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微細化の限界に近づくDRAMの供給量が減り始める

DRAMの供給量が減り始める今後のメモリ業界

 DRAMは終焉に向かっていると言われているが、その傾向がDRAM製造にも如実に反映されつつある。DRAMの総ビット量の伸びが鈍化し始めている。これまでのように、DRAMの生産総ビット量が毎年増え、ビット当たりのDRAM価格が順調に下がり、PCやモバイルデバイスに搭載するメモリ量が増え続けるといったペースは、もはや維持されないようだ。DRAMの後継となるメモリの量産が確立されるまでは。

Compuforumのオープニングで挨拶をする、TrendForce ChairpersonのC.L. Liu氏

 半導体調査会社のTrendForceの市場調査部門DRAMeXchangeが、6月にCOMPUTEX TAIPEIで開催したカンファレンス「Compuforum 2013」で、今年、異変が発生した。メモリ業界が供給するDRAMの総ビット量の伸びが明確に鈍化し始めたのだ。Compuforumを主催するTrendForceは、鈍化した原因の1つはDRAMが微細化の物理的限界に近づいたことにあると指摘した。

 下のスライドは、Compuforumのセッション「The Reshaping of DRAM Industry-2013 and Beyond」で示されたDRAMのビット総量と設備投資のスライドだ。DRAM業界全体の供給できるビット総量の伸び率が赤いラインで示されている。不景気でキャパシティを大幅に削った2009年を除けば、過去8年ほどは年率で50%前後の伸びで来ていた。ところが、2012年のビット量の伸びは28%と落ち、今年(2013年)の予想も23%、来年(2014年)はわずか18%にまで落ちると予想している。

DRAMの供給ビット総量と設備投資

 このスライドを見ても分かる通り、DRAMに対する設備投資はどんどん減少しており、それがビット総量の伸びを抑える原因になっている。ただし、これまでのようにDRAMの製造プロセス技術の微細化が進めば、ウェハ枚数が同じでもビット総量は伸びる。同じウェハ面積により多くのビットを詰め込めるからだ。ところが、DRAMは製造技術の限界に近づいているため微細化のペースがスローダウンしている。そのため、製造されるDRAMのビット総量が23%しか伸びないという状況になっている。

セルキャパシタの構造的な限界が近づくDRAM

 DRAM技術の終焉は、過去に何回ともなく唱えられたが、その度に技術的なブレイクスルーが生まれ、DRAMは延命されて来た。そのため、「DRAMが微細化の限界に達する」という主張は、“オオカミ少年”のカラ脅しのように聞こえる。しかし、今回は、多くの業界関係者が、DRAMが限界に達すると語っており、切迫感が全く異なる。

 昨年(2012年)8月に米Santa Claraで開催されたメモリ技術のカンファレンス「Flash Memory Summit 2012」でも、この話題が大きく取り上げられた。同カンファレンスで、SK hynixは、DRAMのメモリセル面積が微細化で小さくなると、何も対策しなければDRAMのセルキャパシタの容量は小さくなり、データを保持できるリテンション時間は短くなり、オン電流は少なくなり、オフリーク電流(Leakage)は増えると指摘した。

 その問題を解決するには、セルキャパシタの容量を維持するため、キャパシタを縦に細長くして容量を稼ぐ必要がある。問題は、この努力が限界に近づいていることにある。セルキャパシタのピラー(柱)のアスペクト比(A/R)は、3x nm世代でA/R 25程度に達し、20nm台後半の2x nmになるとA/R 50前後、20nm台前半の2y nm世代ではA/R 60以上、1x nm世代ではA/R 100に達してしまう。

DRAMのプロセス技術とセルキャパシタ
※PDF版はこちら
DRAMのプロセス技術とセルキャパシタのアスペクト比の変化
3x nm世代のセルキャパシタのアスペクト比

20nmプロセス台で壁に当たりつつあるDRAM

 こうした状況にあるため、DRAMの微細化は技術的に非常に困難になりつつある。それでも、DRAMベンダーは20nmプロセス以下に微細化できると考えていた。しかし、Compuforum 2013でのTrendForceのスライドでは25nmが限界と記されており、その限界に近づいたためにビット総量の増大が鈍化していると指摘された。

 これには理由がある。DRAMのプロセス技術は、ベンダーによってかなり異なるが、先端プロセスは、現在は30nm台の3x nmプロセスから、20nm台後半の2x nm世代へと移行が進んでいる時期だ。3x nmのDRAMチップの浸透は2012年に進んだが、その段階で、メーカーによってはDRAMのエラー率が高まるという問題が発生したという。そのため、システムメーカー側から、実質的に使えるのは20nm台のプロセスまでではないかという声も出て来た。また、微細化が進むにつれて製造コストも上がるため、ビット当たりのコストの低減も鈍化する懸念が出てきた。

 TrendForceによると、2013年は2x nmプロセスへの移行の年だが、移行のペースは非常に緩いという。下のスライドは製造プロセスの移行の予測で、2013年を通じて緩やかにしか2x nmへと移らないことが分かる。また、2x nmへと積極的に進むのはSamsungとSK hynixの2強という状態だ。

DRAM製造プロセスの移行予測

モバイルとサーバーがPCに代わってDRAMのけん引役に

 Fabへの投資も減り、微細化のペースも鈍化したため、DRAMのビット総量は伸び悩み始めている。もっとも、DRAMの需要もそれほど伸びていないので、まだ問題はそれほど表面化はしない。今年の段階で、ちょうど需給のバランスが取れたか、ちょっと供給が多い程度の状態になりそうだ。

 DRAMベンダーが出荷するDRAMメモリのビット総量は、過去には年50%の伸びで推移するのが通例だった。DRAMの需要もそれに釣り合う年約50%伸びており、1年で世界で出荷され消費されるDRAMの総容量は1.5倍ずつ増えていた。しかし、DRAMの需要は、2009年のリセッションで落ち込んで以来、元の年率50%のペースにまで回復することがなかった。

DRAMの需給バランス

 上はCompuforumでのTrendForceのスライドで、赤色がDRAM需要の伸び、オレンジ色がDRAM供給の伸び、紫色が需給率を示している。需給のバランスが崩れたのは2007年からで、この年、Windows Vista特需を当て込んだDRAMベンダーが、300mmウェハへの移行とともにキャパシティを倍増させて、DRAMは供給過多へと大きく振れた。それ以降は、2009年に需要過多になった以外は供給が需要を上回って来た。2009年は不景気で需要の伸びが急落したのと合わせて供給の伸びも急落したため、異例の状況だった。供給過剰の状態は、DRAMの低価格を維持させる要因となっていた。

 2013年は、すでに説明したように技術の壁と投資の鈍化の両方の理由からDRAMの供給量の伸びがさらに年率23%へと落ち込む。それに対して、DRAMの需要は伸びが再び上昇し始める。TrendForceの予測はビット総量で33.7%の需要拡大となっている。需要の伸びが再び復活し始める兆しを見せている。

DRAM需要の用途内訳と年率の伸び

 伸びをけん引するのはモバイルとサーバーで、モバイルが年率82.5%、サーバーが42.5%と需要が急拡大する。モバイルはかつては台数が出ても搭載DRAM量が少ないため、市場への影響が小さかったが、今ではスマートフォンやタブレットも1GBの搭載が当たり前となり、インパクトが大きい。モバイルは、DRAM需要の面でも、PCに迫りつつある。

 下のTrendForceのスライドにあるように、スマートフォンの平均搭載DRAM量はハイエンドが今年第1四半期に1.096GBあたりだったのが、第4四半期には1.33GBにまで上がると見られている。また、サーバーのDRAM搭載量はユニット当たり平均56GB台にまで急増している。

スマートフォンの平均搭載DRAM量
サーバーユニット当たりの平均DRAM搭載量

PC向けDRAMから脱しつつあるトップDRAMベンダー

 このように、DRAMの需要は再び増えつつあるのに、DRAMの供給は微細化の限界に近づいたことで鈍化しつつある。さらに状況を複雑にしているのが、DRAMベンダーの脱PCの流れだ。DRAMベンダーは、利幅の薄いPC向けDRAMから脱出して、より利幅が厚いサーバーとモバイル向けのDRAMへと移行しつつある。TrendForceが分析する総利益率は、PC向けとサーバーやモバイル向けでは大きな差がついている。

セグメント別のDRAMの総利益率

 そのため、技術力のあるDRAMベンダーほどPC向けDRAMの比率を減らして、高付加価値の非PC向けDRAMへと移行するという流れになっている。例えば、トップのSamsungの場合は、すでに非PC向けDRAMがDRAM全体の生産量の80%以上を占めているという。この図にはないが、Nanyaは2012年のConpuforumでは60%以上がPC向けとなっており、下位のベンダーほど儲からないPC向けの比率が高いという状況が明確になっている。

各DRAMベンダーにおける非PC向けDRAMの比率推移

 上位のDRAMベンダーがPCからモバイル&サーバーへとシフトした結果、DRAMの供給量の伸びがDRAM種毎に変わりつつある。PC向けDRAMの供給は鈍化しつつあるのに、サーバーとモバイルは急増しつつある。サーバーとモバイルは需要も急拡大しているためバランスは取れている。問題はPCで、今年のPC出荷の伸びがどうなるかによって、DRAM供給量とのバランスが変わって来る。

セグメント別のDRAM供給ビット量推移

 Compuforumでは2つのシナリオが示された。2013年のPC出荷数が、2億9,360万台に下げ止まった場合(年率で-8.2%)は、PC向けDRAMの需要に対して供給が厳しくなる。しかし、2013年のPC出荷が2億7,360万台にまで落ち込んだ場合は、DRAMは再び供給過剰になる。前者の場合はDRAM価格が上がることになり、後者ではDRAM価格は再び下がる。

2013年のPC向けDRAM需給バランスのシナリオ

DRAMの終わりの時期に起こる異変

 全体的な流れを見ると、モバイルとサーバーでDRAMの需要は再び増えつつあるのに、DRAMの供給は微細化の限界に近づいたことで鈍化しつつある。もちろん、DRAMベンダーがFabを増やせば供給量は増えるが、微細化でビット総量を増やすのでなければ、ビット当たりの製造コストはあまり下がらない。そのため、DRAMの需給バランスは、全体ではタイトになりつつある。

 このまま進むと、コンシューマはDRAMがあまり安くならないといった問題や、DRAMの搭載量が増えないといった問題に直面するようになる。コンピュータに搭載するメモリ量がどんどん増えて行くという、以前の常識が通用しない世界に入る可能性がある。反面、DRAMベンダーは価格が維持され、以前のヘルシーな経済状況へと戻って行くことになる。

 明確なことは、以前のように年率50%ずつDRAMのビット総量が増大して行くペースには、戻ることができないということだ。そして、DRAM技術が終焉に近づくにつれて、ビット当たりの単価はますます下がりにくくなるだろう。こうした状況はDRAMベンダーには見えているはずで、STT-RAMなどポストDRAMの開発に拍車がかかっているのは間違いない。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail