ロジクールの新モバイルマウス、Anywhere Mouse M905の実力



 電磁アクチュエータでスクロールホイールの動作モードを変化させ、金属製ホイールの慣性を利用した快適な超高速ホイール動作を実現したMX Revolution、ホイールモードが手動切り替えながら小型なVX Revolutionが発売され、すでに3年が経過した。その間、薄型化とホイールモード切替が容易になったモバイルマウスのVX Nanoや、ステルスサムボタンを装備したミドルクラスのMX1100などを発売してきたロジクールだが、それまで2年に1度の頻度で発売してきた最上位モデルは更新されないままだった。

Anywhere Mouse M905

 しかし、今年(2009年)は暗視野検鏡の技術を用い、どんな表面でも正確なトラッキングを行なえるDarkfield技術を用いた新シリーズを追加。従来の上位機種を一気に置き換える。果たしてどのような性能を発揮するのか。ノートPC向けに携帯性を重視して開発したというAnywhere Mouse M905(以下M905)を中心に、そのインプレッションを書き進めたい。

 なお、評価で使用したのは製品版相当品で、ハードウェアは製品版と同一とのことだが、製品パッケージなどは付属していないものだった。

【編集部注】2009年8月27日現在、ロジクールM950、M905の発売は2009年中とだけあり、具体的な発売日、価格は未定です。また、店頭、Webでの予約も開始されていません。


●マウスを携帯する? しない?

 おそらくモバイルPCを持ち歩くとき、マウスも一緒に……という読者は少数だろう。筆者も取材などでノートPCを持ち歩くとき、マウスを鞄に入れておく習慣はこれまで無かった。

 モバイルPC向けとされる小型マウスを持ち歩くのは、プロジェクタを用いたプレゼンテーションを行なう際(スライドの送りに使ったり、レーザーポインタの代わりにマウスカーソルで指し示したりといった用途)に自在にマウスカーソルを動かしたい時のリモコン代わりとして使う場合。そして、出先で長時間PCを使う必要があるとき(滞在先のホテルで原稿を書く場合など)ぐらいのものだ。

 こうしたことはロジクールでも充分に認識しており、ユーザーへの調査でも“出先ではマウスが使えない場面が多い”、“持って行くのを忘れる”、“これ以上、持ち歩くものを増やしたくない”など否定的な意見が多かったという。しかし、一方では世界的にもノートPCの利用者は増え続けており、ノートPC向けに優れた機能や性能を持つマウスが欲しいという声も大きくなってきた。

 そこでモバイルPCユーザーにも使ってもらえるマウスを目標に開発が進めらたとロジクールから紹介されたのが、VX Nanoの後継にあたるM905だ。読者の中にはVX RevolutionをデスクトップPCで使用している方もいるだろうが、VX Revolutionと同等サイズのモデルは、今回、用意されなかった。ただし、米国ではVX Revolutionとよく似た造形のMarathon Mouse MXという機種が公表されており、日本でも近い将来、発表される可能性が高い。名前の通り電池交換なしで数年利用できるマウスになるようだ。

 話が少し横道にそれたが、M905は前述した“モバイルマウスをノートPCと共に持ち歩かない理由”を研究した上で、いくつかの特徴付けが行なわれている。

 まず、どんな場所でもマウスが正常に動作するようDarkfieldセンサーを搭載。外出用マウスは鞄に入れっぱなしでもいいよう、複数マウスを1つのレシーバに登録可能な超小型ユニファイングレシーバに対応していたといった点だ。

●“ガラスの上でも使える”ではなく、“どんな場所でも使える”から価値がある

 筆者宅にはガラス天板の家具が1つもないため、ガラス上でも正確にトラッキング……と言われてもピンと来ない。わざわざデスクトップPCのマウスをガラスのマウスパッドで使おうという人はいないだろうから、同じように「ガラスで使えても……」と思っている人は多いのではないだろうか。

 しかし、その一方で出張先のホテルなどでは、マウスがうまく使えないテーブルが置かれていて四苦八苦……ということは何度も経験しているので、Darkfieldセンサーがガラスでの正確なトラッキングを行なえると聞いている喜んでいる。しかし、本当に魅力的なのはガラス対応ではない。トラッキングを不得手とする表面が存在しないことだ。

 ガラス対応の光学式マウスは、実は5年ほど前から発売されていた。A4Techが開発したセンサーを用いたものだが、これはガラスで利用するために光学系をチューンしたもので、ごく一般的な素材でうまく動かないことがあるという(残念ながら筆者は所有していないので試せないが)。

 マイクロソフトも、BlueTrackテクノロジーと呼ばれる青色LEDを用いたトラッキング技術を搭載したマウスを発売しており、ガラス対応ではないものの、従来のレーザーではトラッキングできない場所でも使えるとアナウンスされている。BlueTrackは手元にいくつかあるので、Wireless Mobile Mouse 6000と比べてみることにした。

 ガラスで使えるとあらかじめアナウンスされているM905は、当然ながらガラス面でもマウスパッド上と全く同じ動きとレスポンスだ。一方、Wireless Mobile Mouse 6000の方は、ほとんど反応しない。やはりガラス面はサポートしていないようだ。

 次に透明なマットを引いた机面で試したところ、やはりM905の動きに変化はない。BlueTrackの方は動きがかなり改善されたが、完璧とは言い難かった。両者とも一般的な机の上ならば、全く問題なくトラッキングをするが、ガラス面でのM905の優位性は間違いない。

デザインはVX Nanoと酷似しているが、やや幅が拡がり、進む・戻るボタンの配置が親指で操作する部分へと移動されている評価キットに同梱されていたガラス製マウスパッド。もちろん、動きは一般的な素材の上と全く変わらない
センサーカバーを兼ねた電源スイッチ。Darkfieldセンサーは他方式よりほこりやゴミには強いそうだ

 次にBlueTrackが得意とされている、細かな木目のプリントがされた机や毛足の長いカーペットでも両製品で試したが、両者とも苦もなくトラッキングする。大きな差はないと考えていいだろう。なお、従来型のロジクール製レーザーマウスでも同様にきちんとトラッキングできていた。意外だったのは畳。BlueTrackは畳を不得手としているようで、動きがぎこちなくなる(レーザーセンサーではそのような事は起きない)。

 “ガラスの上で使える”ではなく、どんな場所でも使えるというのが、DarkFieldセンサーのウリだというが、まさにその通り。ガラスを含めたあらゆる表面に対応できるからこそ、モバイルPC向けのマウスとして安心できる。

●好みのスクロールホイールはどちら?

 新機能だから、当然、どんなものかとガラスのトラッキング性能を試したわけだが、実際のところホテルの机がガラスだったとか、そういう理由でもなければガラスでのトラッキング性能は必要ないと言っては身も蓋もないか。もちろん、せっかくガラスを含む全サーフェイス(?)対応化に一歩近付いたというのだから、持ち出す際の鞄にはM905を詰めておくことにしたい。

 見た目がよく似たVX Nanoとの違いはトラッキングセンサー以外にも多くあり、ちょっとしたフィーリングはM905の方が上だ。たとえばM905の電池は単三形乾電池2本で、1本で動作するVX Nanoよりも若干重いのだが、左右対称V字型に入れたバッテリのバランスが良いのか、私個人の感覚としてはM905の方が使いやすい。

 ただし、1点のみ退化していると思う部分がある。それが電池蓋だ。VX Nanoはスライドレバーで電池室の蓋が取れ、その中にレシーバも収納する仕組み。レシーバ収納の仕組みはM905でも同じだが、電池蓋は全体をスライドしてツメのロックが外れるまで力を加えるタイプ。ツメが折れたり、ロックが緩くなったりしないかと少々心配(ツメをロックする部分は金属製なので、たぶん大丈夫なのだろうけど)。そしてなにより、蓋を外しづらいのでレシーバの出し入れにも不便だ。

裏返すと電池蓋の取り外しレバーがないことがわかる。底面の約2/3を占める蓋をスライドさせて取り外すバッテリはV字型配置で左右対称。バッテリ寿命はおよそ4カ月程度とのこと。単三形乾電池2本を用いる

 もっとも、他社マウスとの比較に視点を戻すと、もっとも大きな違いは何よりホイールではないかと思う。MX/VX Revolutionで導入したホイールのファストスクロールモードはホイールの使い勝手を劇的に向上させてくれる(余談だが、今回のモデルから超高速スクローリング機能と名称を変えるそうだ)。

 残念ながらソフトウェアでスクロールモードをカチカチ(クリック感のあるモード)とギュンギュン(勢いよく慣性で回ってくれるモード)が自動的に切り替わる電磁ラチェットメカはMX Revolutionで途絶えてしまったが(今後も作る予定は無しとか)、切り替えがメカニカルなものになっても、その良さが失われるわけではない。

マイクロソフトのWireless Mobile Mouse 6000と並べてみた。BlueTrackはガラス面でのトラッキングは行なえない。しかし、一番大きな違いはホイールのフィーリングだろう

 マイクロソフトがクリック感のないホイールを用い、加速度を検出してスクロール速度を変えるソフトウェアを組み合わせ、スルスルと動かすという方針なのは、筆者もレドモンド本社を取材したことがあるので充分に理解している。しかし、カチカチっと節度のある動作もしてくれないと、やっぱり使いにくいというのが個人的な結論だ。ホイールの操作フィーリングは、マウス選びの中で大きくウェイトを占めると個人的には思う。

 ところで、自動的に切り替わらなくなったロジクールのホイール動作モード。その切り替えはM905の場合、ホイールボタンをクリックすることで行なう。これはVX Nanoと同じ設定だ。しかし、同時に発表されたデスクトップ向けのM950はホイール手前にあるボタン(M905で言うとアプリケーション切り替えボタン)で切り替えるようになっている。

 他のロジクール製品も見渡すと、小型のモバイル系マウスはホイールクリック、デスクトップ向けマウスは独立ボタンと割り当てが異なる。メカニカルな切り替えボタンなので、割り当ては不可能だ。

 ロジクールによると、ホイールクリックでの切り替えが手軽という声がある一方、ホイールクリックを何らかの機能に割り当ててきたユーザーもいるので、意見は二分されているという。同じメーカーの製品で二通りの操作方法があるというのは、できれば避けて欲しいのだが、それぞれにシリーズ化されているので、変えたくとも変えられないのかもしれない。

 1つのレシーバに複数デバイスを割り当てられるユニファイングレシーバも、ユーザーからの強い声があったからこそ対応できたというから、あるいはユーザーの声が強ければ、どちらかに統一される日が来るのかもしれない。


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(2009年 8月 25日)

[Text by本田 雅一]