■西川和久の不定期コラム■
MOVIE COWBOY DC-MCNAS1 |
最近TB級の大容量HDDが安価になり、PCに組み込むにしてもNASへ搭載するにしてもいい時代になった。ただ容量が増えれば増えるほどバックアップが悩ましい問題になる。そこで今回は、RAID1(ミラーリング)にも対応し、多彩なサーバー機能を持つNASケースをご紹介する。
●セットアップ ハードウェア編
「DC-MCNAS1」は、HDDを搭載するだけで多機能なNASになるNASケースだ。ネットワーク内のデータ共有はもちろん、メディアサーバー、プリントサーバーなど多くのサーバー/サービス機能を持っている。有線LANはもちろんGigabit Ethernet対応だ。
最大の特徴は、3.5インチのSATA HDD 2台を使いJBODそしてRAID1に対応していることだろう。前者は2台のドライブの合計容量になり、後者は信頼性重視で同じデータを各HDDに書き込み、もし片方が故障してももう片方のHDDで動き続けることが可能だ。仕様は以下の通り。
□DC-MCNAS1の仕様システム CPU | OXE8xx、メモリ128MB、フラッシュ4MB |
HDD | 3.5インチ SATA HDD×2(製品には含まれない) |
対応ディスクモード | RAID1 (ミラーリング)、JBOD |
有線LAN | 10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T |
USB | USB 2.0×1(上)、USB 1.1×1(下) |
ネットワークファイルプロトコル | CIFS、SMB、NFS、AFP |
プロトコル | FTP with SSL/TLS、SSH、Secure SMTP |
Webサーバー | Apache、MySQL、SQLite、PHP |
サーバー | プリントサーバー、iTunes Music Server |
BitTorrent機能 | RSS/サーチ/ダウンロード |
その他 | Jumbo Frame 対応、UPnPポートマッピング、Buddy同期フォルダ |
サイズ/重量 | 81×177×122mm(幅×奥行き×高さ)/約830g(本体のみ) |
価格 | 16,900円(税込)(ハンファジャパンYahoo!店) |
ハードウェアのセットアップは、3.5インチのSATA HDDを2台用意し、フロントカバーを外し、それぞれセット、フロントカバーを元に戻せば完了だ。この時、ケースの下にフロントカバーをロックするスライドバーがあるのでこれをアンロックする。またSATAのコネクタの位置が左右で違うので、方向を間違わないようにHDDを入れなければならない。
ここまでの作業が終れば後は、ネットワークケーブルをセット、ACアダプタを接続し、リアのパワースイッチをONにすればシステムが起動する。
本体のデザインはなかなかシャープでカッコいい。フロントパネルはプラスチックであるが、本体はガッチリした金属フレームでまったくたわみも無い。はじめは「HDDをそのまま入れて大丈夫だろうか?」と思ったが、下手なPCケースのHDDマウンターよりはるかに頑丈だ。ただ、個体差だと思うが、筆者の場合は、左側のドライブがなかなかうまく入らなかった。本体だけではそれほど重くないが、流石にHDD 2台を装着するとズッシリ重く、逆に安定感が増す。
リアにあるファンは「ゴー」と言う低く小さい音がするので、静音ではないものの、これなら許容範囲だろう。熱は起動してもう24時間以上経過しているが、ケースがほんの少し暖かくなる程度だ。
しかしこのサイズでしかも計4万円未満で、ミラーリングの機能を持つ4TBのNASが組めるのだから凄い時代になったものだ。
●セットアップ ソフトウェア編ソフトウェアのセットアップは、もともと「HDDを内蔵していないNASケース」なのでちょっと変則的だ。具体的には、付属のCD-ROMにLinuxがベースとなったNASシステムをイメージ化したファイルが入っているので、それをSETUP.EXEを使いネットワーク経由でNASのHDDへロード、パーティションを切り、単独でNASとして動かせるようにする作業が必要となる。
本体下にあるCDキー |
この手順自体はウィザードに従い[次へ]をクリックしていくだけなので簡単であるが、1カ所、ネットワーク上からDC-MCNAS1を見つけて、次に進むと「CDキー」を要求される点に注意が必要。このCDキー、マニュアルやパッケージには書かれておらず、本体の下に貼られている。電源をONにしてHDDが回っているのにケースをひっくり返すのはちょっと気になるので、出来れば事前にメモっとくといいだろう。
付属のCD-ROMからSETUP.EXEを起動 | 機器の事前確認 | ネットワークからDC-MCNAS1を認識。この後にCDキーの入力が必要 |
システムのインストール完了 | 初回のログイン | HDDの構成を選択 |
システムのロードが終り、無事NASが動き出したらWebブラウザが起動する。多くのケースでは同じネットワーク内にあるルーターがDHCPサーバーなので、自動的にIPアドレスなどを取得し「http://xxx.xxx.xxx.xxx:8080」となっているハズだ。
ログインすると「設定ウィザード」が表示される。まずここで2台あるHDDの構成をリニア(JBOD)で使用するか、ミラー(RAID1)で使用するかを決める。当初、ミラーに設定したのだが、画面キャプチャからも分かるように、2TB×2をresyncするには約700分必要となっている。さすがに10時間以上も待ってられないため、リニアに設定し直し今回は評価した。リニアの場合は何分も待たずに次の設定が可能となる。
設定内容は、「NAS名(デフォルトはDC_MCNAS1)」、「sysadminのパスワード」、「メールサーバー」、「時計」、「各ポート」、「ルーター」の順となる。このメールサーバーは「Link mail」や「アラームメール」などを送信する。ただし、sysadmin@192.168.1.5のようなIPアドレスベースのメールアドレスには送信できないので、後述するDDNSなどを使いドメイン名を持つ必要がある。各ポートやルーターに関しては意味が分からない場合は、デフォルトのままが無難だ。ルーターがUPnPに対応していれば特に触る必要は無いだろう。
ミラーリングにしたところ……何とresyncに709.2min!! | 今回は2台のHDDをリニアに使用 | サーバー名設定 |
パスワードを設定 | メールサーバーを設定 | 時計を設定。NTPサーバーにも対応している |
各ポートの設定 | ルーターの設定 | 完了/管理画面 |
管理画面は、上段は機能、下段は設定系と、非常に分かりやすいインターフェイスになっている。
上段の「DC-MCNAS1web」はWebベースのファイルマネージャー、「e-Downloader」は対応するアップロードサイトやファイル共有サイトからのダウンロード(rapidshare.com、megaupload.comなど)、「RapidBox」は最大2GBのファイルを本体にアップロードしそのダウンロード用リンクアドレスをメールで送信、「SyncFolder」は最大7台までの「DC-MCNAS1」同士でフォルダ同期/共有、「e-Torrent」はBitTorrentクライアントとなる。
●試用する単に1人でもしくはグループでパブリックな共有NASとして使う場合は、電源ONにするだけでいい。Windowsのネットワークを見れば「DC_MCNAS1」が追加されているので、クリックすると「eDownLoad」と「Music(iTunes)」のフォルダにアクセスできる。もちろんここで新たにフォルダやファイルを追加/削除/コピー/移動と、普通に操作可能だ。
また管理画面には「権限」項目があり、そこでユーザーを管理し、アクセス権なし/読み取り専用/読み取り&書き込みなどの制限を、ユーザー/グループ/フォルダーなど各レベルでコントロールもできる。
アクセス速度を計るために、ZドライブへマウントしCrystalDiskMarkを動かした結果は以下の通りだ。ただし、何度テストしてもRandom Write測定中に途中でエラーで止まったしまった。結果が出た範囲ではGbEのNASとして一般的な値だろう。
DC_MCNAS1が追加されている | 公開フォルダが2つ | CrystalDiskMark/Zドライブにマウント |
この「DC-MCNAS1」には、Windowsマシンから高速にファイルをアクセス可能な「DC-connector」が用意されている。セットアップは管理画面の右上にある[DC-connector]をクリックするとモジュールがダウンロードされ、実行すればインストールできる。詳細は画面キャプチャをご覧頂きたいが、安定して速くなる。Windowsマシンからのアクセスでは、ぜひ使いたい機能と言えよう。
DC-connectorをインストール | インストール項目選択 | ログイン画面 |
Public DiskをY:ドライブへマウント | Y:ドライブにマウントされた |
搭載しているサービスは「RapidBox」、「E-Torrent」、「iTunes」、「UPnP」、「プリントサーバー」、「NFS」、「CIFS」、「AppleTalk」、「FTP」、「ターミナル(telnet/ssh)」と、かなり豊富だ。sshを使ってシステムにアクセスすることもできる。
