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iPhoneとAMDとゲーム機の未来を左右するCommon Platformの技術ロードマップ

Common Platformがカンファレンスを開催

 IntelとTSMC以外の半導体ベンダーも、急激にプロセス技術を進歩させようとしている。現在、IntelとTSMC以外のベンダーの多くは、IBMを中心とした半導体技術の共同開発グループCommon Platformに集結している。このグループが製造するチップには、AppleのiPad/iPhoneやSamsungのモバイルSoC(System on a Chip)、AMDのハイパフォーマンスCPU、PLAYSTATION 3(PS3)やXbox 360、Wii U、次世代Xboxのチップなどが含まれる。そのため、Common Platformの技術的な方向性は、コンピュータチップのかなりの部分の将来を左右する。

 Common Platformは、米サンタクララで2月5日に、恒例の技術カンファレンス「Common Platform Technology Forum 2013」を開催した。カンファレンスの模様は、キーノートスピーチなど一部がWebキャストされた。プレゼンテーション資料は公開されていないが、Webキャストされた部分だけでも、Common Platformの向かう方向性が見えてくる。

10年サイクルの大きなプロセス技術の変化の波

 Common Platformのプロセス技術開発の中核を担うIBMは、技術的な方向性の概要を示した。Dr. Gary Patton氏(Vice President of Semiconductor Research & Development Center, IBM)は、半導体技術を大まかに10年毎に4つの時代に分けた。

 最初は2000年頃までのプレーナCMOSによる従来型のCMOSスケーリングがうまく働いていた時代。それが、ゲート絶縁膜が微細化の限界に達してリーク電流(Leakage)が急増したことから、2000年以降はHKMG(High-K/Metal Gate)などさまざまな材料改良をプレーナCMOSに加える必要が出るプレーナと材料の改良時代になった。

 しかし、それもプレーナCMOS自体の構造の限界に達して、2010年代には「3D時代」に入ったとPatton氏は説明する。トランジスタをプレーナから3D構造のFinFETなどに切り替えるだけでなく、ダイ(半導体本体)を直に積層する3Dダイスタッキングなど新しいアプローチも取り入れて行く。3D時代は、モバイルデバイスの進化のために、低電力化が求められるため3D技術の採用が重要となる。

プロセス技術は約10年置きに大きなチャレンジに直面して新時代に突入する

 しかし、さらにその先2020年代になると、今度は原子のサイズが問題になる「原子時代」に突入するという。原子時代では、シリコンナノワイヤやシリコンフォトニクス、異種チップの積層技術が必要となる。また、カーボンナノチューブや、自己組織化のエッチプロセスも研究している。原子レベルからの研究開発を積み上げて、スーパーコンピュータのような大型システムまでの製品へとつなげて行く。

 IBMは、リソグラフィのスケーリングの大まかなロードマップも示した。現在のロジックプロセスは液浸リソグラフィを使っているが、20/14nmプロセス以降は液浸多重露光のリソグラフィへと移行して行く。多重露光は10nm世代までカバーできる見込みで、7nmからはEUVへと移行する予想となっている。下は昨年(2012年)のARM TechconでのIBMの14nmプロセスの説明のスライドだ。

AMDとゲーム機を左右するGLOBALFOUNDRIESのロードマップ

 Common PlatformのメンバーのGLOBALFOUNDRIESのプロセスロードマップでは、若干のアップデートがあった。GLOBALFOUNDRIESは現在多数の28nmプロセスを立ち上げているが、今年はさらに微細化した20nmプロセス「20LPM」を立ち上げる。そして、来年(2014年)早期には3Dトランジスタの「14XM」を立ち上げる。GLOBALFOUNDRIESは、さらに今回のカンファレンスで10nm世代の3Dトランジスタプロセス「10XM」を、2015年後半に立ち上げることを明確にした。下は14XM発表時のスライドだ。

 GLOBALFOUNDRIESの28nmは、多くの異なるプロセス技術が併存する。Common Platform Technology Forum 2013で示されたロードマップでは、ワイヤード機器向けの「28HPP」、低電力かつ高パフォーマンスの「28LPH」、低電力の「28SLP」といったHKMGプロセスのほか、HKMGを使わない「28LPS」も提供する。また、PC CPU向けのハイパフォーマンスプロセスはロードマップ上では「32/28SHP」となっていた。従来は「32SHP」の後継はSのつかない「28HP」という名称となっていた。ただし、内容に違いがあるかどうかは分からない。このほか、GLOBALFOUNDRIESはST Microelectronicsと協力して開発しているFD-SOI(Fully Depleted SOI)の28nmプロセスの提供時期がリスク生産で今年(2013年)第4四半期、量産で来年(2014年)前半になることも明らかにされた。

 GLOBALFOUNDRIESの14XMプロセスは、バックエンドなどの技術は20nm世代と共通化を進めて、トランジスタ周りをFinFETに切り替える。BEOL(Back End Of Line)については20nmとあまり変わらないため、プロセス開発のハードルはぐっと低くなる。そのため、ダイエリアのスケーリングでは利点はないが、GLOBALFOUNDRIESはパフォーマンス/電力では劇的な改善が見込まれると説明する。

 カンファレンスではCortex-A9の実装で、28SLPの12トラックライブラリから、14XMの9トラックライブラリへと切り替えた場合は、同じ電力でパフォーマンスは61%アップし、同じパフォーマンスなら62%の電力カットになると説明された。下のスライドは14XM発表時のもので、こちらは20LPMと14XMを比較している。

プロセステクノロジーのロードマップ
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iPadとiPhoneとGalaxyの次を占うSamsungのプロセス技術

 SamsungもFinFETの利点は、パフォーマンス/電力にあると説明する。これは、モバイル向け半導体をロジックプロセス事業の中核としているSamsungにとっては大きな問題だ。SamsungのKH Kim氏(Executive Vice President, Foundry Business, Samsung)は、モバイル機器でのパフォーマンス要求はどんどん高まる一方なのに、電力制約はあまり拡張されないため、パフォーマンス/電力を向上させて行かなければならないと説明する。そのための切り札がFinFETプロセスであるとする。下は、昨年(2012年)のDAC(Design Automation Conference)でのSamsungの説明だ。

 Samsungは昨年(2012年)末に14nm FinFETプロセスのテストチップをテープアウトしたと発表した。今年(2013年)は、複数のMPW(Multi Project Wafer)が走っている段階だと言う。

 Samsungは現在、ロジックでは32nmプロセスの生産を行なっているが、28nmプロセスへと移行を進めている。Samsungの28nmは、モバイルと家電向けの「28LPP」とネットワークとコンピューティング向けの「28LPH」の2プロセスがある。トランジスタオプションの違いにより、28LPPの方がリーク電流が少ないがパフォーマンスが低く、28LPHはパフォーマンスは高いがリーク電流も多い。GLOBALFOUNDRIESより種類が少ないのは、ターゲットがある程度絞られているからだろう。

 Appleの現在のiPad/iPhoneのAxシリーズモバイルSoCは、Samsungの32nmプロセスで製造されている。しかし、Samsungが順調に28nmプロセスを立ち上げているとすれば、Apple製品も今年(2013年)には28nmへと移行すると見られる。もちろん、Appleが他のファウンドリへと移行しない場合だが、32/28nmではSamsungに留まる可能性が高いと見られる。

Apple AxシリーズとiPad/iPhoneのロードマップ
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 SamsungはロジックFabとして韓国内の「S1 Fab」と米国オースティンの「S2 Fab」の他に、韓国に新たなロジックFabを立ち上げている。S2では28nmプロセスの量産を行なっており、新Fabは2014年の稼働を目指している。Samsungは、S2では、メモリFabをロジックFabに転換する方式でロジックFabを増やして来た。Samsungが比重をメモリからロジックへと移していることがよくわかる。

 FinFETでIntelが先行して以来、他の半導体メーカーはIntelに追いつくために驀進している。FinFETから先も、1〜2プロセス世代毎に大きな技術革新が必要という状況になっており、ハードルが非常に高い。そのため、IntelとTSMC以外の大手ベンダーはCommon Platformに集結して開発負担を減らし、プロセス進化の激流を乗り切ろうとしている。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail