西川和久の不定期コラム

日本HP「ENVY x2 11-g005TU スタンダードモデル」

~キーボードを取外し可能なClover Trail搭載ハイブリッドPC

ENVY x2 11-g005TU

 日本HPは10月12日、Clover Trail搭載ハイブリッドPC「ENVY x2」を発表。当初、2013年1月発売予定だったが、予定が前倒しされ、2012年12月21日から発売となった。編集部から実機が送られて来たので、試用レポートをお届けする。筆者はClover Trail初対面ということもあり、その実力も気になるところだ。

キーボードを取外し可能なハイブリッドPC

 Windows 8発表以降、何種類かの搭載PCを試用したが、どれもプロセッサはCore i系ばかりだった。パワフルなプロセッサだが、筐体のバランスからバッテリは容量が限られ、駆動時間は全般的に短めだった。

 今回ご紹介するENVY x2は、プロセッサにCore i系を搭載せず、Atomプロセッサの2012年版を採用している。Atomプロセッサと言えば約5年ほど前に一世を風靡したネットブックに多く使われ、その後下火になったようなイメージがあるプロセッサだ。系統的に小型デスクトップやノートPC用のNシリーズと、ノートPCよりさらに小さいMID向けのZシリーズに分かれていた。

 ENVY x2は後者、Clover Trailと呼ばれるAtom Z2760を搭載している。2コア4スレッド、クロックは最大1.8GHzで負荷に応じて動的に変動する。キャッシュは512KB×2。一般的な外付けのチップセットは不要で、ビデオエンコード/デコードエンジン、カメラ用のアクセラレータ、I/Oなどを装備したAtomベースのSoCとなる(詳細は文末の参考URL参照)。主な仕様は以下の通り。

【表】HP「ENVY x2 11-g005TU スタンダードモデル」の仕様
プロセッサAtom Z2760(2コア/4スレッド、最大1.8GHz、キャッシュ512KB×2)
メモリ2GB
フラッシュストレージ64GB
OSWindows 8(32bit)
ディスプレイIPS方式パネル11.6型液晶ディスプレイ(光沢)、
1,366×768ドット、5点タッチ対応、HDMI出力
グラフィックスIntel Graphics Media Accelerator(PowerVR SGX 545)
ネットワークIEEE 802.11a/b/g/n、Bluetooth 4.0
その他USB 2.0×2、前面200万画素/背面800万画素カメラ、
SDスロット、Beats Audioスピーカー、音声入出力
サイズ/重量303×193×8.6mm(幅×奥行き×高さ)/約710g(タブレット時)、
303×206×17~19mm(幅×奥行き×高さ)/
約1.41kg(合体時)
バッテリ駆動時間最大約10.75時間(タブレット時)、最大約19時間(合体時)
直販価格69,930円

 Atom Z2760の仕様上からメモリは最大2GBのみをサポートし、本製品に搭載されるOSは32bit版のWindows 8となる。ストレージは64GBのフラッシュストレージを搭載。グラフィックスはプロセッサ内蔵のIntel Graphics Media Acceleratorだ。外部出力としてHDMIを備える。

 液晶パネルは、IPS方式の11.6型で解像度は1,366×768ドット。システムのプロパティを見る限り5点タッチ対応となっている。

 インターフェイスは、IEEE 802.11a/b/g/n、Bluetooth 4.0、USB 2.0×2、前面200万画素/背面800万画素カメラ、SDスロット、Beats Audioスピーカー、音声入出力。USB 3.0が無いのは惜しいが、これもチップセットから来る制限となる。

【お詫びと訂正】初出時にmicroSDカードスロット搭載としておりましたが、SDカードスロットの誤りです。お詫びして訂正させて頂きます。

 最大の特徴は、キーボードが取り外しでき、タブレットスタイルとノートPCスタイルに対応していることだろう。キーボード側にもバッテリを内蔵している。サイズと重量は、タブレット時で303×193×8.6mm(幅×奥行き×高さ)、約710g。合体時で303×206×17~19mm(同)、約1.41kgとなる。

