■西川和久の不定期コラム■
最近雑誌の付録と言うには大胆なものが付くケースをちらほら見かける。今回ご紹介するのもその1つ。12月19日売りのオーディオ誌「Stereo 2012年1月号」の付録は何とデジタルアンプ・キット! 価格も手頃で、正月休みに遊べそうと言うこともあり購入。試用レポートをお届けする。
この連載でもかつてPCIバス仕様のデジタルアンプ(「CARDamp MK-IIを単独作動させる!!」)をケースに組み込んだり、パワレポで「鎌ベイアンプKRO/SDA-1100」を紹介したり、小型デジタルアンプとパソコンは親和性が高いと言うことで記事にしてきた経緯がある。そして今回たまたま目に留まったのがこの、Stereo 2012年1月号付録「オリジナルデジタルアンプLXA-OT1」。あのLUXMANと編集部との共同企画でしかも2,800円。これは試すしかない! と衝動買いした。主な仕様は以下の通り。
「オリジナルデジタルアンプLXA-OT1」の仕様 | |
最大出力 | 5W×2(8Ω) |
再生周波数特性 | 10Hz~40kHz(+0,-3dB) |
歪み率 | 0.5%(1kHz/1W) |
SN比 | 90dB(IHF-A) |
電源電圧 | 12V(専用アダプタ付属) |
サイズ/重量 | 94×40×92mm(幅×高さ×奥行き)/74g |
価格 | 2,800円(Stereo 2012年1月号付録) |
心臓部であるデジタルアンプは、STマイクロの「TDA7491HV」を搭載。デュアルBLT接続で最大20W+20Wの出力(4Ω)を得ることができる。今回のキットでは電圧を下げている関係もあり最大5W×2(8Ω)だ。出力5W×2は小さいように思えるが、この点は使用するスピーカーの効率や、使い方にもよるので何とも言えない部分。ただ極端に効率の悪い(dBの数字の小さい)スピーカーを使わない限り、結構な音量になる。電源電圧はDC12V。専用のアダプタが付属する。
入力はRCA(ステレオ)、出力はスピーカー端子(ステレオ)。それぞれ1系統で切替はできない。またヘッドフォンにも非対応だ。
サイズは94×40×92mm(幅×高さ×奥行き)。重量74g。写真からも分かるように、iPhone 4Sと比較してもそのコンパクトさは抜群。形式的にはキットだが、メインの基板部分は全て実装済。単に付属のカバーを足とネジで4カ所止めるだけと、誰でも組み立てることができる。
雑誌のサイズはご覧の通り。本来メインであるはずの本誌が薄く見える。どちらが付録か分からなくなるほどだ。パッケージの中には3つの区切りがあり、それぞれ「カバーと足&ネジ」、「ACアダプタ」、「基板」が入っている。取り出して驚いたのは、ACアダプタにも「LUXMAN」のロゴが入っていることだ。てっきり適当なものが同梱されているのだろうと思っていただけに、この企画のこだわりをうかがい知る事ができる。もちろん基板にも同社のロゴが入っている。
基板本体のレイアウトなどは非常に綺麗でさすがと言ったところ。多くのパーツが表面実装タイプだ。容易に交換できそうなのは電解コンデンサ程度となる。
内容的には、右側に電源関連、オペアンプ周辺、中央にTDA7491HVとボリューム、左側にLPFなどがある。電源は12V単一から3.3Vと6Vを作り出している。オペアンプは8ピンのICソケットが使用され簡単に交換可能だ。ボリュームは電源スイッチを兼ねており、左側まで回しきるとカチっと音がして電源OFFになる。作動中いきなり電源プラグを抜くとポップノイズが発生するが、この電源スイッチをON/OFFする限り、ポップノイズは発生しない。加えてボリュームを上げ過ぎて過電流になった場合、プロテクターが働き自動的に電源が切れる設計になっている。
なお本誌には回路図が掲載されており、腕に自信がある人なら、それを見ながら改造することも可能だ。実際誌面にはいろいろな改造例が掲載され、その話を読んでいるだけでも結構楽しめる。
組み立てた状態/フロント。中央に電源スイッチ兼のボリューム、その右側に電源LED | 組み立てた状態/リア。電源入力、入力、スピーカー端子 | iPhone 4SとBOSE 111ADに接続して視聴中。LXA-OT1が非常に小さいことが分かる。音はバランスが良く安っぽさは無い |
早速組み立てて機材を接続し視聴した。入力はiPhone 4S、スピーカーはBOSE 111AD。スピーカーのセレクトには異論があるかも知れないが、これは以前からDACやアンプを自作し、初めての音出しの時には必ず使っているスピーカーだ。理由はもし何かで壊れても諦めが付く、もう1つはフルレンジなので割りと素直に接続した機器の特性が出る。この2点。いろいろなものをこれで聴いているので耳が慣れていると言う話もある。
