2014年10月23日

2014年10月22日

2014年10月21日


森山和道の「ヒトと機械の境界面」

IEEE、「世界のロボット事情と日本の現状」プレスセミナーを開催
〜実用ロボットで後れをとる日本



 IEEE(アメリカ電気電子学会)は、「世界のロボット事情と日本の現状」と題したプレスセミナーを5月13日に開催した。IEEEフェローで、IEEE Robotics and Automation Society会長である東北大学大学院工学研究科教授の小菅一弘氏が「世界のロボット事情と日本の現状」と題して講演した。講演後にはロボットのデモンストレーションも行なわれた。

 IEEEは160カ国で37万5,000人を超える会員数を持つ学会で、電気電子工学およびコンピュータサイエンス分野において世界の文献の3割を占める論文誌の発行、年間1,000を超える国際会議の開催のほか、技術の標準化などの活動を行なっている。今回のプレスセミナーは、5月13日がIEEE設立日であることを記念して開催されたもの。

東北大学大学院工学研究科教授 小菅一弘氏。IEEEフェロー、IEEE Robotics and Automation Society会長

 小菅教授はロボットの2つの歴史、IEEE定期刊行物から見た日本と世界、米国ロボット事情などについてレクチャーを行ない、実用化が遅れている日本のロボット研究に対して「今が最後のチャンスだ」と檄を飛ばした。内容をレポートする。

 「ロボット」の歴史は古いが、大きく2つの種類があると小菅氏は話を始めた。ロボットのコンセプト自体はギリシャ時代の戯曲にまで遡ることができる。その戯曲の中に既に「生命のように動く機械」というコンセプトが示されているという。日本の江戸時代の「からくり人形」や、ヨーロッパの「オートマタ(自動人形)」を見ても「生物のように動く機械を創りたい」という願望や好奇心は昔からあったことが分かる。現在のヒューマノイドはその延長上にある1つの象徴であり、サイエンスの一環として捉えられると述べた。

 一方、もう1つの「ロボット」の流れがある。'40年代後半から放射性物質の研究が始まり、危険物を扱うための機械式マスタースレーブが必要に迫られて開発された。ニーズありきで開発された、人が扱えないものを人が扱うための機械である。'50年代から'60年代には、機械式だったマニピュレータを電気式に置き換えたものも開発された。ちょうど同時期、世界初のコンピュータENIACが開発され,磁気式記憶装置を用いた工場機械制御の特許が取られた。'54年にはプログラム可能な汎用ロボットが設計され、これをもとに'56年にUninationが設立されて、'60年代には世界最初の産業用ロボット「UNIMATE」が開発されることになる。

 つまりロボットには2種類あり、人間の興味や好奇心に基づいてサイエンスの一環として研究開発されているものと、ニーズ先行で作られた道具や機械の延長線上にある実用ロボットがあると指摘した。

ロボット研究の一部は好奇心と興味で推進されている 機械式遠隔操作型マニピュレータ UNIMATE('61)

 次に小菅教授は、文部科学省科学政策研究所(NISTEP)が「IEEE定期刊行物における電気電子情報通信分野の領域別動向〜日本と世界のトレンドの差異〜」という調査文書を今年2月に出していることを紹介した。

 この報告書によれば、IEEEはグローバル化が進展し、北米中心の学会から世界の学会になっていることが示されており、特に中国の研究者からの論文投稿の伸びが著しく、既に日本は抜かれてしまっているという。しかもカナダや韓国、イギリスなどにも追いつかれつつある。

 分野動向を見ると、'90年代は電子デバイス分野が主役だったが、今は信号処理、情報分野が増えている。またロボティクス、絶縁・誘電体分野なども増加率は高い。アメリカ、カナダ、イギリスは世界のトレンドをリードしており、欧米諸国はそれぞれ強い領域を持っている。中国やシンガポール、スペインは、情報通信、制御など比較的新しい領域を中心に急激に伸びている。論文数から見ると日本は存在感が低下していると述べた。論文数は研究費にほぼ比例するので、論文数が伸びるというのは研究費が増えていることを示す。

 日本は、情報通信関係の論文が少ない一方で電気電子関係が多く、世界のトレンドを見ると特異な状況にあるという。ロボット工学においては日本は強みを発揮しているように見えるが、小菅教授は、米国の伸び、中国の伸びに比べるとやはりさびしい状況が見えると述べた。また、日本では世界のトレンドとは異なる独特のトレンドが起きているという。詳細はNISTEPのサイトで見ることができる

日本は中国に追いつかれた 過去15年のトレンドの変化。情報通信系が大きく伸び、ロボットは数は少ないが増加率は高い
日本のトレンドは世界のトレンドと違うという 「CCC / CRA Roadmapping for Robotics」

 続けて、米国のロボット事情についてはジョージア工科大学のヘンリック・クリステンセン氏(Henrik Cristensen)らが中心となって作成したロードマップ「CCC / CRA Roadmapping for Robotics」をベースに紹介が行なわれた。このロードマップは参加者を募り、オープンプロセスで作られたもの。ロードマップ作りのワークショップ参加者は産業界からが40%、残り60%が学術界からの参加で、「インターネットの次はロボットが経済を牽引する」と述べており、米国では2012年くらいから大きなプロジェクトが始まる予定があるという。

 分野としては、製造業と流通、医学、ヘルスケア、業務用機器、家庭用機器、教育などの分野において、技術革新を促すべきだとしている。ロボティクスはさまざまな応用可能性がある技術で、製造業の効率をさらに高く引き揚げることで国内に取り戻し、医療サービスを向上させる可能性があり、新しい研究開発技術を加速させるべきであると結論づけているという。また、ロボット先進国と言われることの多い日本だが、実際にはEUは日本の倍額くらい、韓国は4倍程度の投資が行なわれているという。

 小菅教授は事例紹介として、まず最初に、ロボットサッカー「ロボカップ」など自律分散ロボティクスの研究の延長上にあるものとして、キバシステムズによるeコマース向けのロボットシステム「The Mobile Fulfillment System」を示した。多数の小型のロボットが棚を動かすことで、倉庫内のロジスティックスを自動で行なうというものだ。同社はベンチャーだったが、今は120人の社員がいるという。「多数の小型ロボットが作業する研究は、もともと日本の得意分野であったが、日本でこれが開発できなかったのはなぜか」と小菅教授は問うた。

 このほか、一時YouTube上の動画でも話題を呼んだ軍需会社のレイセオン(Raytheon)によって開発されているエグゾスケルトン型のパワードスーツ、産総研にいて今は内閣府に出向中の柴田崇徳氏が開発し、福祉先進国デンマークでは高く評価され導入され始めているメンタルコミットロボット「パロ」や、東北大大学院情報科学研究科と特定非営利活動法人国際レスキューシステム研究機構が共同開発した狭所探査用ロボット「能動スコープカメラ」、情報収集ロボット「Kenaf」、小菅教授の研究室で開発して愛知万博にも出展された「ダンスパートナーロボット」、モーターではなくブレーキによって制御する歩行補助機「RTウォーカー」などがロボット研究の事例として紹介された。

キバシステムズ「The Mobile Fulfillment System」 レイセオンの「エグゾスケルトン」 愛知万博にも出展された「ダンスパートナーロボット」
メンタルコミットロボット「パロ」。認知症に効果があるという 欧州に輸出するにあたり安全性基準に合わせて改良された 「パロ」の触覚センサー
レスキュー用情報収集ロボット「Kenaf」 狭所探査用ロボット「能動スコープカメラ」 歩行支援機「RT-Walker」。支援対象が立っているか座っているか正常に歩行しているかをセンサーで検知してそれに応じてブレーキをかける
【動画】歩行支援機「RT-Walker」のデモ。解説しているのは東北大学准教授 平田泰久氏

 このほか、同じく小菅研究室で研究中の作業支援ロボット「PaDY(in-time Parts/tools Delivery to You robot)」がビデオで公開された。今回が初公開だという。

 「PaDy」は工場内で部品や道具などを持ってくるロボット。いつどのようにどのパーツが欲しいかは、作業者が何が欲しいかによって決まるが、そのニーズに応じたパーツや道具を作業者の元に運んでこなければならない。このロボットには「ダンスパートナーロボット」の成果が活かされているという。どういうことかというと、「ダンスパートナーロボット」は男性のリードを女性型ロボットが読むというコンセプトだった。つまりユーザーの意図を読むという研究の一環だった。その研究は、人にやさしく、容易にものの組み立てができるように人をサポートするロボットの研究に活かされているという。

【動画】作業支援ロボット「PaDY」。今回が初公開

 最後に小菅教授は、「ロボティクス分野の中核的な課題は、現実のサービスを実現するための不良設定問題への挑戦」だと述べた。「ロボットは、役に立たなかったらいらない。でも現実の問題は工学的に解けないものがある(不良設定問題)。それをどうやって解くかが研究者たちの取り組みだ」とし、「日本はヒューマノイドを中心としたサイエンス志向の研究が注目されていて成果を挙げているが、日本と世界におけるロボットの位置づけにギャップがある。このまま行くとまずいのではないか」、「サイエンスはロボット適用分野の1つでしかない。果たしてそれでいいのか、日本の研究者も、国際的に活動を行なっているIEEEのような学会に所属し、世界的な視点から、現状を把握し、自分の立ち位置を見直してもいいのではないか」と述べた。

 また、今後の日本における実用化課題として「ロボット1つを作ってもシステムには役に立たない。研究プロジェクトそのものをシステムとして提案し、システム全体の改善提案が受け入れられないと難しいのかもしれない」と述べた。またロボットは、一度作ってしまったら「もうできているじゃないか」と言われて、そこから先の、「使い方の研究」はあまりサポートされないというところがあり、そこにも考え方の転換が必要になるのではないかと語った。内閣府の柴田氏からは、そのための省庁連携も必要だと指摘があった。