 バッテリ駆動時間は驚異的で、タブレット時最大10.75時間、キーボード合体時で最大約19時間。一般的なノートPCでは想像できない時間だ。SoC全体でTDPが1.7Wのなせる技だろう。メモリ2GBでのWindows 8の動きも含め、この点は後半のベンチマークテストで検証したい。

 直販価格は69,930円。ネットブックのイメージがするAtomプロセッサ搭載機としてはやや高い感じもするが、筐体のクオリティや合体のギミックなどを考慮すると、納得できる範囲内ではないだろうか。

フロント。液晶パネル上中央にフロントカメラ。キーボード部先端は結構薄い
上部中央にリアカメラ。バッテリは内蔵しているため交換できない
底面はトップカバーなどと同じ素材でかなり綺麗な仕上げだ。メモリやストレージにアクセスできるパネルがない
左側面。HDMI出力、USB 2.0×1、音声入出力を備える
キーボードはアイソレーションタイプ。たわみも無く、入力しやすいキーボードだ
右側面電源入力、USB 2.0×1、SDカードスロットを備える
キーピッチは実測で19mm
タブレット単体時の重量は実測で703g
キーボードドックの重量は実測で702g
合体時の重量は実測で1,405gとなる
ACアダプタ。コネクタはミッキータイプ。PC側のコネクタ中央辺りにLEDがあり、充電時はオレンジ、充電完了時には白く点灯する。重量は実測で156g(電源ケーブルは含まず)
タブレット時/フロント。下部中央のコネクタがキーボード側との接点。両サイドの凹みは安定用と思われる
タブレット時の背面左上に電源スイッチ、右上に音量スイッチを備える。明るさはパネルで調整する
iPad 3との比較。IPS方式パネル11.6型とWindows 8搭載タブレットとしては小型の方だが、それでも随分大きいのがわかる
キーボードドック部。手前の部分へタブレットが収まる。チルトはこれが最大
軽快な作動と分離するキーボード

 アルミニウムをまとった筐体は隅々まで非常に美しく、タブレット時、合体時共に高級感が漂う。プロセッサがAtomなのでUltrabookとは呼ばないものの、サイズ感や雰囲気はUltrabookそのものだ。タブレットで約700g、キーボードで約700g。従って合体時は約1.4kgとなる。タブレット時、iPadや7型系と比較すると、確かに重いが、Windows 8搭載機としては軽量級。合体時ノートPCとして見た場合はサイズ並みだろう。

 ACアダプタは、35×85×25mm(同)で重量156gとコンパクト。ただしACケーブルがいわゆるミッキータイプのものが使われ、太くて硬いため、モバイルを考えると工夫が欲しかったところだ。

 キーボード側左サイドにHDMI出力、USB 2.0×1、音声入出力。右サイドに電源入力、USB 2.0×1、SDカードスロット。タブレット右上裏に電源スイッチ、左上裏にボリュームがある。タブレット時、パネルの明るさ調整はWindows 8の機能を使う。この構造から分かるように、充電するにはキーボード部が必要だ。

 11.6型のIPSパネルは明るく発色も良い。もちろん視野角も十分広く、タッチの感度なども良好。これと言って不満点は無い。また、輝度を最小にしてもそれなりに見え、バッテリ駆動時に有効だろう。

 アイソレーションタイプのキーボードは、キーピッチが約19mm。上下カーソルキーが小さめなのが若干気になるものの、並びやピッチで破綻している部分も無く入力しやすい。また筆者がいつも気にしているたわみも皆無でポイントは高い。タッチパッドは一枚パネル式だ。

 ノイズや振動は皆無。発熱も試した範囲では感じられなかった。驚いたのはサウンドだ。クオリティ、出力共に十分。さすがにBeats Audioの冠が付いているだけのことはある。2012年扱ったPCの中でも、かなり上位に位置する感じだ。

 フロント200万画素、リア800万画素のカメラは、作例でもと思い、いくつか写真を撮ったが、主な用途はやはりWebカメラ向けといったところで、動画をキャプチャしたような写真となり、「写真」と呼べるレベルには達していない。今後の改善ポイントと言えよう。

 タブレットからキーボードに合体する時は、コネクタに合わせて差込むだけ。外す時は、キーボード中央上部にあるロックボタンをスライドすれば、サッと抜ける。ガタツキ感などは無く、全体的にハードウェアとしての完成度はかなり高い。日本HPのDirectplus Station(ビックカメラの主要店舗)で展示しているので、機会があればぜひ一度実物でご覧頂きたいところだ。

意外と快適な作動と驚きの長時間バッテリ駆動

 もともとAtom Z2760はメモリ2GB、32bitしか対応していないこともあり、OSは32bit版Windows 8だ。当初さすがに厳しいのではと思っていたが、掲載した動画からもわかるように結構サクサク動く。Windowsストアアプリ中心で、Office系などちょっとしたデスクトップアプリ的な使い方であれば全く問題ない感じだ。

 64GBのフラッシュストレージは、C:ドライブに約49GB、D:ドライブに約8.5GB割り当てられている。ただしD:ドライブはリカバリ用のため、実質はC:ドライブのみ使用可能。初期起動時の空きは34.7GBだった。

 一般的には少ない容量だが、プロセッサがプロセッサなので、あまり重い処理は向かず、クラウド側に書類などデータを置き工夫すれば、ドキュメント系の処理は大丈夫だろう。またSDカード側にデータを逃がす手もある。

 Wi-Fiモジュールは「Broadcom 802.11abgn Wireless SDIO Adapter」が使われていた。タブレットという限られたフォームファクタで無線LANを実装するには、Mini PCI ExpressよりもSDIOが適しているように思われる。

 スタート画面は2面。2面目は最後のHP Support Assistant以外、Windowsストアアプリになっている。

スタート画面。Windows 8の標準的な構成だ
HPアプリ以降が、プリインストールアプリケーション。最後のHP Support Assistant以外は全てWindowsストアアプリ
起動時のデスクトップ。Snapfishへのショートカットのみとシンプルな構成
デバイスドライバ/主要なデバイス。グラフィックスはIntel Graphics Media Accelerator、Wi-Fiモジュールは Broadcom 802.11abgn Wireless SDIO Adapter
フラッシュストレージのパーティション。C:ドライブに約49GB、D:ドライブに約8.5GBの2パーティション

 インストール済みのWindowsストアアプリケーションは、Fresh Paint、Get Started with Windows 8、HP Connected Photo、HP PageLift、HPに登録、HP+、SMEDIO 360などで、比較的あっさりしている。

 Get Started with Windows 8はテキストと動画で構成されるWindows 8の解説書(英語)。HP+は、エンターテインメント/セキュリティ&オプション/サポート&トラブルシューティング/HPへのお問い合わせと、4つの画面に分かれたサポートツールである。

 SMEDIO 360はNFCにも対応したDLNAクライアントで、nasneにある動画などの再生を確認した。ただし地デジ関連は録画/ライブストリーム共に再生できない。HP PageLiftは遠近補正機能付きのオートトリミングツールだ(画面キャプチャは分かりやすいよう、極端にしている)。機能は単純だが、デジカメで撮影したプレゼンテーションスライドや駅の時刻表、メモなどを整理する時に重宝するだろう。

アプリ画面1
アプリ画面2
Get Started with Windows 8
HP Connected Photo
HP+/ホーム
HP+/エンターテインメント
HP+/セキュリティ&オプション
HP+/サポート&トラブルシューティング
HP+/HPへのお問い合わせ
FreshPaint
HP PageLift/ホーム
HP PageLift/編集
SMEDIO 360/ツアー1
SMEDIO 360/ツアー2
SMEDIO 360/ツアー3
SMEDIO 360/ツアー4
SMEDIO 360/ツアー5
SMEDIO 360/ファイル一覧(nasneを認識)

 デスクトップアプリケーションは、HP AC Power Control(ピークシフトのスケジューラ)、HP Documentation、HP Support Assistant、HP Utility Center、HP Recovery Managerなど。デスクトップアプリケーションは少なめで、独自アプリは順次Windows 8向けの移行ができつつあることが伺える。

HP Support Assistant/設定
HP Support Assistant/ホーム

 ベンチマークテストはWindows エクスペリエンス インデックス、PCMark 7とBBenchの結果を見たい。参考までにCrystalMarkの結果も掲載した(今回の条件的には特に問題はない)。

 Windows エクスペリエンス インデックスは、総合 3.3。プロセッサ 3.4、メモリ 4.7、グラフィックス 3.8、ゲーム用グラフィックス 3.3、プライマリハードディスク 5.4。PCMark 7は1426 PCMarks。CrystalMarkは、ALU 10560、FPU 8231、MEM 9061、HDD 11299、GDI 1781、D2D 440、OGL 7832。さすがにCore i系と比較すると桁違いに遅いのが分かる。ただ、HDDとOGLのスコアは結構頑張っている。

 実際メモリ2GBのマシンでどの程度Windows 8が動くのか気になっていたが、Windows RT機と比較してあまり差が無いように感じた。Windows RTは従来のx86バイナリと互換性はなく、既存のソフトウェアは作動しないが、こちらはx86完全互換だ。重い処理は厳しいものの、安心感ははるかに高い。もちろん動画アクセラレーションエンジンを内蔵しているのでフルHDも含め動画の再生も問題がなかった。

 BBenchはタブレット時で測定。バランスモード、バックライト最小、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、Wi-Fi/ON、Bluetooth/ONでの結果だ。バッテリの残3%で38,458秒/10.7時間。本当にスペック通り10.7時間動いてしまった。BBenchを見ていると1時間で10%減って行く感じだ。x86マシンとしてこの駆動時間は驚きといえるだろう。今回時間の都合上計測できなかったが、キーボード部にあるバッテリと一緒に使えば、さらに長時間運用できる。これはCore i搭載のタブレットには無い最大の魅力と言えるだろう。なお、Atom Z2760は、リファレンスマシンのConnected Standby状態で30日間持つと言われているが、今回貸出期間の関係で試せなかった。

Windows エクスペリエンス インデックスは総合 3.3。プロセッサ 3.4、メモリ 4.7、グラフィックス 3.8、ゲーム用グラフィックス 3.3、プライマリハードディスク 5.4
PCMark 7は1426 PCMarksと低めだ
タブレット時のBBench結果。バランスモード、バックライト最小、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、Wi-Fi/ON、Bluetooth/ONでの結果だ。バッテリの残3%で38,458秒/10.7時間
CrystalMark。ALU 10560、FPU 8231、MEM 9061、HDD 11299、GDI 1781、D2D 440、OGL 7832

 以上のようにHP「ENVY x2 11-g005TU スタンダードモデル」は、キーボードが取外し可能なハイブリッドWindows 8マシンだ。全体の仕上げもENVYブランドだけあって美しく、液晶パネルやサウンドのクオリティは文句なしだ。この点だけでも物欲がそそられる。

 Atom Z2760も当初想像していたほどは遅くなく比較的快適だ。また、Windows RTとは違い、従来のアプリがそのまま動くのも魅力的な点と言えるだろう。そして期待のバッテリ駆動時間は10.7時間と驚くべき値が出た。キーボードと組合わせればさらに持つことになるため、もはや1日中使っても問題無いレベルに達すると思われる。

 唯一、ストレージの空きが約35GBしかないため、コンテンツやアプリケーションを多数入れられない点が気になるが、クールなWindows 8マシンをライトに持ち歩きたいユーザーに是非お勧めしたい1台だ。

(西川 和久http://www.iwh12.jp/blog/