名どころには対応していますので、チーム作業をするさいには、そういった連携機能を使うことで、トラブルなく制作を進められるかと思います。

若杉: では、今回岡田さんに伺った話をもとに、「シーケンサー」程度のアセット向けや、「少年とカイト」、「インフィルトレイター」などやや重めのアセットなどを快適に動かせるマシンをパソコン工房さんに提案してもらいます。後編では、そのマシンを使った感想などを岡田さんに伺いたいと思います。