■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
DDR3と2G-bitへの移行がやって来る
半導体市場調査会社DRAMeXchangeは、台湾台北で開催されているCOMPUTEXに合わせて、メモリ関連カンファレンス「DRAMeXchange Compuforum 2009」を開催した。カンファレンスでは、市場と技術の動向セッションと、SSDなど各種メモリ技術の技術セッションが行なわれた。動向について、今回のテーマは言うまでもなくメモリ不況とそこからの突破口だ。特に、史上最悪の暴落と呼ばれるDRAMの状況についての分析は、大きなテーマだった。
2007年に価格が下落して以来、抜け出す道が見えなかったDRAM。エンドユーザーやPCメーカーにとってはメモリ格安の天国、DRAMベンダーにとっては採算が全く取れない悪夢の状態が続いてきた。
DRAMベンダーが弱ると、技術革新が鈍化し、PCのパフォーマンスの足かせを作ってしまう。また、DRAMベンダー数が減って行くと、最終的に寡占状況ができあがってしまう可能性もある。エンドユーザーやPCメーカーにとっては、メモリ価格の下落はうれしいが、この状況が続き過ぎるのも問題がある。では、DRAMのバーゲン価格状態は、一体いつ終わるのか。じつは、当分終わる気配がない。それが、業界の調査会社の結論だ。
CompuforumでのDRAM市場動向のセッションのタイトルは「Challenges and the survival battle ahead」。2009年から2010年にかけては、まだチャレンジと生存競争が続くというのがテーマだ。DRAMeXchangeの予想するシナリオでは、光明がある程度見える。しかし、全般に言えば、DRAMは2010年を通じても、それほど価格が回復しない予測だ。
逆を言えば、エンドユーザーやPCメーカーにとっては、メモリが割安な状況が当分続くことになる。とはいえ、これ以上に急激に安くなることもない。下げ止まりに近い状況で、おだやかな上下が見込まれている。
DRAMは安値安定とも言える。とはいえ、エンドユーザーやPCメーカーも、64-bit OS環境に移行しない限り、その利点を充分には享受できない。つまり、ソフトウェア層側の転換が追いついていない状況が続いており、手放しでは喜べない。
DRAMのサバイバル |
●相変わらずボールペン価格のままのDRAM
下はDRAMeXchangeが予測するDRAM価格の2007年からの推移と、2009年後半の予測だ。2007年分はDDR2 512M-bit品、2008年以降はDDR2 1G-bit品の数値になっている。上の段が大手がDRAMベンダーと直接取引するコントラクト価格、下の段が市場でのスポット価格の平均値となっている。今年(2009年)頭にDDR2 1G-bitは、コントラクトとスポットとも80セント台となった。ボリュームゾーンのDRAMチップの製造コストは通常2~3ドル程度。微細化してコストを下げても、大半のメーカーは1ドル台前半を切るとやって行けない。ところが、今年後半の予想も相変わらず1ドルを少し上回るライン。1チップがボールペンの価格から抜け出せない。DRAMの赤字バーゲン状況が変わらないという予測となる。
DRAMの価格下落 |
この状況で、DRAMベンダーは大幅な製造キャパシティ削減を2008年後半から行ない始めた。2008年末商戦には持ち直すのでは、という最後の望みが、リセッションへの突入で、断たれてしまったからだ。DRAMeXchangeの発表を見ると、個々のDRAMベンダーの発表ではわかりにくかった、キャパシティ削減の全体像が見える。今年前半を見ると、昨年の前半より業界全体のキャパシティは2/3にまで減っている。作るメモリの量を2/3に減らしても、まだ需給のバランスが戻らないという状況だ。
需給のバランスの崩れ |
なぜここまでDRAM不況からの脱出が伸びているのか。DRAMeXchangeによると、さまざまな要因が重なっているという。まず、供給過剰が10%なら、価格は10%より下がる。そこで製造ラインを止めて製造キャパシティを削減すると、設備投資自体はすでにしてあるため、製造コスト自体が上がりマージンが上がってしまう。また、DRAMベンダーは、市場が下降している時に設備投資をさらに行なう傾向がある。それは、市場が回復した時に市場シェアを獲るためだ。チキン(臆病者)レースをやっている。しかし、そのために、市場がすぐに回復しなかったら、市場の下降がさらに続くことになってしまう。
DRAM市場下降の継続 |
●DRAMのプロセスの微細化は鈍化を続ける
面白いのはこのチャートだ。DRAM製造のビット総量の増大が、どんな要因でなされて来たかを示している。'94年から2000年まではプロセス技術の移行で年1.4倍の増大が実現されていた。ところが2000年から2006年の間はその比率が年1.26倍に下がり、2006年以降はさらに年1.2倍にまで落ち込んでいる。DRAMのプロセス技術の移行が鈍化していることが明瞭に示されている。これは、半導体業界の指標であるITRSロードマップでも裏付けられている。
DRAMプロセスの鈍化 |
ITRSのロードマップでもDRAMプロセスの鈍化が進んでいる |
では、個々のベンダーのプロセス移行はどうなっているのか。現在の主力であるDDR2 1G-bit品については、現在、5xnmプロセスへの転換期にある。下の図を見ると大半が5xnm台へと年内に移行しつつあるのがわかる。ちなみに、AがSamsung、BがHynix、CがMicron、Dがエルピーダ、途中で消えるEがQimonda、FがPowerchip、GがNanya、HがProMOSだ。DDR3 1G-bitも同様で、5xnmプロセスへと移りつつある。NANDは一部を除く主要ベンダーが4xnmプロセスへと移り、今年は3xnmプロセスへの転換を始めつつある。DRAMのプロセスがNANDより1世代かそれ以上遅れていることがよくわかる。
2009年第2四半期のDDR2 1Gb製品ロードマップ |
2009年第2四半期のDDR3 1Gb製品ロードマップ |
●DDR3 2G-bit品が低コストのダイサイズへと移行
5xnmプロセスでは、DRAMのコストがかなり下がっている。DDR2 1G-bit品になると300mmウェハのグロスで1,500個程度のダイ(半導体本体)が取れる。ダイサイズ(半導体本体の面積)が小さくなったため、ダイ数が増えて、ダイコストが激減している。下のチャートを見ると、それがよくわかる。
ダイサイズと1枚のウェハから取れる個数の関係 |
そして、5xnm世代では、2G-bit品のコストも、充分にボリュームゾーンを狙えるレベルに下がってきている。例えば、エルピーダのDDR3 2G-bitの5xnmプロセス版では、1枚のウェハからグロスで846個取れるというDRAMeXchangeの試算となっている。これは、7xnmプロセス世代の1G-bit品と同じレベルだ。
7xnmから5xnmならリニアに70%にシュリンクするので、計算はピタリと合う。そのため、通常のパターンなら、5xnmプロセスでは2G-bit品への移行が始まることになる。チップ容量が大きくなると、DRAMモジュールの容量も倍増する。2G-bitチップなら両面の16個で4GBモジュールとなる。つまり、4GB DIMMが安くなる。
SamsungとHynixは、さらに今年末から2010年前半に4xnm世代への移行も計画している。
DDR3 2Gb製品のロードマップ |
製造コストを見ると、DRAMeXchangeの見積もりではDDR2 1G-bitの5xnmプロセスでは、すでに1チップ当たりのコスト(フルロード)はダイコストで1.15~1.3ドル、パッケージやテストのコストを含めたパーツコストでは1.3~1.6ドルにまで下がっている。それでも、価格を上回っているが。
一方、DDR3 2G-bitの5xnmのコストは、DRAMeXchangeによるとダイで2.13~2.76ドル、パーツコストで2.33~3.06ドルとなっている。この場合、ビット当たりのコストは、2G-bitへ移行しても変わらないことになる。
メモリのコスト分析 |
では、今後はどう推移するのか。DRAMeXchangeの予測では、キャパシティをそれほど伸ばさない場合は、DDR2 1G-bitの価格は2010年まで穏やかに1ドル前後を推移する。しかし、キャパシティを伸ばすと、2009年後半からゆっくりと下落して行くという見通しとなっている。もっとも、2010年のDDR3への移行が、DRAMベンダーの予測より早く進むと、一時的にDDR3が不足して価格が上がる可能性も出てくるだろうという。
メモリの価格推移シナリオその1 |
メモリの価格推移シナリオその2 |
今後のメモリ価格予測 |