音が出た瞬間、1番驚いたのは、バランスが良く、嫌な音も無く、低音も素直に鳴ることだった。実は安価なデジタルアンプは過去(と言っても5年以上前)何台か作ったものの、音が薄っぺらく、低音があまり好みではない鳴り方(出る出ないではなく質の問題)をするケースが多く、結局全てお蔵入りしていた。しかしこのLXA-OT1は普通に聴ける。Jazz系の女性ボーカルも滑らか。特にこれと言って欠点が無いのだ。
TDA7491HVの技術資料ではダイレクトに信号を入れている回路図を掲載しているが、オペアンプを前段に使っている辺りが技なのだろう。さすがに「LUXMAN」のロゴは伊達じゃない。また今回の組合せだとボリュームを半分程度上げると既に筆者の通常音量を軽く超えるレベルとなる。
気になる点としては、スピーカー端子の口が狭く、少し太めのケーブルが入らないこと、RCAコネクタも含めケーブルを差し込むと基板に負荷がかかること、そしてホコリよけの薄いカバーがチープなこと。ただし、これら全ては、コストを抑えた上で簡単に組み上がるようにした結果であり、根本的な問題では無い。逆にこの価格で得た満足度の方がはるかに大きい。
●改造して楽しむポイントさてベーシックなサウンドは分かったのでできる範囲で改造することを考える。とは言え、誌面にもポイントが載っているので、ほとんど同じ内容だ。まず交換して欲しいとばかりにオペアンプがICソケットになっている。これを手持ちのオペアンプと交換してみたい。
オリジナルは2回路入りの「JRC 4558D」。部品箱を漁ったところ該当するのは「OPA2604AP」。ただこのオペアンプは経験上、I/V変換に使っても、LPFに使っても、ただのバッファに使っても割りと元気のいいサウンドになる。個人的にはあまり好きではないので、他を探したものの2回路ものは見つからなかった。
代わりにあったのは1回路のオペアンプを2つ付けて2回路に変換する下駄と、「OPA602」、「OPA627BP」、「AD844AN」などなど数種類。どうせ試すなら一番グレードの高い「OPA627BP」×2を使って視聴した。激変と思いきやその変化は微妙。空気感や滑らかさは増すものの、かかる費用を考えるとコストパフォーマンスは悪い。参考までにアナログ部のR1チャンネル分の回路図を掲載したのでご覧頂きたい。誌面では「JRC MUSES01D」の評判が良かったので、一度使ってみたいところ。
これ以外の改造は、今回組上げてまだそれほど時間が経っていない関係で試していないが、一般的に考えられるパターンは以下の通り。
1)ケースに入れる
2)電源を強化
3)アナログ部の電解コンデンサを交換
4)ボリュームを交換
5)TDA7491HVの出力段のL(22μH×4)を交換
まず見た目や安定感、接続したケーブルに重みで引きずられるなど、もう少しちゃんとしたケースに入れたい。在庫で使えそうなものが幾つかあるが、薄いアルミ製なので、今ひとつパッとしない。誌面では専用のオリジナルケース、池田工業の「Amp Base LXA-OT1」(6,980円)が紹介されている。加工が面倒な場合はこれを使うのもアリだろう。それなりのケースに入れるならコネクタ類の交換もした方が良い。
2番目は電源の強化。2カ所あり、1つは電源関連に使われている電解コンデンサ(デカップリングコンデンサ)の交換、もう1つはDC12V出力のアナログ電源かバッテリ駆動にすること。逆に音質的には低下する可能性はあるが、サイズ的に5インチベイに収まるので、PCの中に入れ、スイッチング電源から出ている12Vを接続するのも面白い。
筆者は以前から現在メインで使っているTDA1541AトランスI/V DACの三端子レギュレータを「FIDELIX」製に替えたいと思っているので、これを使って簡単にアナログ電源を組むのも良さそうだ。付属のACアダプタが出力DC12V/1,000mAなので12Vタイプがそのまま流用できる。
3番目は信号が流れる部分に入っている電解コンデンサ(カップリングコンデンサ)の交換。回路図的には、C10/C11/C6が該当する。外すのは経験のある人なら簡単であるが、オーディオグレードで同規格の電解コンデンサは一般的にサイズが大きめだ。従ってレイアウトとパーツのサイズなどを考えながら具体的な種類を選ぶことになる。また同じく抵抗も交換したいところだが、表面実装タイプなのでいろいろな意味で難易度は高い。
4番目はボリューム。ここも信号が流れるので交換すると音が変わる。抵抗切り替え式アッテネータなども候補にあがる。注意点としては電源スイッチも兼ねているので、オリジナルのボリュームを基板から外してしまうと、別途電源スイッチを用意する必要があることだ。
そして最後は、TDA7491HVの出力段にあるLPFのL(22uH×4)。ただし、グレードの高いものはサイズが大きくなる関係で、確実に現在の位置には乗らない。場外乱闘覚悟での改造となる。LFPを構成する一部のコンデンサも簡単に交換できる。
いずれにしてもそれなりのスキルが必要なので、筆者としても編集部としても、改造をお勧めするものでも無いし、音質向上を保証するものでも無いことを予めご了承いただきたい。とは言え改造プランをいろいろ考えているのも楽しい時間だ。
●オペアンプと電解コンデンサを購入
12月23日からの3連休、時間があったので改造用のパーツを秋葉原へ買いに行った。購入するのは「JRC MUSES01D」と電解コンデンサ。オペアンプは誌面で評判が良かったこともあり是非聴いて見たかった。電解コンデンサはカップリングコンデンサとデカップリングコンデンサの両方。ただし、LED周辺にあるC60とC76は(10uF/25v×2)、TDA7491HVのミュートとスタンバイ用なので音質的には変化無さそうと言うこともありパスすることに。購入したのは以下の通り。
購入したパーツ一覧 | |
オペアンプ | JRC MUSES01D |
電解コンデンサ1 | 10uF/50v×4、1uF/50v×2。MUSE Fine Gold(カップリングコンデンサ用) |
電解コンデンサ2 | 2,200uF/25v×1、470uF/25v×1、47uF/25v×1、22uF/25v×1、10uF/25v×2。東信工業「Jovial」UTSJ(デカップリングコンデンサ用) |
費用 | 3,500円+1,036円(秋月電子通商と若松通商) |
掲載した写真から分かるように、コンデンサはゴールドとシルバーの2色になっている。前者がMUSE Fine Gold、後者が東信工業「Jovial」UTSJとなる。他にもいろいろあったもののサイズを優先してチョイスしている。唯一違うのは、2,200uF/25v。ここは本来1,000uF/25vが2つ使われているのだが、回路上はパラにして単に容量を倍にしているだけ。同じ大きさ・容量のものが無く、また他の種類にもしたくなく、であればと1つを横に寝かす形+少し容量アップすることに決めた。
数年半田ごてを握っていなかったので少し苦労したが、1時間ほどで交換が完了。失敗してると困るので、「MUSES01D」は後回しにして、とりあえずオリジナルの「JRC 4558D」を使い音を出したところ、前後の空間の表現力がアップ。なかなかいい感じで鳴っている。少し聴いて問題無いことを確認、本命の「MUSES01D」へ替えると、確かに音の立ち上がりや微妙なニュアンスなどが向上する。ただ逆に「JRC 4558D」が結構頑張っていることも分かる。
OPA627BP×2との比較は、時間が経てばまたMUSES01Dの印象も違ってくると思うが、現時点ではOPA627BP×2に軍配があがる。カップリングコンデンサを変更した関係か、オリジナルよりその差がはっきり分かる。音離れが良く、音がスッと前に出てくる感じだ。
予定していた改造も一通り終わって一段落しているところに丁度注文していた「Amp Base LXA-OT1」が到着。アルミ削り出しのベースが高級感を醸し出し、唯一不満だったルックスも解消。ご機嫌な小型デジタルアンプに仕上がった。コネクタやボリューム、LPFのLなどを交換すると、このケースが使えなくなるので、後手を入れるとすればアナログ電源だが、これは来年のお楽しみとして、今回の作業は終了。入力ソースをiPhone 4Sのヘッドフォン端子からオーディオテクニカ AT-HA35iへ切り替え、抜群のサウンドを奏でている。
以上のように「Stereo」誌2012年1月号付録「オリジナルデジタルアンプLXA-OT1」は、価格も手頃で、組み立ても非常に簡単。LUXMANとの共同企画だけあって、そのまま使っても十分クオリティは高い。直ぐにオペアンプが交換でき、ソケット式になっているのも魅力的。比較的容易に交換できる電解コンデンサも適当に入れ替えた結果は上々だ。
この正月休みオリジナルのまま楽しむも善し、ケースを作ったり、できる部分を改造して遊ぶのも善し。ちょっとワクワクする逸品と言えよう。