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PSSとNGPの両輪戦略はスマートフォン対抗



●押しとどめがたい携帯ゲームの波

 SCEI(SCEI)は、次世代の携帯ゲームプラットフォームとして、2つの軸を設定した。それは、ゲーム専用ハードウェア「NGP(Next Generation Portable)」(コードネーム)と、Android向けソフトウェアプラットフォーム「PlayStation Suite(PSS)」だ。PSSは、Sony Ericssonのプレステ携帯「Xperia PLAY」で、まず市場に登場する。

平井一夫氏

 SCEIが、性格が異なるこの2つをPSPの次の戦略として立てた理由は、携帯ゲーム機を取り巻く環境の変化にある。具体的には、急進化したスマートフォンやタブレットに、どう対抗するかを考えた結果が、2つの戦略となった。SCEIの平井一夫氏(代表取締役社長兼グループCEO)は、1月に行なわれたPlayStation Meeting 2011で、状況を次のように述べた。

 「携帯型ゲーム機を取り巻く環境は、PSPを発売した当時から、全く様変わりしたのではないでしょうか。外でゲームをするには、PSPのようなゲーム専用機を持ち歩くしかなった時代から、技術も飛躍的に進化し、携帯電話、スマートフォンやタブレットPCといった多機能ポータブルデバイスでカジュアルにゲームを楽しめるようになりました。実際、それを楽しんでいるユーザーの数も加速度的に増加しています。この拡大する市場は、私達にとっても無視できないものだと思います。常に変革するマーケットにしっかり答えて行くことは、プラットフォームビルダとしての義務でもあるのです」。

 SCEIは、スマートフォンや携帯電話などの上でのゲーム市場が急激に伸びていることを率直に認めている。その上で、その流れに対抗するよりも、むしろ変革する市場に答えて行くことを選択したとしている。携帯電話&スマートフォンのゲームの興隆は、押しとどめがたい現象で、SCEIは流れに逆らうべきではないと判断したようだ。

●カジュアルとトラディショナルの2つのゲームをカバー

 SCEIの全体戦略の中で、携帯電話&スマートフォンの流れに沿うものが、Android上でのゲームプラットフォームPSSだ。その一方で、スマートフォンとは差別化した上で、よりゲーム中心のユーザーを取りこむNGPも平行する。スマートフォンに融け込む戦略と、対抗する戦略の2輪の戦略を組み立てた。平井氏はラウンドテーブルで、その理由を次のように説明した。

 「問題はスマートフォンに、勝つか負けるかではありません。スマートフォンの市場に対しては、PlayStationとして、どう参入して行くのかです。

 従来のPSPはトラディショナルなゲームに寄っていました。しかし、昨年の東京ゲームショウでお話しさせていただいたように、『こっち(携帯)のカジュアルゲームについてSCEIはどう考えているんですか、どんどん伸びてますよ』という疑問があったわけです。当時は、まだお話できませんでしたが、我々も、こっち(カジュアルゲーム)にビジネス領域を広げていかなければいけないと考えていました。

 もちろん、我々はゲームをベースにしている会社です。没入感のある究極のゲームをユーザに提供し続けるのは、私たちのDNAです。ですから、我々はNGPという、没入感を極めて行くプラットフォームをやります。

 でも、それと同時に、さまざまな携帯型デバイスで、カジュアルにゲームをやる人はどんどん増えていることも認識しなければいけない。そこに対して、PlayStationとして何をするかを、問われてきたわけですが、それに対する答えがPSSです。スマートフォンフォに勝つ負けるではなく、うちも参入してそのエコシステムの中でビジネスさせていただくという判断です。もちろん、慈善事業ではありませんから、こっち(カジュアルゲーム)が大きくなれば、我々もパブリッシャさんも儲かるようなエコシステムを作って参入して行こうと考えています。

 ある意味で、SCEIとしては、両方をきちんと張るビジネスにしたい、ということです。こっちが大きくなると悪いとか言うことではないと思っています。今までと違って、両方(トラディショナルなゲームとカジュアルゲームの両方)見ていることが大事だと私は思ってます」。

 これまでのトラディショナルゲームだけでなく、携帯電話&スマートフォンの世界のカジュアルゲームもカバーする。それによって、広がるモバイルゲーム市場を全てカバーできるようにする。それがSCEIの戦略というわけだ。


●PSSからNGPへとユーザーを誘う

 従来の携帯ゲーム機は、ゴリゴリのハードなゲームを求めるユーザーから、よりカジュアルなユーザーまで、幅広い層を取りこんでいた。しかし、携帯電話やスマートフォンは、もっとカジュアルなゲームユーザー層を開拓した。今では、単純なユーザー数では、携帯電話&スマートフォンのカジュアルユーザー層の方が圧倒的に多い。そして、携帯電話&スマートフォンは、携帯ゲーム機のカジュアルユーザー層も取りこんでしまっている。

 SCEIは当初、これに対して、次世代PSPを、よりスマートフォンに近づけることで対抗しようとした。スマートフォンに近いフォームファクタ、スマートフォン的なユーザーインターフェイスのOS、汎用アプリなどを備えたデバイスにしようとしていた。しかし、最終的にSCEIは、戦略を2つに分け、次世代PSPであるNGPは、よりゲームに特化させた。その代わりに、スマートフォンに対しては、スマートフォンへソフトウェアを展開する戦略をより拡張することにしたと言われている。後者は最終的にPSSとなった。

 PSSの目的は、単に、Android市場で新しいビジネスを築くことだけではない。カジュアルゲームのユーザーを、最終的にNGPのようなSCEIのゲーム専用プラットフォームに引き込むことも狙っている。平井氏は次のように語る。

 「そちら(携帯のカジュアルゲーム)の市場はどんどん大きくなっていますが、それは見方を変えると、新しいお客様を獲得する入り口が広がったとも言えます。

 今まで、ゲーム専用機のゲームには全く興味がなかった方が、たまたまAndroid携帯を買って、おまけでついて来たゲームをちょっとやってみたと。そうやって、ゲームの世界に初めて入ったお客様の、かなりの部分は、その世界だけで楽しむと思いますが、中には『ゲームって面白いね』と感じる方がいると思うんです。そういう方々に、トラディショナルなゲームの方へと進んでいただけると思っています。

 そういう意味では、今まで獲得出来なかったお客様を、ゲーム業界として1人獲得出来る新しい入り口を、カジュアルゲームの世界が作っているんじゃないかなと思います。今までのビジネスのままでは、ゲームの世界に1回も入ってくれないお客様が、ゲームに触れる機会を携帯端末が作ってくれた。

 ですから、決して今までトラディショナルなゲームをやっていた方々が、皆、カジュアルゲームに出て行ってしまうばかりではない。逆に、こちらに入って来てくれる方もいると考えています。カジュアルな方ばかりが大きくなり、トラディショナルゲームはどんどん小さくなるばかり、というような単純なトレンドではありません。相互に行き来があると、私は考えています。そして、楽しいゲームが出れば、必ず、トラディショナルゲームの方にもユーザーは来ます」。

●ゲームに特化したNGPは没入感でスマートフォンと差別化

 SCEIのビューでは、携帯電話&スマートフォンで興隆したカジュアルゲームの市場は、ユーザーを携帯ゲーム機から奪うだけではなく、むしろ、ゲームというエンターテイメントに新規ユーザーを引き込む役目を果たしているという。ならば、そこからSCEIのトラディショナルゲームの領域へとユーザーを引き込むパスを作ればいいというのが、PSS戦略の構想だ。きれいな構図としては、「携帯ゲーム→PSS→NGP」と、新たな客層が惹きつけられれば、それで成功ということになる。

 もちろん、これには異論もある。携帯電話&スマートフォンで入って来たカジュアルゲーマーは、ゲームの遊び方自体が、従来のトラディショナルゲームのユーザーとは異なり、携帯ゲーム機には惹きつけられないだろうという見方だ。SCEIの思惑通りに行くかどうかは、フタを開けてみないとわからない。