またWebサーバーのApacheが管理画面用(ポート8080)とWebページ用(ポート8000)で動いているので、後述するUPnP機能とグローバルIPアドレスでWebページをネットに公開することもできる(もしくはルーター側の機能を使う)。この時、htmlなどのデータは、sysadminでログインし、DC-MCNAS1 Disk/WWW/フォルダへ置く。perlやPHP、MySQLも使えるので、それなりのWebページを作ることも出来そうだ。とは言え、メモリが128MB、そして画面キャプチャの「free -m」の値を見ても、現状でほとんどメモリに余裕が無い。あまり負荷をかけるようなWebページは実用的には動かないと思われる。
Webブラウザからのファイルアクセス | 電源管理 | sshが使用可能 |
システム情報 | sshでログイン | apache、mt-daapdなどが動いているのが分かる |
iTunesライブラリに音楽データを追加するには、Public Disk/Music(iTunes)/フォルダへデータをコピーするだけでOKだ。先の「DC-connector」を使えばGB級の音楽データがあってもあっという間にコピーできる。
またこの時、管理画面の「iTunesリストの更新周期」へ設定した時間単位でリストが更新される仕掛けになっているため(初期設定は10分)、少し待てばiTunesに結果が反映される。即更新したいときは同じ画面内にある[リストの更新]ボタンを押せばよい。
iTunesライブラリを公開 | 共有DC-MCNAS1へアクセス |
リアにある上側のUSBポートへ、USBメモリやメモリカードリーダーなどを挿し込み、その内容をワンタッチで丸ごとコピーする「USBワンタッチコピー機能」もなかなか便利だ。使用方法は、準備が出来たら単に[Copy]ボタンを押すだけ。「ピー」とビープ音が鳴り、鳴り終わればコピー完了となる。
実際はPublic Disk/USB_Copy/フォルダへ年月日時分秒(例えば2010_05_16_10_48_10)名のフォルダが出来、その中にコピーされる。
ただUSBポートはケーブルなどで手元に引っ張り出せるが、[Copy]ボタンが裏にあるため設置場所によっては非常に押しづらくなる。できればフロント側か、Webインターフェースの管理画面にもソフトウェア的なボタンが欲しいところだ。
また、このUSBポートは、USB接続のHDDなどを外部ディスクとして扱うこともできる。
USBポートへカードリーダーを接続し[Copy]ボタンを押す | USB_Copyフォルダへコピーされた |
UPnPとグローバルIPアドレスを組合すことによって、「DC-MCNAS1」へ外部のネットからもアクセスできる。サービス/UPnPの項目で、「UPnP機能をアクティブ化」し、各ポートのON/OFFなどを設定する。また先のポート8000だったWebページは、ここで外部に公開する時はWebで一般的なポート80へもリマップできる。この機能を使えば、転送速度は遅くなるものの、外でもまるで「DC-MCNAS1」を設置してある同一ネットワークと同じ感覚で操作可能だ。ただしこの時、ルーター側もUPnPに対応している必要がある。
さらに、無償で利用可能なDDNS(ダイナミックDNS)サービスが用意されており、「yourname.moviecowboy.net」(yournameの部分が設定可能)で、アドレスが固定されないグローバルIPアドレスでも単一のドメイン名で常時アクセス、そしてメール送信が可能となる。
UPnPを使ってネット経由でアクセスを可能に | iPhoneの3G/Mobile Safariで管理画面へログイン |
このほかにも「BitTorrent」、「RapidBox」、「プリントサーバー」、「FTPサーバー」、「SyncFolder」など、いろいろな機能を持ち、パーソナルでもグループでもNASとして便利に使え、同社のDC-MC35ULI、DC-MCNP1など、MOVIE COWBOYシリーズメディアプレーヤーのメディアサーバーにもなる。なかなか強力なネットワーク機器だ。
以上のように、「DC-MCNAS1」は、セットアップやサーバー関連のキーワードなど、PCをはじめたばかりの初心者にはちょっとハードルが高いものの、数多くのサーバー機能、Windowsマシンとの高速ファイル転送、そしてsshを使ってシステムにログインできると言った、玄人にはなかなか遊べるNASとなっている。
ただRAID1化する時のresyncが、TB級の容量ではかなり時間がかかるのが唯一気になるポイントだ。
2TBのHDDが1万円程度になった昨今、ミラーリングで大容量でも安心、しかも高速で多機能なNASを探している人にお勧めの逸品だ。