モバイラーが憧れた名機を今風に蘇らせる

第10回

ソニー「バイオノート505エクストリーム」

〜最初にして最後の究極。これぞモバイラーのステータス

 モバイラーがPCを持ち運ぶ“目的”とは何か。いつでもどこでもノートPCを広げて使う“必要性”はあるのか。

 筆者はモバイラーだったのだが、実のところPCの“必要性”に関しては必ずしもあるわけではなかった。2002年の当時は、ノートPC(以前紹介したInterLink XP)を持ち運んでやっていたことと言えば、自分の日記サイトの原稿書きと、書きながらMP3ファイルを鑑賞する程度であった。MP3ファイルの鑑賞だけであればMP3プレーヤーがあればいいし、趣味のWebサイトの更新は別に家に帰ってから書いても特に問題はなかった。

 ではなぜ筆者はPCを持ち運んだのかと言えば“自己顕示欲”を満たすためだ。どこでもPCを使えるのはなんとなく優越感がある……もとより、カフェでも電車内でもノートPCを開けば、「あの人がカフェでノートPCを使っている。オフになるべき時間も忙しいみたい。仕事できる人に違いない」と思われそうだから。そう、実際にそのPCでゲームを楽しんでいても、だ。

 残念ながら、世間というのは自分が気にするほど他人は自分のことを気にしていないし、ノートPCを開くだけで仕事ができそうだと思われるオイシイ話はない。それどころか、女性にPCを持っていることをアピールすると「なんでいつもノートPC持って開いてるの? 荷物なだけでしょ? オタクだよね」と、冷たい目で見られる。だが、誰になんと言われようと、ノートPCを開けば自己顕示欲が満たされるのは間違いない。

 その自己顕示欲を最大限に満たし、さらに昇華させてくれるノートPCが、今回紹介する「バイオノート505エクストリーム」ではないかと思う。

今でも超えられぬ強烈な薄さ

 バイオノート505エクストリームが発表されたのは、2003年11月12日のことである。B5モバイル「バイオノート505」の直系とも言えるこの製品は、バイオノート505とほぼ同じフットプリントでありながら、厚みを9.7〜21mm、重量を825gに抑えた、当時世界最薄/最軽量のモバイルノートであった。

 最厚部が21mmというのは、Intelが2011年に定めたUltrabookのレギュレーションにもなっている。そういった意味でバイオノート505エクストリームは、今の薄型モバイルノートのデファクトスタンダードを作った(と言っても、Ultrabookが流行った頃のモバイルPC業界に薄さをもたらしたのはAppleのMacBook Airであることに異論はない)。とは言え、当時シャープは最厚部19.6mmの「MURAMASA」シリーズをリリースしていたので、驚くほど薄いかと言われればそうでもない。

 しかし、本製品で注目すべき点は、当時世界最薄を実現した9.7mmという最薄部である。もちろん「いや、MacBook Airは3mmだから」と仰る読者もいるだろう。が、写真を見てもらえば分かる通り、実際に机に置いた場合、MacBook Airと遜色ない薄さを実現している。MacBook Airの3mmは、あくまでもくさび形のデザインがもたらしたものであって、中央部に行くにつれ膨らんでいく。それに対してバイオノート505エクストリームはほぼ直線に近く、一貫してできる限りの薄型化を追求している。

 また、MacBook Airの先端は「<」の形をしているのに対し、バイオノート505エクストリームは「Σ」の形をしている。このΣの形は、液晶を開くための取っ掛かりになっているという、実用性を兼ねたデザインとなっているのだが、この設計思想もMacBook Airの薄さに及ばない理由の1つでもある。

最厚部でも21mm。これはUltrabookのスタンダードにもなっている
薄い印象のMacBook Airと引けをとらない薄さ
机に置いた時はバイオノート505エクストリームの方が薄い

 もっとも、バイオノート505エクストリームが薄さを実現する上で一番“損”しているのは液晶ディスプレイの部分だ。現在、液晶パネルのLEDバックライト化などによって薄型化が進んでおり、MacBook Airの薄型化もそれによってもたらされたと言っても過言ではない。バイオノート505エクストリームが現代に生まれていて、現代のディスプレイ技術を用いれば、もっと驚異的な薄さを実現できたはずである。

 そんなわけもあって、液晶を閉じた状態よりも、机の上で液晶を開いた時の薄さのインパクトの方が強烈だ。これは確実にMacBook Airと比べて薄い。Σの下の形で机とシームレスに繋がり、それが視覚的に薄い印象を与えているというのもあるのだが、「机にキーボードが埋め込まれていて、それがわずかに浮かび上がっている」という印象すら覚える。

 開いた時に見える面がブラウンがかったガンメタリック色というのも、濃い木目調の机の上に置いた時の統一感を高めている。手前に用意されたアンバー色のバッテリとHDDのLEDも、“動いてます!!”と主張するブルーLEDとは一線を画し、さり気ないアクセントとなっている。バイオノート505エクストリームは閉じていても美しいが、開いている時がもっとも美しいと思う。

 シリンダー状のバッテリとヒンジや、底面までもVAIOのロゴが入ったデザイン……この製品デザインに関して語ればキリがないのだが、ここまでデザインを突き詰めたモバイルノートはかつて存在しただろうか。バイオノート505エクストリームは、まさにエグゼクティブが使うPCにふさわしいデザインの完成度を誇っている。

この本体色にアンバー色のLEDは反則だろ! というほどおしゃれ
シリンダー状のバッテリとヒンジは初代の505から受け継がれている
ヒンジ部に電源ボタン。リング状の電源LED……細部までデザインにこだわっているのが分かる

自己主張を感じる孤高のサブノート

底面にもVAIOのロゴが入るほどのこだわり

 筆者は当時このPCの製品情報やニュースの写真を見て、とにかく物欲が刺激されまくった。持っていたInterLink XPをカフェで開けば、自己顕示欲を80%満たせるのだが、後20%ぐらい足りない。InterLink XPは趣味のマシンであってビジネスのマシンではないので、傍から見たら「ノートPCで遊んでるね」と思う人が5人に1人ぐらいは居そうだからだ。しかしバイオノート505エクストリームなら、250%ぐらい満たされる。なんと言っても30万円のエグゼクティブ級マシンですから。「あの人、超かっこいいノートPCを使っている。え、30万円のバイオ? そんな大金をサブノートにポンと出せるぐらい、仕事がデキる人なんだろうなぁ」と思われるに違いない(思い込み)。

 当時バイトで大学に行く資金を貯金していた筆者だが、この製品が発売された日、ソフマップのショーウィンドウで眺めながら「大学の資金を崩して買っちゃおうかな〜!?」と考えた。クレジットじゃなく、銀行から預金を下ろして現金でポンと買いたい。買ったら袋に入れずにパッケージのまま肩に担いで帰りたい! 翌日からバイト先に持って行きレッツノートR1買った上司に自慢したい!!そして電車やカフェの中で開きまくって注目を集めまくりたい!! ……などと妄想をふくらませながら製品の前で指を咥えて505分間ぐらい眺めたものの結局買わなかったのは今でも覚えている。

 妙にテンションが高くなっているが、バイオノート505エクストリームはそれだけ気分を高揚させてくれるマシンである。MacBook Airの台頭でUltrabook市場が立ち上がり、今、世の中には“薄いノートPC”がありふれているが、それでもバイオノート505エクストリームを超えるほどのインパクトを持った製品の登場はないと思っている。

 もう1点忘れてはならないのが重量。もちろん本製品より薄い製品はいくらでもあるが、その多くは本製品より重く1kg前後だ。フットプリントも加味して13型クラスの「LAVIE Hybrid ZERO」を除くと、現代で一番近いのはパナソニックの「レッツノートRZ5」だと思うのだが、バイオノート505エクストリームほどのデザインを追求したマシンではない。

 バイオノート505エクストリームは薄さ、軽さ、デザインの3つの面で完璧なモバイルノートだったが、唯一のネックは価格、店頭モデルで実売30万円、VAIO OWNER MADEモデルで35万という価格はいささか高すぎた。ソニーは「ビジネスマンがちょっと背伸びすれば手が届く価格帯」としていたが、当時社会人だったライター陣に聞いてみても「うーん、僕は買わなかったし、身の回りでも持ってる人は見たことないなぁ」と口を揃える。

 確かに、メインマシンは30万円ぐらい投資する人はいるだろうが、サブノートに30万円つぎ込める人は限られる。かくいう筆者も当時、星野金属のケースやGeForce FX 5900 Ultraのようなメインマシンに組み込む高価なパーツは飛びつくように買ったものの、本製品のようなサブに30万つぎ込む勇気はなかった。

 そんなわけで、バイオノート505エクストリームは筆者にとって孤高の存在であった。これを手にしたユーザーは数少ない幸せな人に違いないと思う。もっとも、30万円を超えでなければ自己顕示欲は満たせなかっただろうし、孤高の存在になり得なかった製品であることも確かだ。

モバイラーのために作られた、最初で最後の“究極”

 バイオノート505エクストリームは、まさに「モバイルとしての実用性を残しつつ、薄く・軽くするためにできることは全てやった」と胸を張って言えるPCである。液晶モジュールはおそらくこれが最薄だっただろうから致し方ないものかもしれないが、キーボード、つまりマザーボードが入っている方に投入された薄型・軽量化技術が半端じゃない。

 例えばマザーボードは当時珍しい10層基板。超小型部品をふんだんに採用し、CPUやチップセットなどの主要部をMD(ミニディスク)サイズ=約70mm四方に収めた。このマザーボードをキーボードと重ならないように奥に配置し、オーバーラップを減らすことで薄型化を図っている。

 また、一般的にUSBやIEEE 1394、ディスプレイ出力/Ethernetポートは基板直付けなのだが、本製品は薄いフレキケーブルを採用し、1.8インチHDDの下をくぐり抜ける構造となっている。一方サウンドチップは別の薄い基板に実装され、フレキケーブルでメインボードと接続し、PCMCIAカードスロットの一部と重なるようにすることで、薄さを稼ぎつつ実装スペースを稼いでいる。

 以前分解した、フットプリントが制限される「バイオU」のような製品においては、部品を重ねることで空間を活用し、フットプリントを抑える設計となっていたが、バイオノート505エクストリームでは薄さを追求したため、逆のアプローチが取られている。薄型化のために理に適った設計を採用いるわけだが、ここまで考え抜いたソニーの設計者には脱帽するほかない。

底面を外したところ。パーツが平面的に広がっていることが分かる
マザーボードを外したところ。キーボード、スピーカー、ポインティングデバイスだけが残った
各種コネクタはフレキケーブルで繋がっている
左からディスプレイ/Ethernet、USB 2.0×2、IEEE 1394が並ぶ
PCカードスロットもフレキケーブルで接続している
サウンド機能もPCカードスロット側についている
フレキケーブルに使われるコネクタも薄型だ
HDDは東芝製の5mm厚の1.8インチタイプ。これもフレキケーブルで接続されている

 天板および底面カバーだが、店頭モデルでは「ニッケル強化カーボンモールド」、ソニースタイル専用の直販モデルでは「カーボンファイバー積層板」を採用するとされている。今回入手したのは店頭モデルで、前者を採用している。“ニッケル強化カーボンモールド”と検索しても、本製品以外の情報が挙がってこないので、ソニーの造語なのは間違いないのだが、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)にニッケルメッキを施して剛性を強化したものだと思われる。

 プラスチックというと「えっ?」という印象を持たれるかも知れないが、CFRPは最新旅客機「ボーイング787」の表面にも使われており、軽量性および強度を持ち合わせた大変優れた素材である。そんなわけで、軽さを重視するモバイルPCにおいても理想的な素材だと言える。

本製品の天板および底面に使われる「ニッケル強化カーボンモール」。いわゆる炭素繊維強化プラスチックで、本製品はイノアックコーポレーション製だ

 本製品に採用されているニッケル強化カーボンモールドは、株式会社イノアックコーポレーションが製造したものである。ベース素材はポリカーボネート(PC)+ASA樹脂で、炭素繊維が10%含まれている。おそらくRL-Cシリーズがベースとなっているだろう。一方キーボードのフレームにはマグネシウム合金ダイカスト(ASTM規格:AZ91D)が使われていた。いずれにしても、剛性や耐久性に優れた素材であり、ちょっとやそっとで壊れるようなことはまずないと思って良い。

 30万円もするのだからある意味当たり前なのだが、薄さ、軽さ、そして剛性など、モバイルに求められる要素を支える技術がふんだん使われており、まったく抜かりはない。かつてのバイオをラインナップを振り返っても、「エクストリーム」を冠している製品は本製品だけで、現在に至るまで二度と使われていない。この辺りからも、本製品がいかに特別な存在なのかがよく分かる。

Centrinoを潔く諦めたマシン

 2003年と言えば、インテルが3月に「Centrinoモバイル・テクノロジ」を発表した年であるが、本製品はそれ以降に発表されたBanias採用のPentium Mマシンであるにも関わらず、Centrinoには準拠していない。理由は単純で、本製品はCentrinoの必須条件である無線LANにIntel PRO/Wirelessを搭載しておらず、無線LAN機能はPCカードで別途提供されていたためである。

 そういった意味ではまさにアウトローな存在なのだが、本製品はEthernet端子すら外付けのアダプタを使う必要があるため、最小重量で使うのであればスタンドアロンで使うという割り切りが必要だ。

 それ以外はIntelの部品を多用しており、CPUには超低電圧版Pentium M 1GHz、チップセットにはIntel 855GM+ICH4-Mを採用している。当時はUMPCという規格がなく、Intelから提供されるチップセットは1つしかサイズがなかったため、本製品のように基板を小型化するためには実装上の工夫が必要であった。

 そこで本製品は、10層基板やブラインドビア、超小型部品などの技術を投入し、部品の実装密度を上げ、主要部をMDサイズのコンパクトなサイズに収めることに成功した。基板面積に対する部品の占有面積は、一般的な製品が40〜70%だったのに対し、本製品は約90%まで高められている。基板を見渡しても、隙間はかなり少ない。まるでチリのような超小型部品も非常に多く、1つ飛んでいたとしてもまったく気付かないレベルだ。その基板と超小型部品を採用しながら、表裏両面に部品をみっちり実装しているのはさすがである。

 ソニーは盛んに“MDサイズの基板”をアピールしているのだが、残念ながらそれは“主要部”に留まる。メモリや電源コネクタ、キーボードコネクタなどは基板から突き出している形で実装されており、これを含めると“まぁ12cmのCDよりちょっと小さいかな?”と言ったところ。とは言え、それでも富士通の「LOOX U50WN」の基板よりは小さいのではないかと思われる(実際に測ったわけではないため分からないが)。

メイン基板(底面側)。ノースブリッジとメモリが配置されている
メイン基板(表面側)。CPUとチップセット、カスタムチップセットが搭載されている
CPUはBaniasベースのPentium M 1GHz。L2キャッシュは1MBだ

 ちなみにチップセットのIntel 855GMだが、これは同時期にリリースされた「Intel 855PM」の姉妹品で、GPUを内包している。以前の記事で「Intel 855PMはイスラエル製で、855GMはアメリカ製。855PMの方が低消費電力で抜きん出ている」としている。まあそれは分からなくもないのだが、その差はTDPで0.8W、平均消費電力で0.7W程度。855PMにディスプレイ出力を付けないという選択肢があるわけもないので、外部GPUがどうしても必要となるが、1W未満のGPUが当時あったのかと言われればやや疑問が残る。あったとしても本機の基板サイズには搭載できなかっただろうし、電源回路も含めれば結局855GMの方が現実的ではないだろうか。

 基板から突出したメモリ部には、Micronの「D9BBL」を採用している。一般的にDDRメモリはTSOPパッケージが多いのだが、D9BBLはBGAパッケージを採用しており、基板の小型化に貢献している。メモリは片面実装となっているが、基板の一部がキーボードとオーバーラップしてしまっているため、両面実装してしまうと筐体の厚さに影響する。容量は512MBと、当時としては必要十分である。

 このほかの主要チップとしては、PCカードコントローラおよびIEEE 1394コントローラを1チップに集積したリコーの「R5C551」、Microchip製の8Mbitの容量を持つIntel 8シリーズチップセット向けファームウェアハブ「SST49LF008A」、Integrated Circuit Systems製クロックジェネレータ「950819AGLF」などが見える。この世代はチップセットへの機能集約化がかなり進んでおり、部品数は相当少ない。

 先述の通り、サウンドは別基板で、チップにはAnalog Devicesの「AD1981B」が採用されている。AC'97準拠のオーディオコーデックで、20bit/48kHzというやや中途半端なスペックを持っている。本製品は音にこだわった製品ではないのでまったく問題はないのだが、「30万円はするしソニーだから、ちょっとぐらいは凝って欲しかったなぁ」とつい欲が出てしまうのは致し方ない。

 一方で、NECの8bitシングルチップマイクロコントローラ「μPD789176」、および日立(現ルネサス)のマイクロコンピュータ「H8S/2160BV」といった用途不明のチップも装備されている。これらは以前取り上げた「バイオU」でもこれに近いチップが装備されていたので、バイオシリーズ独自ホットキーの機能(輝度調節や音量調節)を実現するものと見られる。

 電源周りは、Linear TechnologyとTexas Instruments(TI)製のもので固められており、表裏にデュアル/550kHz/2フェーズ同期整流式レギュレータ「3728L」を2つ装備。チップセットの方はTIのFET内蔵同期バックPWMスイッチャー「TPS54310」も備え、PCカードスロットの電源インターフェイススイッチとして同じくTI製の「PU2211A(TPS2211A)」が採用されている。

 部品数が少ないため、見ていて楽しい基板というわけではないが、実装密度が高く、なおかつ配置も絶妙なため、感心させられる作りとなっている。

Intel 855GMチップセット
サウスブリッジはFW82801DBM
メモリはMicronの「D9BBL」。DDRメモリとしては珍しいBGAパッケージ
オーディオははAnalog Devicesの「AD1981B」
Microchip製の8Mbitの容量を持つIntel 8シリーズチップセット向けファームウェアハブ「SST49LF008A」
日立(現ルネサス)のマイクロコンピュータ「H8S/2160BV」
NECの8bitシングルチップマイクロコントローラ「μPD789176」。日立のチップと合わせて、ソニー独自の機能を実現していると見られる
CPU側の電源回路は、Linear Technologyのデュアル/550kHz/2フェーズ同期整流式レギュレータ「3728L」を採用
チップセットの方にも3728Lを採用している
チップの一部型番はシールに隠れている
PCカードコントローラおよびIEEE 1394コントローラを1チップに集積したリコー「R5C551」
PCカードスロットの電源インターフェイススイッチはTIの「PU2211A(TPS2211A)」が採用されている
Integrated Circuit Systems製クロックジェネレータ「950819AGLF」
Intelの「PRO/100 VE」ネットワークコントローラ
部品は非常に小型で、高密度実装されている
バッテリ端子付近のフューズが見える。「起動しない」と言った場合はチェックすると良いだろう

 さて、本機はファンレス構造となっているのだが、CPUやチップセットの熱を筐体に逃がすため、大きいグラファイトシートを採用している。グラファイトシートの特徴は、面方向の熱伝導性が銅やアルミよりも優れていながら、軽量性を実現できる点である。ヒートシンクと比較すると表面積が少ないので、“同じフットプリント”という意味では劣るかも知れないが、本製品のように薄さを重視しつつ、筐体表面に熱を拡散するだけで放熱を賄えるようなシーンでは有効なソリューションの1つである。

 ただ気になったのは、このグラファイトシートの上部に薄いフィルムが挟まれている点である。おそらく基板と筐体の絶縁性を確保するためだと思われるのだが、グラファイトと密着しなくなるため、これによって熱伝導率が低下すると思われる。まあ、低電圧版Pentium M 1GHz自体は100℃まで耐えられ、TDPも7Wしかないので、この機構で問題はないのだろう。

CPU側はマグネシウム筐体に対し、グラファイトシートを貼り付けて放熱している
チップセット側もグラファイトシートで放熱
絶縁性を確保するためか、薄いシールが用意されている

外装に難ありな一品を落札

 今回はいつものヤフオクで落札した。不具合の内容はヒンジがガタつくというもので、落札価格は3,400円であった。

 一般的にヒンジに問題があるクラムシェルノートは、ヒンジ部品そのものよりも、ヒンジの受け止め部分が損傷し、それによって不具合を起こしている可能性が多い。ヒンジは金属部品だが、受け止め部分はプラスチックであることが多く、剛性の違いでプラスチック部分が先に損傷してしまうのだ。

 しかし本製品は先述の通り、外装にマグネシウム合金またはCFRPで剛性はあり、外装が損傷するとは考えにくい。そのため何か別の要因だ。実際届いた製品を見ると、液晶側のヒンジがきちんと留められておらず、これがガタつきの原因であったようだ。

 オークションの製品説明にはなかったが、ほかにもいくつか不具合があった。1つはヒンジ部分のプラスチックの割れである。元々細くて割れやすいパーツなのだが、これが割れていたのだ。おそらく前使用者はヒンジを直そうとして一回分解を試みて、その時に割ってしまったのだろう。

 もう1つはゴム足が足りない問題で、本来手前4カ所、左右2カ所にあるべきゴム足がなかったのだ。これでは机に置いた時にガタついてしまって安定したタイピングができない。この点も解決しなければならない。

ヒンジカバーが割れていた
ゴム足が4個ほど足りていなかった

 OSは既にリカバリされていて問題なく動作しており、安定した動作も可能だった。1.8インチHDDではあるが、Windows XPを使う分には至って快適である。が、いかんせん容量が20GBしかないので、ちょっと拡張したいところ。一方バッテリはちゃんと生きていて、1時間20分ぐらいは普通に動作した(おそらく実用でもこれぐらいだった)。

 気になったのは、時計が狂っている点だ。秒針を眺めていると、進む時もあれば止まる時もあって、さらに電源をオフにすると時間が全く進まなかったりする。BIOS上でCMOSのデフォルトを読み込んでみたがダメだった。いったんCMOSバックアップ電池をチェックする必要があるかもしれない。

 なお、購入した製品は本体とACアダプタのみで、本来付属するメモリースティックカードリーダ付きマウス、およびミニD-Sub15ピン+Ethernetアダプタ、PCカード型の無線LANカード、キャリングケース、リカバリCDなどが付属されていなかった。今時なくても困らないものだが、せっかくのエクゼクティブ級マシンなら、一式揃えたかったなぁというのが本音である。

ヒンジの修理は余裕。時計の問題は……

 ヒンジだが、先述の通り液晶側の受けが緩かったので、液晶側を分解して調べることにした。液晶はフレームが四隅のネジで留められているのだが、これは化粧ゴムに隠れているので、化粧ゴムを取り外してネジを緩める。ネジを緩めたらゆっくり爪を剥がしていくのだが、正面から見て右サイドだけはスポンジのようなもので接着されているため、細いカッターを入れて慎重に剥がす。なお、フレームはやわらかいパーツなのだが、そんなに簡単に割れるようなものではないと思われる。

 分解して確認したところ、ヒンジは2つのネジで留められているのだが、このうち電源ボタンも兼ねて固定している方のネジがかなり緩かった。通りで電源ボタンもグラグラしているわけだ。ネジ受け部分の破損は特に見受けられなかったので、しっかり固定して戻した。これでもヒンジの開閉はややギクシャクする感じなのだが、液晶のぐらつきはなくなり大幅に安定化したのでこれでよしとしよう。

ヒンジ部を分解したところ。フレキケーブルのところのネジを締め直したところ直った。ネジの横の小さなスイッチは液晶の開閉を検知するものだ。よくぞヒンジの中に組み込んだと感心させられる
DCのジャックは左側に入っているが、ヒンジ機構はない

 ヒンジ部分のプラスチック部品の割れだが、未だいい解決策が見つからない状態でいる。プラスチック向け「ボンド 超強力接着剤 ウルトラ多用途 SU」を何種類か試してみたのだが、いずれも接着強度が不足しており、満足できる修復に至っていない。そもそも、ここの部品がプラスチックだと分かっても、ポリカーボネートなのかポリプロピレンなのかABS樹脂なのかで、接着剤の選択も結構変わってくるのだが、今度はアクリル板用の「アクリルサンデー接着剤」を試してみようと思う。

 ゴム足だが、これは先日別記事でレポートした通り、「NyankoPC」を利用してみた。底面のゴム足はサンプルがあったのでそれを送付して1個あたり150円で解決。一方、液晶上部のゴムも溶けていたので、図面製作込みでお願いしたところ1個あたり200円だった。完成したゴム足はオリジナルとまったく遜色のない完成度であった。

NyankoPCに依頼し制作してもらったゴム足
ピッタリフィットし、純正品と見分けが付かない
CMOS電池を外して付け直したところ、時計が遅れる問題が直った

 HDDだが、以前にこのコラムで登場した富士通の「LIFEBOOK U」から抜き出した40GBに換装することにした。なお、東芝の1.8インチHDDは5mm厚と8mmの両方があり、バイオノート505エクストリームおよびLIFEBOOK Uは共通の5mmタイプである。「バイオU」といった製品は8mm厚となっており流用できないため注意が必要である。

 次は時計の問題だ。当初、バックアップ電池も充電サイクルを終えたものだと思い、「ぱなくる」というサイトで、採用されている電池と同じ型番の「VL-1220/FCK」を注文したのだが、注文後に電池の電圧を計測したところ、定格の3Vをやや上回る3.1Vが出力されていて、問題ないことが判明した。というわけで結局そのまま戻してしまったのだが、この着脱の作業が結局“効いて”、時計が正常動作するようになった(笑)。もしかしたら接触不良だったのかもしれないが、とにかく一件落着である。

カフェでドヤッてみよう

 というわけで実用パートなわけだが、やはりここは1つモバイラーとしてカフェでドヤリングするしかないと思った。しかし、既に述べたように、本製品を“最軽量”という形で使いたいのであれば、通信環境を捨てるのがもっとも早いし、あえてスタンドアロンで使うのがもっともシンプルでもっともカッコいい。というわけで、カフェで原稿を書くことを考えてみた。

 「本気か?」と思われるかもしれないが、この原稿の一部もバイオノート505エクストリームで書いている。使いやすいキーボードに、ホームポジションをキープできるスティックポインティングデバイス。寒いこの季節、本機を抱えてそのままカフェに入っても、冷たいパームレストに神経を取られることなく、木の温もりと香りが感じられるカフェの机の上で、すぐ原稿書きに集中できる。まさに書くことに集中できるマシンだ。

 本機で原稿を書いてて行き詰ってしまったら? この時代なら、普通TwitterやらFacebookやらYouTubeやらに逃避”して、気分転換を図りたいところだが、それで30分ぐらい夢中になってしまい、返って締め切り時間に迫られてしまっている経験はないだろうか。バイオノート505エクストリームならネットワークがなく逃げ場がないので、その心配はない。それならばということで、PCカードスロットのダミーに底を貼って、フリスクを内蔵できるようにした。それを食べて気分転換することにしよう。

原稿書いてて行き詰まったら……
PCカードスロットに内蔵されたフリスクを……
食べて気分転換

 カフェの窓辺席に座れば、MacBook Airに負けず劣らず“ドヤリング”ができる。あちらは銀色で、木目調の机と調和しないのだが、こちらは木目調の机ともマッチする。窓の外から見たら、一見ノーブランドのノートPCのようだが、角度によってはVAIOやSONYのロゴが見え隠れする。「シャープで薄くかっこいいノートPCで、何やら真面目に仕事していますね。彼はデザイナーとかのお仕事なんでしょうか?」……などと想像を掻き立てるのだが、どや顔でソリティアをプレイしているだけなんですな。

あっ、カフェでドヤリングしている人がいる!
何してるんだろう。気になるな〜
ソリティアかよ! OS Xユーザーいわく、デフォルトでソリティアが遊べるのはWindowsだけ、とのことだ……

スーパーカーのような存在が欲しいPC業界

 冒頭で、自慢のノートPCを女性に見せても「オタクだ」と言われるのがオチだと書いた。ところが、バイオノート505エクストリームだけは別格。「そろそろ家に溜まった(Librettoなどの)小さいノート処分して」と言う妻も「へぇ〜」と頷きながらニヤニヤして眺める。「これ、12年前のノートPCでこれだけ薄いんです!」と母親に自慢すると「12年前!? それはすごい。12年前の製品だとは思えない」と驚かれる。同僚の女性に見せても「この薄さは確かに衝撃的」と頷く。

 女性を例に挙げたが、別に女性に限ったことではなく、男性もほぼ同じ答えを出す。写真のモデルとなっている男性は、「Windows PC業界は“何かを足して”デザインだ! と言う所が多く、今のMacのように“何かを減らして”デザインと言う所ない。だから僕も買わない」という。しかしバイオノート505エクストリームに関しては「当時PCで考えうる最もシンプルなデザインを採用したものだろう」と肯定する。だからWindowsを一度も買ったことのない彼に、ドヤリングを頼んだのだが。

 まあ、細かい点を突き詰めればもっと改善できる点が多いかも知れないが、バイオノート505エクストリームのデザインは全人類を納得させるぐらいの説得力がある。もし読者の中で“私はバイオノート505エクストリームのデザインに納得が行かない”と言う方がいるのであれば、早急にPCメーカーのデザイナーとして志望して設計して欲しい。今、PC業界にはあなたのような人間を必要としている。

 PC業界はコモディティ化が進み、バイオノート505エクストリームのような尖った製品がなくなってしまった。本製品は自動車で言えばスーパーカーの部類で、ある意味これを購入したが人生のゴール、的なイメージさえある。しかし昨今のモバイルPCは軒並みコストパフォーマンスばかり追求するようになり、言わばハイブリッド車だけが存在するようになってしまった。これでは市場が停滞するのも致し方ない。PCメーカーは“Windows XP買い替え需要の反動”を売れない理由として挙げる前に、尖ったマシンをどんどん出して欲しい。

 バイオノート505エクストリームに話を戻そう。当時の開発者は「今の技術でもう1度505を設計したらこうなった」という。バイオノート505は元々B5ファイルサイズのサブノートとして登場したが、高性能/大画面化指向の「Z505」が出た辺りから2ラインナップに別れ、サブノートの方は「SR/SRX」を経て「TR」シリーズに、一方505の型番を残したものは「R505」と「V505」へと肥大化してしまった経緯がある。参考までにN505およびV505との比較写真を掲載するが、V505には色以外、サブノートとしての505の要素が全くないことが分かる(このV505は妻が使っていたが、サブではなくメインノートだった)。バイオノート505エクストリームは、その“反省”から生まれたマシンだ。

写真右はバイオノート505初代のフォルムを受け継いだ「PCG-505G」。これの紹介はまた日を改めて
PCG-505Gからはかなり薄型化されたことが分かる
バイオノート505シリーズはその後、「Z」と呼ばれる大画面モデルが登場し、さらに「V」(写真右)へと大型化してしまった
さすがにPCG-V505はモバイルではない。とは言え、デザインの方向性は共通している
ジェントルマンがこんなに集まるとは壮観だな

 つまるところこの開発者は“分かっていた”のだ。そう、例え性能が廃れたとしても、フォームファクタは廃れることがないことを。今の技術でバイオノート505エクストリームを作ったらどうなるか? おそらく「VAIO X」や「VAIO S11」とは違う答えになるのではないだろうか。

【表】購入と復活にかかった費用(送料/税込み)
バイオノート505エクストリーム 4,696円
ゴム足 1,164円
ボンド 超強力接着剤 ウルトラ多用途 SU 442円
VL-1220/FCK(使わず) 1,042円
合計 7,344円

(劉 尭)