 ちなみに、SCEIはPSSをAndroidとNGPの橋渡しにすることも検討している。PSSをNGP上で走らせる可能性だ。

 「PSSは、初代PlayStationのエミュレーションと、新規タイトルのためのプラットフォームというのが基本形です。そして、クリエーターの方々がそう望めばですが、PSS上で走る新しく作ったゲームを、NGP上で走らせることも、できます」(平井氏)。

 この流れでは、PSSのゲームをAndroid端末で遊び、その先で、PSS+NGPタイトルをNGPで遊ぶようにもできるようにすることになる。PSSとNGPをシームレスにつなげるこの流れは、PSSとNGPの差別化をあいまいにする危険もはらんでいる。しかし、平井氏は、そうはならないだろうと否定する。

 「それなら、最終的にPSSとNGPが一緒になるか、というと、そうはならないと思います。NGPのパフォーマンスと、現在のスマートフォンのパフォーマンスを較べると、まだ差があります。また、スマートフォンはスマートフォンであって、ゲーム機ではありません。スマートフォンでもゲームを楽しめますが、没入感があり徹底的にゲームを遊ぶという点では、NGPのようなハードが必要です。ですから、NGPのような表現力があるプラットフォームは、続けなければいけないし、それが全部スマートフォンに吸収されてしまうことはないと思います」。

 ここでポイントは、パフォーマンス差は、あくまでも今年(2011年)からしばらくの間だという点だ。将来のスマートフォンのパフォーマンスは、間違いなくNGPを追い抜く。そして、PSSがスマートフォン向けのフレームワークとして成り立つためには、そのパフォーマンスを活かして行く必要がある。すると、ある時点で、PSSプラットフォームとNGPのパフォーマンス差が見えなくなる。

 平井氏の言葉は、そうした時でも、ゲームへの没入感という点では、NGPに分があるとSCEIが見ていることを示している。現在のNGPのフォームファクタは、ゲームプレイをしやすいように最適化されており、それも明瞭な利点となるだろう。また、背面タッチパネルのようなNGPの特殊なしかけは、NGPタイトルをスマートフォンに移植させにくくする可能性を秘めている。SCEIは、そうした点を含めて、NGPの特殊性を維持できると踏んでいると思われる。

 ちなみに、没入感というのは、よく考えた言葉で、うまくゲーム機とトラディショナルゲームの特徴を表している。ゲーマーは、ゲームに熱中すると、没入して回りが気にならなくなる。そこまで熱中できるゲームを提供できるという意味だと受け取れる。ただし、この点こそ、ゲームの中毒性として、ゲーム反対論者から攻撃されるポイントでもある。

●限られたリソースをAndroidスマートフォン&タブレットに集中

 PSSは、当面はAndroid市場にだけ展開する。スマートフォン&タブレットに入るといいながら、カバーするのはAndroidだけだ。それは、SCEIの開発能力に限界があるためだという。

 「スマートフォンには、さまざまなOSがありますが、まずはAndroidにフォーカスします。WindowsもiOSも、他にも色々ありますが、全部に一気に手を広げるのでなく、Androidから始めます。全部をやろうとしたら、(開発)リソースが足りなくなりますから、まずはAndroidから始めるという、固い意志を持っています」(平井氏)。

 希望としては広くカバーしたいが、当面は対応できるのはAndroidまでというのが現在のスタンスだ。PSSが、もともと、Xperia PLAYから出発したプロジェクトだったことを考えれば、これは妥当だろう。

 では、スマートフォン&タブレット以外のフォームファクタはどうなのだろう。それなりのパフォーマンスのハードウェアを備えたデジタルデバイスはどんどん増えている。いい例が、ソニーが製品化したGoogle TVベースのTVだ。こうしたデバイスにも広げて行くのだろうか。

 「さまざまなデバイスがありますが、台数を追究すると、フォーカスしなければならないのは、まずスマートフォン、次にタブレットだと思います。例えば、ソニーインターネットTVのような商品。これも普及が進んで行けば……、もしくは、普及要因の1つとしてPSSを提供するということも、否定はしません。ですが、ご理解いただきたいのは、(PSSは)オープンな世界の、台数の多いところに打って出ることがポイントです。ですから、スマートフォンやタブレットが、まずは最優先となります。TVもまったく無視するわけではありませんが、まず、台数がポイントになります」(平井氏)。

 このコメントでのスタンスは明瞭だ。PSSのポイントは、膨大なインストールドベースに、SCEIの管理するソフトウェアを浸透させることにある。重要なのは、普及している台数であり、小さな市場に関わっている余裕はない、というのがスタンスだ。PSS戦略の根幹が、ここでは明瞭に示されている。

●3DSに勝つか負けるかよりも重要なこと

 携帯電話&スマートフォンが開いたカジュアルなゲームの世界を取りこみ、膨大な数のAndroid市場にPlayStation印のゲームの世界を築く。そして、ゲームに目覚めたユーザーを、NGPで牽引トラディショナルゲームの世界へと誘う。これがPSSの戦略だ。しかし、この流れも、NGP側がきちんと成功を収めて初めて成り立つ。同じ携帯ゲーム機に3DSという強力なライバルを迎えるNGPの勝ち目はあるのだろうか。平井氏は、それに対して次のように反論する。

 「3DSに対して、NGPが勝つのか負けるのか、という話題は出てくると思います。しかし、私は、(NGP)対3DS、あるいはPlayStation 3(PS3)対Xbox 360、対Wiiといった構図で見ること自体、視野が狭いと考えています。

 なぜなら、我々が提供しているものはエンターテイメントなんです。究極のエンターテイメントを目指す中では、ほかの娯楽は全て競争相手になります。映画もそうですし、TVもそうですし、極端に言えば友達と行く焼き鳥屋もそうかもしれない。仮に、3DSに台数で勝ったとして、そこで喜んでいても、ふと気がついてみれば全然違う娯楽がゲームと違うところで盛り上がっていて、誰もゲームをしなくなってしまったら全然意味がない。

 ですから、ゲームが楽しいと言ってもらえるコンテンツとプラットフォームを出すことが大事だと思っています。競合他社さんはあまり心配していません。無視しているわけじゃないのですが、そこに余り気を取られていると、大きな波に飲まてしまうんじゃないかという気がして、心配です」。

 つまり、対3DSがどうこうより、まず、携帯ゲーム機というプラットフォームの魅力を出すことが大切で、それによって携帯電話&スマートフォンを含む他のエンターテイメントに打ち勝つことが第一義だとする見方だ。しかし、そうは言っても、ゲームデベロッパに、3DSよりNGPに注力してもらえなければゲームの魅力も出せない。ゲーム機という枠で、NGPの差別化を、どう明確にするかがポイントとなる。

●バリエーションがありうるNGPのネットワーク機能

 そこでSCEIが出した答えは3Gネットワークだった。NGPは、PSP2として企画されていた最初の段階では、3Gネットワークをデフォルトで備えてはいなかった。1年ほど前の仕様では、WANの部分は空白で、未定の状態だった。それが、3Gネットワークの内蔵へと傾いて行った背景には、3Gネットワークで携帯ゲーム機に新しいエンターテイメント性を加えたいという狙いがあったためだと思われる。

 もっとも、現時点ではNGPの3Gの構想は、明瞭になっているわけではない。果たして、iPadのように、3GとWi-Fiの両対応モデルと、Wi-Fiモデルの2種類があるのか、全て3G内蔵になるのだろうか。平井氏は、バリエーションがありうると説明する。

 「商品の展開という中で考えています。地域によっては『3G+Wi-Fi』や『WiFiのみ』の商品展開もあるかなと考えています。

 3GかWi-Fiかという選択は、ユーザーさんの嗜好もあるでしょう。これは一例ですが、Wi-Fi環境があって、Wi-Fiでのオンラインで満足していただけるお客様は、Wi-Fiモデルがいいかもしれない。一方、常にリアルタイム性を追求するお客様には、3Gが魅力になるでしょう。

 (3GかWi-Fiかは)究極的にはSCEIが決めることではなく、コンテンツクリエーターの皆様とユーザーの皆様が決めることだと思います。クリエーターの皆様が、3Gという環境をどこまで使うか、それがユーザーの皆様にどう評価していただけるか。それによって、最終的に3Gモデルの比率がどの程度か、あるいは3Gモデルのみで行くのか、そういった判断ができると思います」。

 つまり、3Gネットワークで、どんなサービスやコンテンツを提供できるか、それがユーザーにどう判断されるかで左右されるという。逆を言えば、SCEIにとっても、その部分が不鮮明であるために、3Gを標準搭載かどうかを、明瞭に言えないのが現状のようだ。

●通話機能は構想から外されたNGP

 NGPでは、3Gデータ通信機能を提供するが、通話機能は提供しない。あくまでも3Gはデータのためと限定している。

 「これもさんざん社内で議論しました。まず、エンターテイメントを楽しむことを主眼に置くと、あえてNGPに音声機能をつける必要はあまりないんじゃないか、という議論があります。それから、NGPのフォームファクタで電話機能を実現するとなると、本体に機能を持たせることはありえない。本体でやるならフォームファクタを変えなければならないし、NGPのフォームファクタのままならヘッドセットなどアクセサリを付けないと通話できません。

 ところが、そもそも皆さんは、すでに携帯電話はお持ちになっている。それなら、携帯電話にNGPをあまり引っ張られたくない。割り切って、ゲーム機として、エンターテイメント機としてどうなんのかを追求するということにして、あえて通話機能は入れませんでした」。

 SCEIは、実はNGPの初期の段階では、かなり真剣に通話機能付きのバージョンを検討していた。全機種に通話機能を加えるのではなく、オプションで通話機能を提供する道も考えていたと言われる。しかし、NGPは最終的に、ゲーム中心のフォームファクタで行くことになり、必然的に通話機能のプランも消えたと推測される。

●3Gの料金プランや契約形態は未知数のまま

 NGPの3Gネットワーク対応で、最も関心を集めるのが、料金プランだ。NGPでは、どういうモデルで3Gネット使用料をまかなうのか。定額の契約制になるのか、それともコンテンツやサービスの課金に上乗せするのか。この当たりのプランは、まだ明確になっていない。

 「3Gについては、各国各地域のキャリアといろいろ議論しています。キャリアと組んで、どんな料金プランを提供するのか、それをどうお客様に料金展開して行くか、それを、まさしく議論しているところです。具体的にどういうキャリアで、どういうプランなのか、それは時期が来たらご説明します。

 基本的には、お客様が3Gで繋いだ時に、料金プランに対して魅力あるサービスやコンテンツを提供出来るようにしたいと思っています。ただ、私がこの金額だと答えるというものではないのではないかと思います。

 キャリアさんと料金体系を議論している中で、ユーザの皆さんが期待している、ある範囲の中で価格体系ができたと前提にしてお話しします。その場合、高い安いよりも、実際に、何ができるのかが大事になって来ると考えています。例えば、PlayStation Meetingで紹介した『near』のように、3Gのリアルタイム性によって可能になるアプリやサービス、コンテンツを魅力的に感じてもらえるかが大事だと思っています。つまり、料金が何百円、何千円だからいい、ということでなく、それ(3Gサービス)が魅力的で、それに対しての料金パッケージがバランスよく見えるか見えないかが大事です。

 では、3Gでどういうことをやるのか、それは、これから、我々がパートナーさんと一緒に掘り、ユーザの皆さんにプレゼンテーションをして、これはいいじゃないと思ってもらうことが重要だと思っています」。

 NGPの3Gネットワークでは、音声通話はサービスとして提供しない。3Gはデータ通信だけ。それも、NGPは、汎用的なアプリケーションもある程度使えるが、基本はゲーム機という特化したデバイスなので、通常のスマートフォンのような使い方にはならない。

 そのため、3Gネットワークに見合った代価は、それによってNGPで何ができるかで決まる。逆を言えば、3Gで提供されるサービスの骨格が見えないと、料金についてもSCEIが詰めることが難しい。現状でSCEIが3Gについて、あまり具体的に言及できないのは、3Gサービス自体を、まだうまく描き出すことができていないからだと見ることができる。

 もっとも、ある業界関係者は、「SCEIが本格的にNGPの3Gで動き始めたのはつい最近のこと。だから、まだ話せることはあまりないのでは」とも指摘する。NGPの戦略は、なんどもふらつき、定まるまでに時間がかかった。そのために、出遅れが発生しているとも考えられる。

●3Gでの協力を得るために早めにNGPを発表

 平井氏が言及しているnearは、SCEIが発表した、NGPで実現する3Gサービスの例だ。ユーザーの位置情報をベースに、近くにいる他のNGPユーザーの情報を提供する。例えば、近くのNGPユーザーが最近遊んだゲームなど公開している情報を得ることができる。

 SCEIのPlayStation Meetingでのプレゼンテーションでは、このサービスは魅力が伝わりにくかったが、現実世界とオーバーラップしたtwitterだと考えるとわかりやすい。まるで、現実の人間にフォローボタンがついているかのように、現実に近くにいる他のNGPユーザーを知ることができる。NGPを通じたソーシャルネットワーク化と言い換えてもいい。nearの例が示しているのは、SCEIがうまい仕掛けを用意すれば、ユーザー同士で、新しい遊びを産み出して行くことも可能になることだ。


 しかし、SCEIが3Gベースのサービスとして描き出せたのはnear程度で、それも充分に可能性を説明できたとは言い難い。SCEI自体が3Gでのサービスを練れていない様子が見える。料金や形態を含めて、SCEIの3G戦略には、まだ未完成の部分が多い。平井氏は、同社がNGPの発表をかなり先行して行なった理由は、まさに3Gでの協力を得るためだと説明する。

 「NGPを年末に出すのに、なぜ、1月という早い時期に発表するのかと聞かれました。それは、過去の経験も生かし、今回は早くオープンにして、パブリッシャやキャリアの皆様とのコラボレーションの中で、発売まで持って行きたいという、私の強い意志がありました。もし、東京ゲームショウ(9月)でNGPを発表すれば、発売までの時間が限られてしまいます。それまで、ひそひそ話でやることはできますが、それよりも、なるべく早くオープンにして、皆様とどのようにパートナシップを組むか、話し合いたかった。特に、NGPでは、さまざまなキャリアさんなどのパートナーが必要になって来ます。だからこそ、早目にそういうところを取り組みたいからオープンにしました。

 コンテンツクリエーターの方々に対しても同じです。大手パブリッシャの、特定のスタジオヘッドだけとひそひそやるのではなく、バーンと出してパブリッシャの皆さんから、『いや俺たちはこういうふうに3Gゲームを作っていきたいんだ3Gはこう対応すると面白いんだ』と意見を出してもらい、皆でこのプラットフォームを作っていきたいからです」。

 うがった見方をすれば、SCEIがNGPを早く発表したのは、情報の漏洩が激しく、発表せざるを得なかったためだとも考えられる。しかし、平井氏が語る、NGPの3Gでの協力態勢を、できるだけ早く得たかったという言葉も、真実だろう。NGPの戦略では、3Gは要となる部分であるにも関わらず、最も練れていない部分となっているからだ。そして、対任天堂3DSという点では、3Gはもっとも強い武器となりうる。任天堂も3G搭載を検討しながらも、見送った経緯があるからだ。

 こうして概観すると、SCEIのNGPとPSSの戦略は、それなりのビジョンと一貫性が感じられる。しかし、ここに至るまでの道のりは、決して確固たるビジョンと一貫した信念に基づいたものではなかった。紆余曲折の末に、NGPとPSSの両輪へと行き着き、戦略を組み立てた。結果としては、現状で、できる限りのことをしているように見える。

 しかし、NGP+PSS戦略には、かなりのリスクもある。それは、SCEIの開発リソースで、NGPとPSSの2つのプラットフォームをカバーしなければならないことだ。しかも、フレームワーク作りのような苦手分野や、3G上でのサービスといった未知のチャレンジが含まれている。開発リソースが足りなければ、二兎を追って一兎をも得ずという結果に陥る危険がある。このあたりを、どうさばくのかが、これからのSCEIの正否を大きく左右することになる。