後藤弘茂のWeekly海外ニュース

AMDのカスタムAPUを使う次世代PlayStation

GLOBALFOUNDRIESかTSMCかで変わる次世代PlayStationの姿

 次世代ゲームコンソールが映し出すのは、半導体産業の構造的な変化と、ゲーム機自体の変化だ。

 任天堂が、次世代ゲーム機「Wii U」を発売し、来年(2013年)から2014年にかけては、MicrosoftとSCEも次世代機を投入する。前世代からは間が空いたものの、ゲーム業界は、これから次世代機ラッシュのシーズンに入る。しかし、今回の次世代機投入は、これまでとはちょっと様子が違う。ゲーム機のコアチップを製造する半導体業界の構造も変わり、ゲーム業界のトレンドも激変し、ゲーム機ベンダーの姿勢も変わりつつあるからだ。

 SCEは11月の初めに、次世代PlayStationの最初のデベロッパカンファレンスを開催して、開発キットを配布した。このカンファレンスは海外でゲーム系情報サイト「VG247」などによってすっぱ抜かれたため、世界中に知れ渡ることになった。同カンファレンスで重要な点は、配布されたデベロップメントキットがAMDのAPUベースであったため、次期PlayStationがAMDのAPUを使うという情報が、確実なものとして受け取られるようになった点だ。以前にもレポートしたが、このことは、SCEにとって難しい問題をはらんでいる。

 AMDアーキテクチャを使う場合のファウンドリは、GLOBALFOUNDRIESかTSMCという選択となる。そして、2014年の前半にレディになると見られる次世代PlayStationの場合、製造プロセスは必然的に28nmプロセスで立ち上げとなる。ゲーム機の場合、発売前にゲームソフト開発を行なうため、発売より最低でも9カ月前には、チップが完成している必要があるからだ。

 28nmプロセスは、立ち上げが遅れたのに、需要が殺到しているプロセス技術で、大手ファウンドリでは生産ラインが逼迫している。そして、SCEの設計フェイズでは、GLOBALFOUNDRIESになるか、TSMCになるかによって、使えるCPUコアのタイプが変わると見られる。

 GLOBALFOUNDRIESが2013年の28nmキャパシティに余裕があり、Steamrollerコアが間に合うなら、次世代PlayStationは、AMDのハイパフォーマンスCPUコアを少数搭載する構成となる。PC的な構成のカスタムAPUになるだろう。

 しかし、GLOBALFOUNDRIESのキャパシティが一杯で、TSMCなら余裕がある場合は、ちょっと話が複雑となる。まず、SteamrollerコアがTSMCに間に合わないとすると、次世代PlayStationは、低消費電力のJaguarコアベースとなる。その場合は、CPUコア単体の性能は低いが、コア自体が小さいため、多数のリアルCPUコアを載せた構成のカスタムAPUになるだろう。

 面白いことに、Microsoftの方は、CPUコアのマルチスレッド並列性を上げて、実CPUコアは相対的に少ない構成になると見られる。後者の場合は、CPUコア並列性とシングルスレッドパフォーマンスのバランスで、対照的なアーキテクチャになる。スモールCPUコアを多く積む構成の方が、電力効率は高くなり、当世風のアーキテクチャとなる。

 ちなみに、どちらのファウンドリでも、28nmプロセス世代では、GPUコアは新しいGCN(Graphics Core Next)アーキテクチャになる。AMDは、28nmで従来のVLIWアーキテクチャのGPUコアを持っていない。そのため、GPUコアについてはブレることがない。

ソニーの半導体ビジネスの牽引車として期待されたPS3

 SCEはもともとは、IntelのHaswellとLarrabee3の構成を次世代機に検討していたと言われている。Intelのプランが、Larrabeeのキャンセルと前後して立ち消えとなり、AMDをパートナーに選んだ段階でも、似たようなパフォーマンスCPUコアとGPUコアの組み合わせを想定していたと見られる。だが、現在は、AMDのパートナーのファウンドリの生産態勢に振り回される状況になっており、ゲーム機の本質を決めるCPUコアの選別でさえ、それに左右される事態になっている。

 何が問題かというと、まず、半導体産業がファウンドリモデルに移行した後、先端プロセスで競争できるファウンドリが限られるようになり、それによって選択肢が絞られて来た。さらに、プロセス立ち上げの難度が上がり、立ち上げでつまずくことも珍しくなくなった。困っているのはGPUやモバイルSoC(System on a Chip)のメーカーも同じで、マルチファウンドリへと生産委託を移行させようとするなど、右往左往している。

 皮肉なのは、1世代前のPLAYSTATION 3(PS3)を出す時に、ソニーのプランでは、PS3を成功させることで、ソニー自体をロジックチップのIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合型デバイスメーカー)として成立させる計画であったことだ。下は、当時SCEIを代表取締役社長兼グループCEOとして率いていた久夛良木健氏が、2006年のISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)で示したスライドだ。

ISSCC 2006でのスライド

 久夛良木氏は、高機能化と出荷台数の増加に従ってゲーム機のロジックLSIとメモリの需要は急成長し、ウェハ枚数が増加してきたと説明。ウェハ需要は、PS3世代でさらに急拡大すると見込んだ。そして、ソニーは東芝と運営する先端Fab群でPS3のメインチップセットを製造。高収益を見込めるゲーム機のチップでFabの減価償却を行ない、そのFabでさらにほかのチップを製造することで半導体メーカーとして利益を上げて行くことができると踏んでいた。IntelがPC向けCPUのおかげでIDMとして成功しているのと似たようなモデルを取ろうとしていた。そのために、半導体Fabを急ピッチで建設し、IBMと組んでプロセス技術開発を行ない、当時の200mmウェハから300mmウェハへの移行も進めていた。

ファブの需要
SOIプロセスの導入

 ソニーにとって大変不幸だったのは、PS3の立ち上げが、ちょうど90nmから65nm世代の、CMOSプロセスが危機に突入した時期にぶつかってしまったことだ。90nmから急上昇したリーク電流(Leakage)によって、これまでのように、比較的容易に世代毎にプロセスを微細化して行くモデルが成り立たなくなった。微細化とともにリーク電流を抑える工夫が必要となった。プロセスの微細化とそれに伴うチップのマイグレーションは、毎世代がチャレンジとなり、プロセス技術の開発費も高騰し始めた。また、300mmウェハ移行のコストも重なった。

 その結果、規模が小さい半導体メーカーが、先端プロセスのレースから脱落し始めた。日本の半導体メーカーも65nmの峠を境に、ボロボロと落ち始める。IDMモデルはもう通用しない、これからはファウンドリモデルだとする風潮がますます強まり、業界の再編成が進んだ。ソニーの、PS3によってIDMとして成功する計画も、そうした流れの中で崩れた。もちろん、PS3世代で高騰したゲーム機の開発費やコスト、期待ほどは伸びなかった普及率も足を引っ張った。

8年間で変わった国内半導体産業

 PS3の立ち上げから8年後、次世代PlayStationが立ち上がる。PS3はスタート時は、国内半導体産業のプロセッサ市場での興隆の期待を担っていた。しかし、現在では、国内にゲーム機のプロセッサの生産をまかせることができる半導体メーカーがほとんどなくなってしまった。

 例えば、SCEのPS Vitaについても、SCEはSoC開発のパートナーとして東芝と組んだものの、製造は東芝ではなく、国外のファウンドリに出した。詳細はわからないが、東芝ではリーズナブルに製造できなかったと見られる。おそらく、現在の国内の半導体メーカーでは、先端プロセスで海外の大手ファウンドリと同程度のパフォーマンスとダイサイズにできる企業はほとんどない。ちなみに、PS Vitaのチップはダイに東芝の刻印が入っているが、刻印は通常は設計ベンダのものであるため、東芝製造を示しているわけではない。

 国外の大手ファウンドリが占める時代。しかし、皮肉なことに、今回、次世代PlayStationについて、SCEを苦しめていると見られるのは、ファウンドリのプロセス技術のつまずきだ。今では、ファウンドリモデルの限界が言われ、NVIDIAなどがバーチャルIDM(ファブレス企業やファウンドリが緊密に連携してIDMのように活動するモデル)を唱える時代となった。IDMモデルを堅持するIntelが強味を発揮している。

 さらに、今世代では、AppleやGoogleのコモディティデバイスからのゲーム市場への挑戦を受けている。そのため、ハードウェアをある程度低コストにしなければならないという制約もある。ハードでも、現行世代のような冒険がしにくい状況になっている。

 スーパーコンピューティングがかつては専用プロセッサで競ったのが、汎用プロセッサを使う形態が主流になったように、ゲーム機もフルカスタムのプロセッサから、汎用品をカスタム化する世界に変わりつつあるように見える。ハードが面白くなくなったと見る人もいるだろうが、スパコン同様に差別化のポイントが変わったと考える方が正しいだろう。

Intelとほかのファブのプロセス比較
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後方互換性はGaikaiで保つのか

 こうした状況から、冒険をした現世代ゲーム機に対して、次世代は相対的にはおとなしめにならざるをえない。その場合、問題となるのは、後方互換性だ。AMDのカスタムAPUベースで、Cell Broadband Engine(Cell B.E.)を積まない場合、PS3アーキテクチャは、ソフトウェアで互換を取ることが非常に難しい。ハードウェアコストを抑えると、後方互換性を取ることは困難だ。

Cell B.E.のブロックダイアグラム
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 そうした状況で、今年(2012年)、SCEはクラウドゲーミングサービスのGaikaiの買収を発表した。この買収ニュースで、SCEが次期PlayStationでの後方互換性を確保する手段としてのクラウドゲーミングの活用を考えているのでは、と推測した人は少なくないはずだ。

 クラウドゲーミングで、サーバー側ハードウェアでPS3ゲームを走らせるなら、次世代PlayStationでもネットワーク経由でPS3ゲームをプレイできるようになる。さらに、端末を選ばないクラウドゲーミングの利点を活かして、PS3のゲーム資産を広く展開することもできる。

 しかし、これもそんなに簡単ではない。それは、PS3ゲームをクラウドゲーミングサービスで提供するためには、特殊なサーバーボードを作る必要があるからだ。具体的には、Cell Broadband Engine(Cell B.E.)とGPUを載せたゲーミングサーバーを作らなければならない。これは、保守的なサーバーベンダーなら尻込み必至の構成で、SCEはパートナーを見つける必要がありそうだ。

 ちなみに、Microsoftは、ケーブル業界にセットトップボックスとして次世代Xboxを売り込んでいると言われる。Microsoftはゲーム資産を売り物にしていると言われるため、SCEより後方互換性を重視していると見られる。しかし、ゲーム機としての市販以外に、ケーブル端末も狙うとしたら、Microsoftもゲーム機という存在を、どう位置づければ成功するか、攻めあぐねているのかも知れない。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail