■三浦優子のIT業界通信■サードウェーブ尾崎健介社長インタビュー ~日本最大級「ドスパラ パーツ館」開店の狙い |
開店作業が進む「ドスパラ パーツ館」 |
3月4日、「ドスパラ パーツ館」がオープンする。昨年閉店したT・ZONE DIY SHOPの建物を継承し、1階から3階まで売り場面積約800平方mと、日本では最大級のパーツショップだ。
T・ZONEが廃業したことからもわかるように、PCパーツ市場は決して好調とはいえない状況にある。その時期に、日本最大級のパーツショップを開店する狙いはどこにあるのか。ドスパラを運営する株式会社サードウェーブの尾崎健介社長に聞いた。
--PCパーツ市場は、ものすごく景気が良いという時期ではありません。なぜ、この時期に大型パーツショップである「ドスパラ パーツ館」をオープンするのか、その狙いを教えて下さい。
サードウェーブ 尾崎健介社長 |
尾崎 「お客様が求めている、PCパーツショップを作りたい」--これが最大の動機です。売り上げのことを戦略的に考えて、この時期にこの店を作りましたというお話ができればいいんですが、そういうことよりも、純粋にお客様に「あの店があるからアキバに行こう!」と思って頂けるような、秋葉原に来るきっかけとなるようなPCパーツの店を作りたかったんです。
--新店舗は、昨年(2010年)11月に廃業したT・ZONE DIY SHOPの跡地ですね。
尾崎 T・ZONEさんが廃業されることを初めて知ったときは、正直、危機感を感じました。ご存知の通り、あのショップはPCパーツショップとしては国内最大規模の店でした。お客様から、「あの店が無くなったので、秋葉原に行く意味が無くなったね」という声があがっていることも耳にしていました。
そうした声を聞きまして、パーツ好きのお客様に「秋葉原に行かなければ!」と思っていただけるようなお店を作らなければいけないと考えるようになりました。
タイミング的にも秋葉原中央通りの歩行者天国が再開されまして、注目が集まっている時期です。我々も、さらに盛り上がるようなものができれば、という思いで開店を決断しました。
--新店舗は、どんなお店になるのですか?
尾崎 ビルは以前のT・ZONEが使っていたものと同じですから、スペースが大きくなるわけではありません。従来同様1階300平方m、2階300平方m、3階200平方m、合計800平方mの店舗になります。
ただ、商品の品揃えは、従来のT・ZONEの広い品揃えに加え、ドスパラならではの商品も揃えていきたいです。「この店になかったら、他の店にもないだろう」とお客様に思って頂けるような店舗が目標です。
フロアマップ |
--お話を伺っていると、T・ZONEをかなり高く評価されていたのですね。
尾崎 同じ秋葉原で店舗を運営している以上、T・ZONEさんに限らず、どのお店もライバルとして切磋琢磨する間柄です。ただ、我々のドスパラ本店が、ごく近くにあったこともあって、T・ZONEさんの立地、あの大きさ、品揃えは憧れでもありました。
これまでのドスパラは、どちらかというと、厳選した商品をご提案する、いわばセレクトショップ的なお店でした。
今回の店舗では面積も広く、品数へのご期待にも充分お応えすることができます。品数は明らかにできませんが、従来の数倍の品揃えとなる予定です。
●パーツ初心者からマニアまで満足してもらえる店舗を--新店舗は3階立てですね。フロア構成はどう決まりましたか。
尾崎 1階はCPU、HDD、メモリ、マザーボード、グラフィックカード、画像キャプチャ、外付けのドライブ類などパーツ類を中心とした品揃えになります。2階はディスプレイやPCケース、キーボード、ネットワーク機器、ソフト、ケーブル類など、3階は中古PCや中古パーツ、中古携帯機器などを扱うドスパラ中古パソコンセンターと秋葉原サポートセンターになります。
--中古買い取りのコーナーを設けられたのは、パーツやPC周辺機器については、1店舗内で揃う、ワンストップPCパーツショップというイメージでしょうか。
尾崎 そうです。パーツの新製品が発売されたらまず店に来てもらって、次の新製品が出る前に中古パーツを売って、それで新しいPCパーツを買ってもらう。新しい商品をお求めのお客様に、より便利にご利用いただける、新たなサイクルを作っていく店舗を目指しています。
パーツに関しては新店舗で取り扱う分、近くにあるドスパラ秋葉原本店は、オリジナルPC「Primeシリーズ」の専門店として3月8日にリニューアルオープンします。
--御社のホームページを見ると、ドスパラ パーツ館は、マニアだけでなく、初心者やユーザーでも利用できる店としてアピールしています。
尾崎 メインターゲットとなるのはこれまでのドスパラのお客様である、いわゆるコアなお客様です。ただ、市場を盛り上げていくためにはこれまでリーチしていなかった新しい客層を取り込んでいく必要があります。PC DIYの楽しさを1人でも多くの方に理解していただくことも新店舗オープンの狙いの1つです。
--女性やPC DIY初心者を取り込んでいくために、どんな施策を計画していますか?
アドバイス専任スタッフ「PCコンシェルジェ」が配属される |
尾崎 パーツに限らず、PCに関するアドバイスをする専任スタッフ「PCコンシェルジェ」が在籍します。
パーツに関する質問はもちろん、PCを使ってゲームをやりたい、音楽をやりたい、デザインを描きたい、コミックを描きたいなど多様なニーズがあると思います。例えば、ゲームをプレイするのに本当に適したマウスはどれか、ディスプレイはどんなものがいいのかや、メモリの追加やHDDの追加/アップグレードなどについてなど、これまでできていなかった用途に合わせたPC構成やパーツのご提案をするのがPCコンシェルジェです。
PCを利用する際、オンラインサービスを利用することが増えました。ビジネスではクラウドのようなオンライン型のサービスがメインになると言われています。そういった時代の変化に、店舗は何をするべきなのか。世の中が大きく変化していく中で、我々の役割もどんどん変わって行くでしょう。
ただし、変わらない部分もあります。インターネットで出来ることが、現在以上に広がっていったとしても、エンドユーザーの皆様がいる限り、お客様のデジタルライフをサポートすることが我々店の役割だと思っています。インターネットで調べれば、全てが事足りるようになればお店はいらないということになるのかもしれません。しかし、実際にはそうはいきません。お客様と対面してお話を伺うことで、行間を読んで、お客様の困った部分を先読みして、ご提案していくことが必要だと思うのです。また、まだ世の中に無い、お客様が知らない商品を知っていただく、積極的にご提案することもお店の役割だと思っています。
--確かにそういう需要はあると思います。プロの漫画家さんの例ですが、仕事でPCを使うのだが、液晶タブレットなどのデバイスに詳しく、適切なアドバイスをしてくれる店舗がなかなかないという声を聞きます。
尾崎 一般的な用途ではなく、きちんとした用途に沿ったご相談にもお応えできる店舗を目指したいと思います。
PCはご購入する際にも、さらにご購入後にも何かと困っている方もたくさんいると思います。もともと、PCは使っているうちに、メモリを買い足し、HDDを買い足しといったニーズがありました。最近はそういった際のアドバイスを行なう店が減っているような気がします。本店がPCの取り扱いに特化しましたので、新品のPCを購入した方がいいと判断したお客様は、そちらをオススメすることもできます。
PCに関する相談ならなんでもお受けできる体制を作ることが新店舗の目標の1つです。
●秋葉原のランドマークになりたい--最近では、PC以上にスマートフォンやタブレット型PCが話題を集める時代となってきました。思い切ってPCパーツではなく、スマートフォンやタブレットPCをメイン商品とした店を作ることは検討されなかったのでしょうか。
尾崎 スマートフォンをはじめとしたモバイル製品は、当社でもすでに取り扱っており、重要な製品群の1つです。しかし、PCの進化もこれで終わりではありません。まだまだ面白いものがたくさん出てくると思っています。やはり、ベースとなるのはハードウェアの進化でしょう。たとえば、HDDがSSDとなったり、グラフィックカードの用途としてGPGPUが出てきたりします。そうした技術進化をいち早くお客様に提案していくことが我々の役割だと思っています。
スマートフォンやタブレットPCと、PC。今後のドスパラは両方を意識した店舗展開になっていくのではないかと考えています。具体的には近々発表できると思いますので、どうぞご期待ください。
--お客さんに積極的に提案する店舗を作るためには、店員さんのスキル向上が必要になりますが。
尾崎 もともとドスパラには提案力があると自負しています。これまでやってきたことをさらに丁寧に、お客様の声に耳を傾けていけばいいと思っています。
--つくばエクスプレスが乗り入れて以来、秋葉原では女性客も増えました。AKB48などの影響で若者の数は増えました。しかし、いわゆるパーツショップが多い地区では、人が増えたという印象がありません。場所は“ベルバラ”のちょっと先、中央通りの1本裏になる |
尾崎 より多くの方に知っていただき、ご来店いただく。我々も頑張らねばならないと思います。
新店舗を秋葉原のランドマークに育て上げて、例えばPCパーツを購入したことがないお客様にも「あの店を目印に」と言っていただけるような店にしたいと思っています。来店されたお客様に目的のものをきちんとお届けできる。分からないことには、何でもお答えしていく。それが目標ですね。
--最近のサードウェーブは、今回の新店舗もそうですが、「秋葉原PCゲームフェスタ」のように積極的に顧客獲得を目指す、攻めの施策が目立ちます。
尾崎 正直に言うと、すべて戦略的に考えてということではないんです。ゲームフェスタは独自色のない、我々のような中立的な立場にいるところがやることで、とにかく業界が盛り上がればと思っています。
新店舗も同じで、とにかく秋葉原に来るのが楽しみだとお客様に思ってもらわなければ駄目だと考えたのが最初なんです。「この店があるから秋葉原に行こう」と思っていただけるお店になれば。先ほど、PCパーツを知らないお客様にも認識してもらえるランドマークとなる店舗にしたいと言いましたが、PCパーツマニアの方にとっては中身も含めたランドマークとなる店舗としていきたいですね。