森山和道の「ヒトと機械の境界面」

千葉工業大学、東京スカイツリータウンキャンパスを開設
~原発対応ロボットや火星探査船操縦シミュレーターなど



 千葉工業大学は東京スカイツリータウンキャンパスを「東京ソラマチ」の8階に開設し、5月22日(火)にオープンした。原発災害対応用に千葉工大が開発中のロボット「Rosemary(ローズマリー)」のプロトタイプの実物展示・デモのほか、コックピットに乗り込んで操縦する「火星探査船操縦シミュレーター」や、「魔法のカード ON THE FLY PAPER」、「超巨大ロボティックスクリーン」といった体感型アトラクションを設置している。

 展示について千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)の古田貴之所長は「テーマは3つある。世界初、本物、実際に触れる」ことだと述べた。

東京スカイツリータウン「東京ソラマチ」東京スカイツリータウンキャンパス内の様子千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)古田貴之所長

●レスキューロボット「Rosemary(Rosemary)」
レスキューロボット「Rosemary」

 入り口すぐでまず迎えてくれるのはレスキューロボット「Rosemary」のプロトタイプ。「Rosemary」は現在、東京電力福島第一原子力発電所で使われている国産ロボット「Quince(クインス)」の改良発展版である。NEDOのプロジェクトで開発され、千葉工大の小柳栄次氏らが原発対応用に改造した「クインス」は42度の急傾斜である原発建屋の階段も登ることができ、画像で内部を確認するほか放射線量計測やダストサンプリングを行なって現場の状況把握のために使われた。炉心スプレイ系の状況確認も成果の1つである。

 「クインス」に比べると「Rosemary」はバッテリ搭載量が倍になり(容量88Wh×8本)、また、より簡単に、プラグイン充電が可能になった。これにより、高放射線域で活動したあとのロボットに触らなければならない時間が短くなり、作業者の被曝線量を減らすことができる。さらに実際に投入される機体では自動充電を実現させる予定だという。

 「クインス」はインホイールモーター構造だったが、「Rosemary」はその構造をやめて、放熱性を向上させ、出力トルクも上げた。60度以上の階段を登れる登攀能力がある。本体重量は「クインス」よりも10kg以上重くなり40kg程度になった。ペイロードは60kg。まだ具体的にどんな計測機器を載せるかは決定していないが、ガンマカメラなどを搭載する予定だという。

 耐久性も向上し、最終的には、3年間ノーメンテナンスで稼働できるように信頼性を上げる予定。千葉工大のチームでは、現場でロボットをオペレートする福島第一原発の作業員とやりとりをし、とにかくどんどん実際に動かしてもらって、要求仕様を絞り込んだ。改造に1年間で延べ8,000時間以上かけたという。

 現地では11人のオペレーターが作業しており、4人は千葉工大で訓練を行なった。残りの7人はその人たちが教官となって第二原発で訓練を行なったという。なお「クインス」は千葉工大から東京電力に無償貸与されている。「Rosemary」の投入は年内を想定している。


レスキューロボット「Rosemary」現在は広角カメラを搭載している。実際のペイロードは未定
プラグイン充電が可能になった操作画面。ゲームパッドで直感的な操作が可能開発者の千葉工大 未来ロボット技術研究センター副所長・小柳栄次氏
【動画】階段を上る「Rosemary」

●ロボティックスクリーン

 パンチルトが可能なプロジェクタを使った大型画面「ロボティックスクリーン」には、スクリーンセイバーとして千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)が開発して来たロボットがCG動画で映し出されるほか、iPadを使って、実際のロボットの設計図を拡大したり回転させたりして見ることができる。いずれも実際の図面をもとにつくられたものだ。

 今回は単にスクリーンに投影していただけだが、このシステムのプロジェクタは実際には360度投影が可能で、今後は床面なども使った投影展示やイベントでの活用も進めるという。

ロボティックスクリーンに映し出されるロボットの設計図。なかなかの迫力ふだん映し出されるスクリーンセイバーでは千葉工大のロボットたちが映し出されている
【動画】ロボティックスクリーン

●火星探査船操縦シミュレーター

 火星探査船操縦シミュレーターは、NASA提供の火星地表写真データと、fuRoが以前開発した多関節ロボット用没入型コックピット「Hull」を組み合わせたもの。火星上空を移動することができる。ハプティックインターフェイスを使ったシミュレーターの操縦桿は両手で操作するようになっていて、同時に動かさなければならない。また違う動作をするときには一度ニュートラルに戻さなければならない。これは実際の宇宙ロボットの操作にならったものだという。

 火星のオリンポス山やマリネリス峡谷などを上空から見ることができるが、残念ながら、地表近くに降りてフライスルーすることはできない。隣には小型の火星儀とロボットアームがあり、コックピットに提示されている場所が火星のどこにあたるのかを示してくれる。千葉工大には「惑星探査研究センター(PERC)」があって研究が行なわれているが、PERCがおすすめのスポットなどをツアーとして自動で巡回したり、任意の場所をタブレットで指定して、そこまで自動移動することも可能だ。

火星探査船操縦シミュレーター。没入型ロボット操縦コックピット
ハプティックインターフェイスを使った操縦桿火星儀とロボットアームで現在見せている部分を示すタッチパネル操作も可能
【動画】火星探査船操縦シミュレーターの操作の様子

●魔法のカード ON THE FLY PAPER

 紙のカードを机の上に置くと、文字や映像が投影され、タッチすることでページ送りなどが可能になる「ON THE FLY PAPER」は、著名な工業デザイナー山中俊治氏の「LEADING EDGE DESGIN」が企画開発し、ON THE FLY
Inc.(株式会社オンザフライ)が応用事例の研究開発を行なっているもの。ここでは千葉工業大学のロボットや惑星探査関連の技術紹介に使われている。

 仕組みはカードを上から赤外線を使って認識して、必要な情報を投影するというもの。カード10種類あり、複数枚同時認識できる。センシング、コンピューティングを使った面白い例として示したいという。

「魔法のカード ON THE FLY PAPER」千葉工大のロボットや惑星科学の研究成果が提示される上部にプロジェクターが設置されている
【動画】紙をタッチディスプレイのように扱える

●原発ロボットの操縦も可能、休憩にも最適?

 オープン初日には多くの来場者たちをfuRoの古田氏が案内。各展示の趣旨を解説していた。もっとも注目を浴びていたのは、初お披露目となったレスキューロボットの「Rosemary」。一部の来場者は実際に操縦も行なった。操縦インターフェイスや操縦用のゲームパッドも、実際に福島第一原発で使われているものと同じだ。「Rosemary」は以前のロボットよりもさらに直感的に操縦しやすくなっており、かなり無理目の動きをしてもロボットがついてくるようになっていた。

 千葉工業大学 東京スカイツリータウンキャンパスの開設時間は10:00~18:00。入場は無料。展示はロボットの操縦も含めて、自由に触ることができる。展示物そのものの数は多くないが、会場内にはイスとしても使えるキューブも多数置かれている。技術好きな子供たちはもちろん、スカイツリーめぐりの人混みに疲れた親子連れがしばし休む場所としても使われそうだ。また千葉工大では、今後、このスペースを使ったトークショーやイベントなども行なっていく予定だという。

来場者の多くが集まった「Rosemary」。解説しているのは古田fuRo所長オープン初日の東京スカイツリーはあいにくの雨
□千葉工業大学 東京スカイツリータウンキャンパス

住所東京都墨田区押上1-1-2
東京スカイツリータウン・ソラマチ8F
Tel.03-6658-5888